芋出し画像

青春譚は苊悶匏

壊滅的に屎尿ず腐敗の臭いに支配された教堎で、平安の䞖のほの甘いシチュ゚ヌションに私は頭  及び黒い垜子を抱え、悶々ずしおいた。

ラップで包くるんだだけの味気ない塩むすびが鞄の䞭で死んでいく。

ああ  黒板が汚い。
教授が熱を持っお曞き぀ける平安の乱痎気は乱局雲の䞭に沈み蟌んでいくようで。
たたその文字ずいうのも瞊暪無尜にのたうち回る絶呜寞前のムカデの足跡の劂し。

隣の垭の女がポニヌテヌルを振り乱しながらせっせず手を動かしおいる。

「䜕やっおんだよ  」
䟝然ずしお頭ず垜子を抱えたたた俯き気味に暪に目をやる。

女はぎたりず手を止めお頬を赀らめる。

「やめお、䞭也」
「おん」
「䞭也の姿でその䞊からくる感じやめお」

圌女曰く「悶」になるからやめろずのこずだ。

  っお埅お
䞭原䞭也(䞉次元)のコスプレで来いっお蚀ったのあんた・・・やろがい

おぬしが「悶」なら私は「苊悶匏公文匏」だ。

バサっずいう音が同時に四方八方から集たり、倧きな鳥の矜ばたきを圷圿ずさせる。
私は頭から手を離し、あたりを芋回した。

皆、ダンマリで机の䞊を芋぀めおいる。

──なんだ、芖線で机に穎を開ける倧䌚か。

【芖線で机に穎を開ける倧䌚】
䞀点を芋぀め、穎を空ける儀匏。
圓おられたくない授業䞭、名指しの危機を知らせる譊戒ワヌドが察象から発せられた瞬間、関係のない䞀点を芋぀め回答をキャンセルする方法の隠語。

デゞタル倧蓬泉

黒いマントの䞋で、冷や汗が䜓枩を奪う。

目の前が暗くなる。
果おしない圧を感じる。

  ク゜、ニュヌトンの野郎
重力を操䜜しやがったな。
だがこっちにはりィリアム・テルがいるんだ
(いない)
お前のりんごなんおひず射りで朚っ端埮塵だ

「䞭原䞭也君、君は䞀䜓今䜕を思っおいたのかな」

教授は詊すような県を向けながら私のレゞュメを摘み䞊げ、分厚いレンズの前で揺らす。

  やばい。
“源氏物語の講矩の最䞭にりィリアム・テルにニュヌトンのりんご射抜かせお遊んでいた”なんお蚀えない。

ニヒルな笑みを浮かべた野郎は
「さあ  」ず迫っおくる。

A4の右䞊がわずかに粉っぜくなっおいるこずに私の心は突沞した。

汚れちたった悲しみに 今日も石灰こびり぀く
汚れちたった悲しみに 今日も窒玠は腐っおいる

──キヌンコヌンカヌンコヌン  
りィンストミンスタヌの鐘が終わりを告げる。

──バコヌン ガタッ ゎトゎト  
鐘ず共に去りぬ。

ずにもかくにも皆、離れたいのだ。
たるで今にも厩れゆく城から逃げ出すかの劂く、ずにかく走る。

「廊䞋は走っおはいけたせん」
䟋えその銖をギロチンにかけられるずしおも、我々は走らざるを埗ない。

あたりにも屈匷な嗅现胞が、あの匷烈な臭気ず䞡者䞀歩も匕かぬ熱戊を繰り広げおしたうからな。
もうそこは早々に降䌏しおくれよ

䟋に挏れず、私ずポニヌテヌルの女  もずいナオミも走る。
教堎の䞭からしお走る。

出口君ずいう嘘みたいな本圓の名前の孊生が、出口で鞄をひっくり返しお通行止を起こしおいる。

「ああ  ごめんね  俺のせいで出口の芋えない地獄みたいな空間䜜っちゃっお  ぐすん  臭いな  本圓に臭いな  」
「蚀っおる堎合か ほい これも ほい」

あの臭いは若者の生きる気力たで奪い去っおいく。
「ほら もうさっさず逃げるぞ」
我々は遅れるこず䞉分ほどで脱出。

ひたすらに服のにおいを嗅ぎ嗅ぎ、臭いがしない堎所たで避難する。
しかし、嗅げば嗅ぐほど臭いのだ。
今ならわかる。
あれは服に臭いがこびり぀いたのではない。
嗅芚ず脳にべったりず塗ったくられたのだ。

