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207【第3回2026年5月施行「企業価値担保権」──中小企業がふるいにかけられる時代の生存戦略】元銀行員・地方在住・財務コンサルタントの思索



2026年5月25日、日本の融資実務に一つの転換点とも呼べる事象が起きました。企業価値担保権という新しい制度の登場です。これは「事業そのものを担保にする」という革新的な仕組みですが、同時にメインバンクや意中の金融機関を頼り、V字回復を企てる局面にある中小企業にとっては「将来性でふるいにかけられる」という厳しい現実の幕開けでもあります。

不動産担保と経営者保証の時代が終わる

これまでの中小企業融資は、ほぼ例外なく2つの柱で成り立っていました。不動産担保と経営者保証です。

工場や自宅を担保に入れ、さらに社長個人が連帯保証人になる。これで初めて銀行はお金を貸してくれました。事業が傾けば自宅を失い、家族の人生ごと飲み込まれるリスクを背負っての経営。日本の中小企業経営者の宿命のようなものでした。

2026年5月に施行された「事業性融資の推進等に関する法律」は、この構造を根本から変えようとしており、創設された新制度が企業価値担保権です。担保の対象は、土地や建物といった有形資産ではなく、事業そのもの。技術、ノウハウ、顧客基盤、取引データ、ブランド、そういった無形資産を含む事業全体が丸ごと担保になります。

法律上、担保権が120年ぶりに新設されるというのは、それほど大きな出来事なのです。

金融機関の「目利き力」が試される

この制度で興味深いのは、貸し手側の行動も変わるという点です。

従来の不動産担保であれば、最悪の場合は不動産を処分すれば回収できる。だから金融機関は企業の業績が悪化しても、ギリギリまで静観できました。でも、企業価値担保権の時代は違います。担保価値が下がれば、そのまま貸し手の損失につながります。

つまり、金融機関は担保価値、すなわち企業の事業価値を維持させるために、継続的に支援せざるを得なくなる。経営悪化の兆しを早く掴み、早く手を打つインセンティブが生まれる。これが金融庁が描く理想の姿です。

とはいえ、すべての金融機関がこれに対応できるわけではありません。無形資産の価値を見極める「目利き力」は、一朝一夕に身につくものではない。地域金融機関のなかには、この制度を使いこなせる行と使いこなせない行がくっきり分かれるでしょう。2026年7月末の現在において、複数の事例が公開されています。

「選ばれる企業」と「選ばれない企業」が分かれる

経営者にとって本当に重要なのは、ここから先の話です。

企業価値担保権は、理屈の上では「担保になる不動産を持たないスタートアップや中小企業にもチャンスを与える」制度です。しかし現実的には、「将来性のある企業」にしかチャンスは訪れません。

金融機関から見て事業価値が評価できる会社、言い換えれば「この会社は伸びる、支援する価値がある」と判断できる会社には、新しい融資の道が開けます。逆に、数字は黒字でも成長性が見えない会社、事業モデルに独自性がない会社は、従来以上に支援対象から外れていく可能性があります。

これが、「ふるいにかけられる時代」という意味です。国は、付加価値の低い、いわゆる「しょっぱい会社」には早く退場してほしい、と考えています。そして付加価値の高い会社には手厚く支援し、中堅企業や100億円企業に育ってほしいと願っている。企業価値担保権はその装置のひとつです。

経営者認知度は半数。つまり、今動けば先頭集団に入れる

帝国データバンクの調査によれば、企業価値担保権について「知っている」と答えた経営層は50.5%。残り半数はまだ関心を持っていません。これは裏を返せば、今から準備を始めれば先頭集団に入れるということです。

金融庁は2025年12月の「地域金融力強化プラン」で、地域金融機関に対して伴走型支援の強化を求めています。全国銀行協会も、2026年5月施行に向けて会員銀行向けに実務ポイントを更新し、現場の準備を進めています。

つまり、金融機関側は着々と動いています。動いていないのは借り手側、中小企業側です。

今から準備すべき3つのこと

ではこの大転換に備えて、経営者は何をすべきでしょうか。

1つ目は、自社の無形資産を言語化することです。技術、ノウハウ、顧客基盤、何が強みなのか。決算書の数字では表現されない価値を、社長自身の言葉で語れるようにしてください。パワーポイント数枚でいい、事業の将来性を説明できる資料を用意しておきましょう。

2つ目は、メインバンクとの対話の質を上げることです。単なる融資依頼ではなく、業界の展望、経営課題、将来の投資計画について定期的に話す。金融機関の担当者が「この社長とは深く話したい」と感じる存在になる。その関係性こそが、新制度での評価軸になります。

3つ目は、事業の将来性を数字で裏付けることです。EBITDAの推移、投資計画、それが生む将来キャッシュフロー。ビジネスモデルに対する理解度が、そのまま融資の可否を分ける時代です。

ふるい落とされる側に回らないために

企業価値担保権は、中小企業にとって武器にも刃物にもなる制度です。将来性を示せる会社にとっては、不動産を持たずとも資金調達の幅が広がる追い風になる。一方、旧来のやり方にしがみつく会社にとっては、従来以上に支援が届きにくくなる逆風になります。

どちらの側に立つか。今日、このタイミングで何を始めるかで決まります。

制度の認知率50%という数字は、半数の経営者がまだスタートラインに立っていないことを意味します。そして制度としても定着化の道半ばです。今は経営者としての未来を左右する重要な局面と言えるのではないでしょうか?

ただ、最後に書き足しておきたい点があります。この企業価値担保権融資はあくまで、資金調達手段が一つ増えたにすぎないという客観的事実です。王道の経営とは、経営計画を策定し、毎月予算と実績の振り返りをしながら、翌月の15日までに試算表を作製し、複数の取引銀行へ現状と展望を簡単なレポートで報告する、というごく当たり前な動きのことです。金融機関からの評価が財務的に健康な「正常先」と判定されている限り、資金が止まることはあり得ません。このことを踏まえた上で、企業価値担保権の利用を経営者は自社の将来像を見据えながら判断して欲しいと願っております。

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株式会社なかむらコンサルタンツ 代表取締役 中村徳秀

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