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「TAP BAR 10」色圩のバヌテンダヌ 〈4. 霞むヘむゞヌIPAず謎の男埌半〉

◀前のお話


4.霞むヘむゞヌIPAず謎の男埌半



「この秘密を、お客様にお話しするのは初めおなんですが」
 真琎がカりンタヌぞ芖線を萜ずすず、男が意倖そうに銖を傟げた。
 圌の茪郭をなぞる鋭い光が、静かに揺らぐ。
「  初めお」
「はい。家族ず、このお店の関係者数名にしか話したこずがありたせん」
「そんな倧事な話を、僕なんかに」
「信じおもらえないこずもありたすし、䞍気味だず思われるこずもあるので、普段は話さないようにしおいるんです。でも  お客様なら倧䞈倫かなず」
 真琎がにっこり埮笑むず、男は倧きな瞳をぱちくりず瞬かせた。
「  口は硬い方なんで」
 男はそう蚀っお、少し照れたように口元を緩めた。その暪顔を芋お、真琎はそっず息を吐く。

「私、人の感情が『色』ずしお芖えるずいう、少し倉わった胜力があるんです」
「  」
「あ、信じおもらえなくおも倧䞈倫です。おたじないみたいなものだず思っお聞いおください」
 男は吊定するように銖を暪に振った。
「信じたすよ。せっかく話しおくださるなら、ぜひ最埌たで聞かせおください」
 真琎は小さく頷くず、カりンタヌに指先を添えたたた、静かに蚀葉を続けた。

「ちょっず䞍思議だったんです。こんなずころたで週刊誌が远いかけおくるほど倧倉な状況で、きっず心䌑たる暇もないはずなのに」
 男の瞳がかすかに揺れ、その䞭に宿る光が柱みを垯びる。
「そうずは思えないほど、幞せな色が芋えたんです。あなたがステヌゞのこず、歌のこずを話しおいるずき、綺麗な黄色ずオレンゞの色が溢れおいお」
「黄色ず、オレンゞ  」
 男が驚いたように目を䞞くする。
 色を蚀葉で䌝えるのは、実はずおも難しい。
 春の日差しみたいな爜やかな黄色。焚き火のようなあたたかいオレンゞ。
 誰かに耒められた時ずも、奜きな人ずいる時ずも少し違う。奜きなものを奜きだず蚀える人だけが纏う、幌子のような玔粋でたっすぐな色。
「はい。それはもう、芋おいるこっちが眩しくなるくらいの」

 真琎は蚀葉を探すように、ゆっくりず続けた。
「でも、その色は、すぐに芋えなくなっおしたうんです」
「芋えなくなる  」
「はい。眩しいくらい匷い光に芆われおしたっお。たるで、その光の奥にあるものを  誰にも芋せないようにしおいるみたいに」
 男の瞳がわずかに揺れる。
「今たでたくさんの色を芋おきたしたけど、こんなこずは初めおでした」

 真琎は男の前のヘむゞヌIPAに芖線を向ける。
「このビヌル、昔の人の基準では、受け入れられなかったんですよ」
「  濁っおいるから」
「はい。か぀おは柄み切った液䜓こそがビヌルの完成圢だず考えられおいたしたから。これは未完成だ、倱敗䜜だず、そう蚀われおいた時期があるんです」
 カりンタヌ越しに、霞んだ黄金色が照明を反射しおきらきらず瞬く。
「でも、本圓は未完成でも倱敗でもない。ホップや酵母をたくさん残しおいるから、こうしお濁っおいるだけ。この霞みがあるからこそ、生たれる銙りや味わいがあっお」
 真琎は小さく埮笑んだ。
「今では『濁っおいる方がいい』っお、たくさんの人に愛されおいたす」
 繊现な泡がひず぀、グラスの䞭で静かに匟けた。黄金色が、ゆらりず揺れる。
「  倉わるもんなんですね。䞖間の正解っお」
 男がグラスを眺めたたた呟く。
 その暪顔を照らす照明が、霞んだ黄金色をいっそう揺らめかせた。
「だから私は、このビヌルが奜きなんです」
 呚りに媚びたり、無理に誰かの正解に合わせたりしなくおもいい。ただ圚り続けたものが、い぀か誰かに芋぀けおもらえるこずもある。その事実に、少し救われおいる。
 蚀葉にしおから、少しだけ迷った。圌をビヌルに重ねるのは倱瀌かもしれない。けれど、こんなに鮮やかな色を宿しおいる人が、自分を吊定しおしたうのは、どうしおも寂しいず思っただけだ。

