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Overthrow~復讐編~(第2話)

※注意 この物語は全てフィクションです。登場する地名、人物名は実在する同一の名称のものとは一切関係がありません。


第2話 素人

ーー2002年(平成14年) 2月5日 1:00 富川町コンビニーー

瑛士「お弁当温めますか? はい、1280円になります。」

 町議会議員選挙の告示まで残り14日となった。普通、初めて選挙に出る新人なら、少しでも顔を覚えてもらうために辻立ちでもするものだよな。

 だが、俺は今、近所のコンビニでバイトをしている。ほぼ1日中だ。自給700円。これまで手に入れた金は、一カ月で、たったの15万円だった。

妙子「瑛士!がんばってるかぁ?」

 自動ドアが開き、そこから妙子が顔を出した。実は、このコンビニのオーナーは妙子の父親なのだ。

瑛士「おい、タエ、選挙っていくら金かかるんだよ・・」

妙子「うーん、まず、ポスターでしょ。選挙カーでしょ。チラシも作らないとね。あと、ガソリン代。ウグイス嬢っていうの?ああいう人雇ったり、まぁ、最低でも50万ぐらい?」

 そんな金は無い。


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【TIPS】 2026年現在は、町議会議員選挙でも、選挙カー、ポスター、チラシの費用は公費を利用できます。全額ではないですけどね。
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瑛士「ところで、選挙カーって、あれ、どうすんの?あと、ポスターって誰が作ってくれんの?」

 素朴な疑問だが、それにしても、あまりにも無知だ。

妙子「はぁ?私が知ってるわけないでしょ!」

 選挙に立候補する以前の問題だった。

瑛士「今やってる選挙って、あれ、国会議員だっけ?」

 そう、現在、この選挙区では衆議院議員の補欠選挙が行われていた。

妙子「あぁ、やってるわねぇ。そういえば商店街に選挙事務所?できてたね。」

 俺はこの時閃いた。無知であるからこそ閃いたのだ。

瑛士「俺さ、明日、そこ行って、選挙の事聞いてくる!」


ーー2月6日 10:00 藤枝勇雄 選挙事務所ーー

 藤枝勇雄の選挙事務所は富川駅前アーケードの中ほどにあった。空き店舗を一時的に借り上げてつくった仮設の選挙事務所である。入り口には多数の選挙ポスターや、花輪が飾られていた。

瑛士「お、おはようございます!」

 俺は精いっぱいの声を張り上げて扉を開けた。

 事務所の中には、30歳前後の黒ぶち眼鏡をかけたポニーテールの女性が退屈そうにテレビを眺めていた。選挙中なのにずいぶんと暇そうにしているが、大丈夫であろうか?


女性「ひゃっ!あっ、ご、ごめんなさい、支援者の方ですよね!ささっ、寒いのでこちらにおかけください。」

 あれ、この人、なんか勘違いしてる気がする。俺はとにかく、来客用と思われる応接ソファーに腰掛けた。

 女性はお盆に暖かいお茶を載せて戻って来た。女性は俺の前にお茶を置くと名刺を差し出してくる。

沙苗「私、藤枝の秘書の美野沙苗と申します。」

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【TIPS】美野沙苗(30)

 富川町の隣の大岡市出身。
 中智大学政治学部卒
 都市銀行に就職したが、興味を持っていた政治活動をボランティアでやっているうちに藤枝に出会う。この年、藤枝は自由党公認で衆議院議員に初当選する。藤枝の政治家としてのオーラ、国民の幸福を第一に考える姿勢に共感した沙苗は、銀行を辞め、地元詰めの公設秘書(第3秘書)となった。
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 部屋の中には藤枝のポスターが所狭しと貼られている。キャッチコピーは【消費税反対!】だそうだ。なんか、ありがちな公約だねぇ。インパクトが全くない。

