Overthrow~復讐編~(第1話)
※注意 この物語は全てフィクションです。登場する地名、人物名は実在する同一の名称のものとは一切関係がありません。
第1話 支配者
ーーーー2000年(平成12年) 12月 東京ーーーー
もう、何もかもが嫌になった。
工場では毎日毎日、同じ錠剤の小瓶の選別。
ベルトコンベアに流れる薬瓶を箱に詰める作業を繰り返す毎日。
ほんとにもう、ヘドが出る。
給料はね、それほど悪くないんだ。いや?結構いい方かな?22歳で入社3年目、支給額で月額25万円。しかも社員寮完備だ。その当時の大卒の初任給でもたぶん・・19万ぐらいだから、よくよく考えれば、まぁまぁだったのかもしれない。
「(ドンッ!!)」
突然、俺の背中に拳が突き刺さる。
??「おい!!おまえ、どこ見て仕事しとんねんっ!瓶流れとるやんかっ!」

こいつ嫌いだ。
こいつは俺のラインの班長の島田。俺を目の敵にして、何かミスをするとこうして、蹴ったり殴ったりしてくる。俺のことをいじめて憂さ晴らしでもしているんだろう。
島田「お前みたいな役立たずがおるから、みんな残業せなあかんのやっ!ドアホ! 死んでまえっ!」
容赦ない言葉の刃が俺に突き刺さる。他の同僚はというと、いつもの通り聞こえないふりをしているのだ。
「(キーーーン コーーン カーーン コーーーン)」
終業のチャイムだ。毎日、このチャイムだけが俺を救ってくれる。
島田「工藤、おまえは残って掃除や!! 他はさっさと上がって飲みに行くでぇ。」
他の4名の同僚は、島田に引き連れられ工場を出ていった。
工場の照明が消えて、小さな常夜灯がぼんやりと点灯する。
床をモップがけした後に、コンベアの上を水拭きした。
コンベアの上に水滴が一滴垂れた。俺の涙だった。
瑛士「くそっ!!!くそっ!くそっ!!くそっ!!!!!!」

俺は泣いた。悔しかったからではない。自分の不甲斐なさ、無力さを嘆いた。でも、なにも出来ない、なにをしていいのかわからない。言葉にならない怒りを涙に変えた。
工場の帰り道にあるコンビニで缶ビールを2本と、お弁当を買った。あとはもう帰るだけだ・・・。
社員寮の玄関で俺は足を止め、周囲を注意深く見渡した。他の同僚に会いたくないのだ。明かりのついた部屋から笑い声が聞こえる。誰かの部屋に集まり飲み会でもしているのであろうか。
暗い部屋にたどり着き、先ほど買ってきたビールを冷蔵庫に入れて、風呂に浸かる。
腰から下半身に一気に血が回る感覚が心地よい。俺は、この1年ほど慢性的な腰痛に悩まされ、しゃがむだけでも激痛が走るようになっていたのだ。
瑛士「はは・・23歳とは思えん・・まるで老人だ・・」
風呂から上がり、鏡を見ると、首筋と太ももに紫色の真新しいアザができていた。島田の暴力でできたものだ。もう、いくつ目のアザなんだろうか。

俺はテレビもつけずに、先ほど買って来たビールを1缶を一気に飲み干した後、部屋のカーテンを少しだけ開いて夜空を見上げた。
なぜか、また、涙が出た。
これでは強制労働と同じではないか。朝から晩まで決められた作業を行い、ミスをすれば体罰を受ける。金は必要だ。だが、こんなことは人間のするべきことではない。
瑛士「・・・・・だめだ。あの会社やめよう。」
そう決心すると、俺は猛然と辞表を書いた。俺が書いたのは会社への感謝でも謝罪でもない。俺をいじめ抜いた島田の暴力行為の内容と、それを見て見ぬふりをした同僚への苦言だ。
そして、最後に、この行為を警察に相談してるという嘘も書き加えた。これを見た責任者が慌てふためく顔が目に浮かぶ。いい気味だ。
俺は入社式以来一度も着たことがなかったスーツを着て会社に向かった。そして、総務課に向かい、朝一番で辞表を提出した。総務部長は俺を引き留めて話をしようとしてたが、無視して工場に向かった。
既に操業が開始されていたが、俺は近くにいた社員に島田を呼びだすように頼んだ。
島田「おい、工藤!てめぇ、役立たずのクセに遅刻までしやがって!」

