宮本浩次のミッドライフクライシス、エレファントカシマシ「俺の道」(2003)
その時のテンションや、感情のブレが、そのまま音楽に反映されるミュージシャンが好きなんだけど、エレファントカシマシ(というか宮本浩次)はその典型と言える。
レコード会社を変えるたびに、音楽性がコロコロ変わっていくのが、とっても人間らしくて、いいなあと思う。
特に40歳を超えたタイミングでユニバーサルに移籍してから、蔦屋好位置やYANAGIMANといった年下のプロデューサーと一緒に、「俺たちの明日」「笑顔の未来へ」「桜の花、舞い上がる道を」と、キャリアのピークを更新するような名曲を連発していた姿は、本当に鮮やかだった。
ただ、その数年前、30代後半に差し掛かった時、売れ線を完全に放棄していた(そして実際に売り上げが底だった)時期が一番好きというファンも多くて、私もその一人である。
世間に向かって悪態をつき、良くも悪くもイキりまくっていた、2000年発売の問題作「good morning」とその商業的失敗を経て、
宮本の言うところの「敗北」と、自らの老いを認めて行く過程をリアルに映し出した、2002年〜2006年の「ライフ」「DEAD OR ALIVE」「俺の道」「扉」「風」「町を見下ろす丘」といった作品群のリアリティが、好きだ。
当時の宮本の実年齢(36歳から40歳までの間)以上におっさんくさい作品群なんだけど、一人の人間が中年になっていく過程を、こんなに生々しく描いた作品はないのではないだろうか。ドキュメンタリーのような、本当に滋味深い作品群だと思う。
その中でも、特に宮本の独白色が強い「俺の道」(2003年)が一番好きだ。
まず、タイトル曲「俺の道」がこのアルバムの精神性を象徴している。
「なんだもう夜か、バカヤロウ」という謎の独り言から始まるこの曲は、宮本氏が終始、絶叫というか、咆哮する。
満たされないまま 引きずり回して歩け
本当は愛してやまない この毎日を
いい加減に過ごすのは やめなよ
「歳を重ねることで気付かされる過ぎゆく日々の重みと、それを理解しつつなお、怠惰に日々を過ごしてしまう自分への呪詛」のようなものが、脈絡なく書き連ねられている歌詞なんだけど
それを、これでもかという位に絶唱する宮本氏のあまりの表現力に気圧されて、
「俺も日々をいい加減に過ごすのはやめよう、本当にそうだよなあ・・・」と毎回思う。
サビは、もう歌詞になっておらず、スキャットだけで成立している。
宮本さんは「声そのものが楽器」と言われるような凄まじい歌唱力を持っているけど、特に”激情”を表現する力については、個人的にはこの時期が一番優れていると思う。その表現力が極限に達した瞬間だからこそ成し得た、奇跡のサビだと思う。
抑揚の効いたリズム隊も、この曲のもつ激情を際立たせるために、まさに「的確」という感じで、この曲は宮本氏だけではなく、バンドとしてのエレファントカシマシの極北地点だと思っている。
他にも、「覚醒(オマエに云った)」が、歌詞を全文引用したいくらい好きだ。
この曲は平たくいうところの中年男のドキュメンタリーである。
三十七なり。オレの青春は終わったけれど
明日もあさってもオレはやって行くから
気がつけば37歳になってしまった主人公(宮本)は
冒頭で、自分の「青春は終わった」と断言する。
彼は独りの部屋で「様々なことを考えようとしている」「偉大な人たちの考えを辿った気になる」が、結局「理解を超えた本と、虚しい気分がつきまとっている」だけであり、外に出ても「失われて行く情熱を歩きながら感じた」だけだった。
最後、彼は"「天国でも地獄なき今」を生きている自分が、ただここにいる" という結論に達する。
この曲は、リスナー(特に中年男性)が、自分の姿を投影しやすい曲だと思う。
ただ、結局、宮本氏は、リスナーをどこにも連れて行ってくれない。
ただ、”年老いた自分の存在を確認するだけ”である。
この曲を聴き終わった時の
”自分は、もうどこにも行けないのではないか”という不安を思わせる、ザラっとした余韻が、当時の宮本氏の年齢に近づきつつある自分には、沁みる。
自身のミッドライフクライシスを描く宮本氏の筆致が、ただただ冴えまくっていると思う。
と思えば、「ラストゲーム」「勉強オレ」では、これまでの怠惰を反省し、いきなり発奮して、自分を追い込もうとする。この辺りの感情のブレも生々しい。
特に、ありとあらゆる馴れ合いを断ち切ろうとする「季節はずれの男」の詞は、痛々しいが、胸を打つ。
そう努力をしなよ今以上 いわば毎日がラスト・ゲーム
そのうち 死んでしまうよ
年月が滲む怠け者 季節はずれの男よ ひとり歩め
言い訳するなよ おのれを愛せよ
鳥が飛ぶように 俺よ生きろ
ライバルで無き友よ さらば
私がこのアルバムを初めて聴いたのは13歳の頃だった。
「俺たちの明日」や「笑顔の未来へ」みたいな曲を期待した私は、渋くてわかりにくいアルバムだなと思っていた。
そして31歳になった今、私はこのアルバムがただただ沁みまくっている。これからも年月を経るほどに、更に沁みるのだと思う。
なお、宮本氏はこの4年後に、この時期の反動からなのか、意気揚々とヒットチャートに乗り込んでいこうとする(そして成功する)のだから、人生は面白いなあと思う。年齢を重ねてもブレまくり、その都度変わり続けて行く姿は、希望だと思う。
