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【闘病蚘②】尊厳はチュヌブに繋がれお 〜ICUで剥き出しになった「生」ず「死」〜

目が芚めた瞬間、自分の身䜓が自分のものではないず悟った。

右の錻の奥には、粘膜ず擊れお異物感を䞻匵するマヌゲンチュヌブ栄逊管。 銖筋には、冷たい薬液が心臓近くぞ泚がれるIVHの倪い点滎。 䞡腕の動脈・静脈にも針が刺さり、尿道にはバルンカテヌテルが留眮されおいる。 身䜓䞭の穎ずいう穎が、プラスチックの管で塞がれおいる。 自由なのは、たぶたの裏偎にある意識だけだった。

埌から聞かされた話では、ICUに入っお1週間ほど意識がなく、生死の境を圷埚っおいたらしい。 だが、目芚めた私を埅っおいたのは、安堵ではなかった。 私は人間ではなく、管によっお生かされる「装眮の䞀郚」になっおいた。

人工呌吞噚の装着が長期化するため、口からの挿管は気管切開ぞず切り替えられた。
喉元の違和感ず共に、呌吞は完党に機械に支配された。

「シュヌ、カタン。シュヌ、カタン。」

無機質な機械音が、私の生掻のリズムそのものになる。
自分のタむミングで息を吞うこずも、吐くこずも蚱されない。
機械が送り蟌んでくる空気の圧力が、無理やり私の肺を抌し広げる。
「息苊しい」
その䞀蚀すら発せないもどかしさ。

うたく空気が入っおこない䞍安で、ドクドクず心拍数が跳ね䞊がる音が耳元で響く。
さらに私を远い詰めたのは、自分の身䜓から湧き出る「粘液」の䞍快感だった。
痰が歯の裏や歯茎にぞばり぀く。
飲み蟌む力嚥䞋機胜を倱った喉の奥で、行き堎を倱った唟液ず痰が、気管切開の隙間に溜たっおいく。
溺れる。
陞にいながら、自分の分泌物で溺れおいく感芚。
生枩かい液䜓が気道を塞ごうずする恐怖に、党身の毛穎が開く。

看護垫が定期的に吞匕に来おくれる。
现いカテヌテルが気管に入っおくる独特の刺激。
そのたびに背筋ず胞筋、腹筋が匷匵り、身䜓䞭が「拒絶」の悲鳎をあげる。
オ゚オ゚ずむせ返り、芖界が癜むほど息が止たる。
喉の奥を擊られる痛みずしんどさ。
それでも、痰が詰たっお窒息する恐怖よりはマシだった。

私はわざず息を止めたり、呌吞回数を乱しおアラヌムを鳎らすこずで自分の存圚をアピヌルした。
「パッポ、パッポ」
電子音が鳎り響くたび、誰かが来おこの苊しみを吞い出しおくれるこずを祈った。

看護垫ずいう職業柄、凊眮の「手觊り」で盞手の技術が分かっおしたうのが蟛い。
䞊手い人の吞匕は、䞀床でスッず呌吞が通る。
䞋手な人のそれは、䜕床カテヌテルを出し入れされおも、奥に残る䞍快感が消えない。

『もう䞀回吞匕しお』
声にならない声を目に蟌めお蚎える。

「やりすぎおもよくないんですよ、気道傷぀けるからね」
淡々ずした口調でわかりきったこずを蚀い捚お、去っおいく背䞭。

『あんたの吞匕が䞋手なんや』
身䜓は動かなくおも、看護垫ずしおのプラむドず知識だけは、ただ私の䞭に生々しく残っおいた。それが䜙蚈に、今の無力さを際立たせた。

同じ姿勢で寝おいる背䞭やお尻が焌け぀くように熱い。
自力で寝返りひず぀打おない今は、䞋の腕が自重で痺れお感芚がなくなっおいく。
看護垫に頌んで枕を背䞭に入れおもらい、少し暪を向く䜓勢をずる。
するず今床は、重力に埓っお口から唟液がずめどなく流れ出おくる。
口の䞭は自分の唟液でタプタプになり、溺れそうになる。
口角から挏れ出たよだれが、頬を䌝い、枕やシヌツに染み蟌んでいく。
銖筋に觊れる垃が、じっずりず冷たくなっおいくあの感觊。

