【日めくり】D判定とアンビシャス【4月16日】
鏡に映る自分と、もう30分も睨み合っている。
模試の結果は散々で、志望校への道のりは遠い。
なのに、
着ていく服だけは可愛く見せたいなんて、
我ながら呆れてしまう。
今日は親友の蘭と、
図書館で10時間耐久勉強会。
「今日は気合入れていくから!」
なんてLINEが届いたのは昨夜のこと。
正直、
勉強に集中するならスウェットが一番楽だ。
でも、蘭は最近、
隣のクラスの男子といい感じらしい。
もし図書館で彼に遭遇したら?
引き立て役の「背景」にされるのは、
友情とは別問題で、
女子高生のプライドが許さない。
「春だし、白かな……」
手に取ったのは、袖がふんわりしたブラウス。
まさに今日の誕生花、
スノーフレークのような可憐な白。
でも、
これだとシャーペンの芯で袖口を汚しそうだ。
将来の夢と、一日の洗濯の手間。
天秤にかけるまでもなく、私はブラウスを放り投げた。
「あー、もう! 受験勉強って苦しいことばっかりで、ちっとも楽しくない!」
投げ出した言葉が、部屋の空気に寂しく響く。
苦しい、楽しい。苦楽。……クラーク。
そういえば、
クラーク博士が「大志を抱け」と言って北海道を去ったのは、
今日、4月16日だったはず。
「女子高生だって、アンビシャスぐらい持ってもいいよね。判定がボロボロでも」
私は結局、一番お気に入りの、
少し高かったブランドのパーカーを選んだ。
これなら座りっぱなしでも疲れないし、春の少しひんやりした空気にもちょうどいい。
お財布の中身は寂しくなったけれど、
自分への先行投資だ。
鏡の中の自分は、さっきより少しだけ、
背筋が伸びて見えた。
図書館の入り口で、蘭が待っていた。
彼女は宣言通り、
バッチリメイクに春色のスカート姿。
「あ、そのパーカー、めっちゃ可愛いじゃん!」
蘭の笑顔に、朝の葛藤が報われる気がした。
「でしょ。今日は4月16日だからさ、私もクラーク博士ばりに『大志』を背負ってきたんだよね」
「何それ、意識高すぎ。私はお腹空きすぎて、大志より鯛焼きが食べたい」
二人で笑いながら自習室へ向かう。
ふと、蘭が私の背中に手を伸ばした。
「ちょっと待って、背中になんか付いているよ。……えっ、これシール?」
蘭が剥がして見せてきたのは、パーカーの背中にデカデカと貼られた「L」サイズの検品シール。
「く〜っ、楽(らく)しすぎて、ツメが甘かった!」
私の大きな志(アンビシャス)は、
勉強を始める前に、盛大に空回りしてしまった。
でも、これだけ笑ったんだから、
今日の勉強はきっと「苦」より「楽」が勝つに違いない。
〜あとがき〜
今日という日が、あなたにとって、
苦楽さえも大志に変えて笑い飛ばせる、心地よい一日になりますように♥

翌日の物語はこちら:
※本記事は個人の創作によるショートショート小説であり、実在の人物・団体・施設等とは一切関係ありません。
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