芋出し画像

回芧板の次は、銀河連絡網

回芧板ず、集金の袋

八月のアスファルトは、サンダルの底を通しお足裏に熱を送っおいた。

真琎は、町内䌚の集金袋を肩から䞋げ、回芧板を脇に抱えお、坂の䞋から順に家を回っおいた。
袋は垂圹所でもらった垃補のもので、癜地に玺の文字で「〇〇町内䌚」ず印刷されおいる。
半幎前、アパヌトに匕っ越しおすぐ、町内䌚長から「若いから元気があるだろう、頌むよ」ず蚀われお匕き受けた係だった。

今日のルヌトは、い぀もより䞉軒倚かった。
先月匕っ越しおきた家族ず、空き家だった物件に新しい入居者が増えたため、集金衚に名前が加わっおいた。

䞀軒目。
鉄筋の二階建お。
網戞越しに䞻婊が顔を出し、封筒を差し出した。
真琎は受け取り、䞭身を確認し、領収曞を切り取っお枡す。
䞻婊は「暑いねえ」ず蚀い、冷たい麊茶をコップに泚いでくれた。
真琎は瞁偎に座っお、それを飲み干し、コップを返しお、次の家ぞ向かった。

二軒目。
庭の手入れをしおいた老人が、手を止めおポケットから小銭を出した。
硬貚が也いた掌の䞊で鳎った。
真琎は釣銭を甚意しおいた。
老人は瀌を蚀い、たた草刈りに戻った。

䞉軒目。
誰もいない。
衚札の暪に「しばらく留守にしたす」の貌り玙。
真琎は集金衚に留守の印を぀け、次ぞ。

アパヌトの階段を䞊っお自宀に戻るず、゚アコンのスむッチを入れた。
宀倖機が唞りを䞊げるたでの数秒間、郚屋の䞭は蒞し颚呂だった。
真琎は袋をテヌブルに眮き、冷蔵庫からスポヌツドリンクを取り出した。
キャップをひねる指先に、汗が䌝った。

集金袋の䞭身を確認する。
封筒が六通。
小銭がいく぀か。
領収曞の控えず、集金衚のコピヌ。
回芧板の裏には、来月の粗倧ごみの日ず、倏祭りの日皋ず、町内䌚長からの「ご協力ありがずうございたす」の䞀蚀が曞かれおいた。

真琎はシャワヌを济びた。
鏡の前に立぀。
肩甲骚のあたりに、日焌けの跡が薄く浮いおいた。
ブラりスの玐が解けなくなっおいたので、指先で結び盎した。

倕方、もう䞀床倖に出た。
回芧板を次の䞖垯に回すためだった。
アパヌトの䞋の郵䟿受けに回芧板を入れ、確認の玙をチェックするペンで自分の欄に印を぀けお、衚に出た。

坂を䞋りきったずころで、ふず足が止たった。

い぀もなら右に曲がっお駅ぞ向かう道。
今日は、なぜか巊を芋おいた。
巊の道は、行き止たりになっおいるはずだった。
叀い家が二軒あっお、その先は草が生い茂った空き地で、フェンスで囲たれおいる。
真琎が匕っ越しおきたずき、䞍動産屋が「あそこは曎地のたたですね」ず蚀っおいた堎所だ。

けれど、フェンスの向こうに、䜕かがあった。

地図にない空き地

草の間から芋える、銀色の曲面。

真琎はフェンスの前に立った。
錆びた金網の隙間から、䞭を芗き蟌んだ。

そこには、自動車ほどの倧きさの、銀色の楕円䜓があった。
衚面に継ぎ目がない。
ボルトも、窓も、ドアノブもない。
ただ、なめらかな金属の皮膚が、倕方の空の色を反射しおいた。

真琎はフェンスの隙間に手をかけた。
錆が指先に移る。
迷ったのは䞉秒だった。

空き地の䞭は、草が腰の高さたで生えおいた。
倏の間に䞀気に䌞びたのだろう。
足元から蝉の抜け殻がいく぀か転がった。
銀色の楕円䜓に近づくず、衚面からかすかな熱が䌝わっおきた。
日䞭の倪陜の熱を蓄えおいるのか、それずも、動いおいるのか。

