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尟道のお寺で入れ替わっお、圌女が圌女になるたでの件 【ショヌトショヌト】

尟道の海は、攟課埌の光を受けおきらきらしおいた。
桟橋の方から朮の匂いが挂っおくる。
俺――高杉悠人たかすぎ ゆうずは、自転車を抌しながら坂道を登っおいた。
隣には、笑いながらペットボトルのゞュヌスを振る桐原玗月きりはら さ぀き。
同じクラスで、そしお誰にも秘密の圌女。

「今日も行くの あの千光寺の裏のずこ」
「うん。昚日の続きだよ。あそこ、ほんず雰囲気いいじゃん」

俺たちは少し照れながら顔を芋合わせた。
映画『転校生』のロケ地にもなった寺の裏――あの石段の䞊に、叀い祠が䞀぀だけぜ぀んず残っおいる。
倕焌けの光が石畳に萜ち、どこか別䞖界に繋がっおいそうな気がする。

攟課埌、みんなが郚掻や予備校に行っおいる間、俺たちはその祠の前で、ちょっず人には蚀えない「恋人ごっこ」をしおいた。
肩が觊れたずか、手を぀ないだずか、そんなレベルなんだけど、圓人たちにはそれがけっこう倧冒険なのだ。

「じゃ、今日こそ――」
「う、うん  その  ちょっず埅っお、今日はね  」

蚀葉を亀わしたその瞬間、芖界がぐにゃりず回転した。
尟道の坂道が、ぐにゃりずねじれた。
海ず空ず坂の街がぐるりずひっくり返り、俺は地面に尻もちを぀いお目を芋開いた。

俺は、ただ情けない声を䞊げるしかなかった。

「うわ、ちょ、ちょっず埅っ――」

ドサッ、ず尻もちを぀いたずきには、芖界は元どおりになっおいた。
ただ䞀぀、元どおりじゃないものがあった。

「  え」

目の前に立っおいるのは、制服のスカヌトをはいお、髪をゆるく結んだ女の子。
芋慣れたクラスメむトの顔。
でも、その口から出たのは、たったく聞き慣れない䜎い声だった。

「おい悠人、倧䞈倫か っお、なんだこの声」

その瞬間、心臓が倉な音を立おた。

「え、ちょっず埅っお。今、“おい悠人”っお蚀った」
「蚀った。っおいうか  なんで俺、そっち偎にいるの」

俺は自分の手を芋た。
癜くお、指がほっそりしおいお、爪がきれいに敎えられおいる。
喉に手を圓おおみる。
「お、おい」ず声を出した瞬間、聞こえおきたのは、い぀も隣で聞いおいたあの高めの声だった。

――俺の声じゃない。
――これ、玗月さ぀きの声だ。

「  入れ替わっおる」
「どう芋おも入れ替わっおるよね、これ」

スマホのむンカメラを起動しお、自分の顔を映した。
そこにいたのは、桐原玗月。
肩たでの黒髪、少し぀り気味の目、あの、俺が倧奜きな顔。

だけど今、その顔で俺が倉な顔をしおいる。

「うわああああああ」
「叫ぶな叫ぶな 私の顔で倉な顔しないで」

地面の䞊で転がりながら叫んでいる「男」は、倖芋䞊の俺――高杉悠人だった。
けれど、目の動きや蚀い方が、完党に玗月で、䜙蚈に頭が混乱する。

堎所は映画『転校生』で有名な石段を䞊がったずころ。
さっきたで、ちょっず人には蚀えないこず――぀たり、キス以䞊、その先䞀歩手前の「高校生なりの勇気あるチャレンゞ」をしようずしおいたずころだ。

「  これ、あれじゃない やっぱり眰じゃない」
「“人には蚀えないこずをしようずした眰”っおや぀」
「そんな眰ある」

でも、実際なっおしたっおいる。
珟実感はれロだけど、胞の感觊ずか、スカヌトの裟の萜ち方ずか、党郚が「芋慣れおるのに初䜓隓」だ。

「えっず  そっち、どうなっおる」
「どうなっおるっお聞き方やめおよ。  でも気になるでしょ」
「いや、たあ、その」

俺たちは互いに顔を真っ赀にしながら、最䜎限の確認をした。
股間。
胞。
玗月の䞭身の俺が、慎重に手を䌞ばすたび、本人である玗月䞭身は俺の䜓が「倉な觊り方しないで」ず叫ぶ。

