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【経営判断の教科書♯28】取引先の突然の倒産、その夜に社長がすべきこと

「積極一貫。天が試練を与えるは、
        汝を鍛えんがためなり。
  心を積極に保ちて、    
        動じるべからず」—中村天風

☔️ 今日の相談

「昨日夕方、主要取引先の突然の倒産の一報が入りました。売上の25%を占め、未回収の売掛金が4000万円。連鎖倒産の恐怖が、胸を締め付けます。明朝までに何を決断すべきか。銀行への連絡、社員への説明、他の取引先への影響——頭が回りません。もう眠れぬ夜となりそうです。」

——ある年商11億のサービス業経営者、49歳。経営者が生涯に何度か直面する、闇夜の相談です。

🌏 判断の選択肢

社長の前には、およそ5つの道があります。

第1に、直ちに銀行に連絡し、緊急融資を確保する道。

第2に、社員への説明を最優先し、動揺を防ぐ道。

第3に、他の取引先への影響評価と、代替顧客の確保に走る道。

第4に、全てを冷静に整理し、優先順位を組み立ててから動く道。

第5に、まず社長自身の心を、動じぬ状態に整える道。 動く前に、内を静める。

さて、あなたはいずれを選ばれますか。

🌟 私の判断基準

私であれば、第5を最初の一手とし、そこから第4を実践する道——すなわち、「危機の夜、最初にすべきは動くことではなく、動じぬ自分を作ることである」という道を選びます。

なぜなら、危機の夜に動じたまま動いた判断は、必ず後悔を残すからです。

経営者は、危機の瞬間、動きたくなります。何かをせねば、と焦る。しかし、動揺したまま動くと、判断は表層的になり、優先順位を誤り、そして最も重要な視点を見逃します。逆に、動揺の中で、まず10分でも独りになり、深呼吸をし、心を静めてから動いた社長の判断は、驚くほど的確です。

具体的には、こう問い直してみるのです。

「私は今、動揺しているのか、それとも動じていないのか」
「動揺した状態で下した判断を、私は明日、後悔せぬか」
「10年後、この危機を振り返ったとき、私は『あの夜、まず心を整えた自分』を誇れるか」


危機の質は、動揺の質で決まります。動揺のまま動けば、危機は深まる。動じずに動けば、危機は活路となる。この差は、能力ではなく、心の在り方にあります。

判断基準を一言で申し上げるならば、こうなります。

「危機の夜、最初にすべきは動くことにあらず、動じぬ自分を作ることなり。心が動じれば、判断は歪む。心が静まれば、活路は自ずと開く。」

🌻 一流の経営者との共通点

この判断は、中村天風の「積極一貫」の思想と、深く結びついております。

中村天風——明治から昭和にかけて活躍した思想家。日露戦争の軍事探偵、結核との闘病、インドでの修行を経て、独自の心身統一法を確立し、多くの経営者・スポーツ選手・政治家の師となった稀代の人物です。京セラ稲盛和夫氏、松下幸之助翁、東郷平八郎、原敬、双葉山——名だたる指導者たちが、天風の門を叩きました。

天風の核心思想が、「積極一貫」でした。いかなる逆境にあっても、心を積極に保ち、動じない——これが天風の生涯の教えでした。天風は語りました。「天が試練を与えるは、汝を鍛えんがためなり。試練の中で心を消極にすれば、天の意図は成就せぬ。積極一貫の心を保ってこそ、試練は宝となる」と。

天風の教えは、単なる精神論ではありません。氏は具体的な訓練法を体系化されました。深呼吸、瞑想、朝の観念要素の更改——これらの技法により、危機の瞬間においても心を積極に保つ訓練を、多くの経営者が受けたのです。稲盛和夫氏がJAL再建の際に発揮された揺るぎない胆力は、天風の教えに深く根ざしています。