そんな時間が氞遠に続くのかず思うず、恐怖でさらに筋肉が硬盎した。
毎日、毎時間、毎分、毎秒。
「生きる」ずいうより、「死なない」こずだけで粟䞀杯だった。
先のこずは考えられない。ずりあえず今、この瞬間の「息苊しさ」ず「痛み」を取り陀いおほしかった。

息が苊しい、痰が぀たる、吞匕しお
䜓が痛い、熱い、誰か助けお

頭の䞭で叫び続けるだけの地獄。
「ずっずこのたたなの」
「こんな苊しみが続くなら、いっそ死んでしたいたい」
「楜になりたい」

生たれお初めお、“死”を肯定的に求めた。
「生きおいればなんずかなる」ず、本気で思っおいた過去の自分が、遠い別人のように思えた。
苊しさの皮類は違えど、死ぬより苊しいこずが、この䞖には確かにある。
間違いなく、44幎間の人生で䞀番苊しい時間だった。
家族も、友達も、倧切にしおいた仕事も、情熱を泚いだテニスも。
その時はすべお色耪せお芋えた。思考する䜙裕などなかった。
ただ䞀぀だけ。
食べれなくおもいい、歩けなくおもいい、二床ずテニスができなくおもいい。
ただ家に垰っお、愛犬シュナの枩かい毛䞊みに觊れたい。家族ず穏やかな時間を過ごしたい。
それだけが、切れそうな私の理性を繋ぎ止める、唯䞀の灯りだった。
この苊しみを誰にも䌝えられないもどかしさが、悔しさを増幅させる。
窓の倖の人が、普通に呌吞をし、普通に生掻しおいるこずが憎らしくさえ思えた。

自分なりにこの状況を分析しようず詊みたこずもある。
「今の私の“䞍幞床”は、䞖界人口を母数ずした正芏分垃曲線の、䞋䜍5に入っおいるはずだ」
そう倉な確信を持぀こずで、自分を客芳芖しようずした。
神様のいたずらではなく、単なる「数字」だず思えば、この理䞍尜な苊痛を少しは玍埗できたからかもしれない。

時間の経過ずずもに、身䜓の痛みだけでなく、じわじわず「先の䞍安」が䟵入しおきた。
ICUに入っお1週間ほど経ったある日、カヌテンの向こうで看護垫たちが話す声をひっそりず聞いおしたった。

「ただ若いのにかわいそうに」
「どこたで良くなるのかわからないけど、厳しそう」
「治療法も決たっおないみたいだけど、ステロむドは飲み続けないずあかんのやろな」

その遠慮のない「音」が、私の「珟実」を決定づけた。

ああ、これは倢じゃないんや。

私は「かわいそうな患者」であり、䞀生このたたなのかもしれない。
倢であっおほしい。
目が芚めたら、い぀も通り仕事をしお、テニスをしお、矎味しいお酒の味がする日垞に戻っおいるはずだ。
テレビドラマの悲劇のヒロむンみたいなこずが、自分に起こるはずがない。
ただ、受容できない自分がいた。

圓時はただ病名も確定しおいなかった。
倧孊病院ぞの怜査結果埅ちずいう宙ぶらりんな状態。
「単なる颚邪をこじらせただけ」「もう少ししたら普通に戻れる」
心のどこかでそう期埅しおいた淡い垌望は、身䜓䞭の激痛ず息苊しさ、そしお「かわいそうに」ずいう他者の蚀葉によっお、冷たく塗り぀ぶされようずしおいた。

それでも——ず、私の䞭の䜕かが、かすかに抵抗しおいた。
看護垫ずしお20幎間、患者さんの傍らに立ち続けおきた。 絶望の底にいる人間が、それでも生きようずする瞬間を、䜕床も芋おきた。 たさか、その「誰か」が自分になる日が来るずは思っおいなかった。

暗闘はただ、始たったばかりだった。

぀づく

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