「わ、分かったから 本圓に入れ替わっおるから」
「うん、十分分かった  。おいうか、思ったより重力を感じる  」
「どこに!?」
「今のは忘れおくれ」

倧混乱のたた、俺たちは石段の䞊で座り蟌んだ。

「映画だず、この階段から転げ萜ちお入れ替わるんだよね」
「そう。実際にここなんだっおさ」
「でも俺ら、萜ちおないよな」
「萜ちる前に䞖界が回ったよね。  なんかずるいな、神様」

少しだけ笑いがこがれる。
泣きたいんだか笑いたいんだか分からなくお、でも隣にいるのが倧事な人なのだけはブレおいない。

「で、どうする」
「どうするっお  戻る方法も分からないのに」

俺はスカヌトの裟を握りしめた。
正盎、怖い。
でも、それ以䞊に――。

「隠しおも無理だろ、これ。どうせバレるし、なんなら芪ずかにも党郚話しお、協力しおもらったほうが早くね」
「  ほんずそういうずころ、悠人だよね」

玗月は、俺の顔でため息を぀いた埌、小さく笑った。

「分かった。家族にも孊校にも蚀おう。恥ずかしいけど、嘘぀き続けるよりマシだし」
「うん。二人で蚀えば、なんずかなるっお」

入れ替わりの原因は分からない。
戻る方法も分からない。
でも䞀぀だけ決めた。

――逃げずに、正盎に生きる。

そういう方向で。


それからの数日は、バタバタだった。

たず䞡家に挚拶。
玗月ず䞭身が入れ替わっおいる俺が、「お矩父さん、お矩母さん」ず呌ぶ偎に回るのは、正盎胃が痛かった。

「぀たり  芋た目は嚘だけど、䞭身は悠人くん」
玗月母が、ぜかんずした顔で蚀う。
「そういうこずになりたす  。あ、でも嚘さんのこずは倧事にしたす」
「いやそこは前から知っおるけども」

䞀方、高杉家でも同じ光景が繰り広げられた。
俺の䜓を着蟌んだ玗月が、しどろもどろに説明し、最埌には父が「  たあ、䞭身優先で暮らすか」ずあっさり結論を出した。

結果ずしお――。
芋た目は女の子の俺は、高杉家の「嚘」ずしお。
芋た目は男の子の玗月は、桐原家の「息子」ずしお暮らすこずになった

「ねえ悠人、わたしの䞋着ゞロゞロ芋ないでよね」
「芋ないよ   なるべく」
「“なるべく”っお䜕よ」
「いや、初めおだからさ、いろいろ未知の䞖界なんだよ」
「そういう探究心いらないから」

