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【ゲーム制作】「リスクとリターン」より先に「ゲーム体験」を考える

ゲームデザインについて調べていると、「リスクとリターン」という考え方をよく目にします。

「危険な行動を選ぶほど、大きな報酬を得られる。」
「安全な方法を選べば失敗しにくい代わりに、得られるものも小さくなる。」

プレイヤーに迷いを作るうえで、とても分かりやすく、便利な考え方だと思います。

現在制作している『スクラップダイバー』でも、危険な敵の近くに高価なスクラップを置くなど、リスクとリターンを使う方法はあります。

ただ、私はゲーム全体を考えるとき、「リスクとリターン」よりも先に、プレイヤーへどのような「ゲーム体験」を与えたいのかを考えたいと思っています。

どれだけ面白そうな仕組みでも、作りたい体験と合っていなければ、かえってゲームの魅力を弱めてしまうことがあるからです。

今回は私がゲームデザインについて調べる中で考えた「ゲーム体験」について書いていきます。


「リスクとリターン」はゲームを面白くするのか

リスクとリターンを使うと、プレイヤーに分かりやすい選択を作れます。

たとえば、二つの道があるとします。 
片方は安全ですが、手に入るアイテムは少ない。
 もう片方には強い敵がいますが、珍しいアイテムを入手できる。
プレイヤーは、自分の体力や装備を確認しながら、どちらへ進むか考えます。

このような選択は、ゲームに緊張感を与えます。

ただし、リスクとリターンを強くすれば、必ずゲームが面白くなるわけではありません。

重要なのは、その選択によってプレイヤーへ何を感じてほしいのかです。

緊張してほしいのか。
じっくり考えてほしいのか。
安心して過ごしてほしいのか。
未知のものに恐怖を感じてほしいのか。

目指す体験によって、必要なゲームシステムは変わります。

『スイカゲーム』に強い時間制限を加えたら

たとえば、『スイカゲーム』について考えてみます。

果物を箱の中へ落とし、同じ果物同士を組み合わせながら、より大きな果物を作っていくパズルゲームです。
穏やかな音楽を聞きながら、次の果物をどこへ落とすか、落ち着いて考えられます。

厳しい制限時間はありません。
すぐに置いてもよいですし、盤面を眺めながら、しばらく考えてもかまいません。
果物が少しずつ積み重なっていく様子や、思いがけず連鎖が起こる瞬間も楽しめます。

もちろん、『スイカゲーム』にもリスクとリターンはあります。

大きな果物を作ろうとして無理な場所へ落とせば、盤面が崩れる可能性があります。
安全な場所へ置けば失敗しにくくなりますが、狙っていた組み合わせから遠ざかるかもしれません。

ただ、そのリスクとリターンは、プレイヤーを強く急かす形では使われていません。

ここへ仮に、

「制限時間を付ける」
「早く果物を置くほど得点を増やす」
「判断が遅いと不利な効果が発生する」

といった仕組みを追加したら、どうなるでしょうか。

早く判断するか、時間を使って安全に置くかという、新しいリスクとリターンが生まれます。

緊張感も増えるでしょう。

その仕組み自体は、ゲームとして成立すると思います。

しかし、穏やかな音楽を聞きながら、じっくり盤面を眺めるゲーム体験は弱くなります。

ゲーム性が悪くなるというより、別のゲーム体験へ変わるのだと思います。

『スイカゲーム』を遊ぶ人が求めているものが、素早い判断や時間との勝負ではないなら、リスクとリターンを強めることが必ずしも魅力につながるとは限りません。

そのゲームシステムは本当に必要なものなのか?