島田は開口一番、俺の胸倉をつかもうとしたが、俺は躊躇なく、島田の腹に全力の蹴りを入れた。そもそも、島田ごときは、普通にケンカをしたら負ける相手ではない。突然の一撃に腹をおさえてうずくまったところに、げんこつで2発おもいっきりぶん殴った。
そして、辞表のコピーをくしゃくしゃに丸めて投げつけた後、工場を後にした。
それから、もう、ある意味、セオリー通りだ。新たな職についても、少しでも嫌になるとすぐに辞める。辞める事への罪悪感が無くなるのだ。こうなるともう、まともに雇ってくれる会社なんて無くなる。
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【TIPS】工藤 瑛士

この物語の主人公。田舎を出て東京で就職したが、職場に馴染めず短気を起こして辞めてしまう。正義感は強いが短気な一面もある。
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ーーーー2002年(平成14年) 12月 東京ーーーー
製薬会社を辞めてから2年が経過した。
俺は、あれから住む場所を転々としながら、日払いの工事や警備員の仕事をしていた。まさにその日暮らしというやつだ。
遂に、貯金も底をついた。
実家へは、2年帰郷していない。電話は・・・去年の正月に一度だけしたかな。
一人暮らしをしている母への仕送りも2年間止まっていた。コンビニのバイトをやっても、自給600円では生きていくのが精いっぱいだ。
俺は、満を持して、公衆電話になけなしの100円玉を押し込み、実家に電話をかけた。

母「もしもし・・・工藤ですが。」
瑛士「あ、おれ、瑛士・・。」
母「瑛士!!あんた・・・元気だったの??今、どこにいるの??」
瑛士「かあちゃん・・俺さ、富川に戻っていいか?やり直そうと思ってるんだ。俺。」
何がやり直すだ、しっぽを巻いて逃げ帰るだけだ。
母「いいも何も・・・あんたの家なんだから、好きにしなさいよ・・。」
お袋の声は涙声に変わっていた。何かを察したのかもしれないな。
そして、俺は、実家のある富川町に帰ることにした。まぁ、典型的な負け犬ってやつだ。
瑛士「はは・・25歳にして貯金もゼロ。俺は何のために東京に来たんだ。」
俺は実家に帰る夜行バスの中でぽつりと独り言をつぶやいた。
ーー2002年(平成14年) 1月 富川町実家ーー
母「瑛士、お餅何個食べるの?」
瑛士「あ、うん。あんこ2個とお雑煮2個」
新春を迎えた頃、俺は実家の富川町に戻っていた。

