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お若く見えますねと言われたら

 過去に書いたことがあるが、ある女性に「私、何歳くらいに見えますか」と訊かれたことがある。若く言ってほしいに決まっているから、大サービスして「40歳くらいですか」と答えた。それが、なんと大当たりだった。
 その女性はかろうじて笑顔を浮かべたが、お互いに気まずい思いだった。言うまでもなく、彼女はもっと若く見られることを期待していたはずだ。

「友人が『お若く見えますね』とお世辞を言うようになったら、老人になり始めていると思われるようになったと確信してよいだろう」
            ——『名言・座右の銘1500』(ナガオカ文庫)

 ちょっと言い回しがややこしい気がするが、これはアメリカの文豪ワシントン・アーヴィング(1783年 –1859年)の言葉だ。
 たしかに、〝お若く見えますね〟の裏を返せば年を取ったと思われているということだ。若いと思われているならそんなふうには言われない。

 アーヴィングは諷刺や皮肉を持ち味とする作家で、アメリカ文学の父と称されている。茶目っ気のある性格で、人生の皮肉や滑稽さを上品なユーモアで包むやり方を得意とし、知識人としても知られる。
 創作では伝承や民話を再構築するのがうまく、ユーモラスでありながら不気味さをまぶすという独特の作風を築いた。代表的な作品のひとつに、日本でも知られている『リップ・ヴァン・ウィンクル』がある。

 ところで、原文がわからないが、「お若く見えますね」という言い方は、友人に言うにしては丁寧すぎないか(訳者の意向という可能性もあるが)。友人相手ならもっとラフに、たとえば「きみは同級生のなかじゃ若く見えるよな」などとなるほうが自然だ。
 だから、この名言の「友人」は「他人」や「周囲の人」などに置き換えたほうがいいように思う。あるいは「友人」は変えず、「お若く見えますね」をラフにして、「若く見えるね」としてもいい。

 自分のエピソードをもうひとつ。あるとき年配の男性に年齢を訊かれた。彼は私に「同年配とお見受けしましたが」と言ってから自身の年齢を明かした。私より10歳上だ。私が唖然としながら「あなたより10歳も若いですよ」と言うと、失礼しましたと言ってバツが悪そうに苦笑いした。
 彼の見立てがおかしかったのか、それとも私が老け顔ということなのか。ちなみに、そんな的外れな見立てをされたのは後にも先にもそれだけだ。

 若く見られたいのは世の常だ。誰でも年を重ねれば、あっちこっち気になるが、顔や頭髪は目に触れやすいから厄介だ。しわやほうれい線、下まぶたのたるみなどは呼びもしないのにしゃしゃり出てくる。
 比較的新しいと思われる、マリオネットラインなる言葉もある。腹話術の人形の口元を思わせる、口角からあごにかけての深い縦じわをいう。

 たとえ老人になり始めていると思われようと、やっぱり「お若く見えますね」と言われたほうがいいか。アーヴィングの名言が、深いしわのように心に刻み込まれる気がする。

 ところで、ヘッダー画像の「物事は捉え方次第、捉え方はその人次第」は凡筆堂の名言になるだろうか。





 名言シリーズスタートについて触れています。



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