瑛士「美野さん!聞きたいことがあります。」

 沙苗は目を輝かせて俺をまっすぐに見つめた。

沙苗「はいっ!先生の政策についてですね!」

 あーあ、完全に勘違いしてるよ。

沙苗「藤枝先生は前回の選挙こそ敗れてはしまいましたが、政治家としての手腕、県会議員時代から積み重ねた経験は、必ず国民のお役に立ちますよ!」

 今年60歳のハゲた小太りのおっさんじゃなぁ・・まぁ、優しそうではあるけど。

沙苗「国民を苦しめる消費税を廃止してくれるのは藤枝先生しかいなんです!自由党の候補に入れたら、むしろ増税されますよ?」

 あー、そろそろ本題に入りたいなぁ。

瑛士「選挙について教えてください!」

 沙苗はすこし小首をかしげた。

沙苗「はい?投票日は今週の日曜日ですが。」

 俺は沙苗が出した渋めの緑茶を飲み干して言い放った。

瑛士「いや、だからね、俺が立候補するんですよ。美野さん、選挙詳しいですよね?」

 俺は机の上のお菓子箱から煎餅を一つ取り出して、バリバリとかじる。

沙苗「は?え、失礼ですが、ちょ、ちょっと何をおっしゃっているのか解りかねますが?」

 この煎餅おいしいな。タエの分ももらって行こう。俺は2個目煎餅をポケットにいれた。

瑛士「俺が出るんですよ!富川町の町議会選挙に!」

 沙苗はぽかーんとした顔をしている。

沙苗「いや、そういうのちょっと、私、こう見えても忙しいので。」

 沙苗は無言でお茶とお茶菓子を片付け始めた。

瑛士「さっきまで、頬杖付いてテレビ見てたじゃん。再放送のドラマ。」

 沙苗は、手に持ったお盆をカタカタ震わせて我慢していたが、満を持してい放った。

沙苗「だーーかーーらーー、私、忙しいのでっ!ひやかしなら、さっさとお引き取り願えませんかっ!!」

 沙苗の怒りが限界突破したタイミングで、事務所の外に車が到着する音が聞こえた。

??「ただいまぁー。あれ?お客さんかい?支援者の方?」

 現れたのは、藤枝勇雄その本人だった。写真より老けて見えるな。この人、ほんとに60歳かなぁ?

沙苗「あっ!先生!おかえりなさいませ!」

 でもまぁ、なんか雰囲気はあるな。確かこの地区選出の元職だったはずだ。(1期だけだけどな。)

沙苗「いやいや、先生。この方、もーなんかしつこくて・・・。この方、月末の富川町の選挙に出たいから、選挙について教えろとか・・。私、忙しいのに。」

 藤枝は振り返り俺の顔を見た後、少し笑った。

藤枝「君、若いね。初めて選挙出るの?」

 俺は立ち上がって答える。

瑛士「はいっ!工藤 瑛士、25歳です!初めて選挙に挑戦します。」


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【TIPS】
 都道府県議員には25歳から就任することができる。市町村長も同様に25歳から就任できる。
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藤枝「ふーん。ところで、きみは何で議員になりたいの?」

