[JP] VCM Update — January 2026: Three January Developments You Shouldn't Miss
前回の号では、2026年1月のStakeholder Webinarの内容をもとに、「Progress and Stability」から「Delivery and Scale」へという方針転換と、新しいレジストリシステム、審査プロセスの効率化、そして待望のREDD+クレジット発行開始についてお伝えしました。
ただ、1月はVCM全体でも動きが多い月でした。Verraの取り組みにとどまらず、業界全体を揺るがすような変化がいくつか同時進行していました。
2026年1月のVCM Updateへようこそ。
今号のVCM Updateでは、そのなかでも特に注目したい3つのトピックを取り上げます。①Verraによるリーケージ計算の見直し、②SBTiのネットゼロ基準改定の方向性、③CORSIAラベル付きクレジットがついに市場に登場したという話題です。
※Stakeholder Webinarの内容については別ブログでもご紹介していますので、ぜひあわせてチェックしてみてください。
① Verraがリーケージ計算を見直し(VMD0054 v1.1)
リーケージとは、森林保全プロジェクトなどの実施によって、本来その場所で行われていた農業活動や燃材採取といった活動が別の場所に移転し、その結果としてプロジェクト境界の外で意図せず温室効果ガスが排出されてしまう現象のことです。
Verraは1月、このリーケージ推計に使われるモジュール「VMD0054」の改訂版(v1.1)を公開しました。変更点は小幅ながら、実務への影響は決して小さくありません。
主な変更点は下記の3つです。
①複合的な農産物がリーケージの相殺要因として認められるように
プロジェクト境界内でアグロフォレストリーなど新たな農産物を生産する場合、その分だけ土地転換の圧力が低減されるという考え方が、ようやく計算式に反映されました。これに伴い、従来の「Foregone Production(失われた生産量)」という概念は「Change in Production(生産量の変化)」に改称され、プラス・マイナス両方向の影響を捉えられるようになっています。
②リーケージ軽減策自体の排出量も計上義務化
プロジェクトが農家の生産性向上を支援してリーケージを防ぐケースがありますが、農地の集約化には肥料や機械の使用といった排出を伴います。今回の改訂では、こうした排出量も明示的に報告することが求められます。これは、緩和策の効果を過大評価しないための措置です。
③土地被覆のデフォルト仮定が地域の実態に合わせて柔軟化
これまでは、「農業活動が押し出された先は森林になる」というデフォルト仮定が使われてきましたが、森林率が10%未満の地域や年間森林減少率が0.1%を下回る地域では、次に多い在来生態系(例:在来草地)をデフォルトとして使えるようになりました。低森林地帯でリーケージが過大推計されてきた問題への現実的な対応です。
本モジュールはVM0047・VM0042・VM0032に適用されます。旧バージョン(v1.0)を使用しているプロジェクトは、2027年1月31日までに移行が必要です。
VMD0054 v1.1の詳細はVerraの公式リリースをご参照ください。
② SBTiのコーポレート・ネットゼロ基準 v2.0 —何が変わるのか
技術的な計算ルールの整備が進む一方で、企業側では「そもそもネットゼロとはどういうコミットメントなのか」という問いが改めて問われています。
1月、Gold StandardはSBTiのCTO、アルベルト・カリージョ・ピネダ氏を招き、コーポレート・ネットゼロ基準v2.0の改定案に関するウェビナーを開催しました。
SBTiの承認を受けた企業数は現在1万社を超え、1年前の約6,000社から急増しています。パリ協定が採択された2015年時点ではわずか114社であったため、その広がりは目覚ましいものがあります。
v2.0が目指すのは、「宣言すること」から「実現すること」へのシフトです。2021年に策定された初版がネットゼロの定義を示すものだったとすれば、今回の改訂はその道筋をいかに歩むかに主眼が置かれています。
ウェビナーで議論された主な要素は次のとおりです。
バリデーションサイクルの刷新
目標設定時だけでなく、進捗レビューも含む形に見直されます。「設定して終わり」にならない仕組みです。スコープ1・2の目標設定が厳格化
それぞれ独立した目標として100%カバレッジが求められます。スコープ3については、バリューチェーン全体の計測が現実的に困難な部分があることを認めつつも、全体の削減水準は下げない形で複数の経路オプションが導入される方向です。