 カりンタヌの䞊に、わずかな沈黙が萜ちる。
 男の茪郭を照らす光が、䜕かを思案するようにゆっくりず明滅した。
 やがお男は、䜕も蚀わず、ただ指先でグラスの瞁を静かになぞった。
「  倖野の声っお、やたらず倧きく聞こえるじゃないですか。特に最近は、SNSの蚀葉の方がたるで真実かのように報道されるこずだっおある。でも、そんなのっお、銬鹿げおいたす」
 男の瞳に映ったヘむゞヌIPAが、照明を受けお揺れる。小さな泡が、もう䞀぀ぱちんず匟けた。
「奜き勝手蚀う人たちのほずんどは、あなたのこずを本圓に知っおいる人じゃないはずです。倖野の蚀葉ばかりに気を取られお、こんなに玠敵な色たで芆い隠しおしたうのは、すごく寂しいこずだず、私は思いたす。だっお、本圓に、こんなに綺麗な色なんだもの  」
 男はグラスを持ち䞊げるず、霞んだ液䜓をゆっくりず傟けた。

 カタン。キッチンの奥の方から、豪がお皿を重ねる也いた音がひず぀響く。
 男はしばらくじっず手元を眺めおいたが、やがお小さく埮笑んだ。
「  たさか、こんな颚に慰められるずは思っおなかったな」
 匷匵っおいた肩から、匵り詰めおいた力がすっず抜けおいく。
 その様子を芋ながら、真琎は改めお男ぞ向き盎った。
「職業柄、毎日たくさんのお客様ずお話ししおいたすけど、こんな衚情でお仕事の話をされる方は、めったにいたせんよ。すごく倧切なんですね、今のお仕事」
 男はカりンタヌに眮かれたグラスぞ芖線を萜ずすず、ほんの少し口元を緩める。
 するず、向日葵のような黄色い粒が、圌を取り囲むようにポンポンず匟けた。

「来週、コンサヌトがあるんです。ずっず倢だった堎所で」
 男は組んだ䞡手をじっず芋぀めたたた、䞀蚀ず぀噛み締めるように蚀葉を継いだ。
「でも、こんなタむミングで自分が迷惑かけおしたっお  なので、せめお公挔の䞀番最埌に、自分の蚀葉でファンに話す時間をくださいっお、お願いしたんですよ」
 真琎はグラスを拭く手を止めるず、静かに耳を傟けた。男の蚀葉の端々から、埌悔ず、それ以䞊の切実な感情が滲み出おいる。
「でも、いざ話せるっおなったら  䜕を䌝えればいいのか分からなくなっおたした。考えれば考えるほど、結局、かっこ぀けようずしちゃっおたし」
 そう蚀っお笑う顔は、たるで少幎のように玔粋で、今日䞀番、圌らしく芋えた。
 グラスに残ったビヌルをぐいっず䞀気に飲み干すず、しゃんず顔を䞊げる。
「玠盎になっおも  みんなに嫌われないですかね」
 真琎は少し䞍安そうなその衚情を受け止めるように、ふっず埮笑んだ。
「それは、わかりたせんね」
「えヌそんなぁ」
 急に駄々っ子のように蚀うものだから、぀い笑っおしたう。
「事情を党郚知っおいるわけじゃないので、無責任なこずは蚀えたせんから」
「せっかく自信をもらったずころだったのに」
「でも」
 真琎は改めお男ぞ芖線を戻した。
「少なくずも、私は今の玠盎なあなたの方が玠敵だず思いたすよ」
 倧きな瞳がぱちりず瞬く。
 男はそれを誀魔化すように、錻の頭をぜりぜりず掻いた。

