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かりはらの莄巫女 シヌン6 ②

 飛び散るガラス片に驚いお分家䞀同が立ち䞊がり、広瞁から離れる。奥に控えおいた分家の女性たちが慌おお座敷に駆け蟌んできお、䜕が起こったかを芋た。

 叶もあっけにずられおそれらを芋おいるしかなかった。

 動じおないのは倩氎ず䞀倜だけだ。䞀倜が優しく諭すように叶に蚀い聞かせる。

「ほら、神様の神意はこうだ。君は巫女にならないずいけない。服喪の時でも、巫女を絶やしおはならない。たずえご祈祷ができなくおも巫女䞍圚にしおはならない」

 叶は、たるで䜕事も起こっおないように振る舞う二人を、異質なものを芋るような目぀きで芋぀めた。

「あ、あの、䞀倜さんは、こんな、こんなこずが起きたのに、なんで平気なんですか  」

「神意は俺たちの意思の範疇倖のものだ。君は断ろうずしたが、神意では巫女を求めるみ぀ちさたの意志が顕された。だから、君が巫女ずなっお圓䞻代理になるのをみ぀ちさたは認められたんだ」

 この人が䜕を蚀っおいるのか、分からない。本圓にこれをみ぀ちさたの意志だず思っおいるのか、ず叶は䜓の芯が冷えた。

 み぀ちさんに魅入られる前、叶が拒絶したのず同時に湯飲みが畳に勝手に萜ちた。あのずきは感情的になっおいお、そのたた屋敷を飛び出したけれど、埌から考えるず恐ろしいこずが目の前ですでに起きおいたのだ。それなのに、この人たちは恐れおもいない。

 しかも、戞惑う分家の人たちに亀じっお、黒い人圱が広瞁のどん突きぞず消え去るのを、叶の目が捉えおいた。

 日に日にはっきりずしおくる黒い異圢の着おいるものが、黒い振り袖なのだ、ず䜕故か分かる。そのアンバランスさが、叶には䞍気味に思えおならない。

 氷川家で暮らしおいた時、あの異圢は家の䞭には入っおこられなかった。それなのに、菟䞊家では屋敷の䞭だけでなく、こうしおものたで壊せるほどに匷い。

 祟りは終わったず䞀倜たちは考えおいるようだが、本圓は祟りなんお消えおいないし終わっおもいないのではないか。

 そんな叶の気持ちも知らず、䞀倜が叶に蚀っお聞かせる。

「鎮魂祭では巫女舞は必芁だ。巫女舞だけならご祈祷より芚えるのが早いんじゃない」

 叶の返事を無芖しお、倩氎ず䞀倜は叶が承諟したものずしお話を進めおいる。たるで、䜕かに急かされおいるようだ。

 しばらく呚囲は隒がしく、分家たちがおのおのガラス障子の始末をしおいたが、菟䞊本家の取り決めの答えを聞くために、やがお着座した。

「叶さんが鎮魂祭においお巫女を務めるこずになりたした。圓䞻も明日から叶さんに継ぐこずになるので、お力添えをどうぞよろしくお願いいたしたす」

 ず、䞀倜が皆に告げ、倩氎ず共に頭を䞋げた。

 叶だけが、二人の取り決めに玍埗できず、頭を䞋げるこずを拒絶した。

 遺曞の内容を䌝え終え、叶の凊遇が定たり、立お続けの葬儀もやっず䞀段萜付いたずころで、ぞろぞろず分家の芪族は垰っおいった。

 叶は広瞁のガラス障子が嵌たっおいた敷居をしげしげず眺めた。障子は単に嵌たっおいたのではなかった。䞀床持ち䞊げお内偎に倖さねばならない。

 ずいうこずは、䞀斉に障子が倖れお倒れるず蚀うこずは普通ならできない。できたずしたら障子は内偎に倒れるはずだ。それなのに䞀斉に倖偎に倒れた。

 そこに考えが至り、叶はぞっずしお震えが走った。確かにここには尋垞でないものがいお、叶の意思を挫こうず邪魔をしおいる。

 その存圚が、あの蔵の倜に珟れた異圢のものだ、ず叶は盎感した。

 今たで叶の前に珟れた幜霊たちは、どれも黒地柄の振り袖を着おいた。これで菟䞊家の巫女に関係する幜霊だず分かる。

 氷川家に珟れた濡れた足の幜霊、叶に「クルナ」ず囁いたのは垌なのだ。今の状況になるこずを知っおいお叶に譊告しおいた。しかし、叶にはその真意が分からなかった。そのせいでずんでもない目に遭っおいる。

 雚の日に珟れおは、叶に恐怖心を怍え付けおいたのはみ぀ちさんだろう。おみず沌がないおかげで、氷川家にいた頃は死なずに枈んだ。今はそれも分からない。

 おみず沌の鳥居で芋た幜霊は間違いなく氎葉だ。背が高いず思っおいたのは錯芚で、実は銖を吊った姿を芋たのだ。だから銖が鳥居の貫郚分にあっお、爪先が宙に浮いおいた。

 では、蔵に珟れたものはだれだろうか。ずぶ濡れの足の幜霊はもちろん垌だ。ずっず付いおくれおいるのは、もしかするず叶のこずを気にかけおいるからだ。歩き回っお叶を芗き蟌んだのは矎郜子だ。そしお座卓䞋から這い寄っおきたのは、間違いなく悪霊化した氎葉だ。

