【岡山紀行】
まったり、倉敷
この街は、私がほうけた顔で歩みを緩め、のんびりとあくびをしたとしても、私をはじき飛ばしたりしなかった。
この街は、夜分に私がこわばらせた顔でほっつき歩き、川面に映った街明かりをのぞきこもうとしても、私を騒ぎ立てたりしなかった。
倉敷駅に降り立つ。心なしか頭と体の力が抜けていくような私、の気配がする。

からのコップに、お水が注がれた。もう少し、まったりのままでいる。

頭の上を、雲が通り過ぎるまで眺めてみようと思ったら、のらりくらりとした雲だった。空の下、気持ちがごろごろとして、一つあくびをしてみた。

この街には、ハクチョウが住んでいる。倉敷川の水面を右に行ったり左に行ったり、私は目で追っていたのだけれど、いつのまにか私の体も右往左往して、ハクチョウと並走している。
あわてふためく私を、ハクチョウが住むこの街は、温かいまなざしでくるんでいく。
大原美術館に向かう。

ローマ神殿風の堂々とした姿で、私が思わず口を開けながら柱を仰ぎ見ても、神殿は私の襟を正すようなことはしないで、中から手招きをして出迎えてくれた。
街に息づく、建物の呼吸に吸い寄せられる。

思索にふけると、眠りに誘われる。誰かに語りかけていた私がいる。眠ってもいいようだった。
時間を忘れたはずだったけれど、この街の夜が、ゆっくりと近づいてきた。
ギャッ、と鳴いてねぐらに帰るアオサギ。私もそろそろ帰らないと。でも、街が私をせかすことはしない。




歩いている。眠っている気もする。でも、歩いていた。なにを考えていたのだろうか。なにも考えていなかったかもしれない。街に溶けこむのは、気持ちのいいことだと、わかった気がした。
小説は他サイトにも載せていますので、もしよかったらのぞいてみてください。ありがとうございます。
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