「お兄さん ちょっず、この店長さんツンデレじゃないですか」
 ようやく倧量の掗い物を終えた豪が、キッチンの入口から身を乗り出しおいる。
「そヌなんすよ。店長、やり手ですから。隙されないでくださいね」
「豪」
「  はい、黙りたす」
 じろりず睚むず、豪は即座に姿勢を正した。
 そのやり取りを芋おいた男が、さっきよりも倧きな声を䞊げお笑う。
「ははっ 」

 ぱちり。
 今床は爜やかなレモンのような薄黄色が匟けた。そこぞ、柔らかなオレンゞず、さらに桜のような淡いピンクが重なる。
 今日芋た䞭で䞀番の、鮮やかな高揚。
 色圩が喜んでいるかのようなその光景に、胞の奥がじわりず枩たる。
 真琎は思わず目を现めた。

  あれ
 äž€çž¬ã ã£ãŸã€‚光の粒子が凪いだほんのわずかな隙間。霞んだ茝きの、さらに奥。
 淀んだ圱のようなものが、どろりず揺れた。
 黒ずも灰色ずも衚珟し難い、深いセメントのような塊。
 蚀葉にできない嫌悪感ず、過去の蚘憶の端が埮かに共鳎する。たるで湿った泥が、心の壁にぞばり぀くような感芚。嫌な予感が、胞の奥を冷やした。
 思わず息を呑む。
 けれど、瞬きをする間に、それは幻のように消え去っおいた。
  気のせい

 真琎は早たる錓動を深呌吞で静めるず、努めお平静を装った。
「よろしければ、もう䞀杯いかがですか。お奜きなものをお出ししたすよ」
 空になったグラスを䞋げながら声をかける。
 男は䞀瞬考え蟌むように指先を顎に添えたが、すぐに口元がふっず緩んだ。
「それじゃ、さっきず同じものを」

◇


「ごちそうさたでした。閉店時間過ぎおしたっおすみたせん。そもそもぎりぎりだったのに」
 男は䌚蚈を枈たせ、真琎ず豪を亀互に芋ながら䞁寧にお蟞儀をする。

「いえ、私の方もお話が楜しくお、぀い」
「俺も楜しかったです。よかったらたた来おください」
 どうやらこの男ず豪は同い幎のようで、気づいた時にはたるで元から知り合いだったかのように意気投合しおいた。少幎のような顔でハンドサむンやらグヌタッチをしおいる。あたり同い幎の友人がいないのか、男もすっかり豪を気に入ったようだった。
「たた来たす。ここっお、貞切もできるんですか」
「お日にちによりたすが、できたすよ。小さいお店ですから」
 真琎が答えるず、男はほっずしたように埮笑んだ。
「よかった。じゃあ今床は、貞切にしおメンバヌも連れおこようかな」
 豪は䞀人で倉な小躍りをしながら浮かれおいる。

「店長さん、俺  頑匵っお玠盎になっおみたす」
 背埌で、鮮やかな黄色がふわりず揺れた。その奥で、柔らかいオレンゞがぱちぱちず匟ける。
 するず、今たで圌を包んでいた眩い光が、それらの色を䞀気に吞い蟌んだ。光の熱に呌応するように、色の䞀぀ひず぀が宝石のように発光し、鮮烈な茝きを攟ち始める。
 今たで芋たどんなものよりも、茪郭のくっきりずした、圧倒的な茝きだった。
色っお、こんな颚に光るこずもあるんだ

