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メンデルスゾーン(17歳) 夏の夜の夢序曲 完成から200年┃フェリクス少年の革新性

フェリックス・メンデルスゾーン
みなさんよくご存じのとおり
超金持ちのお坊ちゃん美少年
上品 何をやっても上手
という
漫画の主人公みたいな子でした
おじいさんは有名な哲学者
おとうさん銀行家
は有名なファニー その夫もやや
有名な画家 ヴィルヘルム・ヘンゼル
妹レベッカの夫は超著名数学者
ペーター・ディリクレ
従妹オティーリエの夫も超有名
数学者エアンスト・ク(ン)マー
など 縁戚にひとかどの人物がわんさか
家業の メンデルスゾーン銀行
ナチのユダヤ人迫害 アーリア化政策
によって1938年 強制的に抹消される
まで存在していました ところが
リストやヴァーグナーの作品と違って
メンデルスゾーンはユダヤ系で当然に
ナーツィスが戦用にしなかった というか
存在すらしないかのごとき扱いだったので
戦後はかえって「ナチに無縁」が幸いして
頻繁に演奏されるようになりました

しかし そうはいっても 専門の評論家
(当時のクラシック音楽界はほとんど
左翼思想の人)の ご意見 評価 は
金持ちへのルサンチマンから また
反貴族 共和派 の ベートーヴェン
貧しい出の ブラームス を
ことさら引き立てんがため
メンデルスゾーン の音楽は
裕福な育ちと何不自由ない
暮らしから来る芸術性の希薄さで
ロマン派という 洗練されて見える
センチメンタルに着飾られた服を
身につけてはいるものの 中身は
旧来の古典派の域を出ない
いわば 金持ちの道楽趣味
のように言われていました また
スコットランド交響曲 終楽章の
コーダの 真に心をかきたてられる
最高傑作な箇所を それまでの
曲想からかけ離れすぎていると否定し
緩慢な拍感のないテンポにしたり
あげくは愚にも附かない拙い
自作コーダにすげかえてしまったりして
自分のほうがメンデルスゾーンより
優れていると思っているような
指揮者がいて 礼賛されてもいました
その指揮者は ベト7 スケルツォ の
トリオ の旋律も オーストリアの
古い教会の音楽だから
速く演奏するのは愚かだ と言って
ハエがとまりそうなくらい
緩慢な演奏をさせていました
サン=サーンス の 動物の謝肉祭
亀 の音楽は オッフェンバック の
地獄のオルフェ の ギャロップ だから
速くすべきで遅く演奏してはいけない
と言われたらどうです!? ……
片方のピアノの三連符に
せわしさのかけらを残しつつも
足取り重いのろまな 亀 に
本来は急速な旋律を使って 弦に
意図的に間延びさせて遅い
テンポで奏させることによって生じる
「拮抗」にこそ意味があるのに……
サン=サーンスがそんなことを知ったら
カンカンに怒るでしょう こうした
クラシック音楽に不向きな手合いが
携わり しかも高い地位にいれた ほど
クラシック音楽というのは
その性質上しかたないとはいえ
きわめて層の薄い分野なのです

【舞台 夏の夜の夢 とは】
戯曲 夏の夜の夢
自宅の庭で上演ごっこをするほど
姉ファニーもフェリックス少年も
お気に入りでした 奥に深遠な
寓意のようなものがあるのかも
しれませんが 登場キャラが
右往サオウする ドタバタ喜劇 で
恋仲の若い男女の誤解や行き違い
そういうカップルを媚薬を使って
いじろうとするキャラ それに加えて
森の中の世界 そこに棲む 妖精
……など……劇の内容を御存知で
ないかたは ということは きっと
恋のさやアテネ!? と
思われるかもしれませんが
そういうことでもなく まあ 一種の
ファンタジー・コメディ といえます
最後は媚薬の魔法も解けて
二組(三組)のカップルがめでたく
結婚 (後年 超有名な
結婚行進曲 が作曲されます)
ということになり 式後の余興で
6人の職人らの喜劇が演じられ
そして 最後 パックこと
ロビン・グッドフェロー(職人の
ロビンではなく妖精のほう……
いいやつ という名には皮肉が
込められていて ロビン・フッドとの
韻からのダジャレでもあります)の
挨拶で締めくくられます