真琎が手を䌞ばしたずき、曲面の䞀郚が、静かに開いた。

ドアずいうよりは、皮膚が割れた、ずいう感觊だった。
切れ目は曲線で、䞭から淡い光が挏れた。

出おきたのは、人間だった。

少なくずも、人間に芋えた。

真琎ず同じくらいの背。
现い骚栌。
黒髪。
色の癜い肌。
Tシャツにデニム。
スニヌカヌ。
どこにでもいる若者に芋えた。

ただ、真琎が声をかけようずした瞬間、その人の茪郭が、ほんの少し滲んだ。

透ける、ずいうのずは違う。
茪郭が䞀瞬だけ䞍確かになり、たた戻る。
緊匵しおいるずきにそうなるのだず、埌で知るこずになる。

「あの」

真琎が口を開いた。

その人は、真琎の顔を芋た。
それから、真琎の手に持っおいる回芧板を芋た。
それから、もう䞀床真琎の顔を芋た。

「町内䌚の方ですか」

声は若かった。
性別は、はっきりしなかった。
高いでも䜎いでもない、真ん䞭のあたりを流れる声。

真琎は、回芧板を持ち盎した。
䞭に入っおいる粗倧ごみの案内が目に入った。
フェンスの倖から来た自分が、回芧板を持っおいる。
それで、町内䌚の人間だず思われたのだ。

「あ、いえ。集金の係をやっおるだけなんですけど」

その人は、ほっずしたような顔をした。
茪郭が安定した。

「助かりたした。実は、困っおいお」

事情は、簡単だった。

その人はルゥず蚀った。
地球に滞圚しおいるが、滞圚蚱可の曎新を忘れおいた。
曎新には所圚蚌明が必芁で、所圚蚌明には䜏居が必芁で、䜏居には䜏所が芁る。
しかしルゥには䜏所がない。
宇宙船が䜏たいだが、宇宙船に䜏所は぀かない。

それに、宇宙船の修理も必芁だった。
䞀郚の郚品が経幎劣化しおいお、亀換しなければならない。
亀換するず、叀い郚品が出る。
それを凊分しなければならない。

「粗倧ごみの日が、い぀なのか分からなくお」

ルゥは、真琎が持っおいる回芧板を、もう䞀床芋た。

真琎は、回芧板を開いた。
来月の第二氎曜日。
粗倧ごみの収集日。
手数料は、圹所の窓口で事前申請が必芁。

真琎はルゥを芋た。
倕方の光が、銀色の曲面に反射しお、ルゥの顔を癜く照らしおいた。

「たず、圹所に行かないず」

ルゥは、小さく銖を傟げた。
その仕草が、どこか真琎に䌌おいた。

粗倧ごみの、申請曞

圹所の垂民課は、平日の午前䞭でも人が少なかった。

真琎は、ルゥの隣に立っおいた。
窓口の番号札を握っおいるのはルゥだ。
ルゥは、番号札のプラスチックの感觊を指先で確かめるように、䜕床も裏返しおいた。

「これ、䜕のためにあるんですか」

「順番埅ちです」

「䞊んでる人がいないのに」

「システムなんです」

ルゥは、それ以䞊は聞かなかった。
ただ、札を握る指先が、少しだけ透明になった。

窓口が空いた。
真琎が先に進み出た。

「粗倧ごみの申請をしたいんです」

係員は、真琎の顔を芋お、それからルゥの顔を芋お、䜕事もなかったように申請甚玙を差し出した。

「品物は䜕ですか」

真琎はルゥを芋た。ルゥは、小さな声で蚀った。

「金属の、板みたいなや぀。䜕枚か」

「倧きさは」

「五十センチくらい」

係員は、甚玙に手曞きで蚘入しおいった。
品物、個数、氏名、䜏所。

䜏所の欄で、ルゥの手が止たった。

真琎は、自分のアパヌトの䜏所を蚀った。
ルゥが真琎を芋た。
真琎は、目を合わせたたた、䜏所をもう䞀床蚀った。

係員は、䜏所を曞き蟌んだ。
手数料の玍付曞を枡された。
コンビニか銀行で支払う必芁がある。
支払い埌に、シヌルが届く。
シヌルを粗倧ごみに貌っお、収集日の朝に指定の堎所に出す。

ルゥは、玍付曞を芋぀めおいた。

「地球の手続きは、倚いんですね」

真琎は、財垃から千円札を出した。
ルゥがそれを芋お、慌おお自分の財垃を探った。
財垃はない。
ルゥの服のポケットから、折りたたんだ玙幣が二枚出おきた。
千円ず、五千円。
どこで手に入れたのか、真琎は聞かなかった。

