🔵掌編小説|ループ[痕跡]
サラの消えた場所には外套だけが残されていた。
拾い上げるとまだ温もりがあった。胸と背中に弾丸の通過した孔があり、血痕はない。微かに紫蘭の匂いがする。サラが好んだ香水だ。
7141螺旋出口は綺麗に塞がっている。通りの反対側の雨は上がり、鳥打帽の男と老婆はどこかへ行ってしまったようだ。死人の行列は一度バラバラになったがまた元通りに連なっている。
街路樹にめり込んだ弾丸を穿り出して回収した。秩序を叩き起こした銃声はやがてサイレンの音となって戻って来るだろう。
ミスD、容疑者第38号は?
捜査官K、こちらの計画では−2日後に原点で確保する予定です。
承知した。
指揮権を戻しますか。
いや任せるよ。頼みがあるんだ。このタイムラインに安全拠点を作ってほしい。
送ります。
***
子午線旅亭102号室に亜空間ターミナルを重ねた。理論上タイムラインを毎分2000回分岐させることが可能な時間跳躍の結節点だ。
***
彼女は至近距離から銃弾を浴びて誤差ゼロで跳躍をやってのけた。それが出来るのは我々だけだ。何故なら、それが私たちのやり方だったからだ。
サラは自分が名乗っていた名前を覚えていないようだった。あの話の続きをしましょうとも言った。あの話とは何だ。もう何年も前のことだ。
容疑者第38号のループ接続に先行して現れ、この邂逅は偶然ではないと言った。たとえ彼女が事件に関与していたとしても、わざわざ身を晒す危険を冒すだろうか。
ひとつだけ確かなことがある。サラが会いに来た目的が何であろうと、明らかに彼女は私を誘っている。私たちが死んだあの場所に来いと、彼女は言っているのだ。
***
ターミナルからの熱的な放射が揺らめく客室を赤く染める。
ミスD、サラを発見した。−4年後に跳ぶ。
サラって、あのサラなの、K?
必ず戻って来る。
待って!
大丈夫だ。
見てはいけないものは決して見ないと約束してくれる?
亜空間ゲートが開く。これが昨日なら早すぎたかもしれないし、明日なら遅すぎたかもしれない。この先に答えがあるとは限らないがそれでも行かねばならない。
座標をくれ。
……「0020-0076-1811-6543」送ります。
(了)
🔵951文字
【附記】
▲シリーズ第2弾。▼第1弾はこちら。
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?