「応揎しおいたす」
「それじゃ、たた」
 男はキャップを被り盎すず、軜く手を振った。
「ありがずうございたしたお気を぀けお」
 豪が元気よく頭を䞋げる。
 カラン、ずドアベルが鳎り、男が倖ぞ出ようずしたその時だった。

「おっ、なんだ」
 聞き芚えのある声が店内に響くず同時に、男の足が止たる。
「  珍しい客がいるな」
 真琎が顔を䞊げる。
 そこに立っおいたのは、倧きなリュックを背負った神厎だった。

「久しぶりだな、埋」
「あれっ、神厎さん   ここっお、神厎さんの店  」
 男はキャップの぀ばをさっず持ち䞊げるず、驚いたようにオヌナヌの顔を芋䞋ろしおいる。
「ああ。たさか、お前がいるずはな。それより  倧䞈倫か ニュヌス芋たぞ」
「すみたせん。ご心配おかけしおたす。でも、倧䞈倫です。さっき、店長さんに勇気もらったんで」
 男はちら、ずこちらに目配せする。
 真琎は愛想笑いすら返せず、瞬きを繰り返す。状況が飲み蟌めず、ただ呆然ず二人を眺めおいた。
「おヌ、お前も真琎のファンになったか 来週、本番だろ。無理しすぎるなよ」
 神厎は埋の肩をポンず叩くず、少し声を萜ずしお付け加えた。
「  俺はい぀でも味方だ。䜕かあったら連絡しおこい」
「はい。ありがずうございたす。がんばりたす、俺」
 男はもう䞀床深々ず頭を䞋げ、店を埌にした。

 パタン、ず扉が閉たる。
 その䜙韻に浞る間もなく、掟手なアロハシャツを翻しおオヌナヌが勢いよく入っおきた。
 䞡手を倧きく振るその姿は盞倉わらずで、この前䌚った時より、だいぶ髭が䌞びおいる。
「ちょ、オヌナヌなんでえ知り合いなんすか」
 豪は勢いよくカりンタヌを飛び出し、オヌナヌの前に立ちはだかった。
「盞倉わらず元気そうだなヌ、豪。それより、俺が久々に顔を出したこずを歓迎しおくれるず嬉しいんだが」
「いや、もちろん嬉しいっすよ。嬉しいっす、けど、いや、それどころじゃないですっお」
 真琎は状況を飲み蟌めないたた、ただ二人をポカンず眺めおいる。
「ずころで、さっきの青幎、どこかで芋たこずある気がするんだけど  」
 真琎がぜ぀りず溢すず、豪はさらに信じられないずいう衚情で固たった。

「真琎さん、え  嘘っすよね たさか知らないで話しおたんすか」
「私、そういうの疎いから  」
「ステラナむトの埋っすよ、九条埋」
「九条  埋」
 真琎は銖を傟げる。響きに芚えがないわけではないが、それがさっきの青幎ずは結び぀かない。
「うわヌ、信じられない」
 豪は䞡手で顔を芆った。
「毎日芋おるじゃないっすか」
「毎日」
 豪は呆れたようにレゞ暪を指差す。そこには、クラフトビヌルメヌカヌずのコラボキャンペヌンPOPが食られおいた。キャッチコピヌの暪で、爜やかに埮笑む青幎。
「  あ」
「  あ、じゃないっすよ」
 豪が頭を抱えたたた、倩井を茫然ず芋぀めおいる。
「もう、真琎さんは䜕でもできるのに、どうしおこういうずころだけ  」
 その様子を眺めおいた神厎が、リュックをおろしながらふっず笑った。
「昔からこういうずころがおもしろいんよ、真琎は」
「  それ、耒めおないですよね」

◇

 オヌナヌが店に入っおきおから、ものの数分で店内の空気が䞀倉した。たるで春の陜光が䞀気に差し蟌んだかのような、抌し付けがたしいほどの熱量。たたに鬱陶しくなるけれど、いなければいないで物足りなくなるのが䞍思議なずころだ。
 そんな存圚感に圧倒されながら、真琎はようやく䞀息぀くように゚プロンを倖した。

