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逆転ペアの氷上ラブソング〜美形レスラーと小柄スケーター、恋とジャンプは止まらない〜 【ショートショート】

佑々木さやか(うさぎ・さやか)、二十三歳。
身長百八十センチ、体重六十キロ。
女子プロレスラーとしては十分な体格で、団体所属のまま三年目。
にもかかわらず人気はさっぱり伸びず、会場でのコールもどことなく遠慮がちだ。

だが朝の情報番組に出演してから、状況は一変した。
カメラの前で受け答えするだけで「美しすぎる女子プロレスラー」としてネットニュースの片隅がざわついた。
すると今度はアイドルグループの欠員枠へと芸能事務所が彼女を押し込み、気づけば歌番組とバラエティ番組に出演する日々が始まった。

「人生、何が起こるか本当にわかんないね……」

さやかは控室で深い息をつく。
そんな彼女に、さらに理解不能な話が舞い込んだのはアイドルとして初めてのロケの日だった。
番組の企画でアイススケートに挑戦することになり、リンクに立って三十分後には、まるで幼い頃からやってきたかのように自由自在に滑り始めてしまったのだ。
TV的にはアイドルが転ぶ映像を撮りたかったが予想外の展開になってしまった。

視聴者が驚いたのはもちろん、スケート協会まで騒ぎ出すとは、本人ですら想像していなかった。


「平間悠真(ひらま・ゆうま)です。男子シングルの選手なんですが……まぁ、鳴かず飛ばずというか」

練習拠点のリンクで紹介されたのは、身長百六十センチに届かないほどの小柄な青年だった。
柔らかな黒髪に、大きく澄んだ瞳。
生真面目で、言葉は控えめ。ただ、その瞳の奥に宿る光は、黙っていてもスケートが好きだと伝えてくる。

協会が持ちかけたのは「男女逆転ペア」。
十年に一度どころか、前代未聞の企画だ。

「男子が女子をリフトアップできないなら、女子が男子を持ち上げればいいじゃないか。そんな柔軟な発想ですね」

コーチの木本が笑う。

しかし悠真は、ほんの少しだけ眉を寄せた。

「本当は男子シングルで勝ちたかったんです。でも……もう限界は感じていました。身長のせいにするのは嫌でしたけど……」

その声は悔しさと諦めの間に揺れていた。

「じゃあ、一緒にやってみない?」
さやかが手を差し出すと、
「……はい。挑戦してみたいです」
と小さく笑ってくれた。

その瞬間、さやかの胸に小さな火が灯った気がした。
『かわいい』


ペア結成から一ヶ月。
二人の相性は驚くほど良かった。

「さやかさん、もっと僕の腰をしっかり掴んで大丈夫です!」

「了解! じゃあいくよ!」

ひらりと宙へと跳ね上がる悠真。
その身体を、さやかは驚くほど自然にキャッチしていた。

「……すごい、本当に持ち上がるんですね」

「ふふ、プロレスラーなめんなよ?」

悠真は頬を赤くして「そうですね」と視線をそらす。

ひらひらのレオタード風ミニスカート姿に、最初はさやかも落ち着かなかった。
だがプロレスファンもアイドルオタクも「似合ってる!」と褒めてくれたので、いまはもう堂々と着こなしている。

「さやかさんって、本当に綺麗ですよね」

練習の合間にぽつりと悠真が言った。
その言葉に、さやかの心臓はわかりやすく跳ねた。

「急にどうしたの、それ」

「いえ、その……尊敬してるって意味です!」

照れてる悠真。
やっぱり可愛い人だ、とさやかは思った。


ローカル大会から地方大会へ。
順位は見る見る上がり、実況が二人を「男女逆転!ペアの革命児」と呼ぶようになった。

ある日の帰り道。
夕暮れの駅前、練習後で少し疲れた身体で並んで歩いていると、悠真が突然立ち止まった。

「さやかさん。僕……」

「?」

「僕、さやかさんのことが……その……」

声は震えていた。

気づけば、さやかは笑って彼の頭をそっと撫でていた。

「私もだよ」

世界は静かなのに、心臓の音だけがやけに大きく響いていた。


恋人として同棲を始めてから、演技の完成度はさらに増した。
二人とも遠慮が消え、掛け合いが滑らかになり、息がぴたりと合う。

「さやか、次の空中キャッチはちょっと高めでいいよ!」

「任せといて!」

氷上での動きが、まるで手をつないで踊っているかのように自然だった。

全日本大会。
観客席は満員。
緊張で手が震える悠真の手を、さやかは軽く握る。

「大丈夫。私たちならできるよ」

「……うん!」

演技が終わった瞬間、リンクに嵐のような歓声が巻き起こった。
結果は三位。
「新生ペアの台風」として、二人の名は全国に広まった。


そして、オリンピック選考を兼ねた国際大会。
二人は歴代最高得点に迫る演技を披露し、見事代表入りが濃厚となった。

「僕たち、本当にここまで来たんだね……」

「うん。これからもっと先へ行こうね」

リンクの中央で抱き合う二人。
瞳に浮かぶ涙は、努力の証であり、恋の温度だった。

彼らの物語は、ここからさらに続いていく。
だけどこの瞬間だけは、まるで一話完結のように美しく、優しく、温かかった。



プロレスでも人気出ないかな……

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