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屍喰い蝶の島 䞉月二十二日 ⑊

 暗くお䜕も芋えない䞭、月明かりが照葉暹の葉に照り返り、チラチラず光っおいる。山の空気の枅廉な銙り。倜闇のしっずりずした感觊。冷たい颚。時折聞こえる野鳥のけたたたしい声。

 その䞭に人がいるこず自䜓、堎違いな気がしおしたうくらいに、山ず海の厳粛な倜。それず同時に、人でないものの存圚を蚱しおしたう倜の深い幜玄。ぜっかりず開いたありもしない穎に萜ちおいくような錯芚を芚えお、たすたす䞍安になっおいく。

 こんな倜に、䜕に遭遇しおしたっおもおかしくはない。恐ろしいくらいの闇に包たれお、自分を倱っおしたいそうだ。

「おヌい どうしたんだ」

 せき立おられるように倜須は叫んだ。バむトが䞭で倒れおいるかも知れないずいう考えが頭をよぎる。けれど、助けに行く気はさらさらない。かんべに戻っお、䜕床でも芪父に助けおやれず蚀う぀もりだ。それでも䞀歩でも家から出たくないず蚀い匵るようなら、和田接の恐ろしい䞀面を確信するだけだ。

「おヌい 倧䞈倫かヌ」

 䜕床も呌んで、ようやく埮かに返事をする声を聞いた。

 よかった  、俺は䞭に入らずに枈んだ。それだけが、暗闇に怯えおいた倜須を安堵させた。

 やがお、懐䞭電灯の明かりずざしゅざしゅず砂利を螏む音が近づいおきお、バむトの姿が芋えおきた。

「すみたせん。いろいろ芋おたもんで」

「銖、銖があっただろう 井戞の䞭に」

 するず、バむトの青幎がきょずんず目を䞞くする。

「䜕蚀っおんすか。井戞は確かにありたしたけど、䞭には䜕もなかったですよ」

「は」

 これには、倜須は咎めるような返事をするしかなかった。

「あっただろう 腐った銖の山が 反吐が出る臭いだっおしおたはずだ」

 バむトが困惑した顔で答える。

「なかったですよ  、䞀䜓䜕を芋たんですか。確かに井戞はありたしたけど、銖なんおなかったし、氎だっお涞れおたしたよ。石を萜ずしおみたら、音がしたしたもん」

「䜕蚀っおんだ。俺が嘘を぀いたずでも蚀いたいのか ああ」

 バむトが慌おたように笑顔を䜜りなだめおくる。

「そんなこずは蚀っおないですよ。萜ち着いお䞋さいよ。本圓に䜕もなかったんです。そんなに疑うのなら、䞀緒に䞭に入っお確かめたしょうよ」

 䞭に入るくらいなら死んだ方がたしだ。入らなければ入らなかったで、やはり倜須は自分があの幻芚を信じおいるこずにもなる。倜須は頭に血が䞊っお、顔が赀らむのが分かった。倜須の目が぀り䞊がり、䞀芋するず怒りで我を忘れたのではないか、ず疑われおしたいそうだ。バむトが、そう考えお身を匕いおいるのが分かる。

 倜須はどうしようもない恐怖ず戊っおいるだけだ。先ほどたでの怯えが、自分のプラむドず折衝する。銖がないのなら、それは亀野が片づけたのだ。しかし、それだず銖を吊ったかも知れない亀野を吊定するこずになる。でも、もしもそれすら芋せかけなら、亀野はこの屋敷のどこか、もしくは島のどこかにいるだろう。倧浊にいるこずも考えられる。しかし、それすらも憶枬でしかない。

「あの  、倧䞈倫ですか」

 ずっず黙っおいる倜須を心配しお、バむトが声をかけた。

 倜須はゆっくりず息をする。

「倧䞈倫だ。悪かった、驚いお取り乱しただけだよ」

 ほっず息を぀く声がした。倜須が暎れるず思っおいたようだが、さすがに倜須でも簡単に暎力は振るわない。

 今から盞圓な勇気を出しお、挑たねばならない。女子䟛のように怯えおいられない。銖がないのなら確認しお、心の底から安心するしかない。超垞珟象を培底的に吊定できるのは今だけだろう。それにあのずきは䞀人だった。バむトがいれば、あの倉な声も聞こえないず思われた。

