【祝・宮本浩次還暦】 エレファントカシマシ 全アルバム短評
中学生のころ、「俺たちの明日」きっかけで狂ったように聴いていたエレカシ。
「今宵の月のように」に代表される抒情性と、「ガストロンジャー」等で見られる攻撃性の二面性が魅力。抒情性と攻撃性のバランスと出力具合は時期によってだいぶ異なるし、宮本氏のその時のテンションがそのまま出る。
プロデューサーやレコード会社の影響を受けてコロコロと音楽性が変わるのも、人間らしくて好き。めちゃくちゃ環境に影響されやすい笑。だけど、それが40歳を超えたタイミングでの作風再転換と再ブレイクに繋がったのが、めちゃくちゃ素敵だと思う。なんか、何歳になっても人間は変わっていける、という勇気をもらえる。
私はほぼ後追いリスナーだし、エピックソニー期にあんまり興味がなくて、ポニーキャニオンとEMIが好きすきることがモロバレな文章だけど、アルバム22枚を振り返っていきたいと思う。
エピックソニー期
1. THE ELEPHANT KASHIMASHI (1988.3.21)

いつぞや、宮本氏はエレカシの作風について"Led Zeppelinのサウンドに太宰治の詞を乗っけようとした" と言っていたが、まさにそんな方向性が見える、リフ主体の曲が多い作品。
正直、そこまで思い入れのない時期なんだけど、聴いているうちにだんだん好きになってきた。とにかく宮本の歌にありあまるエナジーがあって、それが凄い。勢いのある「ファイティングマン」なんかは、とにかく若いなぁと思う。
「デーデ」「星の砂」には、どこか斜に構えた感じがあり、ひねくれた不敵な新人バンド感がある。
⚪︎ベストトラック:「デーデ」
2. THE ELEPHANT KASHIMASHI Ⅱ (1988.11.21)

前作が「動」だとしたら、今作は「静」だろうか。一曲目「優しい川」から、前作とは明らかにモードが変わったことが分かる。ある意味、勢い重視の曲が多かった前作から一転、まったく別の面を見せている。
「土手」「サラ サラ サラリ」あたりでは、風景描写が光る。音数を極端に絞った繊細な音像には、どこか虚無感や寂寥感が漂っていて、ポツンと一人で佇んでいるような感覚がある。
一見すると地味な作品だが、前作と比べるとメロディーがとても良い。一見とっつきにくいエピック期の初期作の中では意外なほどメロディアスで、全体としてはかなり聴きやすい。
この「静」の作風は、そのまま次作へとつながっていく。
⚪︎ベストトラック:「優しい川」
3. 浮世の夢 (1989.8.21)

ジャケットがチンピラみたい。
ファーストの「動」とセカンドの「静」が混ざり合ったような作品。
ここにきて、文学ロックの色がより濃くなる。冒頭の「序曲 -夢のちまた-」「うつら うつら」が白眉。宮本の内面世界の独白と風景描写に徹した歌詞は、まるで私小説のよう。"不忍池"、”上野の山”といった下町の地名が登場するのも、純文学っぽさに拍車をかけている。
宮本氏の歌とギターが全面に出ており、その他の楽器の音もかなり抑制されている。そのため、とてもたおやかで独特な雰囲気のまま作品が始まる。
そんな感じでアルバムは冒頭、ゆったりと幕を開けるが、中盤になると徐々に激しさを見せていく。というか、5曲目の怪曲「珍奇男」の存在感が強すぎる。人生を投げてしまった酔っ払いのようなテンションで繰り出される、宮本のスキャットが凄まじい。エレカシのディスコグラフィー上でも随一と言ってよい、超濃密な7分15秒である。
この「珍奇男」もそうだけど、宮本氏は、血管がぶち切れんばかりの凄まじいボーカルと、ふっと力を抜いた歌唱を自在に切り替えるだけで「静」と「動」を表現しているのが凄い。「見果てぬ夢」でいきなり絶叫しはじめるところとか、「月と歩いた」の"ドライブ楽し〜"のくだりとか。宮本のボーカルが前面に出ているミックスのせいもあるのだろうけど。
そして、このころから一部の曲が平気で長尺化し、どんどん曲が異形化していく。詞世界も内省的、厭世的になっていき、その方向性は次作でひとつの完成形を見る。
⚪︎ベストトラック:「序曲 -夢のちまた-」
4. 生活 (1990.9.1)

