ただは高くもあり安くもあり
〔解説〕
ことわざには、正反対や表裏の意味を持つものが少なくない。「ただより高いものはない」と「ただより安いものはない」などはその典型例だ。
前者は「ただで物をもらったり理由のない好意を受けたりすると、お返しをしたり何か頼まれたりすることになり、結果的に高くつく」という意味であり、後者はストレートに「ただで手に入れたものがもっとも安い」という意味だ。
当然、どちらが正しいなどとは言えず、状況次第ということになる。
(ここまでは事実ですが、以下は創作なので真に受けないでください)
〔さらに解説〕
今回の格言制定は、日本格言制定委員会の高井安美委員(28)と安井高巳委員(33)による雑談がきっかけだった。
高井「このバッグ、ゴルフ仲間の男性にいただいたの」
安井「有名ブランドの〝ブッチ〟じゃん」
高井「彼、何かというとプレゼントしてくれるの。あたしはもらいっぱなしだから〝ただより安いものはない〟って感じ」
安井「その人、何か下心があるんじゃない? だって〝ただより高いものはない〟っていうじゃない。あとで何か要求されるとか」
高井「食事や映画にも誘われるけど、みんな彼のおごり。ただより安いものはないから、断らないでどんどん行くの」
安井「その神経、うらやましいよ。おれなんか逆に〝ただより高いものはない〟を何回も経験してるよ。お人好しで律義なんだよな」
高井「来週の週末は泊まりで温泉に行こうって誘われてるの」
安井「ええっ!? 彼氏でもないのに泊まりで温泉!? 絶対狙われてるよ。ヤバイんじゃない?」
高井「お互い独身だから問題ないし、あたしだってたまにはアバンチュールを楽しみたいし」
安井「そそそ、その、その、つかぬことを訊くけど、おれが一晩つきあってくれって言ったら、その彼と同じ対応してくれるの?」
高井「安井さんはふだん何もプレゼントしてくれないからだめ。もしただで一晩つきあっても、あとで高くつくことになるわよ。安井さん、彼女いるんでしょ? 結局〝ただより高いものはない〟ってことよ。うふふ」
二人から少し離れた場所で偶然この会話を聞いていた尾琴場会長の頭に閃いたのが〝ただは高くもあり安くもあり〟だった。そして、新格言の制定申請を自ら行なったのだった。
なお、尾琴場会長は二人の会話を聞いたあと、『おれも高井委員と泊まりで温泉に行きたい』と妄想したようだった。
〔街頭インタビュー〕
(男性には女性が、女性には男性がインタビューしている)
70歳(男)無職
「ほう、新しいことわざができたのかね。ただは高くもあり安くもありか。たしかに、これなら柔軟に使えるな。ところで、どういうわけで新しく制定されたんだね。へ—、委員の人たちの雑談がきっかけ。なるほどね。で、その女性委員って、おねえさんかい? 違う? なんだ、あんたが温泉にはいるところを想像しちゃったよ。ひっひっ」
26歳(女)食品卸営業
「ふうん、どういう場合でも使えていいわね。リバーシブルの上着みたいで使い勝手がいいじゃない。あたし? そうねえ、私は気前よくどんどんあげるタイプ。でも、その割にお返しがもらえないから、逆の意味で〝ただより高いものはない〟かもね。ねえ、高級レストランのディナー券が二人分あるんだけど、今夜行きません? だめ? これじゃ高くも安くもないわ」
