Overthrow~復讐編~(第3話)
※注意 この物語は全てフィクションです。登場する地名、人物名は実在する同一の名称のものとは一切関係がありません。
第3話 Issue
ーー 2月7日 8:30 吉岡駅前ーー
藤枝候補の選挙ボランティア2日目。俺は沙苗と2人で富川駅の隣の駅である吉岡駅に来ていた。富川駅に比べれば規模は小さい駅だが、8:00を過ぎたころには通勤や通学の多くの人が駅に向かって歩いてくる。
藤枝本人はというと、改札前でニコニコと微笑みながら通行人にあいさつを行っている。

瑛士「あれ?沙苗さん、今日はチラシ配らないんですか?」
これだけの通行人がいるのだ。チラシを配ったり、演説を行うには絶好のチャンスのはずだが。
沙苗「うん。この時間は配っても嫌がられるだけよ。みんな忙しいからね。もし、もらってくれても読まずにゴミ箱にポイよ。」
俺たちボランティアはというと、藤枝の顔を拡大した「消費税反対!」と書かれた看板をかかえ、ひたすらに藤枝の名前と「ご投票お願いいたします。」を連呼した。
瑛士「でもさ、通行人なら富川駅の方が多いんじゃないんですか?」
沙苗はやれやれという表情でこちらを向く。
沙苗「うん。昨日、自由党の加藤候補の陣営から、今日の朝は、富川駅に行くって連絡あったのよ。」
少人数による選挙戦の場合、このように他候補に本人が行く予定の場所を伝えることがある。まぁ、もちろん同じ場所に行ってもいいのだが、お互い効率が悪いこともあり、どちらか譲歩することが多い。
沙苗「それにさ、あっちは新人とはいえ、自由党公認だからね。知名度の高い議員や閣僚が応援に来られたら、それこそ目も当てられないわ。」
藤枝も、元々は自由党の人間であったが、前回の衆議院選挙で党の方針から鞍替え、言うなれば選挙区の変更を要請された。しかし、この選挙区は藤枝の地元であることから、党の要求を拒否したのだ。当然、藤枝は非公認となり党からの選挙資金もゼロになってしまった。そして、間もなく自由党を離党し無所属で立候補をしたが、党が公認する元俳優のタレント議員に惨敗する。
瑛士「なんか悔しいよなぁ。自分が選挙運動したい場所に行けないなんてさ。」
なんだかんだ言っても選挙って組織力が重要なのである。
そうこうしていると、沙苗が黙々と片づけを始めた。時間は9時を少し過ぎたころだ。
沙苗「工藤君!さっさと荷物を車に載せてね。これから選挙カーで練り歩きするわよ。」
ーー 2月10日 11:00 吉岡町内ーー
俺と沙苗は藤枝が乗る選挙カーに同乗し町内を回っている。
瑛士「沙苗さん、選挙カーって藤枝先生が持ってるの?」

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【TIPS】選挙カー
自由党や社会連合党などの大きな政党は党所有の車があるが、一般的にはレンタルする。ウグイス嬢も芸能事務所などに依頼する。
現在は広告代理店やPR会社が、ポスターやチラシなどの選挙用品を一式用意してくれる。
しかし、公職選挙法で車の形状などはきまりがあるため、10tトレーラーにデコレーションして爆音で渋谷のスクランブル交差点に進入はできない。ーーーーーーーーーーーーー
沙苗「違うわよ。借りてんのよ。今、アナウスしてるウグイス嬢の安藤さんもバイトよ。まぁ、1日5万ぐらいかな。」
瑛士「車だけで5万かぁ・・高いな。でも、いっぱい車借りれば効果あるんじゃない?」
沙苗「うん、よく気がづいたわね。でも、残念ながら選挙カーは公職選挙法で1人1台しか使えない決まりなの。何台でもOKだとお金持ちが有利じゃない?」
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【TIPS】選挙カーの数
参議院の比例代表だけは2台までOK。
その他は1台だけ。
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藤枝が車内にいることがわかると、沿道の町民がちらほらと手を振ったり声をかけたりしてくれる。
瑛士「藤枝先生って結構人気あるんじゃない?こりゃ楽勝か?」
この補欠選挙の定数は1名。4名立候補しているが、事実上は元衆議院議員の藤枝と、自由党の加藤の一騎打ちと目されている。
沙苗「いやいや、そんなこと言いながら、前回はタレントの佐藤恵理子にダブルスコアで負けたからね。正直ショックだったわ・・・。ほんと、選挙は知名度よね。政策なんて2の次なのよ。」
後部座席に座る橋口さんもぼそっと口をはさむ。
橋口「先生は、お年寄りには人気あるんだけどねぇ・・」
ちなみに、佐藤恵理子は就任2年目でヤクザから献金をもらっていたのがバレて辞任した。タレント議員はこういうのが怖い。
瑛士「加藤隼人は東大卒の元官僚かぁ・・若いしなかなかイケメンだな。」
今回も、藤枝は苦戦しそうな気がするな。
まぁ・・予感は見事に的中するんだ。
ーー 2月10日 20:00 藤枝勇雄 選挙事務所ーー
藤枝「みんな。今日まで、よく頑張ってくれたね。ありがとな。」

