縄文杉コースのレスキュー体制
今まで縄文杉コースは何かあったら誰かがすぐ何とかしてくれるようなそーんなに甘いコースじゃないよ、という事を書いてきました。
では実際にレスキュー要請が必要!となったらどういうことになっていくのか、を書いていきたいと思います。
先に弁解させてもらいたいのですが、私は「来るな」と言いたい訳ではありません。
登山なのだから、自然の中に入って行くと云う事なのだから、一定数のリスクは(縄文杉に限らず)当然として在る事、そして各個人がそれを理解して、備えて登山を行なって欲しい。そう思って書かせて頂きます。
レスキュー要請
まずはレスキュー要請の仕方です。
縄文杉コースは根本的に小杉谷という大きな谷に沿って歩くもので、里地に建てられた電波塔の電波は殆ど届きません。
余談※(昔はアマチュア無線の中継局があったのですが、維持管理や管理者の問題もあり その中継局は使用不可となりました。
ただ同時にFOMA等の3G携帯時代に、アンテナの方向や数や方向の調整で かなり携帯の電波が届くようになり、無線無しでも問題は無くなる、と思っていたら4G/5G携帯に変わると共に 電波の性質上山中までは届かなくなってしまいました。
今(2026年)現在活路として期待しているのはスターリンクやアップル等の衛星通信なのですが、縄文杉コースは樹林帯(空が広く開けない)なので今現在はまだ十分な実用性が有るとは言えない状態です。)
それでも天気が良ければ縄文杉辺り等でギリギリ電話が掛けられる可能性があるので 誰かが縄文杉まで走るか、(居れば)縄文杉付近にいるガイドに無線で救助要請をお願いしたりします。
ただ、レスキュー要請をしても現場到着まで5-6時間 掛かることも多く、レスキューを待っているうちに体調が回復し、自力下山を開始、上がってくるレスキュー隊とすれ違う時何も言わずに逃げ帰る要救助者がたまにいるらしい。
だから顔/立場の割れたガイドからのレスキュー要請であればまだ良いのですが、不明な人からのレスキュー要請であれば通常聞き出す情報-⚪︎名前/年齢/体重/血液型/症状 以外に⚪︎泊まってる宿/予定滞在期間/携帯電話番号/緊急連絡先 等 何でも根掘り葉掘り要救助者の情報を聞き出そうと 消防はします。
それを無線を介して伝言ゲームで、ガイドは自分のお客様を待たせて電話するのは中々きついので、ガイドツアーでないお客様は可能な限り要救助者の同行者が直接電波のある所まで行って電話して貰いたいなぁ、と正直思います。
レスキュー開始
屋久島では 消防組織が北と南の二つの分遣所に分かれていて、北は宮之浦 南は尾之間に建物があります。
もし皆さんが119番通報をすれば それはまず種子島の受付につながり、屋久島のどちらかの分遣所に飛ばされるので ガイドであれば そもそも119ではなくどちらかの分遣所に直接かける事が多いです。
どちらにせよ 情報は北と南に共有され 彼らの都合に応じてどちらかが出動することになります。
(ヘリコプターでの救助となる可能性もこの時点で検討される(※後述)のですが、ヘリコプターが出動しても天候等の都合で救助不能となった場合に備え、何にせよ地上部隊も出動します。)
そして消防署をカラにして救助に動く訳には行かないという事で、救助要請を受けたら非番招集がかかり、プライベートな時間を過ごしていた署員が消防署に集まるのに30分程掛かります。
尾之間/宮之浦の消防署から安房まで30分、そこから荒川登山口まで40分程。
レスキュー要請できてから ひとまず登山口まで到着するのに ここまで1時間40分ほど。
地上から(要はヘリ以外)の救助となれば ここから一般登山者と同じ登山口を経由して現場に向かいます。
地上からの救助の場合
以前は(2026年3月末まで)林野庁の所有するモーターカー(乗用タイプのトロッコ)で森林軌道上を移動する事ができたのですが、老朽化により現在は救助隊も登山者と同じ様に足で上がってこなければいけません。

要救助者を乗せる、鉄道のレール上を転がす車輪付きのストレッチャー(担架)をゴロゴロ引いて、その他装備品も持って上がります。
何人の隊員が上がるのかは、要救助者の位置と状態によって変わります。
①要救助者を、トロッコ道から車輪付き担架で下ろす
②山道は本人が歩けて(トロッコ道は車輪付き担架※以下略)
③背負って山道を下ろす
④担架で山道を下ろす
⑤担架で胸骨圧迫しながら下ろす
の順番で、当然人手はより多く必要となります。多分最大15人位までは人が来たのを見た事があります。また胸骨圧迫となれば警察も来ます。
ヘリコプター救助
ヘリコプターでの救助は、要救助者が
「ヘリコプターをお願いします!」
と要望すれば来る物では当然ありません。
幾らかの要件を満たした、と消防が判断した時に出動が要請されます。
その要件とは 例えば
まずそのヘリコプターが他に出動していない事
日暮までに活動が完了できる事
有視界飛行が可能で強風の無い気象条件である事
ヘリ救助である必要性が高い事
