″読んで即解決″よりも大切なこと—ブックスTangerinaの棚が語る、本との向き合い方
『ここに来てお気に入りの本を手に取れば、知的な冒険の旅が始まる』
そんなわくわくするコンセプトの新刊書店、ブックスTangerinaにお邪魔しています。
前回の記事はこちら:元テレビプロデューサーが早期退職してたまプラーザに本屋を開いた理由――「顔の見えるひとりひとりを相手にしたい」
前回の記事で話題にあがったセレクト型の小型書店のように、ブックスTangerinaもまた、その魅力は店主・𠮷沢さんによる棚づくりにあります。選書において大切にしていることを伺いました。

棚が語る世界――選書の軸と、ハウツーではない本たち
「せっかく足を運んでもらって実際に手に取ってもらえるので、綺麗な絵や写真が多く載っていて、装丁も綺麗な本をと心掛けています。それから、私が実際に読んで面白かった作家やジャンルを軸に広げていった感じです。本当はスペース的にはもう少し置けるんですけど、いざオープンしてみたら、本の数が多くないことがかえって評判がよかったんです。私が選んでいるということが、ひとつのサービスになってるのかなと」
少ない、ということは、誰かがあらかじめ選んでくれているということ。それが、幼いころから本が大好きで、興味関心が国・ジャンルを横断する𠮷沢さんならば、なおのこと信頼できるというもの。
「NHKでプロデューサーをしていたときは、ニュースや海外のドキュメンタリーも担当していました。いろいろな社会課題や遠くの国の抱える問題を取材する毎日でした。番組が終わってNHKを退職しても、その問題に対する関心は続いていて、自然と当時取り扱ったテーマが集まっているんだと思います」

Tangerinaの棚には、純文学、絵本、ポピュラーサイエンス、エッセイなどとともに、社会問題をとらえたノンフィクションやルポタージュも目立ちます。
「うちはいわゆる実用書はほぼ置いていないんです。"読んで即解決"っていう本は置かないことにしています」
その言葉に、納得がいきました。Tangerinaの棚を見つめていると、"問い"が浮かぶからです。なぜこの国ではこの問題が続いているのか?いかにしてこの本ができたのか?こんな本があるってことは、私が知らなかっただけで、どこかでは周知の根深い問題なのでは?本を単なるツールではなく、知的な冒険のお供としていることが体現されています。
本を、これから訪れる冒険の携えに
「Tangerinaという店名は、絵本『エルマーのぼうけん』にからとっています。主人公のエルマーが冒険の前に具体的な準備をするところがこの本の面白いところです。実りあるみかん島から危険などうぶつ島に行く前に、エルマーはみかんをリュックに詰めるんです。うちの本もエルマーにとってのみかんのように、食料みたいになればなと思ったんです。皆さん普段、仕事や家事をしてたり学校に行ったりするでしょう? 本で栄養をつけて、それぞれの冒険に出ていく、そんなイメージです」

この街の、この店ならではの売れ筋
では、この街の人たちはどんな本を手に取るのでしょうか。
「うちでは津村記久子さん、柴崎友香さん、奥泉光さんらの本が人気です。いわゆるベストセラー作家とは、少しちがう顔ぶれかもしれません。実はうちは本屋大賞受賞みたいな本はほとんど置いてないんですよ。そのせいもあると思いますが、そういう本は大型書店やアマゾンで買われるんだと思います。ここではもう少し静かで、派手さはないけれど心がざわつくような本が好まれるようです」
料理と世界を結びつけた本も、反応がいいそう。
「韓国の食文化を扱った本、世界の朝食を紹介する本など、"料理から世界をみましょう"みたいな本は結構売れますね。フェアの効果も大きいです。アガサ・クリスティの没後50年に合わせたフェア、ミャンマークーデターから5年を機に組んだフェア、スウェーデンをテーマにした北欧フェアなどをやりましたが、フェア関連の本はしっかり手に取っていただいています」
いずれも、𠮷沢さんがNHK時代に扱ってきたテーマと重なります。本は動画やテレビより伝達に時間のかかる媒体ですが、簡単には答えの出ないテーマこそ、本を手に取り、自分の目と頭でよく咀嚼して、"私はこう思う"を体に蓄えたいと思いました。
次回は最終回。「地域の場所」としての本屋、「物質」としての本の魅力のお話がとても面白かったので、シェアしたいと思います。
▼次の記事に続く(全3回の3回目を読む)
▼店舗情報
ブックスTangerina
所在地:〒225-0002 神奈川県横浜市青葉区美しが丘1丁目10-13 USビル3階
営業時間:平日 11:30〜19:30/土・日・祝 10:30〜18:30
定休日:水曜日
※営業時間・定休日は変更となる場合があります
編集:福アニー 取材・執筆:斉藤由香
