【日めくり】小さな勇者に「しか」しがみつけなかった、ボクの野望【4月18日】
甘いミルクの香りに包まれて、
俺たちは今日もこの楽園を謳歌していた。
5歳の少年、ハルトの口内という名の、
最高に居心地がいいマイホームだ。
食べかすの「お宝」が至る所に転がり、
俺たちバイキン一族は、まさにわが世の春を謳歌していた。
「見てくれ、この奥歯の溝。ここしかないだろ、俺たちの秘密基地は!」
俺は仲間に誇らしげに語りかけた。
丁寧にエナメル質を削り、
この口内を黒い真珠の城で埋め尽くすことこそ、俺の野望だ。
毎晩、
ハルトのお母さんが「仕上げ磨き」という名の猛攻を仕掛けてくるが、
俺たちはこの深い溝に隠れてやり過ごしてきた。
お母さんの「将来この子が困らないように」という切実な願いが、
ブラシの毛先の振動から伝わってくる。
その必死さに、時々俺たちの方が気圧されそうになることもある。
「悪いな。でもこの城を広げ、資産を増やすことこそ、俺たちの老後の安定なんだ」
俺はハルトが寝る前にこっそり食べる、
甘いご褒美の雨を心待ちにしていた。
ところが、ハルトのお母さんの顔が至近距離まで近づいてきた時から、
不穏な空気が流れ始めた。
「ハルト、今日は『よい歯の日』だから、しっかり歯医者さんに行こうね」
その言葉に、俺たちは凍りついた。
「歯科(しか)だって? あの、恐ろしい殲滅部隊がいる場所か!」
俺は必死に仲間に警告を飛ばしたが、
ハルトは泣きべそをかきながらも、
ついにあの白い椅子の前に座らされてしまった。
ハルトはお母さんの指をぎゅっと握りしめている。
その手の温かさは、バイキンの俺たちにさえ、
親子の絆の強さを感じさせた。
だが、その平穏を打ち破るように、
巨大な光が差し込み、銀色の処刑道具が迫ってくる。
それはまるで、
歴史家(しか)が地面の下に眠る真実を容赦なく掘り出すように、
冷徹で、あまりに正確な動きだった。
「やめろ!俺たちのマイホームが、一生懸命築いた資産が、全部削られていく!」
激しい水しぶきと、キーンという破壊の音が響き渡る。
俺たちは逃げ場を失い、しかるべき運命を悟るしかなかった。
あれほど自信満々だった俺の計画も、仲間との楽しい日々も、
真っ白な泡の中に消えていく。
最期に、俺は見た。
ピカピカに磨き上げられた奥歯の上で、
満足そうに微笑むハルトとお母さんの顔を。
「これしか、ハルトの笑顔を守る方法はないのよ」
お母さんの穏やかな声を聞きながら、
俺は仲間と共に、泡に包まれて流されていった。
俺たちの野望は、ここでついに潰えた。
下水道へと流される直前、俺はふと、
ハルトが将来描くであろう夢に思いを馳せた。
「……まあいいさ、俺たちが死んでも、あいつの夢が輝くならな」
ちょっとだけ格好つけたことを考えながら、俺は消えていった。
その日の夜。
お母さんは、ハルトが描いた不思議な絵を見て、
首をかしげていた。
そこには、王冠をかぶった変な虫が、
なぜか鹿(しか)の背中に乗って川に流されている図が描かれていた。
「ハルト、これなあに?」
「今日ね、歯医者さんでバイキンさんが『鹿(しか)ー!』って叫びながらバイバイしたんだよ」
「あら、それはずいぶん礼儀正しいバイキンさんね」
お母さんの笑い声が、清潔になった部屋に響いていた。
頑張ったハルトの手を引いて歩くお母さんの背中が、
今日だけは少し軽く見える。
親子にしか分からない小さな戦いは、こうして春の光の中に溶けていった。
〜あとがき〜
今日という日が、あなたにとって、大切な人の笑顔を守るための小さな勇気が、ピカピカに輝く一日となりますように♥
~✨告知~
そして今日、ひとつお知らせがあります。
日々の記録や習慣を、
そっと支えるための “小さな仕組み” を 裏でずっと作ってきました。
note を続けている方の、
小さな積み重ねをやわらかく整えるためのものです。
もし興味を持っていただけたら、
気軽にテスターとして触れてみてください。
このあと、朝10時にそっと投稿します。

翌日の物語はこちら:
※本記事は個人の創作によるショートショート小説であり、実在の人物・団体・施設等とは一切関係ありません。
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