名作と名高い4th。
エピック期で最も難解で奥行きが深いのはこの作品だと思う。
なんといっても、中盤「遁生」〜「偶成」にかけての計19分にわたるズタボロな詩情は、ちょっと只事ではない。
前作もじゅうぶん俗世離れしていた作品だったけど、本作は歌詞のどん詰まり具合が、行き着くところまで辿り着いた感じ。
最後、エピローグ的に続く「月の夜」、「晩秋の一夜」も美しい。時間が溶けるようにして、アルバムはいつの間にか終わっている。
自己破滅型の文豪が、人生にヤケになって作った晩年の作品のよう。とても23歳が作った作品は思えない。なお、このころ、宮本氏は実家で両親と同居していたらしい。え!という感じである。(作風とのギャップがありすぎる)
⚪︎ベストトラック:「偶成」
5. エレファントカシマシ5 (1992.4.8)

宮本氏が当時付き合っていた彼女にフラれたショックでほぼ引きこもり状態で涙が止まらず、ほとんど何も手につかなかった、という時期に作られたという作品。
うーん。正直そんな聞かない作品かなあ。という。どれも良い曲だけど、これまでの4作に比べて、何か目新しいものがあるわけではない。というかこれまでの4作が濃すぎたのだと思う。
でも、聞き込みが足りないだけかもしれないし、「曙光」は好き。
⚪︎ベストトラック:「曙光」
6. 奴隷天国 (1993.5.21)

ヤケクソな攻撃性に満ちた初期の代表曲「奴隷天国」で幕を開けるのが、とにかくインパクト全開。しょっぱなから「太陽の下 おぼろげなるまま 右往左往であくびして死ね」と言われて面食らう。
「太陽の季節」「おまえはどこだ」など、"お前"、”貴様”への語りかけが続くが、二人称の形を取っておきながら、これはもう、明らかに自分自身への語りかけも含まれているのではないかと思う。攻撃性は他者ではなく、自分に向けられたものなのだと分かる、この掌返し。実は、果てしなく内省的な作品なのだと思う。
後半の「いつものとおり」あたりには、ポニーキャニオン期へそのままつながっていくようなポップさがあるし、「道」は後年の名曲「地元の朝」を彷彿とさせる大曲。「寒き夜」も、一行ごとに夜の情景が浮かぶような素晴らしい曲である。
"死”が頻繁に出てくる詞世界は全く取っ付きやすくないし、聴く側にもそれなりの気力が必要だけど、これはなかなかの名盤だなあ。
この時期、ヒットチャート的には全く鳴かず飛ばずだった一方で、一部の層からカルト的な人気を誇っていたのもよく分かるというか。
⚪︎ベストトラック:「奴隷天国」
7. 東京の空 (1994.5.21)

エピック期最終作。
転機となった作品。
何といってもタイトル曲の「東京の空」が本当に素晴らしい。
よくこんな曲作れるなと溜息が出る。
宮本のボーカル、リズム隊、近藤等則氏のトランペットが三者三様にぶつかり合う様子は、素晴らしい。
30周年のベスト盤にも収録された「涙」もじんとくる名曲。
「誰かのささやき」は後へ続くポップ路線の前兆が見える。
エピック期だと前作か今作が一番好き。これまでの集大成のような作品。だが、ここでエピックにはクビを切られる。
⚪︎ベストトラック:「東京の空」
ポニーキャニオン期
8. ココロに花を (1996.8.21)

レコード会社を変更して心機一転となった作品。
やはり、ミニマルな構成の中にありったけの激情を詰め込んだ再デビュー作「悲しみの果て」が白眉。本当によくこんな曲を作れるなあと思う。
「四月の風」「孤独な旅人」「流されていこう」といった曲は、どこまでもまっすぐな響きを持っている。日々生きていく中で溢れる、どうしようもない感情を拾い上げるような"うた"に、ホロリと涙が出そうになる。
エピック期にあった翳りやオブセッションは、これでもかというくらい、綺麗さっぱりなくなってしまったので、以前からのファンにとっては複雑な気持ちを持たれたというのもすごく良くわかる。
けれど、やっぱりこれがひとつの始まりだったというか。
正直、シングル曲以外に引きのある曲はそれほど多くはないんだけど、それでも感動的な作品。
⚪︎ベストトラック:「悲しみの果て」
9. 明日に向かって走れ (1997.9.10)

