まるいのは、人望です。
午前七時十二分。
そろそろ来る。オレは前足をそろえ、通りの向こうを眺めた。白い袋をぶら下げたお姉さんが、こっちへ歩いてくる。オレはいつもの白い車の下から、のそりと顔を出した。
「にゃあ〜ん」
声は高め。尻尾を立て、足元へ体を擦りつけ、ついでにくるっと一周する。営業スマイルならぬ、営業鳴きだ。愛想というものは大切である。
「今日もかわいいねえ」
そうだろう。近う寄れ。この女の前では、オレは無垢で愛くるしい一匹の猫である。
皿に盛られたのは、いつものウェットフード。
香りは悪くない。粒の大きさも好みだ。噛んだときの食感にも安定感がある。ただし、量が少ない。
「最近ちょっと太ったんじゃない?」
余計なことを言うようにもなった。苦しゅうない。明日はもう少し盛れ。
★★★★☆
腹が満たされると眠気がくる。アスファルトの熱を避け、オレは再び玉座へと潜り込んだ。ひと眠りして小腹が空いた頃、次の献上者が現れる。品のあるマダムだ。
「あら、今日もいたのね」
オレは即座に跳ね起きた。あの手に握られている細長い袋を、オレは知っている。
「にゃあああ〜ん♡」
朝七時の女より半音高い、渾身のソプラノだ。
チュールである。
マダムの足元を二周、三周と入念に回る。
「はいはい。待ってたの?」
待っていた。チュールを。これには、媚を売るだけの価値がある。
ぺろぺろ。うむ。今日も申し分ない。
ただし、このマダムには難点がある。食事中、無遠慮に触ってくるのだ。頭ならまだいい。背中も許そう。しかし、調子に乗って腹へ手を伸ばしてきた瞬間、オレはスッと身を引いた。
★★★★★
日が高くなり、この避難所にも光が差し込んできた。オレは影を追いかけて、車の奥へと陣取り直す。そこへ、ガサガサと聞き慣れた足音が近づいてきた。
「おーい、飯持ってきたぞ」
オレは動かない。鳴きもしない。
……また、それか。
安いカリカリである。猫なら何でも食べると思っているのだろうか。量は多いが、袋を開けた瞬間からわかる安直な香り。盛り付けも雑で、皿の中央にドサッと置くだけだ。
「ほら、食わないのか?」
暗がりから顔だけ出してやった。仕方がない。二、三粒だけ食ってやる。やはり、いつもの味だ。
「今日は腹減ってないのか?」
オレは鼻を鳴らして顔を引っ込めた。
下げい。
★☆☆☆☆
日が暮れだすと、人間たちの営業時間は終わるらしい。
駐車場を見渡すと、誰かが追加した別のカリカリ、少し離れた皿にはウェットフード。おじさんの安物も、まだ残っている。
一日かけて、地域の民から献上された品々だ。昼間は一品ずつ厳しく吟味するが、夜は違う。
オレはゆっくりと皿の間を歩き、ウェットフードをひと口。次は少し高そうなカリカリ。口直しに水を挟み、おじさんの安物は最後まで残しておく。
今宵も宴じゃ。
翌朝。いつもの車の下で寝ていると、お姉さんがやってきた。
「チャトラ、また丸くなった?」
失礼な。オレは太っているのではない。これは、人望である。

今回のバトンは、江田島獄長さんからいただきました🐈
獄長さんは現在、動物たちを守るためのボランティア活動にも取り組まれています。そんな方からいただいたバトンなので、今回は家の前にいる「地域猫」を主役にしてみました。
現在「ワンダーラボ」では、動物たちを守るプロジェクトに一緒に参加するオンラインボランティアも募集されているそうです。興味のある方は、ぜひ山奥AI研究所さんの記事を覗いてみてください。
P.S✉️
ユキトさん、避けた障害物は後続車が拾って完走しましたよ。コロッバーKAWAIさんやろくねこさんが実際に「。」という障害物を拾って一本書いてます😏✨
