見出し画像

【詩】帰り道

帰り道,歩き慣れた道に影が伸びる。
ひとの影はふんじゃいけないよ。
母の声がして,ふりむいた。

思い出そうとすると息ができなくなる。
海に溶けているのは,数万年分の名もなきため息。
寄せては返す波は,
忘却こそが、命の正しい形だと教えてくれる。

忘却の先に,納得があるのは,
それが,わたしたちの体に刻まれた、最初の叫びであるかもしれない。

忘却ののちに残るのは,
呼び方も思い出せない、ただ温かなひとつの光る粒。
その粒がほほにふれたとき,わたしはこう思った。

長い旅の果てに,すべてはここに還るのだと。
すべては今に還るのだ。
永遠の空白に,ひとつの笑顔が咲いた。

閉じた目を開くと,明日はもう,昨日になっている。
笑顔の主はおかえりと言って,そして消えた。私もまたひとつの波になるのだ。

履歴

2026/3/24 13:06

[ サイトマップを見る ]

いいなと思ったら応援しよう!