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【ゲーム制作】『ムジュラの仮面』から学ぶ狭くても深い世界

※この記事には『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』のサブイベントに関するネタバレが含まれます。


ゲームの世界は広いほど魅力的なのでしょうか。

遠くに見える山まで歩いていける。
道を外れた先にも町や遺跡がある。
次々と新しい人物や敵、イベントに出会える。

広大な世界の用意されているゲームには、知らない土地を冒険していると強く感じられる魅力があります。

しかし、個人や小規模なチームが、大規模なゲームと同じ方法で世界を作るのは難しいです。

マップを広げるだけでは足りません。
広げた場所には、異なる風景、建物、人物、会話、敵、アイテム、イベントなどを用意する必要があります。

広い世界を魅力的にするには、その広さを埋める大量のコンテンツが必要です。

インディーゲームが、大規模なゲームと同じ物量で市場へ勝負を挑むのは簡単ではありません。

では、広い世界を作れなければ、プレイヤーが没入できる世界も作れないのでしょうか。

私はゲームデザインについて調べる中で、場所や人物の数を増やすのではなく、限られた場所や人物に何度も意味を重ねることで、狭くても深い世界を作れるのではないかと考えています。


私が考える「深い世界」

ここでいう深い世界とは、設定資料の量が多い世界ではありません。
同じ場所や人物に何度も触れることで、以前は見えていなかったものが見えてくる世界です。

最初は背景の一部にしか見えなかった人物に、その人なりの生活や悩みがあると分かる。
何気なく見ていた行動の理由が、後になって理解できる。
新しく知ったことによって、以前に見た人物や風景の意味まで変わる。

マップそのものが広がらなくても、プレイヤーの中にある情報が増えることで、世界の見え方は変わります。

そして、その世界がゲームを進めるためだけに置かれたハリボテではなく、そこに人が暮らし、時間が流れている場所のように感じられる。

私は、こうした積み重ねが世界への「没入感」につながるのだと思います。

同じ三日間を繰り返す『ムジュラの仮面』

私が「狭くても深い世界」について考えるとき、思い浮かべるのが『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』です。

『ムジュラの仮面』の舞台では、空に浮かぶ巨大な月が少しずつ地上へ近づいています。
月が落下するのは三日後。
月が落ちると世界が滅ぶ。
主人公は、月が落ちるまでに世界を救う方法を見つけなければなりません。
しかし、三日間ですべてを解決することはできません。
そこで主人公は時間を巻き戻し、最初の日の朝へ戻ります。
同じ三日間を何度も繰り返しながら、世界の各地で起きている問題を少しずつ解決していきます。

時間を戻すと、町や住人たちも元の状態へ戻ります。
しかし、プレイヤーが得た知識まで失われるわけではありません。

誰が、何時に、どこへ向かうのか。
どの人物が何に困っているのか。
ある出来事を起こすには、いつ、誰に、何を渡せばよいのか。

同じ三日間を繰り返すたびに、プレイヤーの中には世界についての知識が増えていきます。

中心となる町「クロックタウン」では、住人たちがそれぞれの予定に従って生活しています。

朝には店にいる人物が、夜には別の場所へ移動している。
最初の日には普段どおり仕事をしていた人物が、月の落下が近づくにつれて不安を見せる。
同じ人物でも、会う時間によって違う姿を見せます。

マップそのものが広がるわけではありません。
それでも、同じ町を何度も歩き、住人の行動や事情を知ることで、最初は見えていなかった世界の内側が少しずつ見えてきます。

『ムジュラの仮面』は、場所を増やすのではなく、同じ場所に時間と人物の行動を重ねることで、世界を深く感じさせているゲームだと思います。

最初は普通の住人だったポストマン

『ムジュラの仮面』で、私が好きなキャラクターの一人にポストマンがいます。

最初に見たときの印象は、町の中を走り回って手紙を届けている普通の住人でした。
決められた時間に決められた場所へ移動し、仕事をこなしている。

町に人が暮らしていることを感じさせる、背景の一人に見えます。

しかし、彼の行動を追ったり、サブイベントを進めたりすることで、少しずつ人柄が見えてきます。

ベッドで昼寝をしているポストマンへ話しかけると、こう言います。
「僕の予定では今は昼寝時間なのだ。
コンマ一秒でも予定が狂うと手紙が届くのが遅れてしまう…
公務員はつらいのだ…」

昼寝さえも、決められた予定の一部です。
時間どおりに休まなければ、その後の配達まで遅れてしまう。
少し大げさで面白い会話ですが、同時に、彼が仕事と時間にどれほど厳格なのかが伝わります。

別の時間では、時計を見ずに十秒を数える訓練をしています。
「今は時計を見ないで、頭の中で10秒ぴったりに走るイメージトレーニングをしていたところなのだ!
バカにするかもしれないけど これが結構難しいのだ!
やってみる?」

