[JP] Verra’s January 2026 Stakeholder Webinar: From Blueprint to Delivery
2026年1月に開催された、Verraのステークホルダー向け更新ウェビナーの冒頭で、CEOのマンディ・ランバロス氏は、2025年を「Progress and Stability(前進と安定)」の年だったと振り返ると共に、2026年は「Delivery and Scale(実行と拡大)」の年になるとの見通しを示しました。
このメッセージは非常に分かりやすいものです。基盤整備のフェーズがひと区切りを迎え、今後は市場が実際の成果を生み出す段階へと移行していく―そのような方向性が読み取れます。
2026年の1月のStakeholder Webinar Updateへようこそ。
Archedaがお届けする本シリーズでは、自発的炭素市場(VCM)における重要な動向を毎号取り上げています。新年最初となる1月号は、やや情報量の多い内容となりました。
※本稿では、Verraが2026年1月に開催した公式ステークホルダー向け更新ウェビナーの内容をもとに、そのポイントを整理してご紹介します。
Verra、1年で1,900万ドルの赤字からほぼ収支均衡へ
今月の最大のサプライズは、新たなプログラムの発表や技術的な進展ではなく、財務状況の改善でした。
Verraは2024年に1,900万ドルの赤字を計上していましたが、2025年には赤字幅を約100万ドルまで縮小。実質的に収支均衡に近い水準まで回復しています。年間経費を約3分の1削減する一方で、売上高は前年比で約10%の成長を達成しました。この変化の大きさは注目に値します。
ここで、背景を簡単に整理しておきます。
Verraは長年にわたり、自発的炭素市場の基盤的な役割を担ってきました。しかし近年は、クレジット品質をめぐる懸念がバイヤーの信頼を揺るがし、さらにプロジェクトの効果に懐疑的な報道や、一部を切り抜いた報道が、自然由来ソリューションに対する認識の歪みを招いてきました。
その結果、気候ファイナンスの流れにも停滞が見られるようになります。
こうした状況に加え、リーダーシップの交代も重なり、同社は財務面でも厳しい局面に直面していました。
だからこそ、今回の回復は単なる会計上の数字の改善にとどまりません。Verraが今年掲げる、新レジストリの稼働(S&Pグローバルとの共同開発)、スコープ3スタンダードの初展開、そして新フレームワーク下でのREDD+クレジットの市場投入―これらを着実に進めていくための土台が、ようやく整いつつあります。
その最初の具体的な動きとなるのが、2026年第2四半期(4〜6月)に予定されている新レジストリプラットフォームのローンチです。
新レジストリが数週間以内に稼働へ:
なぜこれが単なるシステム更新ではないのか
レジストリとは、すべての炭素クレジットを記録・管理する「原簿」のような存在です。プロジェクトの登録からクレジットの発行・償却までを担う、市場インフラの中核ともいえます。
そのため、今回の変更は単なる技術的なアップグレードにとどまりません。
また、S&P Globalとの連携や「取引対応型API」の導入は、VCMがより成熟したコモディティ市場のように機能していく方向性を示す動きとしても注目されます。
Verraによると、新レジストリは現在最終テスト段階にあり、2026年第2四半期(4〜6月)のローンチが予定されています。主な機能としては、Verraプロジェクトハブとの双方向連携に加え、自動移転・償却に対応した拡張API、バイヤー向けに改善されたレポーティングツールなどが挙げられます。
さらに、将来的な第6条(Article 6)やCORSIAへの対応も視野に入れた設計となっている点も注目されます。
とはいえ、インフラだけで市場が動くわけではありません。方程式のもう半分は「スピード」です。そしてこの点でも、Verraは予想以上に踏み込んだ動きを見せています。
審査期間はすでに70%短縮:
さらに20%の上乗せへ
2025年の10月のStakeholder Webinar Updateでも触れた通り、2024年11月に導入されたリスクベース審査システムの効果は、すでに具体的な数字として表れ始めています。
Pipeline登録期間は約70%短縮され、NCS(自然由来ソリューション)では40%以上、E&I(エネルギー・産業分野)では60%以上の短縮が実現しました。これを実際の審査期間に換算すると、従来13〜15ヶ月を要していた登録審査は、現在ではおおむね6〜8ヶ月程度で完了しています。
これは単なる効率化にとどまりません。プロジェクト開発の前提条件そのものが変わりつつあります。
※2025年の10月のStakeholder Webinar Updateをぜひご参照ください。
さらにVerraは、ここからさらに約20%の短縮を目指しています。具体的には、NCSの登録審査を最大約6ヶ月、E&Iを約5ヶ月に抑えることを目標とし、95%の案件でこのSLAを満たすことを達成基準としています。
この実現に向けて進められているのが、審査プロセス全体の構造的な見直しです。内部プロセスのデジタル化の加速に加え、シンプルな審査工程の自動化、VVB(検証・認証機関)との標準化されたレポート交換、さらに優先処理手数料制度の導入も計画されています。
これらによって得られる手数料収益は、審査体制の拡充へと再投資される仕組みです。
こうした動きは、プロジェクト開発者にとって単なる運営改善にとどまりません。審査プロセスが「速くなる」だけでなく、「予測可能になる」ことで、市場投入までの大きな摩擦の一つが着実に解消されつつあるためです。
VCS v5.0が正式リリース:
市場全体は適応フェーズへ
2025年10月時点ではまだ「最終ドラフト段階」と位置づけられていたVCS v5.0は、同年12月に正式リリースされました。
VCS(Verified Carbon Standard)は、プロジェクトの開発から検証、クレジット発行に至るまでの枠組みを定める、Verraにとって中核的なルールブックです。