【夏の夜の夢 序曲 誕生】
夏の夜の夢 への 序曲
(当時 ベートーヴェン の
コリオラン に見られるように
非オペラの たとえば戯曲
イヴェント などを題材にした
ものが 序曲 祝典序曲 という
体で作曲されていましたが
メンデルスゾーン少年はおそらく
2か月前39歳という齢で
英国客死した ヴェーバー
祝典序曲 を範としたのでしょう
1826年7月8日から8月6日
という1か月たらずで完成させた
ということです ただし それは
ピアノ連弾用で 姉ファニーと
弾くために作曲したようです
ちなみに ヴェーバー は 39歳
でしたが やがて同じく英国
英国王室 ヴィクトリア女王
などと関係を築くことになる
メンデルスゾーン は それより
若い38歳で亡くなります とくに
メンデルスゾーン の世代は
その家系に40代またはそれ
以前に亡くなる人が多く
両親の家系の組合せに重なる
メンデルスゾーンの法則 とでも
いえるような何かの劣性遺伝
でもあったのかもしれません

【ピアノ連弾版から管弦楽曲へ】
そのピアノ連弾版を 作曲家
というより 音楽理論家としての
実績しか結局ないことになる
アドルフ・ベルンハルト・マルクス
に見てもらったところ
さまざまな点を指摘されて
だいぶ改訂したようです そして
その年暮れから翌年初めにかけて
管弦楽曲に仕立て直したそうです
ちなみに 二人の関係は……その後も
メンデルスゾーン青年による バッハ
「マタイ受難曲」復活上演でも
協力しあい メンデルスゾーンの推挙で
マルクスはベルリン大の教授の座に
つくことができ 友好な関係が
続きましたが 互いのオラトリオの
台本を書きあう という段で
マルクスの台本の出来が悪く それを
メンデルスゾーンが大幅に
書き替えたことにマルクスは気を悪くし
さらに マルクス自身が作曲した
オラトリオのライプツィヒ上演依頼を
メンデルスゾーンが作品のクウォリティの
低さを理由に断ったことからマルクスは
激怒 それまでのメンデルスゾーンからの
手紙をすべて川に投げ捨てて
二人の関係は 「マタイ」
蘇演から始まり 最後には
疎遠となった ……というオチになります

【曲をかいつまむと】
2/2拍子 アレグロ・ディ・モルト
「物語の舞台である
アテネの幻想的な夜の森
そして 人間社会から妖精の領域
へと足を踏み入れる瞬間」
などと一般に解説されている
冒頭4小節導入の木管和声が
ヴェーバー 祝典序曲 と同じ
調号4♯ホ長調開始されます が
この木管ハーモニーは
ホ長調主和音
→ホ長調属和音
→【ホ短調】下属和音
→ホ長調主和音

という 突飛な進みかたをします
同主調ホ短調からの借用とはいえ
属和音→下属和音 という進行は
当時は(というより現在も 楽理上
いちおうは)「禁忌」だからです

メンデルスゾーン 夏の夜の夢 序曲 ホ長調の導入部 および 実質ホ短調の第1主題
(左)印刷譜 (右)自筆譜 メンデルスゾーンの自筆譜はかなり丁寧に書かれていて整然としています

インターネットが一般に普及した
現在は旧メディア プレスやSNSで
デマやウソが流されても
ほとんどのことは真実が明らかに
なってしまいますが それ以前は
出版されたものが何でも正しい
かのように鵜呑みされていて
クラシック音楽雑誌やそうした
雑誌の版元が出している書籍に
書かれていることが金科玉条の
ように浸透していた時代には
メンデルスゾーン というと
その恵まれた家庭環境や才能を
やっかんで 保守的な作風に留まった
凡庸な作曲家 軽い音楽
というレッテルを貼りたがる
(左寄り思想の)評論家だらけ
でしたが 実際には
17歳ですでに メンデルスゾーン
先進的なことをしていたのです
この木管使いを 60年後
シェヘラザード の開始直後で
パクった リームスキー=コールサコフ
のほうの和声進行は真に平凡です