代表曲「今宵の月のように」が入っているアルバム。
やっぱりこれが一番の名盤だと思う。
単純にメロディがいい。「ひたすらいい曲が続く」作品集だけど、そのアベレージが他の作品と違うというか。
前半は、全編サビかと聞き紛う端正なメロディが次々と展開していく奇跡の名曲「風に吹かれて」や、宮本氏に昔の侍が憑依したような「昔の侍」の鬼気迫る熱唱が圧巻。秋の終わりの情景が浮かぶような「ふたりの冬」も、地味ながら、聴くたびに胸を打たれるようなやるせない気分になる、ポエジーに溢れた素晴らしい曲。
後半戦も、泣きのギターが効いている「遠い浜辺」、マイナー調でヒリついた「赤い薔薇」「恋人よ」、アコースティックな小品「月夜の散歩」を経て、「今宵の月のように」で"月夜の歌”という作品の世界像が結ばれる様が素晴らしい。
10代のしんどい時にずっと聴いていたので、思い入れ補正があるけど、
やっぱりこれがいちばん好きな作品。
⚪︎ベストトラック:「今宵の月のように」
10. 愛と夢 (1998.12.9)

ブレイク後に出た、ずいぶんと地味な作品である。
真夜中に一人で聞くのに向いているような作風で、シングルカットされた「ヒトコイシクテ、アイヲモトメテ」がすべてを物語っているというか。ブレイク後にしてはだいぶ地味な作風だけど、これはこれで格好いい。前作に引き続き、アルバムの世界観が最後「おまえとふたりきり」で一つの像を結ぶ感じも良い。この曲も格好いいなあ。
あと、個人的には宮本氏の歌声はこの時期が一番好き。
「はじまりは今」「夢のかけら」といったシングル曲も、宮本氏の端正な"うた"を聴いているだけで胸いっぱいになる。
後にベスト盤に入った未発表曲「きみの面影だけ」や、次のシングルのc/wになった「旅の途中」あたりもこの時期に制作されたものと思われる。2曲ともメロディアスでとても美しい曲なので、この作品に入って欲しかったなぁ、と思う。
なお、この時期の宮本氏は広いマンションに引っ越したところ、コンロがいくつもあることに感動し、中華鍋を買って自炊にハマっていたらしい。なんて家庭的な。
⚪︎ベストトラック:「ヒトコイシクテ、アイヲモトメテ」
東芝EMI期
11. good morning (2000.4.26)

問題作。
"真剣勝負でコンピューターと初めて格闘した"というシングル曲「ガストロンジャー」を筆頭に、ほぼ宮本氏(と石くん)だけで作成された打ち込みトラックがバッキバキに展開される。エレカシの数あるディスコグラフィの中でも間違いなく一番尖った作品だろう。当時のインタビューを見ると、とにかくPro Toolsでの制作が楽しかったらしく、一種の躁状態で作られた作品であるようだ。
当時宮本氏はRAGE THE AGAINST THE MACHINEやNINE INCH NAILSを好んでいたということだけど、これらの音楽が宮本フィルターを通すとこうなるのか、という感じ。
一部の曲は、もはや「歌」というよりステートメントに近い。情景描写を排した、"激しい感情"を吐き出し続けるような作風は、聞き応えはある一方、ラフな打ち込みサウンドの影響もあり、通しで聞くと正直疲れてしまう。
けれど、この作品に込められたメッセージ、特にシングルになった「ガストロンジャー」「so many people」「コールアンドレスポンス」といった曲の精神性には、日本という国で生きる人間として、ある種の平和ボケの中で生きている人間として、否応なく揺さぶられる何かがある。
そんな中、「武蔵野」が一種の清涼剤として5曲目というアルバム中心に佇んでいるのも良い。
なお、この頃の宮本氏は
・ 『プレイボ-イ』と『anan』など雑誌で5本同時連載
・ ドラマに出て新人俳優賞をもらう
・ 女優との交際をFRIDAYに撮られる
・ 国勢調査の職業欄に「ロック歌手」と書く
・ 33歳で免許取得後、ポルシェを購入し、一晩で230kmを走破
と、「躁」の時期に入っていたようで、この精神状態はアルバムに滅茶苦茶反映されていると思う。(このあと、ポルシェ、ゲリラ豪雨で水没・免停というオチもついてくるんだけど・・・)
というかポルシェらしき車に乗って宇宙に突き抜けていくジャケ写も当時の宮本氏の状態そのまんまだよなあ・・・
⚪︎ベストトラック:「武蔵野」
12. ライフ (2002.5.2)

