309話 低温還元炉 Low-Temperature Reduction Furnace 【エジプト編】波打際スケッチ Sketches of the Shoreline ~AIと創る青春物語~
その日もラガシュカイネルとナムルは、武器工房にいた。
かなり苦労して、鉄の材料、木炭などを集めてきている。

この時期、アメンラー王国は青銅器が中心で、鉄製品は作れていない。
隕鉄(隕石に含まれる鉄)を使う場合はあったが、
装飾品ぐらいしか作れず、
武器にするほどの量にはならない。

ケムル王国は、製鉄技術があり、
すでに低温還元炉による製鉄ができている。
鉄鉱石(赤鉄鉱、磁鉄鉱)が、すでに使えたのだという。
鉄は、ケムルの文明の核だった。
「……よし、ここをもう少し締めろ」

ラガシュカイネルが炉のすぐ横に立って言う。
「王様、これでよろしいか」
技師が汗を拭いながら応じる。
何とか炉らしいものを作り、試作中だ。
そう簡単にはできないが、工房の技師らは目を輝かせた。
「王様・・・これは素晴らしい技術ですな・・・」
技師は、ラガシュカイネルに話しかけずにいられなかった。

「うむ、焦らないことじゃな。かならずできるからの」
「ははっ、楽しみでございますな」
この調子で、鉄の武器ができるようになれば・・・
ケムルを分立させた諸侯を、ひとつずつ叩き潰し、
王国を取り戻すことができる。

ラガシュカイネルの胸には、
久しく忘れていた王としての自信がわずかに戻りつつあった。
その話を聞いたイセトは目を丸くした。
まさか本当に鉄戦車を教えようとするとは・・・・

ラガシュカイネルか・・・あやつ・・・
なかなか、やりおるの・・・・
イセトは、ほんの少しだけ口元を緩めた。
憎っくき敵国の王ではある。
ここまで必死に技術を伝達しようとする姿は、
もはや敵という枠を超えている・・・

ケムルの鉄戦車──
アメンラー王国が恐れた黒い雷。
その技術を、ラガシュカイネルは本気で伝えようとしている。
イセトは、胸の奥に小さなざわめきを感じた。

あの男・・・本気だな・・・
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