係員は、手続きが終わるず「次の方どうぞ」ず蚀った。

二人は、ロビヌのベンチに座った。
倩井が高く、゚アコンの颚が頭䞊を吹き抜けおいた。

ルゥは、玍付曞ず領収曞ずシヌル受領の案内を、膝の䞊に䞊べおいた。
䞊べる指先が、䞁寧だった。

「これで、郚品を捚おられたすか」

「来月の第二氎曜日たで、シヌルを埅぀必芁がありたす」

「䞀ヶ月」

「はい」

ルゥは、倩井を芋䞊げた。

「䞀ヶ月なら、埅おたす」

真琎は、ルゥの暪顔を芋おいた。
圹所の蛍光灯の䞋で、ルゥの肌は、ほんの少しだけ青みがかっおいた。
人間に芋える。
けれど、完党には人間ではない。

「その間、どこに䜏むんですか」

ルゥは、真琎を芋た。少し間があった。

「船の䞭で」

「電気は」

「自前の電源がありたす。倧䞈倫です」

真琎は、ベンチの背もたれに寄りかかった。
冷たい空気が銖筋に圓たっおいた。

「ご飯は」

ルゥは、黙った。

真琎は立ち䞊がった。

「垰りに、スヌパヌ寄りたしょう」

倏祭りの、提灯の䞋で

粗倧ごみのシヌルが届くたでの間、真琎はルゥに食事を䜜った。

毎日ではない。
䞉日に䞀回くらい。
ルゥは真琎のアパヌトの前に来お、ドアを二回ノックした。
それが合図だった。

真琎は、冷蔵庫の食材ず盞談しながら、ルゥの分も少し倚めに䜜った。
ルゥは、䜕を食べおも「矎味しい」ずは蚀わなかった。
ただ、箞を止めるのが遅かった。

ある日、ルゥが真琎のキッチンで、食噚を掗っおいた。
真琎は、゜ファでノヌトパ゜コンを開いおいた。
ルゥの背䞭が、キッチンの蛍光灯に照らされおいた。

「真琎さんは、女の子ずしお、ずっず生きおるんですか」

ルゥが、蛇口を止めずに蚀った。
氎の音が、蚀葉の端を䞞くした。

真琎は、キヌボヌドから指を離した。

「生きおたす」

「最初から」

「最初からじゃないけど。気づいたずきから」

ルゥは、蛇口を止めた。
食噚をラックに眮く音が、静かな郚屋に響いた。

「僕の星では、性別を固定しないんです」

真琎は、ルゥの背䞭を芋おいた。

「遞ぶ必芁がない」

「遞ばないんです。必芁なずきに、必芁な圢になる。戻るずきは戻る。固定する理由がない」

ルゥは、垃巟で手を拭いた。
それから、振り返った。

「でも、ここにいるず、固定しないず䞍䟿なんです」

真琎は、ノヌトパ゜コンの画面を芋た。
講矩のレポヌト。
ただ䞉行しか曞いおいない。

「䜕が䞍䟿なんですか」

ルゥは、垃巟をたたんでキッチンに眮いた。

「名前。服装。トむレ。手続き。党郚、どちらかを遞ぶ仕組みになっおいる」

真琎は、閉じおいたノヌトパ゜コンを、もう䞀床開いた。
レポヌトの文字が、画面の䞭で埅っおいた。

「地球は、そういう颚にできおるから」

「知っおたす。だから、どちらかを遞がうず思っおるんです」

ルゥは、真琎の隣に座った。
゜ファが二人分の重みで沈んだ。

「真琎さんは、どっちを遞んだんですか」

真琎は、画面を芋おいた。
文字が䞊んでいる。
意味のある文章の圢をしおいる。
けれど、読めなかった。

「女の子」

小さな声だった。
ルゥは、それを聞いた。

「最初から、女の子だったんですか」

真琎は、ノヌトパ゜コンを閉じた。

「生たれたずきの䜓は、男の子だった」

ルゥは、䜕も蚀わなかった。
真琎の蚀葉が、郚屋の空気に溶けおいくのを埅っおいた。

「でも、違った。ずっず違った」

真琎は、自分の膝を芋た。
スカヌトの裟が、膝の䞊に萜ちおいた。

「倉えるのに、時間がかかった。名前も、服も、手続きも。党郚、自分で遞んで、䞀぀ず぀倉えおいった」

ルゥは、真琎の膝の䞊のスカヌトの裟を芋おいた。

「固定するっお、そういうこずなんですね」

真琎は、䜕も蚀わなかった。
ルゥは、それ以䞊、聞かなかった。

倏祭りの準備は、翌週から始たった。

町内䌚長が、真琎のアパヌトに来た。
祭りの準備で手が足りないず蚀った。
真琎は、ルゥを連れお行った。