『どうぶつの森』が与える体験

『どうぶつの森』も、強いリスクとリターンを中心にしたゲームではありません。

村や島を歩く。
住民と会話する。
魚や虫を集める。
家具を置き、自分の好きな部屋や景色を作る。

効率よくお金を稼ぐ遊び方もできますが、それだけが目的ではありません。

昨日とは違う住民の会話を聞く。
季節によって変わる景色を眺める。
少しずつ増えていく家具や施設へ愛着を持つ。
毎日少しずつ、自分の暮らす場所が変わっていく。

こうした体験は、常に危険と報酬を比較しなくても成立します。

仮に、住民との会話で間違った選択をすると大きな損失が発生したり、短時間で作業を終えるほど高い報酬を得られたりする仕組みを中心にしたら、プレイヤーは慎重に最適解を探すようになるでしょう。

戦略性は増えるかもしれません。

しかし、気軽に住民と話したり、目的もなく島を歩いたりする時間は減ってしまいます。

プレイヤーへ安心感や愛着を与えたいなら、失敗への恐怖を強くしないことにも意味があります。
何も起こらない時間や、遠回りする時間も、そのゲームが与えたい体験の一部だからです。

ホラーゲームでは分からないことに意味がある

反対に、情報を与えないことがゲーム体験を強くする場合もあります。

ホラーゲームでは、視界が暗く制限されていたり、敵がどこにいるのか分からなかったりします。

「曲がり角の先に何かいるかもしれない。」
「後ろから追われているかもしれない。」
「この部屋へ入ったら、戻れなくなるかもしれない。」

何が起こるか分からない状態で先へ進むことが、恐怖につながります。

ここでリスクとリターンを明確に表示したら、どうなるでしょうか。

たとえば、
「この部屋には敵が二体います。」
「入ると体力を約20失います。」
「危険な道ですが奥には回復アイテムがあります。」

こういった先の情報が分かっていれば、プレイヤーは損失と報酬を比較できます。

戦略的には判断しやすくなります。
ゲーム性が改善されるという見方もできます。

しかし、「この先に何がいるか分からない」という不安は弱くなります。

未知の恐怖が、数値を比較する問題へ変わってしまうからです。

ホラーゲームが与えたい体験が、正体の分からないものへの恐怖なら、リスクとリターンを細かく表示しないことにも意味があります。

ゲームシステムとして不親切なのではなく、分からない状態そのものを体験として使っているわけです。

ゲーム体験から仕組みを逆算する

『スイカゲーム』、『どうぶつの森』、ホラーゲームでは、目指している体験がそれぞれ違います。

『スイカゲーム』では、落ち着いて盤面を眺め、次の一手を考える。

『どうぶつの森』では、日々の暮らしや住民との交流へ愛着を持つ。

ホラーゲームでは、情報の少ない場所へ進む不安を味わう。

必要になるシステムが違うのは当然です。

そのため、ゲームを考えるときには、

「どんなリスクを用意するか」
「どんなリターンを与えるか」

よりも先に、

「プレイヤーに何を感じてほしいのか」
「どんな判断を楽しんでほしいのか」
「どのような時間を過ごしてほしいのか」

を考えた方がよいのではないかと思っています。

リスクとリターンは、その体験を作るために必要なら使います。

必要でなければ、無理に強くする必要はありません。

面白い仕組みを集めても、面白いゲームになるとは限らない

ゲームを考えていると、面白そうな仕組みをたくさん思いつきます。

制限時間。

ランダム生成。

失敗による大きな損失。

珍しい報酬。

敵の強化。

複雑な成長要素。

どれも単体では、ゲームを面白くする可能性があります。

しかし、面白い仕組みをたくさん入れれば、ゲーム全体も面白くなるとは限りません。

穏やかに考えてほしいゲームへ、強い時間制限を入れる。

気軽に交流してほしいゲームへ、会話の大きな失敗を入れる。

恐怖を感じてほしいゲームで、すべての危険を数値として表示する。

それぞれの仕組みには意味があっても、目指す体験と合っていなければ、ゲーム全体では邪魔になります。

仕組みを足すほど面白くなるのではなく、必要な仕組みだけが同じ体験へ向かっていることが大切なのだと思います。

『スクラップダイバー』で与えたい体験

現在私が制作しているローグライク『スクラップダイバー』は、ランダムに生成される地下ダンジョンへ潜り、敵を避けたり戦ったりしながら、スクラップを回収するゲームです。