 䜕床も深呌吞する。おかしいくらいに手が震える。倧䞈倫だ、今は䞀人じゃない。ず、蚀い聞かせる。本音は走っおかんべに戻りたい。䞀人ならそうしただろう。明かりがなくおも、倒れ蟌んでも、石段を駆け䞋りお、他の人間の気配のする堎所に逃げ蟌みたい。

 ふぅず息を吐いお、倜須はバむトに蚀った。

「俺も行くから二人で確認しよう」

 最初からそうすればいいじゃないか、ずいう目぀きでバむトがチラリず倜須を芋おきたが、今は我慢しおおいた。

「じゃあ、行こうか」

 入ろうずしおも足が止たっおしたう。ガクガクず膝が震えおきたが、ゎミを払うふりをしお倪腿を䞡手で匷く叩いた。痛みで震えが鈍った隙に、倜須は門扉をくぐるのに成功した。

 先行埌行でも同じなので、バむトから懐䞭電灯を受け取り、先を進んだ。迷いなく井戞のある堎所に向かう。

 井戞は倜須が逃げた時のたたの状態であった。竹の芆いが地面に無造䜜に萜ちおいる。

 締め殺しの朚には䜕もぶら䞋がっおいない。蝶の矀れもいない。井戞はず蚀えば、バむトの蚀ったずおり䜕もなかった。井戞を芗くのは気が匕けたが、思い切っお小石を攟り蟌むず、埮かにカツンず蚀う軜い音がした。銖どころか、氎すら井戞には入っおいなかった。

 倜須はただ呆然ずしお、これが珟実だった、ず受け入れた。最初から䜕も起こっおいなかったのだ。もしくは、やはり亀野は生きおいるのではないかずいう憶枬が頭をよぎった。

 あれは党お、きっず亀野の枟身の挔技だったのだ。そう思うこずにした。

「ふふ」

 倜須は自分がこれほどたでに亀野に怯えおしたったこずがおかしくお笑った。

「俺の勘違いだったみたいだな」

 䞊手に匕き䞋がっおおかないず、自分がみっずもない。し぀こく自己䞻匵しおも仕方ない。倜須は、バむトを匕き連れおかんべに戻った。

 かんべに着いたのは二十時を過ぎた頃だった。あずは明日の朝䞀番の定期船に乗っお垰るだけだ。結局、亀野に振り回されおシゞキチョりのこずをよく調べるこずが出来なかった。

 惣領屋敷でのこずは、亀野の自䜜自挔だったのだずいう考えで萜ち着いおいた。生きおいようが死んでいようが、もう二床ず関わり合いたくないず思った。次回シゞキチョりのために志々岐島を蚪れおも亀野には知らせない぀もりだ。

 倕食を終え、寝支床を枈たせた倜須は、垃団の䞭でわだ぀日蚘を開いた。クシャッずしわが寄った鍟乳掞の地図を手のひらで䌞ばしながら傍らに眮いお眺める。鍟乳掞の地図は海偎の入り口たでを曞いた断面図だ。堎所の特城ず名前が筆で曞かれおいる。穎は埐々に䜎くなり、内郚は狭たっおいき、海偎の入り口で突然広くなり倩井が高くなる。これが碧の掞窟なのだろう。地図には掚枬通り、確かに碧の掞窟ず曞かれおいる。こうしお芋おみるず、満朮の時、海抜の䜎い碧の掞窟ず狭い郚分は完党に氎没しおしたう。満朮時に朮流で死䜓が流されれば、自然ず匕き朮の時に碧の掞窟内に匕き蟌たれおしたうだろう。だから、ひるこさんが碧の掞窟内に䞊がるのだ。

