選ばれなかった未来を捨てに来た人 〜猫が見た占いカフェ(猫うらカフェ)〜
選ばれなかった未来は、
どこへ行くのだろう。
それが、
どうなったのかは、
ぼくも知らない。
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これは、
実際にあった出来事を、
猫の目線で描いた話です。
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ある日の午後。
カフェの奥の席に
ふたりは座っていた。
声は低く、
言葉は少ない。
ぼくは、
その足元で
聞かないふりをして
丸くなっていた。
女の人は、
カップを両手で包んだまま、
ほとんど飲まない。
男の人は、
何度も時計を見る。
すると
女の人が大きく
ため息をついた。
「……もう、
今日で終わりにしたいの」
男の人は、
表情ひとつ変えずに、
「急だな」
「急じゃないよ。
ずっと考えてた」
それ以上、
言葉は続かなかった。
ぼくは、
テーブルの下を
ゆっくり歩く。
踏んだら割れそうな沈黙を、
踏まないように。
しばらくして、
ふたりは立ち上がった。
会計を済ませて、
ドアの方へ向かう。
そのとき
椅子のそばに
小さな箱が落ちているのを
ぼくは見つけた。
リボンのついた箱。
前足で
ちょんちょんと触ると、
ころり、
少し転がる。
それに気づいた
ママさん(店主ゆうたま)が
小走りで来て、
その箱を拾い上げ、
「忘れ物かも…!」
そう言って、
ふたりを追いかける。
「すみません、
これ……!」
男の人が振り返って、
箱を見るなり、
一瞬だけ固まる。
女の人は、
ちらっと箱を見て、
嫌そうな顔。
すると男の人が、
「違います」
と、キッパリ。
女の人は、
何も言わずに
歩き出す。
ママさんは
「失礼しました」
と頭を下げた。
ふたりの背中は、
そのまま
戻ってこなかった。
箱は、
カウンターの下の引き出しに
そっとしまわれた。
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次の日。
ドアが開いて、
男の人が
ひとりで入ってきた。
昨日と
同じ席には座らず、
カウンターの端。
「コーヒー、
ください」
声は、
少し早い。
そして、
コーヒーが来ても、
すぐには飲まなかった。
店の中を
きょろきょろ。
スマホを触っているけど、
視線がどこにも落ち着かない。
……なんか、
そわそわしてる。
ぼくは、
その足元で
目を細めた。
少しして、
男の人は立ち上がった。
会計を終えて、
ドアの前で。
「……昨日の、あれ」
その声に、
ママさんが振り向くと、
男の人は、声を落として
「捨てといてください。
……もう、いらないんで」
……昨日は
違うって言ってたのに。
捨てとけって、
どういうことや。
やっぱり、
お前のやったんか?
ぼくは、
心の中で
そう思う。
ママさんは、
戸惑いながら
小さくうなづいた。
男の人は、
それ以上何も言わずに
店を出た。
ドアが閉まる。
ママさんは、
引き出しを開けて、
困った顔をしていた。
ぼくが近づくと、
小さく息をついて、
「……どうしたらいい?」
ぼくは、
答えない。
ただ、
しっぽを
ゆっくり揺らした。
それだけ。
ママさんは、
少しだけ笑って、
箱を
引き出しに戻した。
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その日の
閉店間際。
ドアが、
勢いよく開いた。
さっきの男の人だった。
少し息を切らして、
肩が上下している。
「……さっきは」
そう言って、
茶色の紙袋を
カウンターに置く。
「コーヒー、
おいしかったんで」
ママさんは、
少しためらいながら言う。
「いえ、
そんな……」
男の人は、
照れくさそうに笑って、
「よかったら、
これ、食べてください」
紙袋の中には、
焼き菓子と、
猫用のおやつ。
「また、
来ます」
それだけ言って、
男の人は
今度こそ振り返らずに出ていった。
……。
……いや、
こんなん置いてくより、
あの箱を
持って帰れよ。
切り替え、
早いタイプだな。
ぼくは、
首を伸ばして
紙袋の中をのぞく。
……でも、
おやつくれるし。
ちゃんと、
ぼくの分もあるし。
……まあ、
ええヤツやん?
ぼくは、
満足して
丸くなる。

今日はこれだけね。」
…………。
