言わない方がいい
最近、言わないほうがいいことが増えてきた。 昔は、思ったことはなるべく言葉にしたほうがいいと信じていたのに、いまは、言葉にした瞬間に何かが壊れる気がして、口を閉じる場面が多くなった。
たとえば、誰かと話していて、「それは、ちょっと違うんじゃないか」と思っても、 言わずに飲み込む。 言ったところで、相手が変わるわけでもないし、 自分がすっきりするわけでもない。 むしろ、余計な波紋だけが広がって、 あとで静かに後悔することになる。
恋愛もそうだ。 別れ際、相手の仕草を目で追ってしまったのに、 その理由を言葉にしなかった夜。 帰り道の沈黙が、ふたりの距離をどれくらい縮めたのか、あるいは広げたのか、いまでも判断がつかないまま残っている。
あのとき胸の奥に浮かんだ小さな気配は、言葉にすれば軽くなったのか、 それとも、もっと重くなったのか。 確かめる前に時間だけが過ぎていった。
逆に、言ってしまったことで後悔したこともある。余計な一言が、相手の表情をほんの少し曇らせたとき、その曇りが自分の中にも移ってくる。
ああ、言わなければよかった、と 帰り道で何度も反芻する。
言葉は軽いようで、扱いを間違えるとやけに重い。その重さは、時間が経つほど沈んでいく。
だから、最近は黙ることが増えた。黙ることで守れるものがあると知ったからだ。ただ、黙りすぎると、自分の気持ちの置き場所がわからなくなる。 言わないことで守ったはずのものが、いつの間にか自分を締めつけてくることもある。
言わないほうがいいことは増えていく。でも、言ったほうがいいことも、 同じくらい増えている気がする。 その境界線は、いつも曖昧で、日によって揺れ動く。
今週もまた言わなかった言葉がひとつ増えた。それが正解だったのかどうかは、 たぶん未来の自分が決める。
そして未来の自分もまた、何かを言わずに飲み込んで、静かに一日を終えるのだと思う。
その先のことは、まだ言葉にしなくていい。しばらくは、このまま胸のどこかに置いておく。
そのうち、 どこかへ転がっていくのかもしれないし——
You shouldn't talk about it.

みなさん、いつもスキ、コメントありがとうございます。