小林武史氏をプロデューサーに迎えて制作された、宮本氏なりの私小説味がある作品。
エレカシの全カタログの中でもとりわけ地味な作品ながら、遠い昔の文豪の小説を読んだ後のような、ビンテージな空気感に満ちている。年月が経っても古びない、普遍的な作品集な気がして、個人的にはかなり好き。
どの曲が、というアルバムではないけど、「面影」「秋 -さらば遠い夢よ」辺りの寂廖感は胸を打つ。マジで前作は何だったんだろうというくらい、侘しく慎まやかな佇まいの曲が多い。
そんな中、ラスト前に置かれた「あなたのやさしさをオレは何に例えよう」だけは、ホーンが入り派手なアレンジがされているが、"敗北と死に至る道が生活ならば あなたのやさしさをオレは何に喩えよう"と歌う歌詞が泣ける。
誰もが"敗北”して死ぬ運命の中にあるけど、そんな中でも、日々のさりげない瞬間に輝きや意味を追い求めてしまう。そんな感覚が、どこまでも平明な詩とまっすぐな歌唱で歌われていて、エレカシの中でも一二を争うくらい好きな曲。
唯一、前年に出たシングル「孤独な太陽」はこのアルバムのムードに合っていると思うので、収録外になったのは残念だった。
⚪︎ベストトラック:「あなたのやさしさをオレは何に例えよう」
mini. DEAD OR ALIVE (2002.12.26)

これもターニングポイントとなった作品だろうか。
この頃からテレビ出演・雑誌連載などの仕事も極端に控えていく。
まともな宣伝がなかったせいか、オリコン86位となり、セールス的にも一気にかなり厳しい状態となった。
前作から半年しか経っていないのに、前作の敬虔さ・優美さ・ポエジーはどこへやら?という感じの激しい作風。
『good morning』のいわゆる躁期を経て、一気に我に帰ったのか? 『奴隷天国』あたりの内省が、10年の時を経てぶり返したような感じである。冒頭「DEAD OR ALIVE」の冷ややかなリフからモードが切り替わったことが分かる。
『ココロに花を』以降、(例外的な『good morning』期は除いて)、美しいメロディの端正な曲を書いてきた宮本氏だけど、やはり美しい音楽の中に安住できる性質の作り手ではないようで。どうしようもなく荒くれたものを内に有していたのが、再度顕在化したような作品。そしてこの振り幅がエレカシないしは宮本の魅力である。
5曲だけのミニアルバムだけど、良い意味で、軽く聞き流すことができない。自分に言い聞かせるような痛切な曲ばかりである。生ぬるい歌がひとつもない。
そして詞世界に年齢が追いついてきたというか、説得力がある。
特にラスト、"堕ちていく日々を超えろ" と叫ぶ「未来の生命体」は悲壮。この曲の精神性がそのまま次作へ繋がっていく。
聞く側もちゃんと対峙しないといけない、ヘヴィーな作品である。
⚪︎ベストトラック:「漂う人の性」
13. 俺の道 (2003.7.16)

