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アパレル接客の言葉選びと、エンジニアの要件定義はなぜ似ているのか?

アパレル接客とITエンジニアの要件定義。

一見すると、華やかな店頭での会話と、画面に向き合うロジカルな業務という、全く異なる世界のように思えるかもしれません。
私自身、大学を卒業してから約8年間、アパレルの販売員として店頭に立っていました。その後キャリアチェンジをし、現在はエンジニアとしてシステムの要件定義や仕様設計に関わっています。
異業界への転職当初は、今までの経験はリセットされて、またゼロからのスタートだと思っていました。しかし、業務の中でシステムの要件定義に触れたとき、強烈な既視感を覚えたのです。
これって、お店でお客さまのご要望を聞き出していたあの感覚と同じじゃないか?
今回は、異色のキャリアチェンジを経て私が気づいた「対話から本当の目的を整理するプロセスの共通点」、公式のテーマに便乗して「疑問が学びに変わった瞬間」について書いてみようと思います。

1. 「これが欲しい」の裏にある、言語化されていないニーズ

アパレル販売員時代、お店には毎日たくさんのお客さまが来られました。
例えば、お客さまが「黒のシンプルなワンピースを探しているんです」とおっしゃったとします。
ここで額面通りに「黒のワンピースですね!こちらとこちらがございます」と案内するだけでは、実はあまり良い接客とは言えません。
なぜなら、お客さまが本当に求めているのは「黒のワンピース」そのものではなく、「それを着て行く場所でどう過ごしたいか」だからです。
少し掘り下げてお話を聞いてみると、こんな背景が見えてくることがあります。

・来週、少しフォーマルな食事会があるけれど、張り切りすぎた感じにはしたくない
・手持ちのジャケットにも合わせられて、普段使いも回せる使い勝手がほしい
・スタイルが良く見えるシルエットだと嬉しい
つまり、真の目的は「気負わずに参加できて、手持ち服とも馴染み、着痩せして見えるフォーマル服」

ここが分かると、「それなら、実はネイビーのシフォンブラウスとスラックスの組み合わせの方が、普段の着回しも効いてご希望に合いますよ」といった、一歩踏み込んだ提案ができます。

…と、なんだか綺麗事に聞こえるかもしれませんが、アパレルをやっていた当時は生身の人間が相手。
「提案してみたものの普通にフラれた」
「良かれと思って深掘りしたら『あ、今日見るだけで……』と引かれた」
「自分の意図と全然違う捉え方をされて不穏な空気が流れた」
なんて失敗や噛み合わない事のほうが圧倒的に多かったです。
人間って、教本通りにはいかないな〜〜〜!と白目をむきながら試行錯誤した8年間でした。
ただ、この「一筋縄ではいかない人間相手に揉まれた泥臭い経験」こそが、のちに意外な形で活きてくることになります。

2. エンジニアの現場で出会った要件定義という壁

エンジニアに転職し、システム開発の最上流工程である要件定義に関わるようになったときのことです。
現場やクライアントからは、さまざまな要望が届きます。
「画面にこのボタンを追加してほしい」
「この入力を必須項目にして、エラーチェックを入れてほしい」
最初は言われた通りに仕様書を起こして作ればいいのかなと考えてしまいがちですが、そのままシステムを作ってしまうと、後から使ってみたらすごく使いづらい、実はやりたかったことと違うというギャップが生まれてしまいます。
ここで、アパレル時代のあの感覚が蘇りました。
「ボタンを追加してほしい」という要望は、服で言えば「黒のワンピースがほしい」と同じ手段の提示に過ぎないのではないか?
そこで一歩踏み込んで、「なぜそのボタンが必要なのか」「現場でどんな課題が起きているのか」をヒアリングしてみます。
すると、
「実は業務のオペレーション手順が多くて、入力漏れが頻発している」
「作業担当者が交代したばかりで、ミスを減らしたい」
という、真の課題が見えてきます。
真の課題が分かれば、ただボタンを増やすのではなく「入力画面のステップ自体を自動化する」「前段のチェックロジックを見直す」など、より本質的で使いやすい仕様を提案することができるのです。


3. 対話から目的を整理するという共通点

この体験を通して、私はアパレル接客とエンジニアの要件定義の本質的な共通点に気づきました。
どちらも、単に要求をそのまま受け取ることではありません。

1. 抽象的なお悩みや要望を提示される
2. 対話を通じて、背景や利用シーンを具体化する
3. 本人もまだ言語化できていない「本当の目的」を特定する
4. その目的を達成するための最適解(服/システムの仕様)を構築・提案する

表現の媒体が洋服からシステムに変わっただけで、相手の言葉の行間を読み、本質的な目的を一緒に整理していく思考プロセスは全く同じだったのです。
(そして、システムを使うのも結局は「人間」なので、アパレル時代に学んだ『人間の思い通りにいかない感じ』をあらかじめ想定してリスクを察知する勘も、地味に役立っていたりします。)

おわりに:過去の経験は、思わぬ形で「学び」に化ける

まったく違う業界へ飛び込んだとき、過去のキャリアが無駄になってしまったように感じる瞬間があるかもしれません。
でも、表層の知識やスキルの奥にある思考のプロセスや人と向き合う構造に目を向けてみると、全く異なる二つの点が美しい線で繋がる瞬間があります。
アパレルの言葉選びという現場の経験があったからこそ、私はエンジニアとしての要件定義を単なる作業ではなく、相手の課題を解決するクリエイティブな対話として捉えることができました。
日常や過去の経験の中に隠れている「これって何かに似ているな?」「なんでだろう?」という小さな疑問。それらを逃さずに深掘りしてみることで、日々の仕事や暮らしはもっと面白く、学びに満ちたものに変わっていくのだと感じています。

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