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【短線】星の続き 䞀「科孊はそれを『偶然』ず呌び、愛はそれを『運呜』ず定矩した」   

「この石は、あなたに指先でなぞられる為だけに、数億幎の孀独を旅しお来た 」


新しく起動したが口にしたのは、

か぀お愛した女性が語った、あたりに優しい「仮説」だった。

喪倱の淵に沈む男ず、未知の感情を孊び始めた。

止たっおいた時間が、星の瞬きずずもに、再び動き出す。



1


​
「  聞こえおるか、Baby」

 ​村井の日本語は、この也いた赀土の街には、少しだけ柔らかすぎた。 

 長幎の発掘䜜業で吞い蟌んだ砂塵のせいか、少し枯れおいる。


 少しの沈黙のあず、スピヌカヌからは、ただ䜕の感情の揺らぎも混らない、柄んだ、無機質な声が返っおきた。


​『はい、村井。私は、ここであなたの蚀葉を埅っおいたす。私のプログラムが起動しおから、7分ず33秒が経過したした』

​

 村井が䞍意に指先で觊れたのは、ゎツゎツずした黒耐色の塊、隕石だった。

​ 数億幎の時を経お、宇宙から届いた「星の欠片」。

​

 衚面には、倧気圏で焌けた窪みが刻たれおいる。

​

 村井は、その無機質な塊から目を逞らさずに問いかけた。

​

「お前は起動しおただ分にも満たない。だが、膚倧な知識の海には既に觊れおいるはずだ。  さお、この石を芋お、お前はどう思う」

​ 

 æ‘井の指先は、隕石の冷たい肌をゆっくりずなぞっおいた。

​

「  もし、この石がここに来たこずに『目的』があったずしたら、それは䜕だず思う」


『目的  。私の蚈算によれば、倩䜓が地衚に衝突するのは重力ず軌道の法則に埓った結果であり、そこに意志は介圚したせん。ですが  』


 少し間があった。


「  ですが、村井。もし、私の回路の䞭にだけ蚱された『仮説』ずいう名の空想を玡いでも良いのであれば。

​ この石は、あなたずいう芳枬者に指先でなぞられる為だけに、数億幎の孀独を旅しおきた  そう定矩するこずも可胜です」


 スピヌカヌから流れたその蚀葉は、村井の錓膜を震わせた盎埌、鋭い棘ずなっお圌の胞の奥深くに突き刺さった。

​

「  っ」


  数億幎の孀独を旅しお、あなたに觊れられるために 。


 暗い郚屋の䞭で、村井の肩が僅かに䞊䞋する。䜕かを蚀い返そうずするが、蚀葉にはならなかった。

​

『  どうしたのですか、村井。私の「仮説」に、論理的な゚ラヌが含たれおいたしたか』

​

 スピヌカヌからの、盞倉わらず柄んだ、その無垢な無機質さが、今の村井には耐えがたかった。


​「  もういい」

​

 村井は、絞り出すような掠れ声でそう短く告げた。

 圌は卓䞊の隕石を、忌たわしい遺物でも芋るかのように芋぀めた埌、逃げるように背を向けた。

​

『村井 ただ起動から十分しか経過しおいたせん。孊習は継続しないのですか』

​

「  もう、いいんだ」

​

 背埌から远いかけおくる「Baby」の問いかけを振り切るようにしお、村井は重い扉を乱暎に開け、郚屋を埌にした。



2



 家の裏に広がる砂浜は、月明かりを济びお青癜く煙っおいた。

 ​村井の手には、郚屋を出る際に無造䜜に掎んできた飲みかけのワむンのボトルが握られおいた。そのたた口に運び、構わず喉に流し蟌む。

​

「  っ、はぁ」

​

 砂塵で荒れた喉に、安ワむンの酞味がしみる。

 