製薬会社を辞めて2年間は盆正月にも家に戻らないどころか、お袋に電話もしなかった。もちろん、実家への仕送りは止まっていた。
それにも関わらず、お袋は無職無一文で帰ってきた息子を温かく迎え入れてくれた。
仏間の壁には、近所のスーパーの制服が掛けられていた。お袋、いつの間にかパート始めたんだな。
瑛士「もう、7年になるんだな・・親父が死んで。」
俺は仏壇に置かれた小さな親父の遺影を眺めた。
~追想~
親父は地元で土木建築の会社を営んでいた。会社と言っても従業員5人程度の小さな会社だ。こんな田舎じゃ民間の仕事なんてめったにないから、仕事のほとんどは町の公共工事だった。
この当時、富川町の権益を握っていたのが現富川町長にして、従業員50人を抱える室田建設の会長 室田義平だった。室田の知名度、影響力は強大で町長初当選以降3期連続で無投票当選を重ねていたのだ。
町の権益のほとんどを室田と室田の取り巻きが抑えており、当然、規模の大きな土木工事などの仕事も室田がほぼ独占していた。
8年前、親父と、一部の反町長派の土木業者が、富を独占する室田に業を煮やし、室田建設と室田義平を官製談合の罪で告発した。
しかし、親父たちの予想に反して、告発は証拠不十分で不起訴となった。それどころか、今度は逆に、室田に名誉棄損で訴えられ賠償を命じられることになった。さらには、町の工事の入札からはことごとく外され全く仕事がなくなった。こうなると、倒産までは一瞬だった。
そして7年前の12月、親父は、会社の倉庫で首を吊って自殺した。
~追想~
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【TIPS】室田 義平

室田建設会長にして、富川町長(3期目)。自分の権力を利用し、室田建設に町の工事を独占的に受注させている。つまり、間接的に税金を着服している。町会議員も過半数は室田の一派であり、誰も逆らうことができない。
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俺は、年賀状に紛れて投函された町の広報誌に目を止めた。表紙には、あの室田義平の写真が大きく掲載されてた。
なにが、「町民の健康と幸福が第一!」だ。毎年のように、必要のない道路や下水道、建築物を大量に発注し、そのほとんどを自分と自分の一族に還流する仕組みになっている。室田は正にこの町の支配者だった。
瑛士「こいつ、まだ町長やってるんだなっ!!!」
正月早々、とてつもなく不愉快な気分に襲われた。
母「うん・・・選挙があっても、怖くて、だれも立候補せんのよ。」
お袋は力なくうつむいた。
「(ピンポーーン)」
誰かが家のチャイムを鳴らすと、お袋が玄関に向かった。
??「おばちゃん、回覧板もってきたよ!あと、栗きんとん食べてよ。」
どこかで聞いた覚えがある、懐かしい声が聞こえた。
母「あっ!瑛士が帰ってきたのよ。おい、妙ちゃん来たよ!」
妙子「え!!あいつ、帰ってきたんだ・・・」
そう、玄関には斜め向かいの家に住む幼馴染の黒木妙子が立っていた。
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【TIPS】黒木 妙子

本作のヒロイン。瑛士の幼馴染で同じ年齢。近所に住んでいる。何かと世話焼きが好きな優しい性格。子供の頃から、ほのかに瑛士に恋心を抱いていた。父親が近くでコンビニのオーナーをしている。
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瑛士「・・・ひさしぶりじゃん。タエ・・・まぁ、あがれよ。」
居間のコタツでミカンを食べながら、妙子とつかの間の思い出話をしていたその時、妙子がテーブルの上に置いてあった町の広報誌に気が付いた。

妙子「うわ・・・正月から変なもん見ちゃったわ・・」
親父が告発をした際に、最後まで味方になってくれたのは妙子の両親だった。
瑛士「こいつだけは許せないんだ。俺は。」
妙子「よく言うわよ。一文無しの無職のくせに。とりあえず働けよ!」
まぁ、そう言われると何も言えないな。
妙子「あ、そういえば2月にあるのよ。町議会議員選挙。あんた、出たら?暇なんだし。」
妙子は突然、突拍子もないこと言い出した。
瑛士「議員になっても復讐なんて、できねぇだろ。」
妙子は「やれやれ」というジェスチャーをする。
妙子「あんた、なーんも知らんのね。議員になれば、町長は議員の話を聞かなきゃならんでしょ。町議会でとっちめてやればいいのよ。」
俺の脳裏に何か稲妻が落ちた。そんな気がした。
瑛士「タエ・・・俺、おれさ、議員になる!!なりたい!」
こうして、俺の復讐劇は幕を開けたのだった。
【次回】Overthrow~復讐編~(第2話) 素人
お楽しみにっ!
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