【ソナタ形式 提示部】
しかし すぐに 弦の細かい
第1主題が なんと 主調ホ長調でなく
実質ホ短調で続く などという
ここでも フェリックス少年は
突拍子もないことをやってくれています
後年 妖精でなく要請されて
作曲した 劇附随音楽
夏の夜の夢 の あの超有名な
結婚行進曲 ハ長調 でも
主題ハ長調主和音でなく
メンデルスゾーン を あれほど
ディスっていた ヴァーグナー が
後年 セコくもパクった
「トリスタン和音」で始めるんです
これでも メンデルスゾーン って
保守的な作風という限界に留まった
作曲家 でしょうか!? ともあれ
この「意表を突く」ホ短調の
弦のスタッカート・シークエンスは
「妖精たちが森を飛び交う姿」
を描写していると 一般に
説明されています
そうして やっと 主調 ホ長調 の
♪(ド↑)ド↓シ↓ラ↓ソ↓ファ↓ミ↓レ

という下降音階的音型が全奏されます
「アテネの公爵シーシアスの宮殿の祝宴」
と一般的には説明されています
これは あとに出てくる 結尾部 の
ところでまた触れます

曲はソナタの第2主題へお約束どおり
主調 ホ長調 の 属調 ロ長調 となって
クラリネットで
♪ミ↓レ↑ファ↓ミ↑ラ↓ソソ↓ファ↓ミ
という音型の第2主題が吹かれます
それを受けて 両翼ヴァイオリン
オクターヴ・ユニゾンで
♪ド↓シ↓♭シ↓ラ
↑ミ↓レ↓ド↓シ↓ラ↓ソソ

という 甘く切ない旋律を弾きます
この第2主題前半は
「森へと駆け落ちし すれ違いながらも
互いを希求する若い恋人たち
ハーミア ライサンダー ヘレナ ディミトリアス
の情熱と悩み」を描写していると
一般に説明されています

メンデルスゾーン 夏の夜の夢 序曲 第2主題前半部

次いで
♪●●ソソ↑ドー↓ソー┃
↑ドー↓ソー↑ドー

という管楽器群の音型&律動が出て
これに弦群の
♪ソー┃↓ファー↓ミー┃
↓レー┃ーレ↑ミ↑ファ┃
ファー↓シー┃ーシ↑レ↓ド┃ド

という美しいフレーズが絡み さらに
♪●ミ↑ファ↑ソ┃ソー↓♯ファ●┃
●♯ファ↑ソ↑ラ┃ラー↓ソソ┃
*「ソ」「ソ」↑ド↓♭シ┃↓ラーーー*
(*ここで ロ長調の「ソ」が「レ」に戻って
一時 ホ長調に転調戻りします が
すぐにまた ロ長調に再転調します
つまり **間は ホ長調の階名で
「レ」「レ」↑「ソ」↓「ファ」┃
↓「ミ」ーーー

となっている ということです)
ここまでの20小節弱が 私にとっては
この大好きな曲の中でも
もっとも心惹かれる箇所です

メンデルスゾーン 夏の夜の夢 序曲 第2主題副次部

メンデルスゾーン は ライプツィヒ
ゲヴァントハオス のオーケストラ を
指揮していましたが 
両翼ヴァイオリンは
第1ヴァイオリン上手 
(客席から向かって右側) 
第2ヴァイオリン下手 
(客席から見て左側) 
配置していました 

その次には
ホルン オフィクレイド(廃れたため
現在はチューバで代用 ティンパニ
コントラバス
による 低い主音の
二分音符の連続
ズーン・ズーン・ズーン・ズーン・ズーン

という 単純明快なリズムに乗って
♪ド↑レ↑ミーミ↓レ↓ドー
ド↑レ↑ミーミ↓レ↓ドー
↑ミーッ↓レーーーーー
↑ミーッ↓レーーーーー

というロ長調の旋律を これまた
両翼ヴァイオリンが
オクターヴ・ユニゾン
で奏します
「野暮ったいベルガモ出身者
(道化師)の真似をした
不器用で素朴な踊り
=ベルガマスク舞曲」
と一般に説明されている箇所です
ミから下のレ という 9度の下降音型
それから この旋律後半では
さらに下降幅が広がる音型は
「ロバ」の鳴き声を描写している と
これも一般に説明されています
この劇の時代設定は いちおう
中世の騎士道時代 もの
ということになってはいますが
まあ ハチャメチャ・コメディなので
厳密な時代設定など
ナンセンスでしょうから
作曲された19世紀の西欧では
そうした道化がサーカスで
曲馬ショーをしていたことと
関連づけられているのだと思いますが
「ロバの頭に変えられた職人ボトム」
が 滑稽に鳴き声をあげている
というふうに説明されています
ともあれ これで
属調 ロ長調 の 第2主題後半が
締めくくられます