そして2026年のテーマは、「制度改訂」ではなく「運用化」にあります。更新された各種テンプレートやデジタルツールの整備に加え、2月4日からはトレーニングシリーズの提供も開始される予定です。
今年中に大規模なプログラム改訂は予定されておらず、市場参加者が新バージョンへ段階的に適応できる時間が意図的に確保されています。言い換えれば、これは制度変更そのものよりも、「変更を現場で消化する期間」と位置づけることができます。
VCS v5.0のアップデートについては、後日あらためて詳しく解説する予定です。ぜひフォローのうえ、次回の更新もご覧ください。
スコープ3スタンダードのローンチ:
企業バイヤーにとって何が変わるのか
スコープ3スタンダード(S3S)バージョン1.0は、2026年中に2段階でリリースされる予定です。
第1フェーズでは、初期の方法論群のもとでプロジェクトが正式にパイプライン登録できるようになります。続く第2フェーズでは、インターベンションユニット(IU)の検証・登録・発行までを含む一連のプロセスが実装される見込みです。
IUとは、企業が自社サプライチェーン内で創出した排出削減量を計上するための認証ユニットを指します。この2段階の導入により、検証済みのサプライチェーン削減を大規模に創出するための制度的基盤が整備されます。
もっとも、認証の仕組みが整えば課題が解決するわけではありません。残る大きな論点は、「誰がそのIUをスコープ3報告として正当に主張できるのか」という点です。この点については、v1.0では最終的な整理が行われず、次段階へ持ち越されています。
この検討の中心となるのが、v1.0からv2.0への移行です。v2.0の核心に据えられているのは、「報告権(Right-to-Report:R2R)」という概念です。
企業がサプライチェーン内の特定の製品や活動との検証可能な関連性を示して初めて、その削減量をスコープ3目標として報告できる―こうした枠組みの構築が想定されています。
しかし、多様な産業構造と複雑なグローバルサプライチェーン全体にわたり、この関連性を制度的に担保することは容易ではありません。方法論設計とガバナンスの双方にまたがる課題であるため、独立したプログラムとして検討が進められていると考えられます。
また、GHGプロトコルおよびSBTiとの整合性確保も、次フェーズにおける重要な論点です。既存の排出量算定や目標設定の枠組みと互換性を持たなければ、インターベンションユニットは実務上「別建ての会計」にとどまり、企業による実装が進まない可能性があります。
詳細なスケジュールは現時点で公表されていませんが、v2.0に向けた開発作業は2026年中に開始されると発表されています。
※プログラムの全体像や対象範囲については、Verraの公式「Scope 3 Standard」ページをご覧ください。
新フレームワーク下で初のREDD+クレジットがいよいよ市場へ
2026年1月、ブラジルの3州(アマゾナス州・アクレ州・ロンドニア州)のリスクマップが公開されました。コロンビア、カンボジア、グアテマラ、マイ・ンドンベのマップについても、2026年第1四半期(3月末)までに公開される予定です。
また、VM0048(未計画の森林破壊および劣化からの排出削減に関するVerraの方法論)に基づく初のクレジット発行が今年中に予定されており、管轄区域・ネストREDD+フレームワーク(JNRFF)下での初のプロジェクトも始動します。
方法論面では、VMD0055の更新が第2四半期に予定されており、持続可能な森林管理の実践が対象範囲に追加される見込みです。さらに、計画的森林破壊の回避および非計画的劣化回避に関するモジュールについても、年内にコンサルテーションが開始される見通しです。
Verraが述べている通り、2026年はREDD+が開発フェーズから実行フェーズへ移行する年となりそうです。
24の方法論がデジタル化:
ステークホルダーの実感にも変化
プロジェクトハブでは現在、24の方法論がデジタル化されています。ACM0001(埋立地ガス)、VM0008(建物の断熱化)、VM0050(クックストーブ)など、複数の方法論が近日中に追加される予定です。
120件の回答を集めたステークホルダー調査では、70%がニュートラルからポジティブな評価を示しました。ユーザビリティの向上やバグの削減、レジストリとハブの連携強化などが、2026年のロードマップに組み込まれています。
さらに、統合CRMシステムの導入や、AIを活用した生産性ツールの開発も進められています。dMRVを含むプロジェクトワークフロー全体のエンドツーエンドでのデジタル化も並行して進行中です。
手作業の削減と自動化の推進により、プロジェクト開発からクレジット発行までのプロセスは、よりスムーズになっていく見込みです。
おわりに
Verraは2026年のスタートを、明確なアジェンダと、それを支える運用面での推進力とともに迎えました。リスクベース審査システムはすでに大きな成果を上げており、S&Pグローバルとの新レジストリもインフラとして現実のものになりつつあります。
1月の発表内容を見る限り、「言葉から行動へ」という転換は着実に進んでいると言えそうです。
プロジェクト開発者にとっては、審査の迅速化や予測可能性の向上、さらに高度な自動処理に対応したレジストリという形で、その恩恵を直接実感できるはずです。VCS v5.0はすでに稼働しており、有効なプロジェクトに影響が及ぶ前に変更内容を吸収できる時間は、着実に短くなっています。
企業バイヤーにとって最大の注目点は、スコープ3スタンダードでしょう。サプライチェーンレベルで関与する、これまでとは異なる動機を持つバイヤー層への扉が開かれます。2026年半ばの第2フェーズが、本格的な動きの起点となりそうです。引き続き注視していきます。


2025年は構築の年でした。2026年は、その上に市場が立つかどうかが問われる年です。その答えは、これから明らかになっていくでしょう。
また次号でお会いしましょう。
今号の内容についてのご意見や、取り上げてほしいトピックがあれば、ぜひコメント欄でお知らせください。