BVCM(バリューチェーン外での気候変動緩和)の正式な位置づけ
自発的なリーダーシップ行動として公式に認められ、高品質なカーボンクレジットがその手段のひとつとして明記されます(適格基準は今後定められる予定)。実施の信頼性に関する要件の強化
大企業に対して第三者保証が義務化されるほか、目標承認から12か月以内に気候変動移行計画を公表することが求められます。
v2.0の第2回パブリックコンサルテーションには900件を超えるコメントが寄せられており、SBTi史上最多を記録しています。最終版はテクニカルカウンセルおよび理事会による審査を経て公表される予定ですが、具体的なスケジュールはまだ確定していません。
日本を含むアジア・ASEAN地域の企業にとっても、メッセージは明確です。これにより実施計画を伴わない目標宣言が通用する時代は終わりつつあります。
※本セクションはGold Standardが2026年1月に開催したSBTiウェビナーの内容に基づいています。
③ Verraが初のCORSIAラベル付きクレジットを発行
1月のもうひとつの大きな動きとして、VerraがVCS(Verified Carbon Standard)クレジットへの初のCORSIAラベル付与を行い、約480万クレジットが国際航空の排出相殺スキーム「CORSIA」に参加する航空会社向けに利用可能となりました。
今回CORSIAラベルが付与されたのは、ルワンダ・シエラレオネ・ガンビアで展開されるDelAguaのクリーン調理・家庭エネルギー転換プロジェクトです。
排出削減効果に加え、地域コミュニティへの直接的な便益も評価されました。これにより、CORSIAグレードの品質と開発途上国での社会的インパクトは、両立可能であることが示されたといえます。
参考:どの方法論がCORSIA適格になっているか?
第1フェーズ(2024〜2026年)で確認済みのVCS方法論には、VM0048(REDD+)、VM0033(潮汐湿地・マングローブ)、VM0042(農業地管理)などが含まれます。VM0047(植林・再植林)とVM0051(水田における改善された生産システム)は現在評価中で、ICAOの技術諮問機関(TAB)の2026年アセスメントサイクルで正式な適格性が判断される見込みです。なお、VMR0006(省エネ・燃料転換)とVM0041(改良された調理コンロ)については、第1フェーズへの適格性が復活しており、現フェーズで使用可能となっています。
CORSIAのルールでは、2021年以降に発行されたクレジットには「Article 6 Authorized — International Mitigation Purposes」のラベルが必要です。
これはホスト国政府が発行した承認書(Letter of Authorization)と連動しており、承認済みの年次・量・条件について、Verraが照合・確認を行う必要があります。
実質的には、今回のCORSIAラベル付与プロセスは、パリ協定第6条が実際に機能する初の大規模な実例のひとつとなっています。
CORSIAの第1コンプライアンスフェーズは2024から2026年までとされています。今後、さらに多くのプロジェクトに対するラベル付与が予定されています。
これにより、クリーンエネルギーや土地利用分野で活動するプロジェクト開発者、特にグローバルサウスで取り組むプレイヤーにとっては、新たな需要チャネルが開いたと見ていいでしょう。
また、「コンプライアンスグレードのクレジット」に求められる水準が、より具体的に見えてきた点も重要な変化です。
詳細はVerraの公式発表をご参照ください。
おわりに
今月取り上げた3つの動きには、共通するメッセージがあります。カーボンクレジットの信頼性、そして企業の気候コミットメントの信頼性に求められるハードルが、一斉に引き上げられている、ということです。
ルールはより精緻になり、企業目標はより厳格に検証されるようになり、そして自発的なカーボン市場で生まれたクレジットが、初めて国際的なコンプライアンス枠組みに正式に組み込まれました。
これらはいずれも、VCMが単なる「意欲」の場から「説明責任」の場へと移行しつつあることを示していると言えそうです。
すでにこの領域で活動されている方にとっては、細部の変化と締め切りが直接的な実務に影響します。まだ検討中段階にある方にとっても、流れはもはや無視できない流れになってきています。


今号の内容についてのご意見や、取り上げてほしいトピックがあれば、ぜひコメント欄でお知らせください。
来月号もぜひお楽しみに。
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