この後、プレイヤーは十秒ぴったりでストップウォッチを止めるミニゲームへ挑戦できます。

この時点では、時間に細かすぎるポストマンらしい、少し変わった遊びに見えます。

しかし、「時間に厳しい人物です」とただ説明文で教えられるのではありません。

普段の配達、昼寝の時間、ミニゲームといった行動を通して、プレイヤー自身が彼の性格を知っていきます。

最後の日、逃げたいのに逃げられない

そして、月が落ちてくる三日目の最期の夜。

世界の終わりが迫り、町の住人たちが避難する中、ポストマンは自室に残っています。

普段のように町を走っているのではなく、ベッドのそばで頭を抱えています。

ベッドの上には、ポストマンからポストマンへ宛てた手紙が置かれています。
「僕へ 
いつも配達ご苦労さんなのだ。
そんな頑張り屋の僕にお願い。
町の人はみんな避難したのだ。
僕も逃げて欲しいのだ。
予定表に書いてなくても逃げて欲しいのだ。
お願いします。
僕より。」

逃げなければならないことは、自分でも分かっています。
町の人たちはすでに避難し、自分も残れば命が危ない。

だから、自分自身へ手紙を書いてまで、逃げるように頼んでいます。

それでも、ポストマンは決断できません。

ベッドの側で頭を抱えて苦しんでいます。

「そりゃ…逃げたい!
けど そんなの予定表に書いてないのだ。
僕には配達の予定表が最優先なのだ。」

日常では、少し面白い個性に見えていた時間と仕事への厳格さ。

しかし、世界の終わりを前にすると、同じ性格が彼自身を縛るものへ変わります。

ここで突然、新しい設定が追加されたわけではありません。

昼寝の時間を守ろうとする姿。
十秒を正確に数えようとする姿。
決められた予定どおりに配達する姿。

それまで何度も見てきた特徴が、状況の変化によって別の意味を持ち始めます。

最後の速達

苦悩するポストマンへ、主人公は町長夫人宛ての速達を渡します。

するとポストマンは、それまでと同じように配達の仕事を始めます。
「これは速達のハンコ!
最優先でお届けするのだ!
宛先は…局長どのなのだ。
局長のスケジュールは今日は1日お休みでミルクバーで飲んでいるはずなのだ。
局長はこの町を愛しているのだ。
だから逃げたりしないはずなのだ。」

世界が終わろうとしている状況でも、速達を受け取った瞬間、配達先と相手の予定を確認します。

最後まで、ポストマンの行動は一貫しています。

ポストマンはミルクバーへ向かい、町長夫人へ手紙を届けます。

ポストマン
「お届け物なのだ局長!」

局長
「あらヤダ あなた まだ残ってたの?」

ポストマン
「あ あ あ 明日の配達があるのだ。」

局長
「なに言ってるの!
お空見たの!
大変でしょ。
どうしましょ!
カーフェイからなのね!
嬉しいわ!
最期に良いことあるなんて。
ありがとね。
あなた もう逃げなさい。
命令よ!」


ポストマン
「了解なのだ。」


自分の意思では、予定と仕事を捨てて逃げることができなかったポストマン。

しかし、仕事上の命令として「逃げなさい」と言われたことで、ようやく町から避難できるようになります。

「僕はもう自由なのだ」

ミルクバーの外で、ポストマンへ再び話しかけると、こう言います。

「僕 避難することにしたのだ。
局長どのの命令なのだ。
僕はもう自由なのだ!
予定も自分で決めるのだ!
もう いらなくなったからコレ 
君に譲るのだ!」

そして、仮面アイテムのポストハットを受け取ります。

ポストハットは、それまでポストマンが仕事でかぶっていた帽子です。

その帽子を主人公へ渡すことは、単なるイベント報酬ではなく、彼が仕事と予定表から解放されたことを表しているように感じます。

「僕はもう自由なのだ」という言葉にも、町から逃げられる安心だけでなく、それまで自分を縛っていた予定から解放された喜びが込められているような気がします。

私はこのゲームのサブイベントで、このポストマンと町長夫人のやりとりが特に好きです。

一つの性格を、異なる状況から見せる

ポストマンは、最初から最後まで、時間と仕事に厳格な人物です。
途中で性格が変わったわけではありません。

しかし、一つの特徴が置かれる状況は変わります。

日常では、時間に正確な少し面白い人物として見える。
世界の終わりには、自分の命より予定を優先し、逃げられずに苦しむ人物として見える。
最後には、上司から命令されることで、ようやく自分の予定を自分で決められるようになる。