 俺は間髪入れずに答える。

瑛士「俺は、俺は、町の利権をむさぼる、町長の室田義平が許せない。だから議員になって室田を引きずり下ろしたいんです。」

 藤枝はにやりと笑う。ただ、その表情は俺を馬鹿にしているものではない。面白い奴が現れたとでも思ったのだろうか。

藤枝「いいじゃないの、美野君。ちょっと教えてやりなよ。あ、キミさ、もし暇だったら、明日から私の選挙のボランティアやりなよ。勉強になると思うよ。」

 藤枝は俺の肩をボンボンと2回叩いた後、奥の部屋に消えて行った。

 俺は、藤枝に向かって深く一礼した。

 その姿を見た沙苗も、仕方なく俺の向かい側のソファに腰を掛けた。

沙苗「ちなみに、町議会議員選挙の告示日っていつだっけ?・・・あー、2月17日か。」

 沙苗は自分の手帳をペラペラとめくって答えた。

沙苗「でもさ、なんでまた議員になんてなろうと思ったわけ?室田は富川の帝王よ?正直・・あんまりあいつに目を付けられたくないんだけど。」

 俺は、室田の一派によって親父が自殺に追い込まれたこと、そして、その復讐をしたいことを沙苗に正直に話した。

沙苗「私も、藤枝先生の代理として、室田とは何度か話したことがあるよ。私も室田は嫌いよ。なんか、えらそーだし、逆らう奴がいないことをいいことに、汚いことも平気でやってると思うわ。うーん。でも・・・」

 「(カラカラカラ)」

 選挙事務所の扉が開いた。

沙苗「はい。支援者の方でしょうか?」

 扉を開けたのは妙子だった。

妙子「あっ、いた、瑛士・・。す、すみません、もしかしてご迷惑おかけしてますか?」

 沙苗は俺の方を向き、小さな声で「お知り合い?」とつぶやいた。

 俺はだまって首を縦にふっつた。

沙苗「あらー!ボランティアの方が2名に増えたわねぇ!若い女性のボランティアは大歓迎なのよ。」

 沙苗は壁にかかっている青いウインドブレーカーを俺たちに差し出す。背中には【必勝 藤枝勇雄】と書かれていた。かっこわりぃ・・。

妙子「え・・瑛士・・なにこれ・・?」

 いきなり、ウィンドブレーカーを手渡された妙子は困惑した表情をしている。

沙苗「さーー、早速、富川駅前でビラ配りレッツゴー!目標一人200枚だぞー!」

 え、今日からなの??

沙苗「橋口さーーん!ちょっといいですかぁーー!」

 部屋の奥から50歳前後の主婦のボランティアの方が出てくる。

橋口「あら?新しいボランティアの方?助かるわぁー。」

 俺と妙子は言われるがままに橋口さんについていくのであった。


ーー 2月6日 17:00 富川駅前ーー

 17:00を過ぎて、薄暗くなると、駅前は職場から帰宅する人たちが一気に流れ出てきた。

 普段、このようなチラシ配りなどしたことがない俺は、はずかしくてなかなか大きな声が出なかった。当然、チラシも全く受け取ってもらえない。

妙子「ふーじえだーーー、藤枝勇雄をおねがいしまーーす!」

 5mほど離れた場所では妙子が奮闘していた。若い女性ということもあり、妙子のチラシは俺の倍以上のスピードで消えて行った。

橋口「ほら、瑛士君も、もっと大きな声で!」

 先輩ボランティアの橋口さんが俺に激を入れる。

瑛士「ふ・・ふじえだぇーいさおがぁー消費税撤廃しますぅー!」

 俺のチラシは一向に減らなかった。

橋口「あー、時間ね。二人とも戻ろうか。」

 結局、妙子が250枚もチラシを配ったのに対して・・・俺は30枚しか配れなかった。選挙ってそんなに甘くないんだな。


ーー 2月6日 18:00 藤枝勇雄 選挙事務所ーー

 俺と妙子は初めての選挙活動と、5時間以上たちっぱなしのビラ配りでヘトヘトになって事務所に戻った。

沙苗「よっ!おかえり!どうだった?」

 沙苗がニヤニヤしながら俺たちを見まわす。

瑛士「いや・・選挙って結構大変なんですねぇ・・。」

 俺は立候補前からちょっと弱気になってしまった。

沙苗「なーに言ってんのよ。こんなの序の口よ。じゃあ、明日は7:30集合だからねっ!はい解散!」

 俺は家に戻って風呂に入ると、一瞬で眠りに落ちた。

 衆議院補欠選挙投票日まであと4日

 


【次回】Overthrow~復讐編~(第3話) Issue 

 お楽しみにっ!


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