鬼気迫る怪作。
37歳になり、若手バンドの勢いに押されセールスはガタ落ちし、次々と襲いかかる現実に晒されながら、自分を奮い立たせて、戦う様は圧巻。
中年のままならないリアルを描いた作品として、本当に唯一無二の大傑作。個別でレビュー書いてます。
改めて聴くと、特にタイトル曲「俺の道」は凄すぎる。抑えた平メロからサビ前でいきなり転調し、サビはスキャットだけで乗り切るが、それが激情の表現としての最適解で、これ以外ない、と思える。
なお、この年の夏、宮本氏は信頼していた人間にほぼ全財産を掠め取られ、その当時の所持金は三千円と、いよいよままならない感じになっていたという。
⚪︎ベストトラック:「俺の道」
14. 扉 (2004.3.31)

久々に外部プロデューサーをつけた作品だが、
これまた前作と違うベクトルで苛烈で辛気臭い作品である。
冒頭の「歴史」では、いきなり森鴎外の生涯について歌い始めるので、マジで度肝を抜かれる。
次のシングル曲「化ケモノ青年」も、中毒性のあるコーラスと、どポップなパンクロックのような曲の上に乗る歌詞のテーマが "19世紀以降の日本人" についてで、驚愕。これよくシングルで切ったなあ。。
その後の9分超えの「地元の朝」にもぶったまげる。ひさびさの長尺大作。ただ、後半、7分頃から歌詞の通り"虹が指す"ような展開が始まり、鳥肌が立つ。その後を締めるアコースティックな「生きている証」も、この位置しかありえない、というような滋味深い曲。
アルバム全体の作風としては『浮世の夢』や『生活』あたりの時期に戻った感じで、当時宮本氏が追い込まれていた状況もあり、どうしても辛気臭さはある。
ただ、一方でバンドの一体感はこの時期が随一である。宮本氏が、雑誌の連載・ドラマ・バラエティ出演をすべてキッパリと辞めて、"音楽""バンド"とひたすら対峙していた時期であったこともあり、作品全体から端正なシリアスさを感じる。特に、日本の冬の情景を歌った、澄み渡った透明感のある「イージー」は絶品。
⚪︎ベストトラック:「歴史」
15. 風 (2004.9.29)

前作から半年で発表された、これまた無骨で地味な作品。
一部の曲のプロデューサーには久保田光太郎氏を起用。
前作にも増して混沌としたバンドサウンドが特徴的で、中盤地味な曲が続くのと、何曲かドラムの音圧が強すぎるのは気になる。
ただ、曲単位では好きな物がある。というか、プロデューサーが関わり、気合入れて作ったんだろうなという曲(「平成理想主義」「達者であれよ」「友達がいるのさ」「風」)がすべて良い。
冒頭の「平成理想主義」は、またしても大曲だが、中盤の盛り上がりもあり、この手のツェッペリン・オマージュの曲の中では群を抜いた完成度だと思う。また、3曲目の「友達がいるのさ」はこの時期最大の名曲というか、着飾り感のない日常からどんどんスケールが拡大していく高揚感がとてつもない。
なんで特異的にこんな曲が出てきたんだろう。エレカシのディスコグラフィーに、この前にもこの先にも似たような曲はない。
その後は正直地味な曲が続くが、最後、我に帰ったようなラストトラック「風」が痛切。こちら側の情緒をグチャグチャにさせてアルバムは幕切れする。
⚪︎ベストトラック:「友達がいるのさ」
16. 町を見下ろす丘 (2006.3.29)

今度はプロデューサーに佐久間正英氏が久々に復活。こうして見ると、結構コロコロとプロデューサーを変えている。
佐久間氏の効果なのか、前作までに比べてだいぶ音数が絞られた。アルバム全体をメロウで穏やかな質感が貫いている。ミドルテンポの曲に秀作が多く(特に「シグナル」は傑作!) 39歳の男・宮本の生活感が滲み出た、着飾り気のない作品に仕上がっている。
エレカシ流パンクロックともいえる「地元のダンナ」「今をかきならせ」あたりも、いつになく軽やかで良い。
ただ、歌詞を見ると、堕落した自分への克己心を謳う「すまねえ魂」、“人生の午後”を迎えた者の眼差しを謳う「人生の午後に」、そして天に召されるような「なぜだか、俺は祷ってゐた」あたりは、とても敬虔かつシリアスな雰囲気であり、なぜか古語を多用していることも含めて、前々作あたりと地続きであることを感じさせる。自己と対峙するような曲が多い、EMI期の最果てにあるような作品。
⚪︎ベストトラック:「シグナル」
ユニバーサルシグマ期
17. STARTING OVER (2008.1.30)