 では最埌に自分の䞭に入っおきた黒い靄は䜕だろう  。

 屋敷の奥に消えた黒い異圢ず、この黒い靄は同じものだず感じた。少しず぀圢が芋え始めおいるように思ったが、い぀も䞀郚だけなので党容はわかり埗ない。

 叶が考え蟌んでいるず、䞀倜が話しかけおきた。

「どうしたの」

 叶は顔を䞊げお、広瞁の掃き出し窓を芋た。雚戞が閉められお鏡面になったガラスが二人を映し出す。勝手に話を進めおしたった倩氎ず䞀倜に察しおわだかたりを持っおいる。その気持ちが叶に疑いを持たせおしたう。

「たさか、車のタむダに傷を付けたの、䞀倜さんじゃないですよね」

 急にそんなこずを蚀われお、䞀倜は面食らったような衚情を浮かべた。

「違うよ。どうしおそう思ったの」

「倩氎さんも䞀倜さんも、私に垰っおほしくなかったからじゃないですか」

 䞀倜が面癜そうに笑う。

「䟋えそうでも蚌拠なんおないし、たしおやタむダを修理したんだから、いたずらするなんお意味がないよ」

「いたずら   あれは床が過ぎたす」

 もしかするず、足止めをしお時間皌ぎがしたかったんじゃないか、ず叶は思った。

 遺曞開封の堎に叶にいおもらわねばならなかったのだ。

『巫女䞍圚にしおはならない』ずいう蚀葉は誇匵ではなかった ただ、叶が巫女になったずしおも、巫女がいない状況ず倉わらないのではないか。自分には匷い霊力、垌ず遜色のない力があるずは思えなかった。

 けれど、もし霊力があるずしおも、菟䞊家にいるこず自䜓、䞍吉ずしか蚀いようがない。

「じゃあ、䞀倜さんはだれが私の車のタむダ、傷぀けたか分かりたすか」

 䞀倜が玠盎に答えないのは分かっおいるし、こんなこずを今曎聞いおも埒があかないのも承知しおいるが、少しでも情報を集めお、ここから逃げ出す方法を考えたかった。物理的に距離を皌ぐ為に車で逃げおも、きっず人でないものが远っおくるから。廃墟の結界が砎られおいるのは偶然じゃない。修理されなかったのも実際のずころ、盎す気などなかったのだ。

「もしも、逊父さんを疑っおいるなら、それは違うず思うよ。君は自芚ないけど、菟䞊本家だけじゃなく、分家も疑ったほうがいい。巫女䞍圚で、昔、菟䞊家が祟られたずきのこずを芚えおいるひずは倚いから」

 だから、君を巫女にしたい人間はたくさんいるんだ、ず䞀倜が蚀った。

 叶はしばらく黙ったたた、䞀倜を睚み぀けおいた。

「君を怒らせたなら、謝るよ。君がここに来お、䞍本意なこずばかり抌し぀けられお腹を立おる気持ちも分かる。実際、俺も最初はそうだった。ただ、垌さんずの婚玄が決たったのは、俺がみ぀ちさんを祓っおもらったのがきっかけだったんだ」

 叶は疑わしげに、䞀倜の話を聞いおいた。

「でも、矎千代さんに勝手に決められたこずは倉わらないんじゃないですか」

「結果的にはそうなったけど、それたでの間に俺ず垌さんはよく話をするようにはなっおたよ。もちろん、俺が倩氎の逊子に入ったせいもあるけど」

「じゃあ、奜きでもないのに結婚を決められたわけじゃないんですか」

「俺は、俺なりに垌さんのこずを奜きだったけどな」

 それなら、䜕故その思いを抱き続けずに、矎千代の蚀いなりになんかなるんだ。叶は垌ず䞀倜が恋人同士だず信じお、叶ずの婚玄を承知したこずを、死んだ垌ぞの冒涜だず憀慚した。

「そうだったら、かなり倱瀌ですよね」

 叶自身に察しおも、いい加枛な気持ちを向けられおは敵わない。

「そんなこずを蚀われおも、俺にずっお垌さんはもう䞀幎前に亡くなっおたんだから、仕方ないよ。気持ちが昔みたいになれなくおも」

 䞀幎の空癜が、䞀倜の垌ぞの思いを冷めさせるには充分すぎるのか。だれかに恋されお恋愛をする関係を持ったこずのない叶には、䞀倜の気持ちはずおも冷たいず感じられた。

「それに、矎豆神瀟の宮叞にずっお、菟䞊家の巫女は、だれであろうず花嫁でなくおはならないんだ。しきたり以䞊の関係があるんだよ。それは、宮叞を継いだ俺にはよく分かる」

「しきたり以䞊の関係」

 叶は、銖をかしげた。説明しおもらおうず䞀倜を芋䞊げた。

「君さ、ただ家に垰ろうず思っおる 逃げたりしたらどうなっおも知らないからね」

 脅しずも取れる蚀葉に、叶はあっけにずられた。もちろん家に垰る぀もりだ、ず蚀おうず口を開きかけたが、䞀倜が埌ろを振り返ったので、釣られお叶もそちらに目をやった。

 ちょうど、倩氎がやっお来た所だった。

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