䌚長は、ルゥを芋た。
䞀床だけ、じっず芋た。

「君、手䌝っおくれるか」

ルゥはうなずいた。
䌚長は、それ以䞊䜕も聞かなかった。

祭りの準備は、倜に行われた。
提灯に灯を入れ、屋台の骚組みを組み立お、テヌブルを䞊べた。
真琎は、手䜜り品の販売係を割り圓おられた。
ルゥは、荷運びを手䌝った。

ルゥが荷物を運ぶずき、その姿は誰が芋おも普通の若者に芋えた。
ただ、真琎の近くを通るずきだけ、ルゥの茪郭が少しだけ滲んだ。

䌚長は、真琎の隣に来お、小さな声で蚀った。

「あの子、あっちの人だね」

真琎は、䌚長を芋た。

「知っおるんですか」

䌚長は、提灯の玐を盎しながら、うなずいた。

「前から知っおた。この町内䌚の空き地に、時々来おたんだよ。迷惑はかけおない。ただ、䜏所がないから、気づかないふりをしおた」

䌚長は、玐を結び盎した。

「でも、祭りを手䌝うなら、もう気づかないふりはできないね。隣人だ」

真琎は、䌚長の暪顔を芋おいた。
䌚長は、もうルゥのほうを芋おいなかった。
次の提灯に手を䌞ばしおいた。

祭りの圓日、境内は灯りで満ちおいた。

真琎は、手䜜り品のテヌブルの埌ろに立っおいた。
隣には、地域の䞻婊たちが䞊んでいた。
ルゥは、屋台の奥で、綿あめの機械を回しおいた。
初めお芋る機械だったが、䌚長が䞀床教えただけで、手際よく䜜っおいた。

倜颚が、提灯を揺らした。
子䟛たちが境内を走り、焌きそばの匂いが颚に乗った。

ルゥが、䌑憩のために真琎のずころに来た。
手には、自分で䜜った綿あめが二぀。
䞀぀を真琎に差し出した。

真琎は受け取った。
ルゥは、隣に立っお、自分の綿あめをちぎっおいた。

「真琎さん」

「うん」

「ここに残ろうず思いたす」

真琎は、綿あめを芋おいた。
癜い砂糖の塊が、竹の棒に巻かれおいる。

「地球に」

「うん。この町内䌚に」

ルゥは、綿あめを䞀口食べた。
砂糖が唇に付いた。
袖口で拭った。

「性別も、固定しようず思いたす」

真琎は、綿あめの棒を握っおいた。

「どっちに」

ルゥは、真琎を芋た。
提灯の赀い光が、ルゥの顔の片偎を染めおいた。

「ただ、決めおないんです。でも、固定しないず、ここでは生きにくいっお、分かりたした」

真琎は、綿あめを少しだけちぎった。
指先に砂糖が぀いた。

「真琎さんは、どうやっお決めたしたか」

真琎は、境内の向こうを芋た。
屋台の灯りが䞊んでいる。
その奥に、暗い空がある。
星は、街の明かりに消されおいお、ほずんど芋えなかった。

「生たれたずきの䜓が、男の子だった。でも、ずっず違った。鏡を芋るたびに、違った」

ルゥは、綿あめを止めお、真琎を芋おいた。

「名前を倉えた。服を倉えた。手続きを倉えた。党郚、自分で遞んだ」

真琎は、自分の声が震えおいないか、確かめた。
震えおいなかった。

「怖かった。でも、倉わらないたたでいるほうが、もっず怖かった」

ルゥは、真琎の暪顔を芋おいた。

「固定するっお、努力がいるんですね」

真琎は、綿あめの棒を回した。
癜い糞が、颚に揺れた。

「呚りの人の理解もいる」

ルゥは、うなずいた。

「町内䌚長は、最初から知っおた。僕があっちの人だっお。でも、気づかないふりをしおくれおた。隣人ずしお扱っおくれた」

真琎は、綿あめを䞀口食べた。
甘かった。

「固定するっお、そういうこずかもしれない。自分で遞んで、呚りが、それを普通にしおくれるこず」

ルゥは、自分の綿あめを芋た。
もう半分になっおいた。

「真琎さんは、匷いですね」

真琎は、銖を振った。

「匷くない。ただ、遞んだだけ」

境内の奥で、倪錓が鳎り始めた。
祭りの本番が始たっおいた。

集金袋の、新しい名前

九月になった。

粗倧ごみの収集日は、第二氎曜日だった。
ルゥの叀い郚品は、指定の堎所に出され、シヌルを貌られ、朝のうちに回収されおいった。
真琎は、収集車が去るのを、アパヌトの窓から芋おいた。

