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短線小説ここで埅っおお

【ここで埅っおお 】



県前にぶら䞋がっお芖界を遮るのはホ゜゚カ゚デの葉である。
目の前には、セダンが1台通るのでやっずな幅の道路があり、背䞭に䌝わるひんやりず冷たくお固い感觊は、誰かの家の倖壁。西日の光の角床からしおあず数時間もすれば倜が来る。
それは、分かる。分からないのは、ここは䜕凊で、なぜ僕は壁に背䞭をぎたりずくっ぀け、突っ立っおいるのか。
分からないのはそれだけではない。自分の玠性も、それは生い立ちだけでなく名前や顔すらも、分からない。知識はあるが、蚘憶の䞀切が存圚しないのだ。感芚的なこずを蚀うようだが、自分のこずを忘れおしたったずいうよりは、「元よりそんなものなど無かった」ずいう方がただしっくりくる気がする。䜕かを思いだそうずしおも、海銬のどこにも匕っ掛かるこずなく、ストンず真っ癜なのである。

無いものを考えおも仕方がない。他にも思考すべき䞍可解なこずがある。
たず第䞀に、僕はここから1歩も動くこずができない。蟛うじお銖を巊右に動かしたり、肩より先を動かすこずくらいはできるのだが、背䞭ず倖壁、および靎底ず地面は、それぞれが溶け合っお䞀䜓ずなっおいるように、党く自由が利かない。
第二に、自分はどうやら道行く人たちから芋えおいないらしい。塀に沿っお埮動だにせず立ち぀くしおいる者がいれば、普通䞍審な者がいるぞず芖線を向けおしたうか、あるいは逆に䞍自然なほど芋たいずするか、いずれかであろう。しかし、目の前を過ぎおいく人たちは党くそのような玠振りをみせない。

ずもかく僕は、たるで捕らわれおいるかのようにここから䞀歩も動くこずができず、そしお誰の目にも映らないのである。
そんな非日垞な事象から結論を導くのであるから、自ずずその結論も非日垞になるのは臎し方ない。

 
どうやら僕は、この堎所に瞛られる地瞛霊らしい。




道行く人たちの芳察が僕の日課だ。
䜏宅街の䞀角であるなんの倉哲もない道に、「日々の倉化」なんお気のきいたものはなく、目の前を通る人も倧方決たっおいお、僕自身圌らにたいした興味など無いのだが、ここから動けない以䞊他にやるこずがない。
䞀䜓前䞖の僕はなんだっお、こんな堎所に瞛られるほどの思い入れがあったのか。瞛られるにせよ、せめおもう少し繁華街であれば、いろいろなものが芋れお退屈も凌げただろうに。

僕には肉䜓的疲劎ずいうものが存圚せず、睡眠も必芁ない。
昌も倜もなく壁に匵り付いおいる僕に時間を教えおくれるのは、新聞配達の若者であり、登䞋校する子䟛たちであり、少しアルコヌル臭をさせお倜道を垰る䌚瀟員のおじさんである。
しかし毎日芳察を続けおいるず、最近は僕の䞭で時蚈の圹割以䞊の意味をも぀通行者もできはじめた。

䟋えばある女性は、い぀も華やかな掋服に身を包んでいお、さらには僕の蚘憶する限り1床だっお同じ組み合わせの服はなく、いたっお平凡なこの道を、たるでパリ・コレクションのランりェむを行くかのように颯爜ず通りすぎお行く。
自ら日垞に倉化を起こせない僕からするず、掋服だけでも毎日倉化しおくれる圌女の存圚は貎重で、「今日はどのようなテヌマのもず衣装を構築したのだろう」ず想像しお楜しむこずができた。芋た目から恐らく幎霢は20歳そこそこで、自分の皌ぎではあそこたで倚皮倚様な掋服は揃えられないだろうから、富豪の家の嚘なのか、あるいは金持ちの男たちに服を貢がせる魔性の女なのか。いずれにせよ圌女の日垞のうち、"この道を通る時間だけ"ずいうほんの䞀郚分しか芋る術がない僕には知りようの無いこずである。


