恐怖が薄れた先にあるもの——Univers Zero『Uzed』全曲解説
アルバム名: Uzed(ユーズド——Univers Zeroの頭文字U+ZEDによる造語)
アーティスト: Univers Zero(ユニベル・ゼロ)
収録曲:
Présage(前兆)
L'Étrange Mixture du Docteur Schwartz(ドクター・シュワルツの奇妙な混合物)
Célesta (For Chantal)(チェレスタ——シャンタルのために)
Parade(パレード)
Émanations(発散)
リリース年: 1984年
主要メンバー: Daniel Denis(ダニエル・ドゥニ)/ Jean-Luc Plouvier(ジャン=リュック・プルヴィエ)/ Dirk Descheemaeker(ディルク・デシェマーカー)/ André Mergenthaler(アンドレ・メルゲンターラー)/ Christian Genet(クリスティアン・ジュネ)/ Michel Delory(ミシェル・ドゥロリ)※ゲスト

御茶ノ水ジャニスのレンタル落ち
このCDは御茶ノ水ジャニスのレンタル落ちで買いました。「俺(私)にも云わせろヨ!」という交換日記が挟まれていて、当時このレコードを聴いた誰かの感想が書き込まれています。ライナーノーツ代わりに今も楽しく読んでいます。書き込まれた方、もしかしてこれを読んでいますか?

このアルバムはUnivers Zeroの中でローテ率が最も高い一枚です。前衛と古典の間、暗黒と知性の間を静かに往還する音楽で、4作目ともなると初期の恐怖感が薄れ、平常心で鑑賞できるレベルに昇華されています。一言で言うと、前衛古典風味のジャズロックです。

暗黒から知性へ——Uzedに至る経緯
Univers Zeroは1974年、ベルギーのブリュッセルでドラマーのDaniel Denisによって結成されました。初期3作はオーボエ、ファゴット、スピネット、ハーモニウムを主体とするほぼ完全なアコースティック編成で、20世紀の室内音楽——バルトーク、ストラヴィンスキー——の影響下にある極めて暗い音楽を作り上げていました。特に2作目『Héresie』(1979年)は「これまで録音された最も恐ろしい音楽のひとつ」と評されています。
『Uzed』に至るまでに、ラインナップは大きく変わっています。創設メンバーでありギタリスト・鍵盤奏者のRoger Trigauxは1979年に脱退して自身のバンドPresentを結成し、オーボエ・ファゴット担当のMichel Berckmansも離脱。キーボードのAndy Kirkが加わり『Ceux du Dehors』(1981年)を制作しますが、そのKirkも1983年に去ります。『Uzed』録音時点でオリジナルメンバーはDaniel Denisただ一人。新たにJean-Luc Plouvier(キーボード)、André Mergenthaler(チェロ、サックス)、Dirk Descheemaeker(クラリネット、ソプラノサックス)、Christian Genet(ベース)が加わりました。
オーボエとファゴットが消え、クラリネットとサックスに変わり、ハーモニウムとピアノがシンセサイザーに変わった——この楽器の交代がそのままサウンドの変貌を意味しています。
全曲作曲・編曲はDaniel Denis単独によるものです。録音は1984年9月〜10月、ブリュッセルのDaylight Studioにて。
収録5曲を聴く
Présage(前兆)
アルバムの幕開けはシンセサイザーのリフです。それまでのUnivers Zeroを知るファンには衝撃だったはずですが、曲が進むにつれて、これがまったく別の形の凄みであることが分かります。神秘的なキーボードと遠くで鳴るクラリネットの呼吸から始まり、ドラムとベースが加わって緊張が高まる。そして中東の音階(いわゆるアラビア風の音の並び)を用いたチェロのソロが現れます。約10分の演奏は、急速調でありながらプログレッシブ・ロックとジャズ・フュージョン(ジャズとロックを融合させた音楽スタイル)の中間に位置するような聴感で、これがこのアルバム中で最もローテ率が高い曲です。暗黒というより「中東の夜明け前の神秘」とでも形容すべき雰囲気です。
L'Étrange Mixture du Docteur Schwartz(ドクター・シュワルツの奇妙な混合物)
「時速100マイルの悪夢」と欧米の批評家が評した4分弱の小品です。ピアノの上に幽玄なチェロとクラリネットが絡み合い、テンポが突然変化しながら疾走します。変拍子(4拍子や3拍子といった通常の拍子とは異なる複雑なリズム構造)を多用した怖いけれどユーモラスな曲で、強力なビートと室内楽器の組み合わせがほかの誰にも似ていません。ゲストのMichel Deloryによるエレクトリック・ギターのソロも鋭い。
Célesta (For Chantal)(チェレスタ——シャンタルのために)
ピアノとバイオリンによる不気味な印象派(19世紀末フランスで起きた、曖昧で夢幻的な音の色彩を重視する音楽スタイル)的な室内楽として静かに始まります。ところが中盤から重いドラムとうなるエレクトリック・ギターが突入し、雰囲気が一変します。Michel Deloryによるギターソロはこのアルバムで最も議論になる場面で、初期Univers Zeroには絶対になかったロック的な激しさです。暗黒面全開で、ロックの片鱗が消え、ほぼ現代音楽(20世紀以降の実験的なクラシック音楽)の領域に入っています。
Parade(パレード)
1曲目と同様にスピード感のある曲で、Univers Zeroにしては「実に陽気なサウンド」と評されています。目覚ましいドラミングとクラリネットによる倍速のマーチング・シーケンス(行進曲風のリズムパターンを倍のテンポで演奏する構造)、工場のような打楽器セクションが組み合わさって、不気味で狂ったエネルギーを放ちます。ベースとチェロの絡み合いが予想外のグルーヴ(体を揺らしたくなるようなリズムの推進力)を生んでいて、これがこのバンドの曲だとは俄かに信じがたいところです。
Émanations(発散)
アルバムを締めくくる15分超の大曲です。きらめくシンセサイザーで静かに始まり、中世的な雰囲気を持つ英雄的なテーマへと移行し、ツェッペリン風のベースギターが加わり、剣がぶつかり合うような音響が展開されます。全体を通じて緊張が高まり続け、最後はエレクトロニックな陶酔感の中に溶けていきます。「ほぼプログレッシブの巨人のような風格がある」という評は言い得て妙で、従来からの暗黒ファンも納得の一曲です。ユニゼロはこう来なくてはという締めくくり方です。
これはジャズロックか、プログレか、チェンバーロックか

Prog Archivesのレビュアーは「Uzedは明らかに過渡期的なアルバムで、Ceux du Dehorsの超複雑なオーガニック(有機的な)チェンバーロックと、その後のHeatwaveのより電子的なサウンドの橋渡しをしている」と評しています。別のレビュアーは「もしこれが彼らの唯一のアルバムだったとしても、他の多くのバンドがベストアルバムで達成できる以上のものだ」とも書いています。
店長自身の耳には、このアルバムは「暗黒チェンバーロックがジャズ・フュージョン・チェンバーに変貌した作品」と聴こえます。極限の暗黒から知性的な複雑さへの移行、とでも言えばいいでしょうか。Présageの急速調はプログレとフュージョンの中間あたりの聴感で、Paradeには予想外のグルーヴがあり、Célesta (For Chantal)は現代音楽の領域に入っています。恐怖が薄れた分だけ、構造の面白さが前面に出てきた——それがこのアルバムを最もローテ率の高い一枚にしている理由です。
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