シングル曲「俺たちの明日」「笑顔の未来へ」を含む17作目。
ユニバーサル移籍で、大幅に製作陣が変わった。プロデューサーにはYANAGIMAN氏(ケツメイシなどの作品で知られる)や、当時YUKIのプロデュースをしていた蔦谷好位置氏を起用。特に蔦谷氏はライブでのサポートにも入り、宮本から絶大な信頼を置かれ、この後数年間の最重要人物となる。
心機一転、まさにターニングポイントになった作品。
やはりここに来て勢いが増しているというか、やっぱり曲の鮮度が上がっているというか。蔦谷好位置氏の仕事っぷりは特に光っている。
ただ、内面にひたすら向かっていたEMI期の作品が個人的には好きだったので、ポエジーさは減退した感は否めず、その点は残念である。
(「こうして部屋で寝転んでるとまるで死ぬのを待ってるみたい」辺りは、前作との陸続き感をかろうじて感じさせるけど・・・)
しかしながら、EMI期の、とことん自己と向きあった内省的な作品群のあとに、様々な人たちとの巡り合わせの中で、日々を生きる"俺たち"の応援歌である「俺たちの明日」に辿り着き、そして再ブレイクするという物語は、ちょっと出来すぎているけど、感動的である。
⚪︎ベストトラック:「笑顔の未来へ」
18. 昇れる太陽 (2009.4.29)

すごい、何でこんなジャケットなんだろう。
前作でのユニバーサルへの移籍後、環境も一転、売上も上昇した結果なのか、外に開けたような非常に前向きな曲が多い。宮本氏のテンションが、また「躁」に振り切れたのかな?という趣の作品である。
特徴としては、なぜかここにきて"東京"を感じさせる要素も多く、皇居のジャケットや、「都会のビルの」「東京の空」というワードが歌詞に出てくる。東京という町のサウンドトラックみたいに聞ける作品。
ただ、この頃から直接的な歌詞が増えてくるんだけど、
「敗北と死に至るまでが生活」と歌っていたポエジーさ、何というか"日本の文学青年らしさ”が減ってしまったのは残念である。
古地図を片手に街を歩き古本屋を物色し、自宅では火鉢を愛用して10個の火鉢を同時に使い一酸化中毒になりかけ、彼女の誕生日に図書カードをプレゼントし「親戚のおじさんみたい」と言われてしまう、古風で不器用な宮本氏の世界観が大好きなので、
宮本氏がどんどん開放的になるにつれて、文学青年的な擦れた要素が削ぎ落とされ、結果、歌詞がどんどん同じに聞こえてきてしまうというか・・・
いや、今作にも、「おかみさん」というぶっとんだ別ベクトルの怪作はあるんだけど。
それでも、畢生の名曲「桜の花、舞い上がる道を」は、翳りを持ちながらも、最後はどこまでも高みに登っていくようなメロディーが本当に素晴らしい。ユニバーサル移籍3作目のシングルにして、もう集大成くらいの勢いというか、これだけでこのアルバムのお釣りがくるくらいの名曲。
⚪︎ベストトラック:「桜の花、舞い上がる道を」
19. 悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜 (2010.11.7)

今度はすごいタイトル・・・
ポップの鎧は纏っているけど、無骨で歪な作品集といった趣のアルバム。
最初聞いた時、ヘヴィなリフと宮本のがなるような歌い方が印象的な「脱コミュニケーション」「悪魔メフィスト」が最初と最後に配置されている影響で、えらく激情的な作品だなあと思った。
ただ、結構多彩な作品で、特に「彼女は買い物の帰り道」は異色。
"オレ"と"オマエ"の世界を謳ってきたエレカシだが、3人称のみで完結した歌詞は数ある楽曲の中でも相当に珍しい。
よくいえば多彩、悪くいえば混沌としたムードのままアルバムは進んでいくんだけど、11曲目「幸せよ、この指にとまれ」のイントロがすべて包み込み、ぐっと視界が開けていく様子は実に感動的。
エレカシのディスコグラフィの中でも特に多幸感に溢れたこの曲を聴くと、混沌の果てに辿り着くべき場所に達した、みたいな感慨があり、勝手にジーンときてしまう。
(12曲目で最後に全部ぶち返されるんだけど)
結構不思議な作品で、割と次を模索している感じはある。その不思議さも含めて歪で愛おしいフォルムの作品。
⚪︎ベストトラック:「歩く男」
20. MASTERPIECE (2012.5.30)