このゲームにもリスクとリターンのゲームシステムを付けることができます。

危険な敵がいる場所ほど、高価なスクラップを置く。

バッテリーを消費して奥へ進むほど、大きな利益を得られる可能性がある。

安全に出口へ進むか、危険を冒して未探索の部屋を調べるか考える。

こうした選択は、ゲームの重要な部分になると思います。

ただし、私が中心にしたいゲーム体験は、
「大きな危険を選び、大きな報酬を得ること」だけではありません。

私が作りたいメインのゲーム体験は、
「最初は危険でよく分からなかったダンジョンを観察し、少しずつ理解し、自分の判断と行動で攻略できる場所へと変えていく体験」
です。

階層へ入ったときには、どこに敵がいるのか分かりません。

しかし、その階層にいる敵の種類と数は確認できます。

レアスクラップの正確な場所は分かりませんが、センサーから大まかな方向を知ることができます。

部屋や通路を探索し、実際の敵の位置や地形を把握していきます。

細い通路へ大型の敵を誘導できないか考える。 
危険な部屋を後回しにして、別の道から進む。 
あえて敵を倒さず、無視して効率よくスクラップだけを回収するルートを組む。
 敵を倒して安全を確保するか、リソースを温存して先を急ぐか。
 そうした判断を積み重ね、最終的には、最初は危険だった階層を自分の計画によって攻略できる場所へ変えていく。

私は、この変化に達成感を感じられるゲームにしたいです。

リスクとリターンも体験を作るために使う

『スクラップダイバー』では、リスクとリターンをなくしたいわけではありません。

危険な敵の近くに高価なスクラップを置けば、プレイヤーに迷いが生まれます。

バッテリーが少ない状態でセンサーが反応すれば、探索を続けるか、出口を探すか考えることになります。

ただし、それらはゲームの目的ではありません。

プレイヤーにダンジョンを観察させ、攻略方法を考えさせ、危険な場所を安全に変えた実感を強くするための手段です。

同じリスクとリターンでも、目指す体験によって使い方は変わります。

常に大きな報酬を提示して、プレイヤーを危険な場所へ誘導する必要はありません。

安全に探索できるようになったこと自体が、報酬になる場面も作れると思います。

最初は通れなかった場所を、敵を倒して通れるようにする。

危険だった広い部屋を、安全な回収場所へ変える。

逃げるしかなかった敵を、地形や装備を利用して倒せるようになる。

お金やアイテムだけではなく、状況が変わったことそのものをリターンとして感じられるゲームにしたいです。

最初に「そのゲームで何を感じてほしいか」を決める

ゲームデザインには、さまざまな考え方があります。

リスクとリターンも、その中の重要な一つです。

ただ、それをゲームの出発点にしてしまうと、何のためにその仕組みを入れたのか分からなくなることがあります。

私は、まずプレイヤーにどのような体験をしてほしいのかを考えたいです。

落ち着いて考えてほしいのか。

緊張しながら素早く判断してほしいのか。

安心できる場所へ愛着を持ってほしいのか。

未知の場所に恐怖を感じてほしいのか。

危険な状況を理解し、自分の力で安全に変えてほしいのか。

その体験を決めた後で、必要なリスク、報酬、時間制限、情報量、敵、地形などを選びます。

リスクとリターンは、ゲームを面白くするための正解ではありません。

プレイヤーに与えたいゲーム体験を作るための、数ある手段の一つです。

『スクラップダイバー』でも、面白そうな仕組みをただ増やすのではなく、

「この仕組みは、作りたいゲーム体験につながっているか」

を考えながら作っていきたいです。

プレイヤーに与えたい「ゲーム体験」を考えて
システムを構築する

あなたがこれまでに遊んだ中で、特に印象に残っている「ゲーム体験」は何でしょうか。
 強敵を工夫して倒したときの達成感。 
知らない世界を自由に冒険するワクワクした気持ち。 
何度も帰りたくなるような、場所やキャラクターへの愛着。 
失敗を繰り返しながら、自分の上達を実感していく感覚。
 ゲームのジャンルや仕組みそのものではなく、その作品を通じてどのような「時間」を味わえたのかを、ぜひ教えてください。 
 私がこれからゲームを作っていくうえでの大切なヒントにしたいと思っています。
もしよろしければ、あなたの好きなゲームと、そこから受け取った「ゲーム体験」を書き込んでいただけると嬉しいです。

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