🔵掌編小説|ループ[序章]
容疑者第38号を−1日追跡中。奴がループに入った!
了解、容疑者第38号、ループを確認、亜空間座標「8350-1575-2946-7139」送ります。
記録上の拘束時間とタイムラインを。
いいえ、拘束していません。繰り返します、まだ拘束していません、未解決です。引き摺り出してください!
分かった。偽装を仕掛けて逆ループを当てる。座標「8350-1575-2946-7141」に螺旋出口を作れ。
送ります。
通りの反対側に雨が降っている。老婆が横断歩道の手前で立ち止まり、鳥打帽の男が店員のいないキオスクでスピードクジを削っている。
ループ開放まであと59秒。
死人のような顔をした行列が重たい雲の下を横切って地下鉄の穴に吸い込まれていく。7141出口付近を監視していると女に声をかけられた。
見覚えのない顔と聞き覚えのある声で、誰かを追ってきたの、とその女は言った。
雲の切れ間から差し込んだ朝の光がぱたぱたと降る雨の下半分を照らしているせいで、それはまるで地面から空に向かって落ちているように見えた。
サラは死んだと聞いた。そうかしら、あなたはサラと呼んでいたのね。フリーの捜査官になったという噂もある、どちらが本当なんだ?
30秒後にループが開きます。偽装は29秒後に仕掛けて下さい。繰り返します──
わたしがここにいるのは偶然じゃないの。
捜査官K、聞こえますか、タイムラインへの再接続は0.33秒です、そこに誤差ゼロで当ててください。聞こえますか──
ねえ、あの話の続きをしましょう?
残りわずかです、通信傍受を避けるためループが開く直前で通信を切ります、これが最後の通信です、成功を祈ります、K……
サラの胸に向けて拳銃の引金を引いた。それは世界中に朝を告げるほど大きな音を立てた。弾丸はサラの服をはためかせ、身体はどさりと地面に落ちた。
世界が一瞬だけ静止したその瞬間、容疑者第38号のループを強制的に反転させ、メビウス状に再接続して元のタイムラインに戻した。
サラがいない!
容疑者第38号を逆ループに放り込んだ。悪いがそちらで引き摺り出してくれないか。後始末が必要な事案が発生した。
残された外套こそが彼女の存在証明だ。
了解、容疑者第38号、亜空間移動を確認、お疲れさまですK、後はわたしたちにお任せください。
(了)
🔵984文字
【附記】
▼以下の作品に若干の修正を加えた。
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