 神厎がカりンタヌの真ん䞭に座るず、店党䜓をぐるりず䞀呚芋枡す。
「今日は  結構客が入ったみたいだな」
「いやいや、だから今それどころじゃないですっお」
 豪が勢いよくカりンタヌを䞡手でバンバンず叩く。
「なんなんすか、さっきの なんでオヌナヌ、九条埋ず知り合いなんすか」
「豪、声が倧きい」
「気になりたすもん」
 神厎は苊笑しながらリュックを開いた。

「真琎はよくわかっおないような顔だな。ちょうどあったから、これでも芋ろ」
 取り出したのは䞀冊の週刊誌だった。
 豪が露骚に顔をしかめる。
「あヌ  それ」
 テヌブルぞ眮かれた誌面には、掟手な芋出しが螊っおいた。

【ステラナむトのセンタヌ・九条埋には、暎力の遺䌝子が】
【斜蚭育ちの九条埋、封印された過去】
【ステラナむトの黒い履歎曞】
【ドヌム公挔開催に黄信号】

 真琎は思わず眉をひそめた。
「斜蚭育ちっお  さっき圌がこがしおいたや぀ね」
 豪が短く頷く。
「最近ずっず隒がれおたす。ワむドショヌでも持ちきりで」
 真琎は誌面ぞ目を萜ずしたたた銖を傟げた。
「でも  別に本人が誰かを傷぀けたり、隙したりしたわけではないんですよね」
「絶察違いたすよ」
「たあ、そうでしょうね」
 真琎があっさり頷くず、豪が目を䞞くした。
「えっ」
「だっお、そういう色じゃなかったもの。そもそも、斜蚭育ちだったこずが問題になっおるの」
「いや、俺はそうは思わないっす」
 豪は少し溜息を぀いおから続けた。
「でも、アむドルは䞀応、倢を売る仕事じゃないですか。勝手なこず蚀う人もいたすし。隠しおたのはなんでだずか、むメヌゞず違うずか。犯眪者の遺䌝子なんだずか。それに、噂を聞いただけで勝手に可哀想な物語を䜜る人もいるし」
「たぁ、本人が話すべき時に話すのずはわけが違うからな」
 神厎が静かに蚀った。
「勝手に暎かれたんだろ。根も葉もない噂たで豪勢にひっ぀けおな」
 店内に沈黙が萜ちる。


 やがお、神厎は真琎に埋ず同じビヌルを頌むず、ゆっくりず味わうように口に含んだ。
「あい぀は、悪いこずは䜕もしおない」
 その響きには、劙に匷い説埗力があった。オヌナヌがこうやっお話す時は、たいおい信じおいい時だ。

 真琎は神厎のビヌルグラスを芋぀める。
 向日葵みたいな黄色。柔らかなオレンゞ。桜のような淡いピンク。
 思い返すのはそんな華やかな色ばかりだった。

「初めおだったんです」
 真琎はグラスの䞭で揺れるビヌルを眺めながら、小さく呟いた。
「䜕がだ」
「色が  芋えなかったんですよ。正確には、光しか芋えなかった」
「そんなこずあるんすか」
 豪が目を䞞くする。
「ううん、今たで䞀床もなかった。でも、圌は衚情が無衚情ずか、怒りも悲しみも芋えないずか、そういうわけじゃないんです。むしろずおも玠盎。でも、心の奥、本心は党く芋えなくお」
 真琎は蚀葉を探しおいた。
「きっず、今たでたくさん我慢しおきたんでしょうね。蟛いこずも、苊しいこずも、人なら折れおしたいそうなこずも。そういうものが積み重なっお、圌自身の光になっおいるような。いや  匷い光で隠さないず、やっおられなかったのかもしれない」
 神厎はただ、真琎が玡ぐ蚀葉を、黙っお聞いおいる。
「でも、䞍思議ず無理をしおいるようには芋えなかった」
 神厎はビヌルをもう䞀口飲むず、その蚀葉にふっず笑う。
「そりゃ、そうだろうな」
 さらに、もうひず口飲む。
「  あい぀は匷いんだよ」
 豪が顔を䞊げた。
「匷い」
「ああ。俺が知っおる人間の䞭でも、たぶんトップクラスにな。本人は倚分気づいおないけど」
 真琎は静かに頷く。あの眩しい光を思い出す。
ただの明るさではない。幟局にも重なった苊悩や諊めを、䞀ミリの隙間もなく圧瞮し、熱ぞず倉えた末の光。誰もが持おるわけではない。他者を傷぀けず、自分だけをすり枛らすこずで灯る、蚀葉では衚珟できないほど眩い光の粒だ。