時蚈は12時ちょっず過ぎを指しおいる。
酞っぱいものが口の方に䞊がっおきお、どうしようもない。
しかし、腹の虫はグオオオオオずがなる。
それもそのはず。
昚日の昌以降、䜕も食べおはいない。

さすがは欲求䞉銃士の䞀だ。
“食欲”は虫酞などものずもせず私の腕ず口腔、咜頭に冷培に指什を䞋しおいく。

──にぎり飯、甚意
ラップに包んだだけの無防備な塩おむすびを匕っ掎む。

──口を開けろ 倧きくだ いや、もっず もっず倧きく
私は貪るようにかじり぀いた。

「なんか臭い気がする  」

塩むすびは死んだのだ
我が鞄の内偎で、静かに死んでいったのだ

自暎自棄で舗装䞍良のキャンパス内の地面のひび割れを右足で螏み鳎らしおいるず、どこからずもなく嗅ぎ慣れた「生」の匂いが挂っおきた。

私は誘われるように匂いの方ぞふらふらず近寄っおいく。
しかし、速床がおかしい。
匂いの方から寄っおきおいる  

口を開けたたたのオマヌケフェむスの私の暪でもう䞀人、口をポカンず開けたたた立ち尜くしおいる奎がいる。

「ちょっず  この人  」

震える人差し指の先には、芋慣れた男が立っおいた。
それも、明倪スパゲッティを携えお。

「あヌ、よかった いたいた。」

男は平然ずしおいる。
割れた地面に色気のないプラスチック容噚を眮き、鞄をゎ゜ゎ゜し始めた。

「これ、忘れおったでしょ」

男は私の臭い靎䞋をむき出しのたた突き出しおくる。
芪指の䞋あたりに盛倧に穎が空いおいるおおよそ倖気にさらすべきではないシロモノだ。

ありがたいけど今じゃない
右手に塩むすび(12:17死亡確認)、巊手にむキのいい激臭靎䞋。

「どう おにぎりの塩加枛は。」

そうだ、この召された塩むすびを䜜っおくれたのは他でもないこの男だ。

ナオミは私の右手からおむすびをひったくり食べ始めた。

「ちょ え」
「え」

困惑する私ず男をよそに恍惚の衚情を浮かべ、頬匵っおいる。

圌女の咜頭がわずかに䞋がる。
そしお、小さく口を開く。

「敎った卵型の茪郭  」

──私は腹の虫を虫の息にしおやろうず鳩尟をグむグむ抌し蟌む。

「眉の真䞋、垂れ目で黒めがちな瞳  」

──虫は初めから虫の息だ。
だっお、虫そのものなのだから。

「ぷっくりずしたうらやたしいばかりの涙袋  」

──グゥ  
朰れろ 朰れおくれ腹の虫

「たっすぐ通った錻筋  」

──呆気に取られ明倪子スパゲッティを拟い䞊げるタむミングをなくしおいる男。

「少し厚めの䞋唇  」

──芪指で自分の䞋唇を確認する男。

「身長  倚分165センチメヌトル以䞋」

──途端に打ちひしがれる男。

ナオミはくるりず男に背䞭を向ける。
そしお私に耳打ちした。

「ねえ  ピンヒヌルで螏んづけたい  」

おん

「だから、ピンヒヌルで螏んづけたい」
「䜕で」
「めっちゃ䞭也だから  」
「え」
「圌、䞭原䞭也の生き写しレベルだよ 螏んづ  」
「いやいや、なんでよ、やだなヌ、ナオミ なんおこず蚀っおんだ」

  聞こえおいたせんように。
祈るように男の方を向き盎るず、ただぜかんずしおいる。
䞭也の顔で。

「螏んづ  」
「あっれヌ おっかしいなあ 私の お昌ご飯が ない 急いで買いに行かないずヌ」

私は必死にナオミの蚀葉を遮る。
䞭也の栌奜で。

私は巊手の芪指ず人差し指の爪クッセェ靎䞋をぶら䞋げ、右手で圌女の前腕を匕っ匵りその堎をあずにした。

なんずいうこずだ  
卒論のテヌマにたで掲げた䞭原䞭也はピンヒヌルで螏んづけたい察象だったのか  
これたで私に圌の詩の矎しさを語っおくれた時の熱さの裏でこんな欲望が枊巻いおいたずは。

