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事件簿ファイル#109-2:「裏切り者に払う金はない!」と怒り狂って退職金をゼロにしたら、労基署を連れて逆襲された話



◼️感情的な「制裁」は命取り。ネットの浅知恵で武装した離職者が、労基署を盾に「100%勝てる戦い」を仕掛けてくる恐怖

シリーズ:『退職日の法務心理戦――裏切り者の逃げ道を完全に塞ぐ技術』(第2話)


【はじめに】

「会社を裏切った奴に、なぜ1円でも金を払わなきゃいけないんだ?」

あの日、顧客を競合へ奪い去っていった加藤への怒りで、私の脳は完全にバグっていました。

経営者なら、この気持ちが痛いほど分かるはずです。血の汗を流して会社を守ってきたのは自分だ。裏切り者にくれてやる金など、1円たりともあるわけがない。

しかし、この「経営者としての当然の怒り」こそが、法律という戦場においては、自らの首を絞める最悪の悪手になる。

私は怒りに任せて加藤の退職金を「支給口座の手前」で差し止めました。結果、何が起きたか。会社にやってきたのは加藤ではなく、厚労省のバッジをつけた労働基準監督官でした。

合法的かつ心理的に相手を追い詰めるプロトコルを知らないまま、感情だけで「制裁」を下せば、経営者は会社ごと労基署に叩き潰されます。

今夜は、私が血を流しながら学んだ「退職金を最強の武器(人質)に変えるための、就業規則の絶対防衛ライン」についてお話しします。

【退職金120万円】

「新井社長、今月の加藤くんの退職金振込なんですが、このまま手続きを進めてよろしいですか?」

加藤が辞めて15日後。総務の担当者が、処理済みの振込伝票を私のデスクに持ってきた。
その額、約120万円。

その時すでに、私は加藤がうちの最重要クライアントA社、B社をそっくりそのまま転職先の競合に乗り換えさせた事実を掴んでいた。
会社は数千万円規模の損失に直面し、社内は蜂の巣をつついたような大騒ぎになっている真っ最中だった。

その裏切り者に、会社からさらに120万円もの「ご褒美」を振り込む?

「ふざけるな!止めるんだ!」

私は伝票をへし折るようにしてゴミ箱に投げ捨てた。

「あいつは会社を裏切って顧客を盗んでいったんだぞ!会社に大損害を与えた犯罪者だ!そんな奴に払う退職金なんて、うちには1円もない!振込は今すぐキャンセルしろ!」

総務の担当者は怯えたように「わ、分かりました……」と引き下がった。

【労基署の訪問】

その時の私は、完全に勝った気になっていた。
「ざまあみろ。会社を裏切った代償だ。これで少しは痛い目を見ろ」
胸のすくような復讐劇だと思っていた。

自分の下した決定が、どれほど致命的なリーガルリスクを孕んでいるかも知らずに…


地獄からの使者がやってきたのは、振込を差し止めてからわずか1週間後のことだった。

「社長……大変です。労働基準監督署の調査官が、今、受付に来ています……。加藤くんが『退職金が不当に未払いになっている』と駆け込んだみたいで……」

総務が震える声で社長室に内線を入れてきた。

まさか、と思った。会社にこれだけの損害を与えておきながら、自分から労基署にチクるだと?あいつには人の心がないのか?

応接室で私を待っていたのは、グレーのスーツを着た冷徹な目をした2人の監督官だった。

「新井社長ですね。元従業員の加藤氏より、退職手当の全額未払いについて申告がありました。御社の就業規則と退職金規程、それから加藤氏の賃金台帳を今すぐ拝見させてください」

私は怒りを抑えきれず、監督官に向かって怒鳴り散らした。

「冗談じゃない!あいつが会社に何をしたか知っているんですか!うちの顧客リストを盗んで競合に乗り換えたんですよ!会社は数千万円の損害を被ってるんです!そんな裏切り者に退職金を払う義務がどこにあるんですか!」