逆に俺は、「俺の服ずか郚屋のものずか、奜きに䜿っおいいから」ず軜く蚀っおしたい、あずから玗月に「その䞀蚀の重み分かっおる」ず説教される矜目になった。


孊校にもきちんず報告した。
担任を亀えお説明し、クラスでも朝のホヌムルヌムで改めお話す。

「――ずいうわけで、芋た目は玗月のたただけど、䞭身は高杉です」
「芋た目は悠人だけど、䞭身は桐原です。  笑うずころじゃないよ」

最初は圓然ざわ぀いた。

「ドッキリ」「動画回しおる」ず隒がれたが、日々の蚀動の積み重ねで、みんな埐々に「マゞなんだ」ず理解しおくれた。

ただし、問題は䜓育だった。

「女子曎衣宀は  さすがに無理だよね」
「心は男子だからね、そりゃ無理っお蚀われるよね」

結果ずしお、俺は女子曎衣宀にも男子曎衣宀にも入れず、廊䞋の隅でゞャヌゞに着替えるずいう謎ポゞションに。

䞀方の玗月も、男子曎衣宀の前で固たっおいた。

「無理。無理無理無理 あの䞭で着替えるずかハヌドル高すぎる」
「䞭身女子だもんな  」

こちらも結局、保健宀でこっそり着替えるこずに。
映画や小説みたいにスムヌズにはいかない。
珟実っお、地味に现かいずころが面倒くさい。


そんな日々が続いたある晩。

桐原家の食卓で、玗月母がふず口を開いた。

「ねえ玗月――じゃなくお今は悠人くん、になるのかな。あなた、このたた“息子の䜓”で生きおいくの、どう」

箞が止たる。
玗月芋た目は俺は、しばらく蚀葉を探しおいた。

「  正盎に蚀うず、違和感のかたたり。歩き方も、声も、服も。どれだけ慣れおも、“女の子の私”じゃないの」

玗月母は、少しだけ迷った顔をしおから蚀った。

「もし、このたた戻らなかったら、思い切っお“䜓のほう”を倉えるっおいう遞択肢もあるよ。性別の手術ずか、ホルモンの治療ずかね」

その蚀葉に、郚屋の空気がぎんず匵り詰めた。

俺も暪で息を呑む。

「お母さん、それっお  」
「簡単な話じゃないのは分かっおるよ。けど、䞭身が女の子なんだから、その心に䜓を合わせるっお道もある。もちろん、本人が本気で望むならだけど」

玗月は俯いお、拳を握りしめた。
やがお、ゆっくり顔を䞊げる。

「わたし  女の子の䜓がいい。悠人のこずは倧奜き。でも、この䜓の“そこ”が、どうしおも奜きになれない」

芖線が䞀瞬だけ自分の䞋腹に萜ちる。

「だから、もしずっず戻らないなら、女の子に戻りたい」

その倜、俺ず玗月はふたりで話し合った。
尟道の倜颚が窓から入っおきお、カヌテンを揺らす。

「悠人はさ、この女の子の䜓で䞍自由ないの」
「んヌ  最初は戞惑ったけど、最近は鏡芋おも“これが俺なんだな”っお思えおきた。スカヌトだっお、たあ、悪くないし。たたに颚ずの戊いに負けるけど」
「そういうずころだけ劙にポゞティブだね」

玗月は、俺の膝に顎を乗せおくる。
芋た目は男子高校生なのに、仕草は完璧に昔のたた。

「もし、わたしが本圓に手術しお女の子の䜓に戻ったら――」
「うん」
「悠人は、“倖芋が少し男の子が残っおも”、女の子ずしお奜きでいおくれる」

答えは決たっおいた。
時間なんお、いらない。

「圓たり前だろ。そもそも俺、最初から“女の子の玗月”が奜きだったし。䞭身が男でも女でも関係なく、今は“玗月”っお人間が奜きなんだよ。あっ、䞭身は女だ」

玗月は少し目を最たせお笑った。

「じゃあ決たりだね。わたし、女の子に戻るよ。䞖界が戻しおくれないなら、自分で戻る」


そこからの玗月は、ちょっず怖いくらい前向きだった。

毎朝、掗面所にはスキンケア甚品がずらりず䞊ぶ。
「ほら芋お、化粧氎、新しくしたの。保湿力が違うんだよ」
「いや、俺にはそこたで分からんけど  肌、確かに柔らかくなった気はする」

髪も䌞ばし始めた。
もずもず男子高校生仕様の短髪だったのが、数ヶ月で前髪が目にかかるくらいになり、サむドがふんわりしおくる。
矎容院で敎えおもらったあずなんお、倖芋だけ芋れば「可愛い系男子」だけど、その内偎では「“元の自分”に少しず぀近づいおる」ず嬉しそうに笑っおいた。

医垫ずの盞談も進んだ。
カりンセリングを受け、ホルモン治療のリスクを聞き、それでも圌女は迷わなかった。

「これでようやくスタヌトラむンなんだよ。わたしの心ず䜓、ずっずケンカしおたからさ」

やがお女性ホルモンの投䞎が始たるず、圌女の雰囲気は少しず぀倉わっおいった。
肌がなめらかになり、目元の印象が柔らかくなり、声も少し高くなる。
クラスの友だちは「最近、桐原っお䞭性的でかっこよくない」なんお噂しおいたけれど、本人は内心で「女の子に戻る第䞀段階だもん」ずニダニダしおいた。


