第6回 高タンパク粉と高加水の逆説〜デンプンの硬質度が加水挙動を支配する〜製パン業界の常識「高タンパク粉を使えば高加水でも背の高いパンが焼ける」は、本当に正しいのか——。
233回の実焼成データが示した答えは、意外なものでした。衝撃の比較データ(最新)最強力粉「ゆめちからST」(タンパク14.7%)と「ハルユタカ100%」(タンパク11.5%)の同一条件比較:


100%加水でもハルユタカがわずかに上回り、全加水域で安定して優位または互角。生地もよく伸びる良好な状態でした。なぜ高タンパク粉が苦戦するのか水の約88%はデンプンが吸収します。特に硬質小麦のゆめちからは損傷デンプンが多く、水を先取りしてグルテン形成を阻害しやすい。一方、ハルユタカは粒質が柔らかく損傷デンプンが少ないため、水が効率的に回り、適度なグルテン形成がなされ、高さが出やすいのです。例外:中間質小麦の強さ(きたほなみ)ただし高タンパク粉がすべて同じ挙動をするわけではありません。
ベーカリスタのきたほなみ(特殊加工・タンパク12.0%)は60%台から高いY値を示し、100%加水でY=3.88と、同条件(100%加水ストレート)の全粉中最高値を記録しました(110%では急落を確認)。
中間質小麦の特性(損傷デンプンが少なく、水をゆっくり均等に吸収 + グリアジン優位の伸びやすいグルテン)が活きた理想的なケースです。
粉末麦芽(プロテアーゼ)の役割
ゴールデンヨットやスーパーキングに含まれる微量の粉末麦芽も、高加水域(特に90%超)で効果を発揮します。過強力なグルテンを適度に分解して伸展性を与えるためです。ただし添加量が極微量のため、低〜中加水ではほとんど効果が現れません。高タンパク粉は本当に「使えない」のか?高さ・加水率を最大化するだけを見れば、ハルユタカ系や中間質小麦が優勢です。しかし、食感という別の軸で見ると話は変わります。
高タンパク粉(ゆめちからSTなど)
→ グルテン量が多く、蛋白ネットワークが密 → もちもち感・コシ・食べ応えが強いハルユタカ・中間質系
→ 高さは出やすいが、食感は比較的軽やか
結論:粉は「特性」で選ぶ時代高タンパク粉は
「高加水で背を高くする万能の粉」ではありません。
でももちもちで満足感の高いパンを作りたいときには、むしろ積極的に使いたくなる粉です。
高さ・軽やかさ・扱いやすさ → ハルユタカ系や中間質小麦
もちもち感・密度・食べ応え → 高タンパク硬質小麦
超高加水での伸び → 粉末麦芽入り粉も有効
デンプンの硬質度が加水挙動を支配し、タンパク質量が食感の方向性を決める。
この二つの視点を持てば、粉選びが格段に面白くなります。
次は「製法により変わる?」