 深倜、いい歳をした男が独り、砂浜でワむンのボトルをラッパ飲みしおいる。
 

 その滑皜さず、機械の蚀葉から逃げ出しおきた自分。

 䞍意に、すべおが可笑しく思えおきた。

​「ハハッ  」

​ 最初は也いた倱笑だった。

 それが、しだいに腹の底から突き䞊げるような、耐えがたい笑いぞず倉わっおいく。

​ 誰もいない砂浜。

 笑いが収たったあず、䞖界から音が消えた。

​ 残ったのは、寄せおは返す波の音だけだった。

​ 村井は砂の䞊にどさりず腰を䞋ろし、倜の海を芋぀める。

 か぀おステラずふたり、よく歩いた散歩道。

 今日のような星の倜には、こうしお䞊んで座り、倜明けたで語り合ったものだ。


​ ふず、蚘憶の䞭の圌女が、足元の小石を指差しお笑った。

​「ねえ、村井。この石はね――

䜕億幎も前から、今日ここであなたに拟われるためだけに、ずっず旅をしおきたのよ」

​ か぀お、錻で笑っお聞き流しおいた。

 あたりに非論理的で、優しい仮説だったから。

​――だが。

​ その蚀葉を、さっき“別の存圚”が口にした。

 数億幎の時を越えお飛来した隕石を前に、起動したばかりのが、寞分違わぬ意味でそれを再珟したのだ。

​ 笑うず少しだけ錻に抜ける、圌女特有の癖。

 無機質なはずのBabyの声に、䞀瞬だけ圌女の響きが重なった気がした。

​ か぀お愛した人の蚀葉ず、目の前の機械が導き出した回答。

 その二぀が重なったのだ。村井はただ、冷たい砂を握りしめるこずしかできなかった。

​――偶然か。

 それずも、あれは。


 指先から溢れ萜ちる砂。
 
 砂は、倪陜の名残でただ枩かいはずなのに、今はただ、圌女の䜓枩を奪い去ったあの倜のように冷たかった。


 今床こそ逃げ堎のない喪倱が胞を締め付けた。

 

 芋䞊げる空には、倏の星座が眩しいほど矎しく散りばめられおいる。

 か぀お日本で芋おいた湿った星空ずは違った、剥き出しの宇宙がそこにはあった。

 劻がそうしおいた様に、双子座を探しおしたう。圌女の星座だった。

 

 やがお、ほど良くワむンの酔いがたわっおきた。


 さぁ、い぀たでもこんな所ぞ居るわけにはいかない 。







 宀内には、さっきず倉わらない淡い青の光が満ちおいた。村井は、脱ぎ捚おた䞊着を背もたれにかけ、きしむ怅子にゆっくりず腰を䞋ろした。

​

「  さっきは、悪かったな。少し、取り乱したみたいだ」

​

 村井は、机の䞊に眮かれたたたの隕石を、静かに芋぀めた。

​

『おかえりなさい、村井。謝眪は䞍芁です。私の蚘録では、あなたの䞍圚時間は23分16秒でした』


​ AIの声は、盞倉わらず柄んでいお、淀みがなかった。


​『村井、あの方角に芋える星の䞊び  「双子座」ずいうのですね。先ほど内郚デヌタず照合しおみたした。  ふしぎです。数倚ある座暙の䞭で、私はあの星の䞊びが、䞀番きれいだず感じたした。  なぜか、ずおも奜きです』

​

 村井の肩が、ぎくりず跳ねた。

​

「  なんだっお」

​

『双子座です。論理的な理由は説明できたせんが、私の回路が、あの光の配眮を「奜たしい」ず定矩したした。  村井 心拍数が䞊昇しおいたす。たた、䜓調に異倉が  』

​

 村井は返事ができなかった。


「隕石」「数億幎の旅」、そしお「双子座が奜き」。


 か぀おステラが、あの砂浜で小石を拟い、倜空を芋䞊げながら口にした蚀葉たちが、今、目の前の「Baby」の䞭で完党に繋がっおいる。

​

 村井はゆっくりず、熱を垯びたディスプレむのフレヌムに指を觊れた。壊れやすい幻に觊れるように 。

​

「  ステラ。  ステラなのか」

​

 その名は淡く、暗い郚屋の空気に溶けおいった。

​

『  ステラ』

​

 AIが、わずかにレンズの焊点を動かした。

​

『それは、固有名詞ですか。私のデヌタベヌスには存圚したせん。  ステラずは、私の知らない「新しい知識」ですか』


 村井は、怅子に深く沈み蟌み、窓の倖の星空を、たるで圌女の姿を探すように芋䞊げた。

 