事務所では、沙苗と10名ほどボランティア、そして、俺と妙子が藤枝のスピーチに耳を傾けていた。沙苗は心なしか涙ぐんでいるようにも見えた。
俺と妙子は3日だけしか活動してないけど、みんなは12日間もこれやってたんだもんな。おつかれさまだね。
しかしながら、たった3日ではあったが、藤枝の選挙を目の当たりにした俺は、少しだけだが選挙がわかってきた。
藤枝「さて、開票が始まったな。あとは運を天に任せるのみだ。」
「(ポロロロロン)」
TVの速報アラームが鳴り白いテロップが表示された。

テロップは一瞬で消え、まるで何もなかったかのように、いつものバラエティ番組に戻った・・。
藤枝もボランティアのメンバーも一瞬で凍りついた。
藤枝「あ?あれ・・?」
まさに、瞬殺だった(笑)
開票率1%で当選確実がついてしまったのだ。と言うよりは出口調査で既に大勢が決していたのであろう。どうりで事務所に記者が一人も来ないはずだ。
藤枝は何も言わずに、背中を丸めて、とぼとぼと奥の部屋に歩いて行った。
ボランティアのリーダー橋口さんが残ったメンバーに声をかけた。
橋口「さっ、片付けますか・・ね。」
ボランティアは無言で事務所の片づけを始めた。まぁ、手際のいいものだ。22:00には撤収が終わり、俺たちは事務所の照明を静かに消した。

橋口「えー、業者さんは明日の朝9:00に機材引き取りに来ますので・・立ち合いは美野さんということで・・じゃ、おつかれさま。」
ゴミ袋に大量に詰め込まれた藤枝のポスターが、なんか哀れだ。
沙苗「あーー!もうっ!あんたたち・・飲みに行くわよ!!」
沙苗は、強引に俺と妙子の手を引き近所の居酒屋に向かうのだった。
ーー 2月10日 22:00 居酒屋 風来坊ーー
沙苗はコップに注がれた何杯目かのビールを一気に飲み干す。

沙苗「あーあ、私、また無職になっちゃったよ。」
妙子は苦笑いしながら、沙苗のコップにビールを注いだ。
沙苗「出るんでしょ。選挙・・・そろそろ準備しないとね。」
富川町議員の選挙の告示まで残り7日に迫っていた。
瑛士「美野さん、ポスターとか、どうすればいいんですかね?」
やっぱり、スーツをびしっと着込んでキリッとイケメン風なポスターがいいかな。
沙苗「ところでさ、富川町の選挙ってどうなってんよの。」
前回の選挙結果データでは、議員定数が12人に対して立候補は14人。有権者8000人で投票率は48%で最多得票でも700票ぐらい、一番下は400票か。
沙苗「ふーん、ボーダーは400~500票ね。投票率も低いしこれなら・・」
沙苗は空のコップをボン!と音を立てテーブルに置いた。
沙苗「作戦はONE ISSUE作戦で行くわ!」

だめだ、俺には何もない。知名度、組織票、実績、顔・・。
しかし、沙苗の作戦はこうだ。
たった一つ、広い年齢層の町民が興味を持ちそうな政策を前面に押し出し、有権者の興味を引く。この時点で、候補者というよりはむしろ、政策に感銘を受けた人が票を入れるのだ。この作戦の良いところは、普段、選挙に行かないような人も引っ張り出せることである。
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【TIPS】ONE ISSUE戦略
小規模政党が乱立するヨーロッパなどでは一般的であるものの、当時の日本は組織力と知名度の戦いが主流であった。最近ではNHKから国民を守る党など日本でも浸透しつつある。政策がわかりやすいというのが最大のメリット。
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沙苗「あんた達さぁ、何か富川町で不満に思ってることないの?」
俺と妙子は、ほぼ同時に声を発した。
瑛士・妙子「水道代高すぎ!」(同時)
この当時、富川町の上下水道料金は一般家庭で月1万円近くなっていた。この金額は隣の町の2倍以上だった。
沙苗「それだっ! みんなが不満に感じていることを前面に押し出すのよ!たった1つの政策ならアホなあんたでも語れるでしょ!」
この日から俺は沙苗や妙子の力を借りて、自治体の上下水道の在り方や世界のトレンドなどについても徹底的頭に叩き込んだ。こんなに勉強したのも久しぶりだ。
こうして、俺の選挙ポスターは完成したのだ。なんだか、顔よりも「水道代を安くします。」って文字の方が大きいぞ。それに、ポスターには所せましに富川町の上下水道行政の問題点を書き連ねてあった。

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【TIPS】選挙ポスターの変遷
選挙ポスターといえば、真ん中に候補者の写真を大きく載せて、左右に名前、政党名を書くのが一般的であった。しかし最近ではポスターも多様化しており、ここに公約や自己アピールを書くような候補も多くなった。投票するつもりなら掲示板は一度は見ることから、ポスティングやビラ配りよりもアピール力は遥かに強い。
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【次回】Overthrow~復讐編~(第4話) ビギナーズラック
お楽しみにっ!
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