逆に倉化がないながらも楜しみにしおいる通行者もいる。ほずんど毎日、倕日が沈むあたりになるず、4.5歳頃の息子の手を匕く母芪の二人組が通る。
母芪はい぀も癜のブラりスシャツにスヌツパンツ姿をしおおり、蚗児所から子どもを迎えに行った垰りのようだ。母芪は、小さな歩幅で行く子どもず歩調を合わせながら、日䞭䞀緒に過ごせなかった時間を補うように、「ひろゆきくん、ひろゆきくん」ずしきりに名前を呌び、その日䜕があったかを蚊ねおいる。
ひろゆきず呌ばれる息子は、たどたどしいながらも自身の持おる党おの語圙を総動員しながら、文の圢をずりきらない蚀葉の玉を䞀生懞呜母になげかけおいる。僕はその光景を芋るず、い぀もなんだか懐かしい気持ちになる。前䞖の僕にだっお圓然そんな時代もあったろうし、魂のどこか片隅に前䞖の蚘憶が残っおいるからかもしれない。
圌らが通る30秒ほどの時間が(それは眠るこずなく氞遠ず立ち続ける僕からするずほんの刹那である)、僕は䞀日の䞭で䞀番安らぎを感じる至犏の時であった。

そうしおそれから僕には幟床も倏が来お、同じ数だけ冬が来た。
い぀の間にかパリ・コレクションは開催されなくなり、"ひろゆきくん"も小孊校を卒業する頃合いになったのか、䟋の芪子二人が目の前を歩くこずもなくなった。
僕の前ではたた、時蚈の代わりをする人たちだけが過ぎ行くようになった。嚯楜があろうがなかろうが、地瞛霊の僕に遞択肢はない。
盞倉わらず僕は壁に沿っお、じっず立ち぀づけおいる。




僕には考える時間がたっぷりある。
新たな刺激は新たな思考のテヌマを生みだす。
だけど、僕は新しくなにかを経隓するこずもできなければ、人に認識されないので誰かず出䌚うこずもできない。埓っお必然的に僕の思考のテヌマは、い぀たでたっおも䞡手の指で事足りる数から増えずにいる。
その数少ないテヌマの䞭で人差し指を担圓するのは『僕の存圚意矩に぀いお』だが、結論はい぀も同じで、「僕に存圚する意矩などない」ずいうものだ。
動かず、認知されぬ存圚に、䟡倀などあるはずもないし、そもそも地瞛霊を"存圚しおいる"ず蚀っおいいかすら怪しい。しかし実際ここには確かに僕の意識があり、自らの意思で消えるこずもできないので、意矩などなくずもここにいるしかない。

僕はカ゚デの葉のすき間から倜空を芋䞊げ、星を眺めた。折角僕は倜通し、365日、空を眺め぀づけるこずができるのだ。もしここで新しい星座でも芋぀けるこずができれば僕の存圚意矩になり埗るだろうに、残念ながら僕には星の知識がなく、その星が既知のものかの刀断が぀かない。
もうひず぀残念なのは、そもそも新しい星座をみ぀けたずころでそれを䌝えられる盞手がいない。

そうしお少し感傷的になっおいたものだから、未明の頃合いにバむクの音が響いお、そのバむクの䞻の顔を認識したずき、僕は旧友ず再䌚したかのようにほっず胞が枩かくなった。
かごにたくさんの新聞を積んで、新聞配達甚バむクを運転する圌は、少し前たで母芪ず僕の前を行き来しおいた"ひろゆきくん"であった。しばらく芋ないず思っおいたが、い぀の間にか高校生ほどの幎になっおいたらしい。近頃は新聞を契玄する家庭も少なくなっおきおいるのか、䞀件のポストに新聞を入れたあずは、ブルンず勢いよくバむクを走らせ、この通りの他の家ぞ新聞を差し蟌むこずなく䞀瞬で過ぎ去っおしたった。

今から思えば、これたで圌の父芪の姿は䞀床も芋たこずがない。もしかするず、圌は女手䞀぀で育おられ、そしお少しでも家庭を助けようず、高校生ながら新聞配達をしおいるのかもしれない。
その日の倕方、圌はもう䞀床僕の前を走り抜けた。朝倕二床、圌は新聞配達をしおいるようだ。僕は圌が通るたび、がんばれず念じた。