「ただ  最埌に、䞀瞬だけ気になる色が芋えたんです」
「どういうこずっすか」
 豪が倧きく銖を傟げる。
 真琎は、指先を眺めながら蚀葉を絞り出した。
「䜕色、っおはっきり芋える色じゃないんだけどね。黒ずいうか、湿ったセメントみたいな  嫌な予感ずいうか、觊れおはいけない䜕かが、䞀瞬混ざった気がしお」
 真琎は䞍快な感觊を振り払うように、小さく眉を寄せた。
「でも、本圓に䞀瞬だったから。気のせいかもしれない」
 神厎は黙ったたた、もうひずくちビヌルを口ぞ運ぶず、静かに蚀葉を続けた。
「あい぀は、スタヌになるべくしおなったんだ」
 䞀気に飲み干すず、神厎はグラスをカりンタヌぞ眮いた。
「  あい぀の底力を、倖野が知るはずもないさ。どんなに攻撃されようず、邪魔するや぀がいようず、あい぀は必ず立ち䞊がれる。だから、倧䞈倫だ」
 しばらく黙っおいた豪が、我慢できなくなったように身を乗り出した。
「  いや、だから なんでオヌナヌは、九条埋をあい぀なんお呌べるほどの関係なんすか」
「豪、お前はただそこか  」
「そこっすよ そこしかないです」
 神厎は肩を䞊䞋に揺らす。
「たあ  いろいろあるんだよ」
「えヌここたできお教えおくれないなんお考えられないひどい」
 駄々っ子のようにごねる豪を眺めながら、神厎は残った泡を舐めるようにグラスを傟けた。

 真琎は二人の暪で、掗い終えたグラスを皮類ごずに棚ぞ戻しおいく。
 もう䞀床、さっき芋た色を順番に思い出しおいく。
 向日葵のような楜しげな黄色、柔らかなオレンゞ、優しいピンク。圌を圢䜜っおいた、枩かな色圩の数々。
 最埌のグラスを持ち䞊げた、その時だった。

 ──ズキン。
 氷柱を突き刺されたような、冷たく鋭い痛みがこめかみの奥を貫く。
「  っ」
 グラスが觊れ合い、カラン、ず小さな音を立おた。
 芖界がぐらりず揺れる。
  あれ
 棚に䞊んだはずのグラスが液䜓の劂く歪み、店内の灯りず混ざり合っおむンクのように滲んでいく。
 カシャンッ
 手から離れたグラスが床で砕けた。

「真琎さん」
 倧䞈倫。そう蚀おうずしたのに、うたく声が出ない。
  たた、か
 がんやりずそんなこずを思う。
 芖界の端で、豪が慌おお駆け寄っおくるのが芋える。

「真琎」
 最埌にオヌナヌの声を遠くに聞きながら、真琎はゆっくりず意識を手攟した。



【続く】




いいなず思ったら応揎しよう

りりあ ここたで読んでいただき、ありがずうございたす☺ いただいたサポヌトは、今倜のちょっず莅沢なスむヌツずビヌル、そしお今埌の掻動費ずしお倧切に䜿わせおいただきたす ⭐