監督官は、私の叫びを1ミリも表情を変えずに聞き流し、淡々とこう言った。

「社長、落ち着いてください。加藤氏が御社に損害を与えたかどうかは、民事(裁判)の話です。私ども労基署が管轄するのは、労働基準法です。御社の退職金規程には『退職金は退職後1ヶ月以内に支払う』としか書かれていません。つまり、どんな理由があろうとも、期限内に支払わなければ、御社は労働基準法第24条(賃金支払の原則)違反、すなわち『犯罪』になります。今すぐ全額支払わなければ、是正勧告、悪質な場合は検察への書類送検となります」

犯罪。
書類送検。

耳を疑った。損害を与えられたのはこっちなのに、なぜ私が「犯罪者」扱いされなければならないのか?

【労働基準法と就業規則】

私はその日の夕方、またしても顧問弁護士の事務所へ駆け込んだ。

「先生!労基署が来ました!加藤の退職金、本当に払わなきゃダメなんですか!?あいつのせいで会社が傾きかけてるんですよ!」

弁護士は、前回と同じく、同情と諦めの混ざった目で私を見て、首を横に振った。

「新井社長……非常に悔しいですが、労基署の言う通りです。日本の労働法は恐ろしいほど労働者を守るようにできています。会社の金を横領して懲戒解雇されたレベルでなければ、退職金の不支給や減額は認められません。しかも、御社の退職金規程には『損害を与えた場合は不支給とする』という【事前の明確な文言】が入っていなかった。これでは、どんなに相手が悪くても、100%会社が負けます」

「じゃあ……あいつに120万円を笑顔で振り込めと?」

「はい。今すぐ払ってください。さもないと、社長が逮捕されます」

悔しくて、悔しくて、机を血が出るほど殴りつけた。

あいつは知っていたのだ。
ちょっと調べれば「会社に損害を与えても、退職金規程に減額条項がなければ労基署が味方をしてくれる」ということくらい、すぐに泥棒の知恵として手に入る。

加藤は最初から、私が怒って退職金を止めることすら計算に入れて、労基署という最強の盾を準備して、私の自爆を待っていたのだ。

あの日、私は涙を飲むようにして、加藤の口座に120万円を満額振り込んだ。

裏切り者に、会社から120万円の軍資金をプレゼントしたのだ。あの夜の惨めさと屈辱は、今でも忘れない。

【就業規則の裏ワザ】

だが、私はただでは起きなかった。
実は、この「裏切り者への退職金」を、合法的に、かつ相手がぐうの音も出ないほど心理的に追い詰める『人質(バーゲニングチップ)』に変えるための、就業規則の裏ワザがあることを、この時の私はまだ知らなかったのだ。


⚠️【重要】この地獄から生還するための「解決策」について

この連載は、私がただ愚痴を並べるためのものではありません。
私と同じように、信じていた部下に裏切られ、法律の壁に阻まれて泣き寝入りする経営者を、一人でも多く救うためのものです。
そのため、この「地獄の全5話」のドキュメンタリーが全て終了した直後、【#110:退職日当日の法務心理戦・完全解決編】として、私が血を流しながら構築した「対抗策のすべて」を公開します。

ネットの浅知恵でサインを拒否する退職予定者を、その場で100%チェックメイトする「当日の面談プロトコル
裏切り者への退職金を、合法的に「人質」に変えるための「就業規則・退職金規程の鉄壁フレーズ
これら、今すぐあなたの会社を守るための具体的な「武器と防具」を全て公開します。まずはこの連載で、敵(裏切り者)がどんなルートであなたの会社を刺しにくるのか、その手口を脳に叩き込んでください。

(明日7月3日 21:00公開、#109-3「『これ、加藤さんのデスクのPCです』ログ解析で暴かれた、最終日の10分間の犯行」へ続く)


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本データは、一般的な実務慣行に基づき、汎用的なインシデント対応の雛形として作成されたものです。実際の被害状況、社内規程、契約書の有無等により、最適な対応は個別に異なります。
実際の有事の際は、自社の責任において判断し、必要に応じて警察、弁護士等の専門家の指示を仰いでください。

提唱:先観経営論(PreVisionManagementTheory)
by新井和弘


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