見出し画像

たぶん生きづらさの原因って、ゴールテープが消えたことだと思う。

現代を生きる人の多くは、生きづらさを感じている。

理由を聞くと、仕事がうまくいかない、お金がない、人間関係がつらい、恋人ができない、結婚できない…

そんな答えが返ってくるだろう。

もちろん、それらは間違いなく苦しさの原因だ。

でも、それは表面的な理由に過ぎない気がしている。



もっと根本にある原因を一言で表すなら、

ゴールテープが消えたこと

ではないだろうか。

昔の日本には、「こう生きれば幸せになれる」という一本のレールがあった。

いい学校に入り、いい大学に入り、いい会社に就職する。

結婚をして、子どもを育て、家を買い、車を買う。

60歳まで働き、退職後は年金で悠々自適な老後を送る。

もちろん、その生き方が本当に幸せだったかどうかは人それぞれだ。

選択肢が少なかった時代でもある。

それでも、少なくとも目指す場所ははっきりしていた。

ゴールテープが見えていれば、人は疑うことなく、そこへ向かって努力できる。

そして周りも同じゴールを目指していたから、みんな一緒という心理的な安心感もあった。



一方、今はどうだろうか。

ゴールテープがあると思って走り始めたのに、どこにも見当たらない。

それでも走り続けなければならない。

この状態が、多くの人を疲弊させているように思う。

たとえば仕事。

昔は「いい会社に入れば安泰」と言われていた。

だからそれに向かって、みんなが努力してきた。

でも実際には、大企業に入っても給料は思うように上がらず、生活が苦しい。

中にはリストラされてしまう人もいる。

最近のAI失業は、その最たる例だろう。

必死に勉強して国家資格を取っても、将来が保証されていないのだ。

正解だと信じて努力を積み重ねてきたのに、その先に思い描いていた生活が待っていない。

だから苦しい。

努力をしてこなかったからではない。

努力をした先に、存在していると信じて疑わなかったゴールテープが見当たらないから苦しいのだ。



しかも今は、正解が一つではない。

ある人は、一つの会社で長く勤めるのが正解だと言う。

ある人は、転職を繰り返して、自分の市場価値を上げるべきだと言う。

副業を始めろ、起業しろという人もいれば、公務員が一番安定しているという人もいる。

全部もっともらしく聞こえる。

だからこそ、

結局、自分は何を選べばいいの?

となってしまう。

その象徴ともいえるのが、ここ数年のMBTIをはじめとした性格診断ブームだろう。

  • 自分はどんな性格なのか?

  • 向いてる仕事は?

  • どんな恋愛傾向があるのか?

そんな答えを知りたくて、多くの人が診断を受ける。

もちろん、性格診断そのものを否定したいわけではない。

実際、自分を知るきっかけとして役立つ面もある。

ただ、これほどまでに性格診断が流行る背景には、正解がなくなった社会不安があるように思う。

昔は、みんな同じ方向へ歩いていればよかった。

だから、自分の性格をそこまで深く分析する必要はなかった。

しかし今は、道が無数にある。

だからこそ、自分なりの正解を探るために、自分自身を理解しようとするのだろう。

MBTIが流行っているというより、自分というコンパスを探している人が増えた結果なのだと思う。

なぜなら現代は、仕事のやり方も業種も多様化しすぎていて、もはや迷路だからだ。



結婚も同じだ。

昔は結婚して子どもを持つことが、ごく当たり前の人生だった。

それ以外の選択肢を考える人は少なかった。

でも今は違う。

結婚しなくても幸せになれるという価値観がある。

一人で自由に生きる人生も肯定される。

実際、独身者の割合はどんどん増えている。


また、結婚したらしたで、次に迫られるのは子どもを持つかどうかという選択だ。

最近では、子どもを持たないと決める夫婦も少なくない。

物価高や将来へのお金の不安を考えれば、そのほうが合理的だという意見もある。

一方で、「子どもはいたほうがいい」「少子化を考えれば子どもを持つことは大切だ」という意見もある。

どちらにも一理ある。

どちらが正解で、どちらが間違いという話ではない。

だからこそ迷う。


厄介なのは、こうした選択は基本的にやり直しがきかないことだ。

一つの会社で勤め続けるか、転職を重ねるか。

結婚する人生か、しない人生か。

子どもを持つか、持たないか。

基本的には、どちらかしか選べない。


唯一、結婚に関しては、離婚という方法で清算できるけれど、基本的には両方の人生を生き比べることはできない。

だから「こちらを選んで本当に良かったのだろうか」という不安は、ずっと残り続ける。

選んだ後にも、悩み続けてしまうのだ。


昔は一本道だった。

でも今は分かれ道だらけで、しかも道案内がない。

これが現代の生きづらさの正体なのではないかと思う。


もし、「こうすれば額実に給料が上がる」「こう生きれば誰もが幸せになれる」という答えがあるのなら、人はそこへ向かって努力できる。

まだゴールに着いていなかったとしても、目的地が見えていれば頑張れる。

ゴールの先には、ご褒美(豊かな老後や家族との幸せな時間)が待っていると信じられるからだ。



でも今は違う。

ゴールテープそのものが消えた。

いや、実際にはあるのかもしれないが、道が曲がりくねりすぎていて、見えない。

だからどこに向かって走ればいいかわからないけれど、それでも止まることは許されない。

そりゃ疲れるのは当たり前だろう。


仕事で悩んでいる人も、お金で苦しんでいる人も、人間関係で悩んでいる人も、本当は努力したくないわけではない。

何をすれば、今の状況を打開できるのかわからないのだ。

道が多すぎる。

だから選べない。

そして動けない。



私は、選択肢が増えたことそのものが苦しさなのではなく、

選択肢が増えたのに、どれを選べばいいかわからないこと

が、生きづらさの本質なのだと思っている。

みんな、絶対に間違いたくないのだ。


自由は増えた。

その代わり、自分でゴールテープを置かなければならなくなった。

それは豊かな時代になった証拠でもある。

でも同時に、とても難しい時代になったということでもある。


だから今、本当に必要なのは「世の中の正解」を探し続けることではない。

誰かの正解をなぞることでもない。

自分はどこをゴールにするのか。

それを自分自身の意志で決めること。

そして、そのゴールを全力で肯定する勇気を持つことだ。


最初から完璧なゴールを選ぼうとする必要はない。

そのときの自分が納得できるゴールを決めて、一歩ずつ進めばいい。

人生の途中で、ゴールが変わることだってある。

ゴールテープは探し続けるものではなく、自分で置くものなのだから。


きっと、それがゴールテープが消えた現代を生きる、唯一の答えなのだと思う。

いいなと思ったら応援しよう!