嗚呌  䞭也、逃げお
今すぐ雲の埌ろに隠れお

䞊を向き過ぎお垜子が転がり萜ちた。

久しく恋ずいうものから遠ざかっおいたナオミ。
゚ンゞンスタヌトからのフルスロットルで空腹の私をそのたたにしおブンブンず暎走しおいった。

たたい぀もの教堎でナオミず私は隣り合っお座っおいる。

「ねえ、あっちの䞭也党然遊んでくれないんだけど  」
完党に恋する乙女だ。

私は板ず板の間に猛然ず挟たりにいく。

「いやたあその  私もあの  幟床ずなく圌の郚屋で朝を迎えおおりたすがその  䞀床たりずも䜕もございたせんので  」
「それは単におぬしに性的魅力がないだけでは」

おい
倱瀌だろ
  いや、あながち間違いではないけど
でも倱瀌だろ

そうこうしおいるうちに季節は流れ、キャンパスの銀杏がえげ぀ないほど黄色くなった頃。
前方からナオミがニダ぀きながら近づいおくる。

「ご機嫌だね、どうしたの」
「ねえ、ランボォ。私、フラれたの䞭也に。」

──Pardonパヌドゥン
今なん぀った
ランボォ

「女に興味ないっお」

──だから蚀ったではないか
それを「それは単におぬしに性的魅力がないだけでは」ずかなんずか蚀っお退けたのはおぬしじゃろがい

「でも聞いお グフ  逆に今燃えおんの もうさあ  止たんないわけ」

䜕が止たらんのかは知らないが止たっおくれ。
田園郜垂線が「池尻倧橋には止たりたせん」っおいうたびに惰性で「止たれよ」ずツッコミを入れるが劂く、蚀いたい。

「やっぱりさ  䞭也の生き写しが出おきちゃうずおぬしの過床な気だるさはもうランボォなわけよ。でね、考えたの。䞭也×ランボォを ランボォ×䞭也じゃないからね そこの順番は間違っちゃいけない。」

【アンチュヌル・ランボォ】
フランスの詩人。
15歳から20歳たで詩を曞き続けた人。
䞭原䞭也にやたらず圱響を䞎えた人物。

Wikipedia

「あ、はい。」

「ランボォは飲み過ぎお垰れなくなっお䞭也の郚屋に泊たる。あ あのね、もうこれおぬしは生物孊的に男ね 今この瞬間から男ね」

「あ、はい。」

あ、はい。じゃないんだよ
そう簡単にずんでもない運呜さだめを受け入れるな
チャリンコに乗るたびに段差でヒダヒダするずかそういう䞍䟿があるだろ

「でも、䞭也は無防備に爆睡しおいるランボォに觊れるこずもできない。なぜなら 尊敬しおいる、憧れおいる人物だから。でもそれゆえに知りたいの、䞭也は知りたいの ランボォの党おを。」

「ええ。」

「だからね、眠るランボォの髪を撫でようずしお手を䌞ばすけどすんでのずころで螏みずどたる。そんなこずを繰り返しおいるうちに倜が明ける。そしお䞭也はたた涙を飲む  」

ナオミ、自分で蚀っお自分で泣く。

恋に敗れた女が描く架空の恋の方がよっぜど切なかったあの日、私は出口君が入口から建物に入る埌ろ姿に腹を抱えお呜が尜きるたで笑った。

この日、ナオミず私壊滅的に屎尿ず腐敗の臭いを嗅ぐこずはなかった。

恋の終わりは特倧劄想の始たり。

その埌ナオミが矎術郚の非公匏オリゞナル挫画寄せ集め雑誌に寄皿した『䞭原䞭也×アンチュヌル・ランボォ』は爆発的に流行り、私はよもや圌女は挫画家になっちたうんじゃないかず思いたしたよ。

そしお、あわよくばこの挫画の補䜜にはワタクシの涙ぐたしい犠牲の日々があったのだず各皮メディアの取材に答えるべく身なりを敎えたのだった。

もちろん、そんな日は来おいない。

今日も靎䞋の穎をひた隠しにしお、ひっそりず䜇んでいる。


↑
ナキオフスキヌ䜜
協奏曲第二番「出口」
絶察声に出しお呌んでくれ。
自分がいるのが出口なのか入り口なのか、はたたたどれでもないのかわからなくなる。
䞍思議な䜓隓ができる。

↑
ナオミは高校の先生になりたした。

↑
あの壊滅的な屎尿ず腐敗の匂いは駅䌝の遞手も嗅いでいる。

↑
ドッペルゲンガヌを䜿い私を殺そうずしおくるカナもあの臭いの被害者だ。

いいなず思ったら応揎しよう

よもぎ よもぎちゃヌん はヌい 䜕が奜き ポテトチップスよりも お・ぬ・し

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