 
その日、僕がこの堎所ぞ䜍眮しおから初めおのこずが起こった。
その男は真っ黒のスヌツにハットを被り、日本人離れした身長で手足も長く、遠くからでもよく目立った。珍しく異囜の人かず思ったが、色癜であるものの錻は䜎くお瞌は腫れがったく、日本人ではないようだが、かずいっおどこの囜に属するかず蚀われるず分からない。
他の通行人にもそうするように、僕はその男が通りすぎるのをじっず眺めおいた。するず圌は突然銖を捻っお僕の方を向き、僕ず目を合わせた。そしお被っおいるハットを手に取り少し浮かせ、埮笑みながら軜く䌚釈するず、たたハットを被り盎し、䜕事もなかったかのように歩いおいった。

僕は突然のこずに理解が远い付かず、呆然ずした。あの男は確かに僕を芋お、認知し、挚拶をした。たたたた芖線の先に僕がいた、ずいう颚ではなかった。次第に埌悔の波が抌し寄せおきた。初めお自分を認知した人が珟れたのに、声の䞀぀もかけられなかった。次珟れたら、圌はいったい䜕者なのか声をかけおみようず思った。しかし圌が再び姿を衚すこずはなかった。
幜霊の僕が蚀うのもなんだが、なんずも気味の悪い男である。




3日続いた長雚は、今もなお、心電図のように雚脚を匷めたり匱めたりを繰り返し、収たる気配がない。僕に関しお蚀えば、どれだけ雚粒を身に受けようず衚面をさらりず流れるだけで濡れるこずはないし、颚邪もひかないのでどんな倩気でも別に構わないのだが、雚が続くず人通りが枛るため、退屈さは増す。

空は䞀日䞭薄暗く、倪陜の䜍眮で刻の頃合いを掚枬するのは困難であるが、遠くに䞀人の女性の姿を芋぀け、もうそんな時間か、ず少し驚く。そこには仕事着を着お黒い傘をさすひろゆきの母芪がいた。よく芋るず、手元には小さな花束を持っおいる。ガヌベラを貎重ずした花束。この花の花蚀葉を僕は知っおいる。たしか「垌望」や「究極の愛」だずかだ。
母芪は、ひろゆきが迎えの必芁のない幎になったあたりから仕事の垰りも遅くなったのだが、今日はなにか祝い事でもあるのか早めに仕事を切り䞊げたようだ。圌女の衚情はどこずなく明るく、すでに心はここにあらず、頭の䞭で垰宅埌の段取りにずりかかっおいるようにみえる。片鱗だけながら圌女の苊劎を芋おきた僕も、なんだか嬉しくなった。

ブりンず地面に埮かな振動を感じお、僕は圌女の埌方を芋た。数十メヌタヌ先に新聞配達のバむクが芋える。今日はただひろゆきの姿を芋おいないので、恐らく倕刊を配達する圌であろう。圢は違えど久方ぶりに「芪子が揃うずころを芋るな」ず懐かしい気持ちになりながら、僕はこちらぞ近づいおくるひろゆきを眺めた。
異倉に思ったのは、その速床である。ひろゆきは母芪に迫っおいるのに、バむクのスピヌドを萜ずすこずなくこちらぞ近づいおくる。僕のちょうど目の前を歩く母芪がその音に気付き振り返ったずころで、ひろゆきは初めお圌女の存圚を認識したようだった。その時雚は匷く打ち付けるように地面を匟いおおり、芖界も悪く、たた圌女が手にも぀黒い傘は薄暗い背景に同化しおいお、ひろゆきの刀断を遅らせおしたったようだった。

気づいた頃には圌女ずひろゆきの距離は5メヌトル皋に迫っおいた。ひろゆきは慌おおブレヌキをかけるが、枛速が間に合わない。䜓を暪に倒しおバむクを暪転させようずする。しかし3日間降り続いた雚が最滑剀ずなっお、地滑りを起こし、尚もひろゆきはバむクごず圌女に迫っおいく。

僕はその光景を、たるで連続写真を芋るかのように、䞀動䞀動远いかけおいた。このたた行くず圌らは衝突する。䞡手が塞がり䜓勢の出来䞊がっおいない圌女が、このたた足を掬われるように衝突すれば、ろくに受け身もずれず、最悪死に至るかもしれない。息子は息子で怪我を負うだろうが、それ以䞊に自ら母芪の呜を奪った眪悪感が䞀生消えぬ傷ずしお圌を苊しめるだろう。数幎前の、息子の手を匕いお歩く母芪の姿がフラッシュバックする。ここで圌女たちを終わらせおはいけない。
今この瞬間にここに立ち䌚っおいるこずが、僕の存圚意矩ではず思えた。

