【青ブラ文学部】『九回裏ツーアウト……。』【サスペンス】
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ようこそ、皆さま!セイウチです。
今日波打ち際を歩いていたら、びしょ濡れの革の手袋と一緒に、黒ずんだガラス瓶が打ち上げられていました。
中に押し込まれていたのは、手汗と血の匂いが滲みついたような、必死な筆致で書かれた一枚の手紙です。
今日のボトルメッセージは、命を賭けた悪魔の球場から届いた一編。
温かいコーヒーでも淹れて、どうぞ最後まで受け取ってください。
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白線の引かれたグラウンドを包み込むのは、割れんばかりの爆笑と下品なヤジだった。
スタンドを埋め尽くす観客たちは、酒を煽り、肉を喰らいながら、死に物狂いのグラウンドを娯楽として見下ろしている。
ここは、とある野球場。
勝利すれば最高の名誉と共に地上を凱旋し、敗北すれば問答無用で地獄へと叩き落とされる。
グラウンドの上に立つ両チームの選手たちに、笑みなど一切なかった。
誰もが蒼白な顔で、額に冷や汗を浮かべ、喉を鳴らしている。
一つエラーをすれば地獄。
一つの三振が命の危機を意味する。
同点のまま回を重ね、スコアボードにはゼロが並び続けていた。
そして、試合は九回裏、ツーアウト満塁を迎える。
打席に立ったのは、私だった。
一打が出れば栄光、アウトになれば即終了。
死の淵からの生還か、地獄への落選か。
すべてが私のバット一本に委ねられていた。
スタンドの熱気が最高潮に達する。
観客たちの興奮した咆哮が地響きとなって足元を揺らす。
マウンド上のピッチャーが息を吐き、投球動作に入る。
一球、二球、三球……。
追い詰められ、食い下がり、カウントはツーストライク、スリーボール。
ついにフルカウントまで持ち込んだ。
心臓が破裂しそうなほど脈打つ。
呼吸が浅くなり、視界が明瞭さと暗転を交互に繰り返す。
手汗でバットのグリップが滑りそうになるのを、力任せに握り直した。
ピッチャーが投げた。振り抜く。ファール。
ピッチャーが投げた。食らいつく。ファール。
ピッチャーが投げた。バットの先で擦る。ファール。
ピッチャーが投げた。しがみつく。ファール……。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。
ピッチャーが投げた。膝を折りながら拾う。ファール。
ピッチャーが投げた。振り遅れながら当てる。ファール。
ピッチャーが投げた。目をつぶって弾く。ファール。
ピッチャーが投げた。渾身の力で弾き返す。ファール……。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。
バッターボックスの土を血となじむ汗で濡らしながら、ただひたすらにボールへ食らいつき続ける。
何十球、何百球。
終わらないカウント。
終わらせない執着。
その見苦しくも壮絶な、永遠に続く人間の「生」への執着に、スタンドを埋め尽くした悪魔たちは腹を抱えて大歓声をあげていた。
(了)
※この物語はフィクションです。
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最後まで読んでいただいてありがとうございます!
人間の「生」への凄まじい執着と悪魔たちの嘲笑という暗い対比ではございますが、気に入っていただけたなら幸いです。
【山根あきら】さん、素敵な企画をありがとうございました!
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