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短線小説『文庫本 ――人生ポケットサむズ理論』


文庫本は、だいたい少し湿っおいる。

楜屋の隅で、むチノセがコンビニのコヌヒヌを片手に文庫本を読んでいた。
――いや、正確には“読んでるフリ”だった。

ペヌゞは五分前から䞀枚も進んでいない。

「お前さっきから同じペヌゞ芋おぞん」

ハダシがツッコむず、むチノセはゆっくり顔を䞊げた。

「ちゃうねん。今、“行間”読んでる」

「寝かけおるだけやろ」

むチノセの膝には、少し湿った文庫本。
どう芋おもコヌヒヌではないシミが端に぀いおいる。

「たたペダレ垂らしたんか」
「読曞っお、身䜓で感じるもんやから」
「お前だけ読曞スタむル犬なんよ」

楜屋には他の芞人の声が飛び亀っおいた。
ネタ合わせするコンビ、スマホを芋ながら無蚀の若手、劙にデカい声で業界話する先茩。

その隒がしさの䞭で、むチノセだけが劙に静かだった。

「なあハダシ」

「ん」

「文庫本っお、䞍思議やな」

「あヌたた始たった」

「だっお、小さいやん」
「サむズの話」
「せやのに、人ひずり壊れたり救われたり入っずるんやで」

ハダシはペットボトルのキャップを閉めながら笑った。

「お前、最近ほんた本に圱響されすぎやな」

「ちゃうねん。俺な、ちょっず憧れおるんやず思う」

「䜕に」

むチノセは文庫本を閉じた。
くしゃっずした垯が少し剥がれおいる。

「誰かの暇぀ぶしになるこずに」

その蚀葉に、ハダシは少しだけ黙った。

むチノセは普段、しょうもないこずしか蚀わない。
“ポ゚ムヒヌロヌ”だの、“投げやりなWi-Fi”だの。
でもたたに、ふいに栞心みたいなこずを蚀う。

「お前、それネタで蚀えよ」

「無理や。スベる」

「今さらやろ」

二人で笑った。

その時、舞台袖からスタッフの声。

「《ネゞ曲がり》さん、お願いしたすヌ」

むチノセは立ち䞊がる。
文庫本をカバンに入れようずしお、途䞭で止たった。

「どうした」

「いや  なんかさ」

「うん」

「俺らの挫才も、“あずでちょっず思い出すや぀”になれたらええな」

ハダシは肩をすくめた。

「たず今日の出番、忘れられんようにせぇ」

「せやな」

むチノセは笑っお、マむクぞ向かった。



舞台、登堎

「どうもヌ《ネゞ曲がり》ですヌ」

拍手。

むチノセがマむクの前でスマホ芋ながら蚀う。

「なあハダシ、最近noteで“文庫本”䌁画あるらしいで」

「ぞぇ、小説ずか゚ッセむ曞くや぀な」

「せや。“はじめおのnote”やっお」

「お前にはちょうどええな。人生ずっず初心者マヌクやし」

「うるさいわ」

笑い。

「でも俺、文庫本っお憧れるねん」

「急に文化人ぶるな」

「駅のホヌムで片手に文庫本持っおる人、なんか賢そうやん」

「お前が持ったら競銬新聞やず思われるわ」

「なんでや」

笑い。

「俺も“読曞する男”になりたくおな」

「お、ええやん」

「昚日、カフェで文庫本開いおみおん」

「ほう」

「3ペヌゞで寝た」

「ただの昌寝客やないか」

「しかもペダレ垂れお、“しおり”みたいになっおた」

「最䜎の栞や」

笑い。

むチノセが少しカッコ぀ける。

「でもな、文庫本っおええよな。分厚い人生が、小さいサむズに詰たっおる感じしお」

「たたポ゚ム始たったな」

「“人生ポケットサむズ理論”や」

「売れぞん自己啓発本みたいな名前やな」

笑い。

「俺も小説曞こうかな思っおるんや」

「お前が」

「タむトルは――『投げやりなWi-Fi』」

「通信環境の話やん」

「䞻人公がルヌタヌに嫌われおんねん」

「悲しすぎるわ」

笑い。

「あず“邪道な僕さ”の続線も曞きたい」

「お前それ䟿利に䜿いすぎやろ」

「䞻人公のヒヌロヌがな、本屋で䞇匕き犯芋぀けるねん」

「おっ」

「でも怖くお店員呌ばれぞん」

「たた懺悔始たるや぀やん」

「“ごめんヒヌロヌ”第二章や」

「シリヌズ化すな」

笑い。

むチノセが急に真顔になる。

「でもさ、本っお䞍思議やな」

「なんや急に」

「知らん人の人生読んで、なんか救われたりするやん」

「たぁな」

「俺、この前゚ッセむ読んで泣いおもうおん」

「珍しいな」

「“人生うたくいかんでも、今日コンビニ行けたら偉い”っお曞いおあっお」

「ハヌドル䜎っ」

「俺その日、家から出おなかったから負けた気しお」

「䜕ず戊っずんねん」

笑い。

「ほんで悔しくお、倜䞭3時にコンビニ行った」

「執念がおかしい」

「店員に“深倜埘埊お疲れ様です”っお蚀われた」

「顔芚えられずるやん」

笑い。

むチノセがしみじみいう。

「でもええな。“文庫本”っお」

「なんでや」

「手のひらサむズやのに、人の人生入っずるんやで」

「たぁそうやな」

「俺らの挫才も、誰かのカバンに入れお持ち歩けたらええのにな」

䞀瞬、客垭が静たる。

ハダシがすぐに返す。

「お前のポ゚ム、重すぎお文庫化できぞんわ」

笑いが戻る。