セピア色のジャケットが象徴している、また地味な作品。
過去の作品だと「ライフ」あたりと似ていて、私小説的な曲が多いんだけど、あの作品の魅力だった歌詞の具体的な描写が減ってしまったせいか、詩情に欠けるというか・・・特に歌詞に安易な横文字が増えてきたり、似たような歌詞が多いのが気になる。
やはりマンネリズムに片足突っ込みかけているような気がして、良くも悪くも突出してくる要素はない作品だと思う。このあと宮本氏は突発性難聴で一時的な休業となるが、ちょっとした「上がり・詰み」の時期だったのかなあと思う。
ただ、一曲一曲は光るものがあり、ソングライティング自体は好調を維持している。40代後半に突入した宮本氏のパーソナルな心情が滲み出ている「ワインディングロード」「約束」「七色の虹の橋」といった曲群は、なんというか、非常に滋味深い。バンドとしての黄昏を感じる作品。
⚪︎ベストトラック:「東京からまんまで宇宙」
21. RAINBOW (2015.11.18)

正直苦手な作品・・・
冒頭「RAINBOW」「ズレてる方がいい」「愛すべき今日」の3曲は勢いがあって期待してしまうが、その後は収録時間が長いのと、以前に増して同じような歌詞が続くので、かなりの部分聞き飛ばしてしまう。
突発性難聴が原因の休業を経て、満を持して発表されたシングル曲「あなたへ」「Destiny」も、悪い意味で普通で大味のJ-POPになってしまったというか・・・ "光" "昇る太陽" "旅人" "俺は行かねばならぬ"みたいな歌詞の曲がひたすら続き、冗長さが否めない。曲のアプローチ自体は多彩なんだけど・・・
ただ、祈りにも似た敬虔な雰囲気で、宮本の熱唱が聞ける「愛すべき今日」は大好き。宮本氏の声の調子は、前作に比べてかなり復調しているような気がする。
⚪︎ベストトラック:「愛すべき今日」
22. Wake Up (2018.6.6)

30周年記念のベスト盤リリース、47都道府県ツアー、バンド初の紅白歌合戦出場などの精力的な活動の後に出された作品。
村山☆潤氏が全面的に編曲に入ったことが影響したのか、どことなく新しい、凛とした清らかな空気感がある。
前半の、タイアップ職人芸という感じの「Easy Go」「風と共に」「夢を追う旅人」の曲群は、ある意味、求められるエレファントカシマシ像に応えました、という感じで新鮮な驚きはあんまりないんだけど、どれも"みんなのうた"として普遍的に受け入れられる曲だと思う。
紅白にも出て、国民的バンドという扱いをされることも増えたけど、それが馴染んでいるというか。
個人的には後半の方が好きで、過去を振り返るような「旅立ちの朝」「いつもの顔で」「オレを生きる」といった曲は、地味ながらも地に足がついているというか。躁期・鬱期を繰り返してきたエレカシだけど、やっと辿りつくべきところに辿り着いたのかな、という感じがする。語弊がある言い方かもしれないが、老いの果ての"美しさ"を感じる。
⚪︎ベストトラック:「旅立ちの朝」
おわりに
短評として書いたつもりが全然短評じゃなかった。
「Wake Up」は、まさにバンド終盤の作品、といった感じで、この後は宮本氏がソロ活動を本格化させ、エレカシとしては8年間新作アルバムは出ていない。
バンドの本格的な復活はあるのかはわからず、「Wake Up」が実質最終作になってもおかしくない雰囲気である。ただ、定期的なライブは行っているので、今後も活動を続けてくれることを祈りたい。
