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完璧な英語なんてAIにくれてやる。

英語の勉強をしている。
47歳のおっさんになっても、平日も週末も関係なく、毎日英会話をして、スキマ時間を見つけては英文を読み、シャドーイングを繰り返す。

なんでそんなにやってるの?と聞かれても、実は答えられない。
キャリアアップのためとか、転職したいからなんて意識高い系の理由を言えたらいいのに。だけど会社を辞める予定もないし、これで給料が上がるわけでもない。

学生のときから、英語を話せる人が、カッコよくは見えた。友達に帰国子女のヤツがいて、通学中の電車や街角で、外国人観光客と話していた姿が焼き付いている。子供たちがスーパーヒーローに憧れるのと同じなのかもしれない。私にとって、英語とはカッコよさの象徴だったのだと思う。

海外出張には行きたいし、今でもあわよくば、海の向こうで働いてみたいという野望がある。言葉が通じる喜びだけじゃない。言葉が通じなかったときに、気合いで切り抜ける。そんなヒリヒリした体験を求めている。

ちなみに私の発音は褒められたものじゃない。英会話を始めたのは30代半ば。発音記号の勉強をやったことがあるが、英語が嫌いになりそうでやめた。だから未だに、LとRの音の違いなんて曖昧にしか分からない。

教育者や英語界隈のプロと張り合うつもりはない。だけど、こんな私でも、毎日パソコンの画面越しに会話を重ねるうちに、英会話の先生の中には、単なる先生を超えて、友達、いや、ソウルメイトのような存在が何人かいるようになった。

軍隊を退役した後にフィリピンで再婚して暮らしている先生。医師のキャリアを捨ててベトナムで引退生活を送る韓国人の先生。セルビアで、家族で喫茶店を経営している先生。タイに移住して自分のスケートショップを始めたアメリカ人の先生。

先生たちは、私のプライベートから仕事までなんでも知っている。話すトピックがなくなると、家庭でも話さないことを口にしてしまうからだ。でも、だからこそ、たまに奇跡みたいな瞬間が訪れる。

今後のキャリアに行き詰まっていた時にこぼした。
「さっさと会社員辞めたい。けど、独立なんか夢物語かもしれない」

そしたら言われた。
「俺を見ろよ。タイで自分のブランドのスケートボード売って、飯食えてるんだぜ。俺にできたんだから、お前にできないわけがないだろ」

必死に努力したり、何かに挑戦している人を見ると、歳なのか涙腺が簡単に決壊する。諦めることなんて、いくらでも簡単に出来る年齢になった。自分を納得させるための、耳障りのいい、もっともらしい言い訳を見つける才能だけは、無駄に洗練されていく。でも、先生たちにはまだ負けられない。

そして、自分は大丈夫だとも思えた。
この先どんどん高齢になっても、私は孤独にならない。定年を迎えて、やることなくなって暇を持て余したって、一日中レッスンを受ければいいだけだ。

オンラインの出会いだけじゃない。アメリカ出張の時、バスで隣り合わせた南アフリカ出身の女性と話した。彼女は3人の娘を連れてアメリカにやってきた。母国にはもう二度と帰りたくない。だから死ぬ気で働いている。彼女は言った。「あなただって、いつか必ずここで働けるわよ」。ダウンタウンの夜景が、湖に反射していた。

多くの人が、英語を勉強したいと言う。それなのに、続けられる人が絶望的に少ないのは何故か。それは日本人が日本人の足を引っ張っているからだと思う。この不毛なカルチャーに、終止符を打ちたい。

「文法がおかしい」「発音が違う」「ネイティブはそんな言い方しない」

ネットでもリアルでも必ず見かけるコメントTOP3だ。
日本人の英語が分かりづらい? 当たり前だろう。ほとんどの人が、この国で生まれ育ち、日本語を喋って生きる。英語に触れる機会は多くない。日本語訛りの発音になることに、一体なんの問題があるか、1ミリも理解できない。

「それでは世界では通じない」。そんなツッコミが聞こえる。
でもさ。英語はただの記号であり、道具だ。世界が聞きたいのは、お前という人間しか持っていないオリジナルのアイデアであったり、個性的な考えなんだよ。

自分の英語のデコボコさなんて気にするな。カレーに入れるジャガイモの形が歪んでいるからって、文句を言う奴がいるか? 誰も気にしない。味が全てだ。徹底的に煮込め。インド人もビックリのお前だけの英語を、世界に向けて放て。

完璧な英語なんてAIにくれてやる。
血の通った、不器用で、たどたどしくて、だけど気持ちだけが100歩くらい先走ってしまった英語を話そう。それで馬鹿にしてくる奴がいたら、それはそいつが愚かなだけだ。馬鹿な私たちは、馬鹿馬鹿しいくらい愚直に、だけど亀の歩みのようにしっかりと前へ進めばいい。

「愚妻」とか「つまらないものですが」とか、謙遜するのが美徳とされるのが、この国だ。でも英語ではさ、もう自分を蔑むのはやめよう。お前の英語は美しい。完璧な英語なんてつまらない。不完全だから、魂のこもった言葉を放つことが出来る。着飾らずに、気取らずに、腹の底から思っている言葉が聞きたい。

冷笑する奴らは、一生変わらない。観客席からガヤ飛ばして戦っている気になっている人間のことなんか気にするな。俺たちは、自分の足でピッチに立って試合をする。派手にすっ転んで、できた瘡蓋は、エレベーターみたいな人生送っている奴らには、死んでも手に入らない宝石だ。

洞窟の天井をつたわり岩に垂れ落ちる水滴のように。
いつかその努力は、頑固な岩壁をも貫通する日が訪れる。
最後の一滴は、今日かもしれないし、数年後かもしれない。
それまでただ、続けるだけでいいんだから簡単だ。

#創作大賞2026 #オールカテゴリ部門

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