同じ姿勢は、鮎川義介(日産コンツェルン創始者)にも見られます。氏は世界恐慌下で幾度も倒産の危機に瀕しながら、決して動じませんでした。氏は語りました。「経営者の胆力とは、危機の瞬間の10分間で決まる。その10分、心が動じるか、動じぬか——そこに、その後の10年が宿る」と。

さらに、早川徳次——シャープ創業者。氏は関東大震災で全てを失った際、廃墟の前で「これは天が私に、もう一度全てをやり直すことを命じているのだ」と受け止めたと伝えられます。危機を、天からの試練と捉える——この姿勢が、氏を再起へと導きました。

近代においては、土光敏夫翁が石川島播磨重工業の再建を託された際、彼は毎朝4時に起床し、独り座禅を組んでから出社することを日課とされました。「危機の中で最も強い武器は、動じぬ心である」と土光は語りました。心を鍛える時間なくして、危機を乗り越えることはできぬ、と。

そして時代を遡れば、上杉鷹山公が藩財政の崩壊寸前、深夜に独り黙想して心を整えたと伝えられます。「動じた心で下した政令は、必ず民を苦しめる。動じぬ心で下した政令のみ、民を救う」——鷹山公のこの姿勢が、米沢藩の奇跡的再建の根源でした。

さらに、孟子の「不動心」の思想もこの流れです。孟子は「四十にして心動かず」と語り、大人の器とは、いかなる状況でも心を動じぬ境地に至ることだと喝破しました。二千数百年前の智慧が、危機の夜の経営者にこそ響きます。

一流の経営者・偉人に共通するのは、「危機の中で、まず心を整える時間を確保した」姿勢です。彼らは動く前に、動じぬ自分を作った。この一点が、危機に飲み込まれる経営者と、危機を糧に成長する経営者との、決定的な分岐点となります。

🪵 現場での実例

私が調べた対照的な2人の社長の物語をお伝えします。

A社長(社員75名の建設業、二代目、47歳)は、主要取引先の倒産の一報を受けた夜、直ちに幹部を招集し、深夜まで対策会議を続けられました。しかし社長ご自身が動揺したまま指示を出したため、優先順位が二転三転し、社員も疲弊。翌日、動転した判断で銀行への説明も混乱し、信頼を大きく失いました。A社長は今、こう振り返ります。「私は、動かねばならぬと思って動いた。しかし、動じたまま動いた判断は、全て後悔を残した」と。

B社長(社員110名の食品卸業、創業者、55歳)は、同じような危機の夜、真逆の道を選ばれました。倒産の一報を受けた後、社長はまず自宅に戻り、風呂に浸かり、深呼吸を繰り返し、そして独り書斎で30分間、静かに座られたと申します。心が静まった後、初めて幹部を招集し、明確な優先順位を示された。翌朝、銀行への説明は堂々と、社員への説明は温かく、他の取引先への連絡は迅速に。3ヶ月後、B社は危機を完全に乗り越え、そして何より、社員たちの中に「社長は、真の危機でこそ揺るがぬ」という深い信頼が根付いた。「動く前に、動じぬ自分を作った。それだけで、道は開いた」と、社長は静かに語られました。

分岐点は、規模でも情報でもありません。「動く前に、心を整えたか、動揺のまま動いたか」、その一点でした。

🌈 今日の一言

危機の夜、最初にすべきは動くことにあらず、動じぬ自分を作ることなり。
心が動じれば、判断は歪む。心が静まれば、活路は自ずと開く。

❓ 社長への問い

あなたなら、危機の夜、動く前に、何分、独りで座られますか?

10分でも構いません。深呼吸を繰り返し、心が静まってから動く——それだけで、判断の質は根本から変わります。危機の質は、心の質で決まるのです。

🔥 明日の予告

【第29日】「幹部同士の対立、社長はどちらに付くべきか」——正田英三郎、日清製粉に見る「至誠」の裁き方について、明日は社内政治の奥義を綴らせていただきます。

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