現場付近にホイスト(要救助者をケーブルで吊り上げる事)が出来るだけの広場(上空が10m四方?*記憶曖昧*は開けた場所)がある事
等の要件があり、縄文杉コースは最後の「上空が開けた場所」が あまり無いのでヘリ救助となる事もあまりありません。
宮之浦岳方面の森林限界を超えた場所ではちょくちょくある様に思います。
そもそもヘリコプター自体屋久島には無く、160キロほど離れた鹿児島本土にあるのですが、空を飛ぶだけあって要請1時間足らず位で現着は出来る様です。
現着→隊員降下→ホイスト可能箇所まで要救助者の移動(少人数しか降下出来る隊員はいないので多分大変)→ホイスト
と言う流れです。

屋久島の医療環境
屋久島には診療所が数軒と総合病院が一施設あり、救急対応はその総合病院のみが担っています。
通常診療でなら内科や外科の先生はいるのですが、ちょっと込み入った科(耳鼻咽喉科等)になると 2週間に一回とかで巡回してくれるタイミングに予約を入れないといけません。予約が半年以上先まで埋まっていてやんわり「鹿児島に行ったほうが良い」と言われることもあります。
とりあえずの救急対応では当直の内科医?に診てもらう事になるのはどこも同じかも知れませんが、翌日専門医に診て貰えると云う事はあまり期待出来ないでしょう。
先日あった心筋梗塞のレスキュー事案では屋久島で対応できず、鹿児島にヘリ搬送となったと聞いています。
屋久島では「骨は折れていない」と言われて帰り、やはり痛むので地元病院で診てもらうと 実は折れていた、というのもよく聞く話です。
島で長く暮らしていると、「専門医/専門病院が陸続きにある場所であれば今も生きていたかも知れない人」の顔が複数頭に浮かぶ様になります。
僻地と呼ばれる地域の中では 現状それでも恵まれている方かも知れませんが、医療環境が住民の島を離れるきっかけになる事も珍しくはありません。
事例
興味を持っている人以外 山岳遭難のニュースなんて聞き流してしまう物かと思います。しかし気にしていれば1−2年に一度くらいは全国ニュースで屋久島の事故が報じられていたりします。
報道されるかどうかは別としても肌感覚、今も島のどこかでは毎年一人くらいは死者が出ている様に思いますし、縄文杉コースに限定しても 一番来訪者が多かった2007年前後頃は毎年死者が出ていました。ほとんどが脳梗塞/心筋梗塞でした。
やはりレスキュー事案/怪我をする人は50代以上の高齢者が多いです。疲労困ぱいの末に転倒、怪我で行動不能。
若年者なら親子連れの子供が熱中症とかが思い起こされます。(子供達の中には暑かったら服を脱ぐ、水を飲むという事すら言わないと分からない、もしくは言われても“理由なき反抗”があったり。)
上記に死亡例の大半は脳梗塞/心筋梗塞と書きましたが,持病を隠してガイドツアーに参加される方も一定数居るのだろうと想像します。
一度私も、急登を登っていて身動きの取れなくなったお客様が 奥様とヒソヒソ ”ニトロがどう” だと言っているのが聞こえてしまい、聞いてみると
「そんなもん、まともに申告したら受けてくれるツアー会社なんてあるわけ無いでしょ!いつ死ぬか分からないんだから生きてる内に好きな様にやらせて下さいよ!!私はいつ死んでも良いんです!!!」
開き直られた事がありました。
気持ちはすごく分かるので 心にずっと残っているのですが、やっぱり 他にもお客様がいる募集型ツアーにしれっと参加するのはやはり違うと思います。
同じ様に、動けなくなった人が持病を言い出し、
「医者の許可は貰ってるんですよ?!」
と云うのでよく聞くと
「まぁ 良いですが、ホドホドにしておいて下さい」
という言い方だったそうな。
縄文杉コースは「ホドホド」の範疇には確実に無いのだけれど、個別登山コースの判断を医者に委ねるのは普通は無理です。
残り少ない人生だから、いつ死んでも自分は良いから。その気持ちは人間として応援したい。
だけど現実それが起きたならば、本人がいくら納得づくでもガイドは(納得いってないかも知れない)遺族としか話せません。
業務上過失致死。
ガイドは、本人の希望はさておき 無事顧客を連れ帰る義務があります。
家族はじめ帰属する団体や業界もある以上、犯罪者になってまでお客様の意思に応える筋合いは流石に無いと思います。
まとめ
つまり 縄文杉コースでのレスキューは
⚪︎救助を呼びづらく
⚪︎現場到着、病院搬送共に多大な時間が掛かる
⚪︎搬送先の医療施設も都会に比べれば かなり見劣る。
という事、また 消防にも医療関係者にも、普通の救急対応とは比べ物にならない程の人的リソースを消費すると云う事も理解しておいて下さい。
知らない場所や状況に飛び込む事を「冒険」と呼ぶ人はいるでしょうが、色んなリスクの可能性と真摯に向き合って対応する事こそが「冒険」の骨子です。
得られる物だけを見て、”あとは考えない”のは「恥の掻き捨て」です。
結局のところ、登山の(あたりまえ)以外に帰着する答えはない様です。
体力も時間も 安全マージン含め十分に用意して 無理のない様にお越し下さい。