「こっちだ」ず僕は誰にも届かない声をだしながら、目の前の圌女の手を取り、匷匕に匕き寄せた。圌女をさわれたこずに些か驚きはあったが、それに぀いお深く考えるほどの䜙裕はなかった。匕き寄せられた衝撃で圌女が壁に軜くぶ぀かるのず同時に、バむクずひろゆきは圌女がもずいた堎所をスラむディングしながら通りすぎ、数メヌトル先で止たった。圌女はただ䜕が起こったのか、理解ができおいないようだ。

よかった、ず思うずずもに、自分の目からなにか䌝うようなものを感じたが、それが涙か雚かの刀別は぀かない。確かめようずしお右手で目元を觊ろうずするず、僕の手はゆっくりず半透明になり、手先から埐々に消えはじめおいた。




3日続いた長雚は、今も尚止む気配がない。
そればかりか雚脚はどんどん匷たり、宏行(ひろゆき)の母芪が搬送された救急病院の病棟を激しく打ち付けおいた。

宏行は集䞭治療宀の倖の長怅子で、嗚咜を挏らしながらただひたすらに母芪の回埩を祈っおいた。倩に、仏に、神様に、思い付くものには手圓たり次第に祈りを捧げた。目を瞑れば、数時間前の光景がありありず脳裏に浮かぶ。倕刊の新聞配達をしおいた宏行は今日その時、い぀もより急いでいた。

母芪は、シングルマザヌでここたで宏行を育お䞊げおくれた。高校に入っおから宏行は免蚱をずり、少しでも家蚈の足しにず、朝倕の新聞配達を始めた。そしお今日、高校卒業埌の就職先が決たった宏行に、母芪はい぀もより仕事を早く切り䞊げ、お祝いをしおくれるずいうこずだった。
打ち付ける雚に芖界を奪われながら走行しおいた宏行の目の前に、母芪は突然珟れた。反射的に衝突を避けようず、宏行は巊に倧きく䜓を傟けるが、暪転したバむクはそのたた暪滑りをしお圌女の足元を掬い䞊げるように衝突し、傘ず花束に䞡手を塞がれおいた圌女は、そのたた頭からコンクリヌトに打ち぀けられた。

 
圌女が緊急搬送されお1時間。治療宀の扉が開いお、医垫が姿を珟す。
医垫は力なく銖を振りながら、宏行に二蚀䞉蚀、説明をする。宏行は医垫の話を聞きながら、䜓内の血液が掻動を停止したかのように、手先の感芚が倱われおいくのを感じる。力の入らない足をなんずか動かしながら、医垫の脇元を通り抜け、治療宀に入る。正面のベッドには、痛々しく包垯を巻いた母芪が、眠るように静かに座しおいる。宏行は母芪の足元に顔を埋め、䜕床も䜕床も謝眪する。

「手塩にかけお育おた䞀人息子。就職先が決たりようやく芪の手を離れるずなったその祝いの日に、息子の手によっお母芪の呜が絶たれおしたうずは、あたりに悲劇」
芋知らぬ声が聞こえ、宏行は涙で腫らした顔をそっず䞊げた。治療宀の片隅にあるパむプ怅子には、黒いスヌツにハット姿の男が座っおいた。組たれた足は異様に長く、蜘蛛を連想させるようにすらりず现い。顔には凹凞がほずんどなく、たるで玙粘土で造圢されたかのようであった。
「貎方、ガヌベラの花蚀葉は埡存知で『垌望』や『究極の愛』だずか。貎方に枡されるはずでした、この花ですよ」
男の手にはい぀の間にか花束が握られおいた。母芪が宏行のために準備しおいたガヌベラの花束。事故の衝撃でほずんどの花がひしゃげおいる。
「䞀䜓なんなんですかあなたは」
宏行は声に苛立ちを隠さず尋ねた。男が病院関係者でないこずは明らかで、郚倖者にづかづかず䞍躟な話を吹っ掛けられ穏やかに察応できるほど、宏行に心の䜙裕は無かった。
「私に"䜕なんですか"ずいうのは少々難しい問いですね。私は誰でもないですし、䞀方で誰でもある、ずも蚀える。貎方がたの蚀葉を借りるなら、"æ­»"ず名乗る他ありたせん」
宏行はキッず匷く男を睚んだ。
「冷やかしに付き合う気分じゃないんです。出おいっおください」
男はやれやれず䞡手を広げおわざずらしくため息を぀くず、すっず立ち䞊がった。ず同時に、芖界から男が消えた。そしお宏行の肩に、たるで盎接骚ぞ氷を抌し付けられたかのような、冷ややかな感芚が宿る。
今の今たでパむプ怅子に腰を䞋ろしおいたはずの男はそこから姿を消し、い぀の間にか宏行の肩に手を回しお、䞭腰の姿勢で真暪に立っおいたのだ。宏行は声をあげながら男の手を振りほどき、衚珟しようのない恐怖ずずもに地面に転げ萜ちた。

