九州の海が南国になってきた
子供の頃、冬になると近所の水たまりや池には氷が張っていた。
場所によっては、その氷の上に子供が乗れるくらい分厚く凍ることもあった。
今では、そんな光景を見ることはほとんどない。
昔の冬は、もっと「刺さるような寒さ」があった気がする。
朝の空気は白く張り詰め、吐く息は濃く、海もどこか暗い色をしていた。
しかし最近の九州の冬は、どこか柔らかい。
もちろん寒い日はある。だが、昔のような長く厳しい冷え込みは減ったように感じる。
変わったのは陸だけではない。
海の中も、かなり景色が変わってきた。
以前は当たり前のように生えていた藻や海藻が減り、岩場はどこか寂しくなった。
その代わり、昔は見かけなかったサンゴやソフトコーラルが増え、海の色合いそのものが南国っぽくなってきている。
魚も変わった。
昔は「南から流れてきた珍しい魚」として扱われていたカラフルな魚たちが、今では普通に泳いでいる。
一時的に来るだけではなく、そのまま定着しているように見える。
まるで九州の海が、少しずつ沖縄に近づいているような感覚だ。
地球は昔から、温暖期と寒冷期を繰り返してきたという。
江戸時代は「小氷期」と呼ばれる寒い時代だったらしい。
だから、長い周期で見れば、また寒冷化する時代も来るのだろう。
だが、今起きている変化は、人間が体感できる速度で進んでいる。
昔の気候変化は、もっとゆっくりだった。
何世代もかけて少しずつ変わっていくものだったはずだ。
しかし今は、一人の人生の中で「海の景色そのもの」が変わってしまっている。
子供の頃に見ていた海と、今の海は、もう別の海に見える。
そして、多分これから先、さらに変わっていく。
海藻は減り、熱帯魚は増え、夏は長くなる。
九州の海は、もっと亜熱帯に近づいていくのかもしれない。
気候変動という言葉を聞くと、どこか遠い世界の話に感じる。
だが本当は、ニュースの中ではなく、自分たちの足元の海で、静かに進行しているのだと思う。
