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パスタは茹でずに「フライパンで蒸す」が正解だった? ──いつもの乾麺が「高級生パスタ」に化ける @トリセツ(元教授、定年退職657日目)

パスタの苦い思い出

以前の note でも記しましたが、私は大の「そばっ喰い」です。とはいえ麺類全般が好きなので、うどん、ラーメン、きしめん・・・本場に行くと、つい名店を探し回ります。ただ、パスタに関してはイタリアに行ったことがなく、残念ながら “本場の一皿” を体験できていません。そのせいか、イタリア料理はレストランでよく食べる大好きなジャンルなのに、パスタの立ち位置がいまひとつ掴めないのです。たとえば本格的なコースだと、前菜の後、メインの前にパスタが出てきます。美味しくてつい食べ過ぎると、「この後メインですよ」と周りから諭されます。日本だと主役なのに、あちらでは “橋渡し?” のような役回りで戸惑います。ちなみに外食で初めて食べたパスタは、老舗スパゲティ店「壁の穴」でした(喫茶店のナポリタンを除く)。今でこそ珍しくありませんが、当時は “和風スパゲティ” という発想自体が新鮮で、その美味しさに驚いたものです。スプーンとフォークが置かれていて、どう食べればよいかわからず、周囲をキョロキョロした記憶もあります。


『あしたが変わるトリセツショー』で知る、おいしいパスタの調理法

今回、そのパスタの “おいしい作り方” について、NHK『あしたが変わるトリセツショー』の特集を視聴しました。番組が提案したのは、フライパン一つと少量の水で乾麺パスタを「もちもち」食感に仕上げる、いわゆる「トリセツ流」調理法です。主婦目線では、調理時間の短縮と洗い物の削減が大きなメリットでしょう。しかし私が注目したのは、食感を “狙って” 変えられること、そして調理中に溶け出すデンプンをソースの一部として活用できる点でした。さらに番組では、乾燥工程の違いによるパスタの性格の差や、デンプンの「糊化(こか)」といった科学的な視点でも解説しており見逃せない内容でした。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)

『あしたが変わるトリセツショー』で知る、パスタの “おいしい作り方”(注1)


パスタの常識を覆す「フライパン蒸し」のメカニズム

まずは「トリセツ流」の要点です。一般にパスタといえば、たっぷりの湯を張った鍋で茹で、湯切りしてソースを絡めます。大鍋が推奨されるのは、湯量が少ないと温度変動が大きく対流も不安定になり、茹でムラが出たりします。ところが今回、小麦粉研究の山田先生が開発した方法は、鍋ではなくフライパンを使い、水はコップ一杯程度。ポイントは “フタ” です。フタをして加熱するとフライパン内が蒸気で満たされ、麺は湯の中で泳ぐのではなく、蒸気と少量の水で「蒸される」状態になります。番組では、餃子を焼くときに最後に水を入れて蒸し焼きにし、皮をもちもちにするのと同じ発想だと説明していました。蒸気の力で熱を効率よく伝えるわけですね。実際、フタをして数分するとパスタが完成し、試食したゲストは「艶がある」「旨味が強い」と驚いていました。まさに、調理法でここまで変わるのか、という反応でした。(下写真もどうぞ)

開発した山田先生が強調するポイントは「フタ」。餃子の時と同じ発想(注1)
「フライパン蒸し」のメカニズム(注1)


アルデンテ vs もちもち──乾麺にも “性格” がある

番組では乾麺パスタを、アルデンテになりやすいタイプ(中心に芯が残りやすい)と、もちもち食感になりやすいタイプの大きく二つに分けて紹介していました。日本の家庭でよく使われる乾麺は、比較的アルデンテになりやすいタイプが多いそうです。一方、イタリアの伝統的製法のパスタは、もちもち方向に振れやすい傾向がある、と番組は説明していました。両者の差を生む要因として挙げられていたのが「乾燥工程」です。高温で短時間乾燥するもの(たとえば 90℃ で8時間)と、低温でじっくり乾燥させるもの(たとえば 42℃ で2日間)では、麺の内部構造に違いが生まれ、水や熱の入り方が変わる、というわけです。(下写真もどうぞ)

2種類の乾麺パスタの違い。アルデンテ vs もちもち(注1)


デンプンの糊化が、もちもちの鍵

番組に登場した小麦粉分析の専門家・前田先生が、茹でたパスタの断面を観察していました。染色した断面画像では、白っぽく粒状に残る部分が “十分に糊化していないデンプン” として示され、そこが食べたときに硬さ(芯)として感じられる、と説明されていました(上写真、右下)。デンプンは水と熱が加わると糊状に変化し、弾力や粘りに関わる性質を示します。低温でじっくり乾燥したパスタは水や熱が内部まで入りやすく、中心部まで糊化が進みやすい。結果として「もちもち」になりやすい。一方、高温で一気に乾燥したパスタは内部へ水や熱が入りにくく、中心が糊化しきらず “芯” として残りやすい。これがアルデンテの要因の一つという説明でした。そして驚きはここからでした。フライパンに蓋をして蒸し調理した場合、普段はアルデンテ寄りになりやすい乾麺でも、断面の糊化が中心まで進んだ状態が確認できた、というのです。つまり「蒸し」が熱の伝達効率を上げ、糊化を強く促した可能性があるります。


ソースに絡む「デンプンのとろみ」という副産物

さらに利点がありました。フライパン内で完結するため、麺から溶け出したデンプンがそのままソースの一部になります。料理人が口を揃えて言うパスタの美味しさの核心の一つは「ソースの絡み」だそうです。ソースが麺にまとえば、一体感が生まれるのです。イタリアの伝統パスタは表面に微細な凹凸があり、ソースが絡みやすいと言われます。一方「トリセツ流」は、表面形状につるつるですが、フライパン内に残るデンプンがソースに適度な粘性を与え、結果として麺とソースが “まとまる” 状態を作り出す、ということでした。(追記2, 3もどうぞ)

<追記1> 番組では、溶け出したデンプン量を定性的に比較していました。ガラス容器のヨウ素液は、デンプンがあると青紫色に変化します。鍋で茹でた一般的な乾麺、鍋で茹でた伝統製法のパスタ、そしてトリセツ流で調理した乾麺──この3種類を比べると、トリセツ流が最も色が濃く変わり、伝統製法を上回る傾向が見られた、という驚きの結果でした。(下写真、上段もどうぞ)

溶け出したデンプン量の比較と、吹きこぼれを油で防ぐ(注1)

<追記2> もちろん弱点もあります。この方法では吹きこぼれることが多いそうです。水に粘性が出て泡が消えにくくなるためだと思われます。番組では対策として、油を小さじ1杯加えると吹きこぼれにくい、と紹介していました。水と混ざりにくい油が泡の間に入り、泡が大きく育つのを抑える、という理屈です。(上写真、下段もどうぞ)


番組の終盤では、イタリアのマンマたちが作る「おふくろの味」のショートパスタにも触れていました。種類は 500 以上あるとも言われ、麺状のパスタよりくっつきにくいのでお弁当に向く、という話でした。確かに弁当のナポリタンは美味しいのですが、麺が固まって食べにくいことがあります。

いずれにせよ、次にパスタを作るときは、私も迷わず蓋を探してみようと思いました。それでは、また。(下写真もどうぞ)

ショートパスタでお弁当を(注1)


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注1:NHK『あしたが変わるトリセツショー』の特集「パスタ革命!」より

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