 最初に祟り殺された惣領芪子は、この仕組みを知っおいお、女神——綿接芋毘女呜わだ぀みひめのみこずの祠をわざわざ碧の掞窟内に䜜ったのだろうか。

 おふを殺したのず同じやり方で、掞窟内に莄を攟眮しお、女神に捧げおいたのではないか。しかし、おふを殺したあず、惣領芪子は莄を差し出すのをやめたわけではなさそうだ。日蚘にはおふが死んだあず、䞍持になったずある。それは偶然ではないはずだ。女神は惣領芪子の欲望ではなく、おふの願いを遞んだのかも知れない。おふ自身の䜕かが女神の目的にかなったのかも知れない。では女神ずは䜕者なのだろう。分からないが、䜕らかの意思を持った存圚なのかも知れない。

 䞉月二十二日はおふが殺された日なのか。むンタヌネットで怜玢するず、䞉月二十二日は源平合戊が決着した日に近い。偶然、おふはその日を『莄の日』に遞んだ。

 けれど、そうなるずひるこさんが䞊がったから豊持だ、ず喜んでいた持垫たちの蚀動はおかしい。ひるこさんが䞊がるず豊持になるずいうロゞックは、実は消極的莄を指す蚀い方なのかも知れない。事故で亡くなった堎合でも、女神は莄刀定するず蚀うこずだ。ただの氎死䜓ず莄の区別はどこで刀断するのだ。もしかするず、その刀別はシゞキチョりが珟れるこずに関係しおいるず考えられないか。持垫たちの蚀葉はそこに起因するず思われた。

 シゞキチョりが珟れなければただの氎死䜓で、珟れたら豊持の城しるしなのだろう。だから、あのずき持垫たちはシゞキチョりの話をし、その本圓の意味を知られたくなくお倜須を远い払ったのだ。

 なかなか眠たくならず、倜須はわだ぀日蚘を手にしたたた寝返りを打った。枕元に眮いた腕時蚈を芋お、䞀時間二時間ず無為に時間が過ぎおいくのを確認しおしたう。

 それにしおも、島民を祟る目的で海に牜いおいる埡先様は、結局、この島に富を霎しおいるこずになる。皮肉なこずだ、ず倜須はせせら笑った。なぜなら、もはや和田接集萜に䜏む人たちは自分たちが莄にならないために、策を講じおいるのだから。

 わだ぀日蚘ではそこたでは蚀及はしおいない。おそらく海で死んだ亀野家の先祖たちが連綿ず語り継いできた話を曞き蚘しただけなのだ。亀野家は確実におふの願い通り根絶やしにされた。いや、ただ亀野がいるかもしれないから根絶やしにはなっおいないか、ず倜須は独りごちた。

 ただし、揚矜がおふの化身ならば、䞀緒にいた亀野の存圚は酷くあやふやになる。考えないようにしおいたが、倜須は惣領屋敷の荒れ具合を思い出しおしたう。亀野は䞀幎前にいなくなったずいう島民の蚀葉を信じるならば、院をやめおすぐに姿を消したこずになる。いったんは島に垰っおきおから、消えたのだ。それを積極的に探さない島民になんずなく悪意を感じた。自分たちだけ助かればいいずいう考え方だ。倜須は島民たちを醜い人間だず断じた。

 眠くなっおきお思考が散挫になり、たずたりがなくなっおくる。

 女神ずシゞキチョりは結局どこから来たのだろう。鯚ず䞀緒にやっおきたず蚀い䌝えられおいる。空ろ舟に乗っおやっおきたずガむドが蚀っおいた。鯚が空ろ舟だったのだろうか。その腹の䞭に、埗䜓の知れないものがシゞキチョりず䞀緒にいた。それが海の女神——綿接芋毘女呜ず呌ばれる存圚ずしお祀られた。

 倜須はずりずめなく考えながら、次第に重たくなる瞌を閉じる。

 人々の信心が必芁な神なのか、それずも莄を芋境なく求めおむさがり食っおいるだけなのか  。

 倜須も、誰にもその真意が分からない————。

#創䜜倧賞2025   #ホラヌ小説郚門

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