「私は貎方にチャンスを差し䞊げようず思っおいるのですよ母芪を死から救うチャンスを」
「チャンス」
男はコツコツず靎音をたおながら、母芪が暪たわるベッドに沿っお歩き始めた。
「なに、私にずっおはほんの退屈しのぎ。死は気たぐれに蚪れたすが、生も案倖気たぐれなのです。私にかかれば、䟋えば今日の事故珟堎に貎方を立ち䌚わせ、事故を無かったこずにする機䌚だっお䞎えられたす」
宏行の目には、恐怖を掻き分けるようにしお少しの垌望の光が灯った。珟実離れした男の話は、䞀方で超垞珟象的な圌の存圚によっお担保されおいるように思えた。宏行は地面を這うようにしお男に迫った。
「本圓ですか。本圓に母を助けおくれるのですか」
男は口の端を倧きく吊り䞊げ埮笑んだ。心臓が凍るような冷たい笑みだった。
「先皋も申し䞊げたように、私は"機䌚"を䞎えるだけ。救えるかどうかは貎方次第。それに、これは私にずっおは退屈しのぎみたいなものです」
退屈しのぎ、ず宏行は呟く。人の生死が関わったこの状況を"退屈しのぎ"ず。宏行の䞭で恐怖ず垌望に加わっお小さな怒りも綯い混ぜになった感情が枊巻く。
「こうしたしょう。貎方を事故が起こる前の事故珟堎ぞず、さらには手を䌞ばせば母芪を救える䜍眮ぞずお連れしたしょう。しかしそれだけではあたりに容易、退屈しのぎになりたせん。ですので、事故が起こる盎前ではなく、そうですね、では18幎前、貎方が生たれた頃たで遡っおお連れするこずにしたす。それずもう䞀぀、この間貎方の蚘憶の䞀切を頂きたす。貎方は自分のこずも母芪のこずも分からない、それどころか自分が䜕故そこにいるのかすら分からない䞭で、事故が起こる゚ックスデむを䜕幎も埅ち続けるのです。18幎もの歳月を経お突劂起こる事故から、芋ず知らずの人を救えたずしたら、それは奇跡ず蚀えたしょう」
「そんな。そんなこず 」
「自信が無いですか私はどちらでも結構です。最初の貎方のお望み通り、歀凊から今すぐ出おいったっお構わない」
宏行はすぐに返答ができず、頭を垂れた。地面に萜ちおいる花びらが目に入る。ガヌベラの花。『愛』ず『垌望』の花。宏行はゆっくり花匁を手に取り、手の内偎に収めお匷く握った。

「お願いしたす。やらせおください。」
男は顔を茝かせた。
「いいのですね。もし貎方が母芪を救えないで戻っおきたずき、貎方は母芪を芋殺しにした蚘憶たでも背負っお生きるこずになるのですよ」
「ここに居たっお母は戻らない。奇跡を起こしおみせたす」
「そうですか。それでは」
男は手をもみ合わおからパチンず指を鳎らした。するず間も無く、宏行の足先から埐々に半透明になり、ゆっくりず消えかかっおいった。
宏行は膝立ちで母のもずぞずすり寄り、だらりず力ない手をずった。次第に宏行の䞊半身、そしお腕たでもがじわじわず消えかかる。完党に消え行く瞬間、宏行は最埌に母芪ぞ声をかけた。

「僕が起こしおしたった事故だから、僕の手で救っおみせる。少しの間、ここで埅っおお」

ここで埅っおお 完


#創䜜倧賞2022


instagramでは、写真家の方からお写真をお借りしお、写真を起点に小説を䜜り投皿しおおりたす。
※写真はすべお事前に蚱可を埗お䜿甚しおおりたす。


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