見出し画像

行かなかった同窓会の夜、全員が同じ顔に見えた。



中学校の同窓会が
あるらしい。

ポストの
案内ハガキを見て、
少し懐かしくなる。


でも、
すぐに裏返した。


…仲良しの子もいないし。

行かない方が
いい気がした。

ーーーーーーーー


数日後。

夜のカフェに、
ひとりの男が入ってきた。

「久しぶり」

「…?」

「俺だよ、〇〇」


聞き覚えがある。
たぶん、同級生。

でも、
今ごろ…?


「なんで、
 この店が分かったの?」

男は軽く笑って

「うちのオカンが、
 ゆうたまの親に聞いたって」

「…そうなんや」


男は、  
カウンターに座りながら、

「明日の同窓会、行くん?」

「欠席で出したよ」

「ふーん。
……来にくいんやろ」

そう言われて、
私は曖昧に笑った。


「コーヒー、もらうわ」

「…あ、はい。」


カウンターに入って
豆を挽く。


「占いやってるん?
 俺、占ってよ。」


…うわっ

胸の奥が、
少しだけ詰まる。

「ごめんね、
 今日はもう終わりで…」


「なんや、つまらん」

笑う男。



そして帰り際。

男はカバンから、
白い袋を取り出した。

緑の文字で、
ヘルシーなんとか、
と書いている。

「これ、体にええやつやねん」


そう言われ、
受け取りかけて、
手を止めた。

「ありがとう…
 でも私、
 あんまりこういうのは」

「……。」


男は私を見て、

「…カンがいいな」

と、小さく笑った。

「これ、危険なやつやねん」


「…じゃあ、なんで勧めたの?」

「仕事やからな」

少し間を置いて、

「…絶対に
 買ったらあかんで」


それだけ言って、
男は帰っていった。


ーーーーーーーーー

そして
同窓会の日。

私はいつもどおり、
店を開けていた。


夜。

扉が開く。

「おー、ここやん!」

同級生たちが、
ドカドカ入ってきた。

同窓会帰りの、
ハイテンション。


「結局、来んかったんや」

「店なんて、
 休めばよかったのにー」

口々に言って、笑う。


私はコーヒーを出しながら、
「みんな、元気してた?」
と聞いた。

「あー、まあね」

軽く返される。

でも次の瞬間、
声のトーンを落として、

「〇〇は来てないけどね。
去年から、ずっと入院してて」


〇〇…?

その名前を聞いた瞬間、
手元が狂って、
コーヒーがこぼれた。

「大丈夫?」

「あ、ごめん…」


昨日、
カウンターに
座っていた男の顔が浮かぶ。


「そうそう」

ひとりが言った。

「これ知ってる?」


テーブルに置かれた袋。
白いパッケージに、
緑の文字。


見覚えがあった。

…昨日の。


「これ、ほんまいいねん」

「体調変わるよ」


ひとりじゃない。

もうひとり。

また、ひとり。

同じものを取り出す。



「紹介やから安心やで」

「一回だけでもどう?」


囲まれる。

言葉が、
ゆっくり近づいてくる。


「ほら」

「絶対いいから!」


あまりの勢いに、
「じゃあ、一個だけ……」

そう言いかけた、
そのとき。


『……絶対に、
買ったらあかんで』


昨日の声が、
はっきりよみがえる。


「…ごめん、やめとく」

空気が止まった。


「え?」

全員が、
同時に声を出した。

その瞬間、

全員が
同じ顔だった。

ーーーーーーーーーー

あとがき🐈

猫から見た占いカフェ
(猫うらカフェ物語)


その夜。

ぼくは、
食器棚の上で、
丸くなっていた

すると、
店の扉が開いて、

「久しぶり」

と、男の声がした。


…知らないにおい。

でも、知ってる気もする。


男は、
ママさんと少し話してから、
カウンターに座った。

ママさんは、
コーヒーを淹れるために
奥へ行く。


そのとき。

男の携帯が鳴った。


「もしもし」

ひそめた声。

「明日?
 ああ、同窓会やけど」

少し間。

「……シフト、変われるで」

また、間。

「あー、大丈夫。行かへんし」

男は笑いながら、
なぜかぼくを見た。


ぼくは、目を細める。


男は上着のポケットに
携帯をしまうと、
カバンから
分厚い本を取り出した。


ぱら、ぱら。

ページをめくる音。

真ん中あたりで止まる。


そこに、
ママさんの
まだ若いにおいがあった。

男の口元が、
少しだけゆるむ。


しばらくして、
奥から、
いつものにおいが戻ってくる。

コーヒーの、
ほろ苦いにおい。

さっきのにおいが、
少しだけ薄くなる。


ぼくは、
よく分からないけど、

もう一度、丸くなった。


……?
ママさん…?


いいなと思ったら応援しよう!