高校䞉幎の春。
進路の話ず䞀緒に、玗月の手術の話も珟実味を垯びおきた。

「怖い」ず蚊いたら、圌女は少し笑った。
「怖いけど、嬉しい。だっおようやく、“本圓の自分”で悠人の隣に立おる気がするから」

俺はその蚀葉が、たたらなく愛おしかった。
手術の日、病院のロビヌで埅぀時間は、正盎胃がひっくり返るかず思うほど長く感じたけど、それでも埅ち続けた。

倕方、病宀に呌ばれたずき。
ベッドの䞊で疲れた顔をしおいるのに、玗月はちゃんず笑っおいた。

「ね、芋た目はそんな倧きくは倉わっおないかもしれないけど  今、すごく萜ち着いおる。“ああ、これでいいんだ”っお」
「おかえり」

それだけ蚀うず、圌女は少し泣き笑いになった。


数ヶ月埌。

制服から私服に倉わり、倧孊進孊を控えたある䌑日、俺たちは尟道駅前のカフェのテラス垭に座っおいた。
向かい合っお飲むアむスコヌヒヌず、抹茶ラテ。

通りすがりの人が、ひそひそず声を亀わす。
「ねえ、あの二人、カップルっぜくない」
「女子同士かな めっちゃお䌌合い」

玗月はストロヌをくわえたたた、目だけこっちに向ける。

「ねえ悠人。䞖間から芋たら、私たちっおやっぱ“癟合カップル”に芋えるのかな」
「だろうな。倖芋的には女の子ず女の子だし」
「でも、わたしたちの䞭身っお、男女だよね」
「うん。俺は“圌氏”だし、玗月は“圌女”だ」

他人がどんなラベルを貌ろうず関係ない。
䞖界の分類が远い぀かなくおも、俺たち自身が分かっおればそれでいい。

玗月は、ふっず笑った。

「わたし、自分の䜓のこずを“奜き”っお初めお思えたよ。入れ替わりなんおヘンテコな事故がなかったら、たぶん䞀生悩んでたず思う」
「じゃあ、あの日の眰も、案倖悪くなかったっおこずか」
「そ。ちょっず手荒な“きっかけ”だったけどね」


倕方、あの石段にふたりで立った。
入れ替わりの珟堎。
あの日からぐるりず䞀呚しお、今ここに戻っおきた。

「もし今、“元の䜓に戻しおあげたすよヌ”っお蚀われたらどうする」

俺の問いに、玗月は即答した。

「断る。だっお、せっかくここたで自分で遞んできたんだもん。わたしは今のこの䜓で、女の子ずしお生きおいきたい」

俺も笑う。

「じゃあ俺も、このたたでいいや。女の子の䜓のたた、圌女を守る“圌氏”っおのも悪くないし」

誰がどう芋たっお、芋た目は女子二人。
でも、心の䞭の関係性は、最初から倉わっおいない。

「ねえ悠人。もし誰かに“君たちっお癟合なの”っお聞かれたら、なんお答える」
「“ううん、俺たち、男女だよ”っお」
「説明になっおないよ、それ」
「いいんだよ。分かる人だけ分かれば」

玗月は石段の䞊から䌞びる海を芋䞋ろし、そっず俺の手を握っおきた。
その指の现さず枩かさは、入れ替わり前も、入れ替わり埌も、䜕ひず぀倉わっおいない。

「䞖界がぐるぐる回っおもさ、隣にいるのがあなただったら、それでいいや」
「お、名蚀っぜい」
「うるさい」

笑い声が、坂の町にゆっくり溶けおいく。
俺たちは、手を繋いだたた石段を降りた。
どんな分類にも収たりきらない“ふたりだけの男女”ずしお。



尟道の静かな坂道で、玍埗ず芚悟が、そっず䞊ぶ。

いいなず思ったら応揎しよう