ナマの河鍋暁斎|櫂 舟三郎コレクション 暁斎が描いた浮世のことども【加島美術 鑑賞レポート】

サントリー美術館で開催中のゴールドマン・コレクション展で一枚のチラシを手に取りました。同じ時期に京橋の加島美術でも暁斎展が開かれていることを知り足を運んでみることにしました。
入場無料、販売なし。お?


ガラスケースのない作品
加島美術は東京スクエアガーデンの隣に建つビルの一階と二階が展示スペースとなっています。小雨が降る六月中旬、湿った空気と水滴が服や靴に滲みた状態で画廊に着くと、入り口が開け放たれていました。
悪天候な日もあるのに、作品が額装ではなく、そのまま壁や机の上に置かれていました。和紙の簀の目が確認できる薄い紙が、梅雨の湿気の中でガラスケースなしに展示されています。(保存状態は大丈夫なのかしら)
しかしその点は、画廊で見る最大の見どころにもなっています。作品に至近距離で向き合える贅沢と、こんな鑑賞の方法があるのかという発見。
掛け軸の軸木が空調の風で壁面にあたりカタカタカタと鳴り、掛け軸がひらひら揺れる。そういった出来事を、作品と同じ空間で味わうことができます。
来場者が作品に近づくときは、ハンカチを口や鼻に当てて息を作品に当てないよう配慮している姿がありました。

コレクターによる「暁斎の全体図」
本展の主役は、藤田昇氏。
自らのコレクションに暁斎の幼名「甲斐周三郎」へのオマージュとして「櫂舟三郎」という名を与えた人物です。河鍋暁斎記念美術館の監事・理事・副理事長を約10年間務め、研究者としても論考を重ねてきた国内屈指の蒐集家です。
全14のテーマで構成された展示には、美術史の中心に置かれてこなかった暁斎の「まだ展示されてこなかった作品」「研究の空白(20代前半の肉筆画)」を丁寧に掘り下げた姿勢があります。あらゆるジャンルやテーマを描き尽くす暁斎。その全方位性を浮かび上がらせようとするコレクションの志が伝わってきます。
167点のうち65点が初公開。
▼《滝に白鷺図》明治4年(1871年)以降

1F
儚い鴛鴦と、かわいくない子犬
一階展示室でまず目を引いたのは、新発見として全国初公開となる《鴛鴦図》です。20代前半に描かれたとされるこの作品は、極細の筆先で消え入るような鴛鴦を描いています。闊達で力強く万能な筆使いがトレードマークの暁斎にしては、驚くほど儚げな一点で、見間違えるほどでした。
暁斎の代名詞である「鴉」の掛け軸も二点出品されており、ガラスなしでそのまま見られます。《雪中狗子図》の子犬は、ずんぐりとした体に松葉のような毛並みでけもの感が強い、いかつい。
蘆雪の子犬の特別さをあらためて思い知らされます。
2F
床の間の奥に、輝くもの
二階は床の間のある和室の空間に、版画や双六、一筆箋などが畳の上に展示され、床の間には掛け軸が架かっています。こうした見せ方があると、和室や床の間が日本美術と共に生まれた空間だったのだということを、あらためて体感させられます。
もう一つのフロアには日課として描いた観音図、管公図、達磨図なども並んでいました。
展示室の一番奥、一番暗い場所に額装して架けられた《大津絵戯画》(安政4年〜文久2年ごろ)を発見したとき、この展覧会の宝物にたどり着いた気がしました。本展が初公開となるこの作品は、画工が手がけた大津絵から念仏鬼が現れるという名工譚を題材にしたものです。
この一点を見られただけで来た甲斐がありました。
▼キャプションに蛙
鳥獣戯画を自家薬籠中とした暁斎。蛙のモチーフは好んで擬人化して描きました。ここにも蛙。

実は、《神農図》の掛け軸の上を、小さな蜘蛛が這っているのを目撃してしまいました。美術館ではあり得ない出来事ですよね。
ここでは、生きているものと描かれたものが同じ場所に在ることが、不自然ではないってこと?
美しいものだけを描かない。という暁斎のヒヒヒと笑うポートレートを思い出します。
▼《鐘馗捕鬼図》明治12年(1879)以降
入り口でパネルになっていた鐘馗

日本美術がたのしい
「和と画廊」という形式が、日本美術の敷居を品よく崩しました。
床の間に掛け軸が架かり、畳の上に版画が置かれ、作品とこちらの間にガラスが一枚もない。美術館の「保護」とは異なる関係で、作品を見られる機会は初めてでした。
そして入場無料、販売なし。図録は全167点収録・全作品解説付き。税込1,000円(⚠️現金のみ・会場販売)という破格の対応。
これだけのものを惜しみなく見せてくれる展覧会の全体から、コレクターの藤田昇氏と加島美術が暁斎という絵師を広く届けたいという動機が伝わってきました。ナマで作品を見られる機会です。
【櫂 舟三郎コレクション 暁斎が描いた浮世のことども —肉筆画と版画でたどるその画業—】
会期:2026年6月13日[土]~6月28日[日]
・前期展示/6月13日[土]~6月20日[日]
・後期展示/6月21日[日]~6月28日[日]
会場:加島美術(〒104-0031 東京都中央区京橋3-3-2)
開館時間:10:00~18:00
💡前半・後半で一部作品の入れ替えあり。
あわせてよみたい。川鍋暁斎。
👉スカッと酒宴と骸骨|川鍋暁斎の世界【サントリー美術館 鑑賞レポート】
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展覧会に足を運び、この記事を書くため数日かけて言葉にしました。もし何か残るものがあれば、サポートいただけると嬉しいです。 いただいたお気持ちは、次の作品の画材代として大切に使わせていただきます。作品制作と執筆の大きな励みになります。これからもどうぞよろしくお願いします。