同じ特徴を、日常、危機、解放という異なる状況から見せることで、ポストマンという人物が深く描かれています。

新しい設定を次々に追加しているのではありません。

最初からある一つの特徴を、別の状況で使い、その意味を変えています。

これは、限られた内容から人物の深さを作るゲームデザインだと思います。

プレイヤーが関わることで生まれる没入感

このイベントでは、ポストマンの物語を外から眺めるだけではありません。

プレイヤーが速達を渡すことで、彼は最後の配達へ向かいます。

主人公が手紙を渡さなければ、ポストマンは自室で苦悩したままです。

プレイヤー自身が、彼が仕事から解放されるきっかけを作ります。

そして、イベントの最後にはポストハットが自分の手元に残ります。

ポストマンが自由になったことを会話として知るだけでなく、その出来事へ関わり、結果をアイテムとして受け取る。

この「自分が関わった」という実感も、世界への没入感を強めているのだと思います。

ポストマンは、ただアイテムをくれるためだけに用意されたNPCではありません。

その世界の時間に従って生活し、仕事を続け、最期の日には迷い、プレイヤーの行動によって救われる人物です。

そして、こういったキャラクターが、クロックタウンには用意されて、更にそれぞれのイベントが影響しあっています。

だからこそ、ゲームのプレイ時間が長くなる程、プレイヤーにとってクロックタウンが単なるゲームのマップではなく感じられます。

狭い世界は何もしなくても深くなるわけではない

同じ場所や人物を何度も使えば、それだけで深い世界になるわけではありません。

毎回同じ場所に立ち、同じ説明を繰り返すだけの人物へ何度会っても、世界への理解は深まりません。

ただ同じ素材を表示するだけなら、使い回しに見えてしまいます。

大切なのは、再び会ったときに、以前とは違う意味を見せることだと思います。

日常では長所や笑いに見えた性格が、危機では弱点や苦悩になる。

後から事情を知ることで、以前の言葉が違って聞こえる。

一人の人物が別の人物とつながり、世界の中で生活していることが見えてくる。

イベントの結果が、アイテムや会話として後にも残る。

同じ人物や場所をただ再利用するのではなく、プレイヤーに「再解釈」させることが、世界の深さや没入感につながります。

インディーゲームは没入感で勝負できる

大規模な開発のゲームと同じように、広い世界へ大量のコンテンツを詰め込むことは、個人制作では難しいでしょう。

しかし、登場する人物や場所を絞り、それらを一度きりで使い捨てないことはできます。

新しいNPCを十人作る代わりに、一人のNPCへ異なる状況での会話を用意する。

新しい町を増やす代わりに、同じ場所へ戻ったときの変化を作る。

新しい設定を次々に足す代わりに、最初から見せていた特徴の意味を変える。

広さや数では、大規模なゲームに及ばないかもしれません。

それでも、一つ一つの人物や場所へ使う時間を増やし、プレイヤーが知るほど意味が増える世界なら作れる可能性があります。

物量ではなく密度で世界を作る。

それは、小規模な開発のゲームだからこそ選べる方法でもあると思います。

狭いゲームの世界であっても
深い没入感をプレイヤーに与えたい

『スクラップダイバー』でも試してみたい

現在制作しているローグライク『スクラップダイバー』では、探索から帰る場所として、小さな会社の事務所を拠点にする予定です。

ただし、現段階では、まだ事務所そのものは作っていません。

『ムジュラの仮面』のように、住人が細かな予定に従って生活し、多くのサブイベントが複雑につながる仕組みを、そのまま作ることも難しいと思います。

まずは、簡単な会話や小さなイベントから試す予定です。

探索の進行によって、社長との会話が少し変わる。

以前ダンジョンで出会った人物が、後になって事務所を訪ねてくる。

持ち帰った物をきっかけに、それまで聞けなかった話が発生する。

一つ一つは短い会話でも、以前に起きたこととつながっていれば、単発のイベントではなくなります。

プレイヤーが、
「前に会った人物だ。」
「あのとき拾った物を覚えている。」
「最初に聞いた言葉は、こういう意味だったのか。」
と気づけるようにしたいです。

ハリボテではない世界

私が深い世界を作りたいのは、少ない制作量で広い世界の代わりを作りたいからだけではありません。

プレイヤーに、そのゲームの世界へ少しでも没入してもらいたいからです。

NPCが、主人公へ話しかけられるのを待つだけの存在ではなく、その世界の中で生活している人物に見える。

拠点が、ただゲームシステムを集めたゲーム画面ではなく、それまでの探索や会話を思い出す場所になる。

以前に起きたことが、後の出来事にもつながっている。

プレイヤーが見ている範囲だけを用意したハリボテではなく、その向こうにもNPCの生活や過去が続いているように感じてもらう。

そして、自分がその世界へ関わったことで、何かがほんの少し変わったと感じてもらう。

『スクラップダイバー』では、まず短い会話や簡単なイベントから、そうした没入感を作れるか試してみたいです。

大規模なゲームと同じ物量で勝負することは難しくても、限られた人物や場所へ意味を積み重ねることはできます。

広大ではなくても、ゲームを遊んでいる間だけは、その世界に少し入り込めたと感じてもらえる。

それが、私の作りたい「狭くても深い世界」です。
広さではなく、この深さこそが、私がプレイヤーに届けたいゲーム体験です。

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