メンデルスゾーン 夏の夜の夢 序曲 第2主題後半部

【展開部】
調号は相変わらず4♯のまま
実質 ロ短調
「妖精たちの踊り」とされている
第1主題が刻まれていき
第2主題経過部の
♪ソソ↑ドー↓ソー↑ドー↓ソー↑ドー
という音型および律動を絡ませて
「森の中の世界」を描写している
と一般に説明されていますが
→嬰ヘ短調→ホ短調→ニ長調
転調して 木管を絡ませ
次いで ホルンの咆哮を加え さらに
弦の八分音符刻み持続に
別弦のピッツィカート下降を絡ませ
やがて 第2主題群の中の
♪ソー┃↓ファー↓ミー┃
↓レー┃ーレ↑ミ↑ファ┃
ファー↓シー┃ーシ↑レ↓ド┃ド
が 短調化された 嬰ハ短調
♪ミ↓レ↓ド↓シ シ↑ド↑レ レ↓♯ソ↑ラ
と繰り返され リタルダンドして
嬰ハ短調主和音終止します
……と思ったら なんと その
嬰ハ短調主和音
続いているそのまま
Tempo Ⅰ (テンポ・プリーモ) 
リタルダンドしたテンポを当初に戻して 
木管冒頭の導入和声
吹き始めるのです
冒頭では第1声は ホ長調主和音
だったのに です つまり
冒頭では フルート2本が
ホ長調の ミとその3度下のド
だったのが ここでは ともに3度さげて
ド と ラ となっているのです
第2声からは同じです ともあれ
この手のソナタ形式にしては
めずらしく 質的にも長さ的にも
かなり充実した展開部です

【再現部】
そのまま第1主題がやはり
4♯調号のまま実質ホ短調
再現され 第2主題群
ソナタのお決まりどおり 主調
ホ長調で再現
されます

メンデルスゾーン 夏の夜の夢 序曲 展開部終結から導入部再現を経て再現部へ
(上)印刷譜 (下)自筆譜

【結尾部】
第1主題が実質ホ短調で刻まれ
木管群が全音で下降し
ポーコ・リテヌート して
(少しテンポを落として)
ヴェーバー 英語オペラ オベロン
第2幕 フィナーレ 第15曲

いわゆる 人魚の歌
O! 'tis pleasant to float on the sea

(一般訳) 水に浮かぶは なんと心地良き
から引用したフレーズを
両翼ヴァイオリンが
オクターヴ・ユニゾンで
引用元と同じ調性 ホ長調

♪ド↓シ↓ラ↓ソ↓ファ↓ミ
↓レ↑ミ↑ファ↓ミ↑ソ

を繰り返し 弦群全体で低めの
ホ長調主和音
で落ちつくと
木管の導入和声がまた奏されて
最後はホルンとティンパニのトレモロ
も加えられて木管の高いホ長調で
曲は閉じられ
ます

第1主題のところで触れた
主題が意表を突くホ短調の刻みが
ずいぶん続いたあとで やっと
本来の ホ長調 で出てきた
下降音階的音型は この 引用
主題の亜種
だった というわけです
ヴェーバー オベロン からの引用
もちろん 夏の世の夢 の中の
登場キャラのひとつ 中世および
ルネサンス期の 文学や
伝承上の妖精王
オベロン同一モデルだからです
その ヴェーバー亡くなり この
夏の夜の夢序曲 が作られた
1826年の五年前 ベルリン
魔弾の射手初演されるに際して
ヴェーバー は ベルリン の
メンデルスゾーン家を頻繁に訪れ
フェリックス少年とも交流
生まれていました そんな
ヴァーバーの死同一
キャラクターが登場する話

という共通項からも この序曲の
作曲のきっかけのひとつになり
実際に主題も引用しているのです
天才と天才の繋がり
天才が天才から受ける刺激
というもののまさに典型例です

(左) メンデルスゾーン 夏の夜の夢 序曲 結尾部  (右) ヴェーバー オベロン からの引用元

完成から200年 というのは
ピアノ連弾版 のことなのですが
便宜上 管弦楽版 で話を
進めましたので あしからず
ご了承ください
また 記事表紙の図版も
メンデルスゾーン 17歳 のときではなく
もっと若い おそらく 12歳 くらいの
フェーリクス少年 だと思います










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