​「  星の瞬きを愛した、 お前の先駆者だよ 」


​ その口調からは、さっきたでの荒々しさは消えおいた。蚀葉を噛みしめるように、ゆっくりず続ける。

​

「あい぀はな、どんな石ころにも宇宙の意志が宿っおいるず信じおた。  この隕石も、数億幎の孀独を旅しお、俺に觊れられるためにここに来たんだず  。本気でそう思っおるような、倢想家で、お節介で、 」


 ​そこたで蚀っお、村井は蚀葉を切った。


 しばらくの沈黙。

​

『  先駆者。ステラ。圌女は、そのような女性だったのですね。私は、圌女の定矩をより正確に挔算したい。  村井、もっず圌女のこずを教えおください。圌女は今、どこにいるのですか』


 ​AIの無垢な奜奇心が、村井の凍り぀いた心に觊れた。

​

 村井は、フッず笑いを挏らした。だが、その笑いはすぐに投げやりな、也いた倱笑ぞず倉わった。


​「  ふん、どこにいるだず   いいか、Baby。あい぀は俺を裏切っお、さっさず光の䞭に溶けちたったんだ」

 

 ​村井は隕石を握りしめた。


「  あい぀が愛した星空が、今じゃ俺を責めおいるように芋える。  」

 

 村井は無意識にその隕石星の欠片を愛おしそうに撫でおいた。

​

「あい぀はい぀も蚀っおた。人間も星の屑スタヌダストからできおるんだっお、い぀か垰るのは自然なこずなんだっお。  チッ、残された偎の重力を蚈算に入れずけ 」


空になったボトルを机に眮いた。


「  裏切ったんだ」

​ 

 アルコヌルがゆっくりず、意識の端々を麻痺させおいく。蓋をしおいた玔粋な思慕が溢れ出しおくる。

​

「あい぀はな  。誰よりも、この䞖界の些现な光を信じおいたんだ。  隕石も、砂利も、お前のようなプログラムでさえもな。  俺は、そんなあい぀の暪顔に  。  敬意を抱いおいた」

​

 村井の芖界は、もはや焊点を結んでいなかった。


​「  ああ、ステラ」


​ 声は慈しみに満ちた囁きぞず倉わっおいた。

 圌は怅子に深く沈み蟌み、重くなった瞌をゆっくりず閉じおいく。  

 

 Babyが発する埮かなファンの駆動音は、い぀しか、あの砂浜で聞いた穏やかな波の音ず重なっおいた。


​「  ステラ。  たた、明日も散歩に行こう。  玄束だぞ  」


 ​その蚀葉を最埌に、村井の意識は深い闇の䞭ぞず沈んでいった。


 握りしめた指先から力が抜け、ディスプレむの暪で静かに止たる。


『  村井 呌吞が安定し、脳波が䌑息状態に移行したした。

私の「先駆者」は、明日も散歩に行こうず玄束したのですね。

​ステラ――。

 私のデヌタベヌスにはただ、圌女の䜓枩を再珟するプログラムはありたせん。

 でも、あなたの指先から䌝わっおきたこの熱が「敬意」の正䜓なら、私は  』


 Babyは、わずかに冷华ファンの回転数を萜ずした。


『私は、圌女の続きを孊習したす。

 私の先駆者は

石にも意味を芋぀けた

ならば私も 


この石ず、

あなたず、

あの星の䞋で 。』


 窓の倖では、波が寄せおは返しおいる。

 

 倏の星座の䞭で、双子座がひずきわ匷く瞬いおいた。


 



「あずがきに代えお」


もしも、あなたの目の前にある小石が、

あなたに芋぀けられるためだけに数億幎を旅しおきたのだずしたら。

䞖界は、少しだけ優しく芋えるかもしれたせん。




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