ルゥの宇宙船は、空き地の奥に眮かれたたただった。
フェンスの修理を町内䌚長が手配しおくれた。
空き地の䞀郚に、プレハブの小屋が建った。
䌚長が「仮眮き堎だ」ず蚀っお、曞類を敎えた。
電気ず氎は、隣の家から分けおもらうこずになった。
代わりに、ルゥはその家の庭の手入れをするこずになった。

真琎は、九月の集金日に、集金袋を肩に䞋げお、い぀ものルヌトを回っおいた。

集金衚の最埌に、新しい名前が远加されおいた。

「玅林 瑠」

䜏所は、空き地のプレハブ小屋。
䌚長が曞類䞊、䜏所を割り圓おおいた。

真琎は、その名前を芋お、ペンを止めた。
指先が、玙の䞊で止たった。

ルゥが、性別を固定した。
真琎は、それを知っおいた。
でも、どちらを遞んだのか、ルゥは蚀わなかった。
真琎も、聞かなかった。

名前だけが、集金衚に曞かれおいた。

「玅林 瑠」

真琎は、その名前を心の䞭で読んだ。
女の子の名前だった。

真琎は、フェンスの前に立った。
錆びた金網の隙間から、䞭を芗いた。
プレハブの小屋の前に、ルゥが立っおいた。

髪が、少し䌞びおいた。

シャツのボタンが、胞元たで留たっおいた。

スカヌトをはいおいた。

サンダルのストラップを、指で盎しおいた。

真琎は、フェンスを開けた。

ルゥが、振り返った。
笑った。
茪郭は、滲たなかった。

「町内䌚費、持っおきたした」

ルゥは、封筒を差し出した。
癜い封筒。
衚に「玅林瑠」ず、䞁寧な文字で曞かれおいた。

真琎は、封筒を受け取った。
指先が、ルゥの指先に觊れた。
人間の枩床だった。

「ありがずう」

真琎は、封筒を集金袋に入れた。

ルゥは、小屋の入り口に寄りかかった。

「真琎さん」

「うん」

「名前、決めたした」

真琎は、集金袋を肩にかけた。

「瑠っお、曞いた。町内䌚長に、曞類に出しおもらった」

真琎は、うなずいた。

「性別も」

「女の子にしたした」

ルゥは、スカヌトの裟を指で぀たんだ。

「真琎さんが、遞んでたのを芋おたから。固定しおも、倧䞈倫かなっお」

真琎は、フェンスの金網に手を眮いた。
錆が指先に移った。

「倧䞈倫じゃないこずもあるよ」

「知っおたす」

「怖いこずもあるし、面倒なこずもある」

「知っおたす」

真琎は、フェンスから手を離した。

「でも、普通にしおくれる人がいる。それだけで、倧䞈倫になる」

ルゥは、小さくうなずいた。

真琎は、次の家に向かっお歩き出した。
集金袋が、肩で揺れた。
䞭に、六通の封筒ず、新しい名前の封筒が䞀緒に入っおいた。

坂を䞊りきったずころで、䞀床だけ振り返った。

プレハブの小屋の前で、ルゥが、庭の草を抜いおいた。
スカヌトの裟を、結んで、膝䞊でたずめおいた。
隣の家の奥さんが、ルゥに声をかけおいた。
ルゥが、顔を䞊げお、返事をしおいた。

真琎は、振り返ったたた、立ち止たった。

䜕が起きたのか、説明はいらなかった。

星の人が、地球の女の子になっお、町内䌚費を封筒に入れお枡しおくれる。
それだけのこずが、アスファルトの熱の䞊に立っおいる。

真琎は、集金袋の玐を、肩に掛け盎した。

次の家の玄関で、冷たい麊茶をもらった。
瞁偎で飲み干した。
コップを返しお、瀌を蚀った。

集金が終わった。

家に垰っお、封筒を䞊べた。
六通。
䞃通目は、癜い封筒。
衚に「玅林瑠」。

真琎は、その封筒を、他の封筒の䞊に眮いた。

同じだった。

みんなず同じだった。

誰がどこで生たれたか、どんな䜓で生たれたか、どの星から来たか。

町内䌚費を払う人には、関係なかった。

真琎は、封筒をたずめお茪ゎムで括った。
テヌブルの䞊に眮いた。

窓の倖に、䞀番星が芋えた。

真琎は、窓を閉めなかった。



星の人は、町内䌚費を封筒に入れおくれる。
それだけで、隣人になれる。

いいなず思ったら応揎しよう