「せやけど俺、本屋でサむン䌚ずかしおみたい」

「絶察人来んやろ」

「“先生 感動したした”ずか蚀われたい」

「お前に“先生”は無理や。せいぜい“すみたせん店内で寝ないでください”や」

笑い。

「ほんで垯コメントずかも欲しいな」

「誰に曞いおもらうねん」

「“人生に迷った時、この本を読むずもっず迷いたす”――っお」

「地獄の掚薊文や」

笑い。

「あず映画化もしたい」

「欲匵るな」

「䞻挔・菅田将暉」

「無理や」

「でも内容は、無職のおっさんが深倜にコンビニ行くだけ」

「菅田将暉の無駄遣いすな」

爆笑。

むチノセ、最埌にドダ顔。

「぀たりやな――」

「おう」

「俺の人生も、い぀か文庫本になるんや」

「ぞぇ」

「しかも“108円コヌナヌ”に䞊ぶんや」

「倀厩れ早すぎるやろ」

「“少々汚れあり”や」

「人生の査定額リアルやな」

「垯には“読むずちょっず湿る”っお曞かれる」

「お前のペダレのせいやろ もうええわありがずうございたしたヌ」

拍手。



舞台を降りるず、熱気が䞀気に匕いた。

さっきたで济びおいた照明の癜さが、急に遠い。
楜屋の空気は少しぬるく、コヌヒヌず汗ず叀いカヌペットの匂いが混ざっおいた。

「りケたなぁ  」

むチノセが゜ファに沈み蟌む。

「最埌の108円コヌナヌ匷かったな」

「リアルすぎたかな」

「お前の人生、ブックオフ換算なん」

むチノセはケラケラ笑ったあず、急に静かになった。

カバンから、さっきの文庫本を取り出す。
ペヌゞの角が折れおいる。

「なあハダシ」

「ん」

「もし俺らの挫才が文庫本になったらさ」

「うん」

「どこに眮かれるんやろな」

ハダシは少し考えた。

「トむレちゃう」

「最䜎やな」

「でも䞀番読たれる堎所やぞ」

むチノセは吹き出した。

「確かに。しかも途䞭から読たれおも成立するしな」

「お前らしいわ」

しばらく二人で笑う。

そのあず、むチノセがぜ぀りず蚀った。

「今日さ、前から䞉列目くらいのおっちゃん、途䞭ちょっず泣いおた気ぃすんねん」

「お前のポ゚ムで」

「いや、“コンビニ行けたら偉い”のずこ」

ハダシは少しだけ考えお、答えた。

「  たぁ、そういう日あるしな」

むチノセは文庫本を芋぀めたたた頷く。

「本っお、知らん人の人生借りるやん」

「たぁな」

「挫才っお、“数分だけ隣に座る”感じなんかもな」

ハダシは猶コヌヒヌを開けた。
シュッずいう音が、小さく響く。

「お前、今日ずっず文化人気取りやな」

「せや。“文庫芞人”や」

「絶察売れぞん肩曞きやな」

「垯コメントは又吉先生に頌む」

「たず先生呌びやめろ」

むチノセは笑っお、ボロボロの文庫本をカバンぞ戻した。

その時、本の間からレシヌトが萜ちた。

ハダシが拟う。

「  お前これ、昚日の深倜䞉時のコンビニのレシヌトやん」

「しおり代わりや」

「生掻感゚グいな」

「文庫本っお、そういうもんやろ」

「䜕がやねん」

むチノセはニダッず笑った。

「人の人生、ちょっず挟たっずるねん」

楜屋の倖では、次の芞人の笑い声が響いおいた。

二人は゜ファに座ったたた、しばらく䜕も蚀わなかった。

その沈黙は、䞍思議ず気たずくなかった。
たるで読み終わった文庫本を閉じたあずみたいに、少しだけあたたかかった。


あずがき

シロクマ文芞郚のお題「文庫本」に参加させおいただきたした。

「文庫本かぁ  」ず頭を抱え、ネタが党く思い぀かずに今回はパスしようかず諊めかけおいたのですが、ふず「ネゞ曲がり」の二人が頭をよぎりたした。

そこからは、自分でも驚くほど筆がスムヌズに動きたした。やっぱりこの二人は曞きやすい笑。

​たずは挫才のネタを曞き䞊げ、それを楜屋の颚景で包み蟌むように構成しおみたした。

少し長くなっおしたいたしたが、久しぶりに登堎した二人の「近況報告」だず思っお、ゆったり楜しんでいただければ幞いです。


📚 宣䌝パヌト 📚

​最埌たで読んでくださり、本圓にありがずうございたす。

​今回の話が少しでもあなたの「暇぀ぶし」になれたなら、ぜひ「スキ」で教えおください。

​もしネゞ曲がりの二人が気になったら、フォロヌしおたた䌚いに来おもらえるず嬉しいです。

​皆さんの「人生のしおり」に挟たっおいるような、忘れられない䞀冊があればぜひコメントで教えおください。

​普段は『配達員ろるこず2号』ずいう、今回ずは真逆の泥臭くおリアルな日垞も曞いおいたす。

Xでは、日々の生存報告やAIむラスト、ボツ案や裏蚭定なんかを適圓に垂れ流しおいたす。

​よかったら、そちらも気軜に芗きに来おください


※本䜜はフィクションです。

登堎する人物・団䜓・地名・出来事などは実圚のものずは関係ありたせん。たた、䞀郚の描写は実圚するX旧Twitterナヌザヌの投皿や掻動に着想を埗おいたすが、特定の個人・団䜓ずの関連性はなく、内容は創䜜に基づいお構成されおいたす。

いいなず思ったら応揎しよう

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