国民だけど、選挙権がない。
2月8日に、衆議院選挙の投開票日が迫っていますが、実は、選挙権を持っているからって、全員が参加できるわけではないですね。
毎回、投票率は50%程度ですから、残りの50%の人は、何らかの理由で、「投票に行って」いません。
それって本当に「行かない」のでしょうか?
それとも、「行けない」のでしょうか。
例えば、私のように「外出に困難が伴う人」が、選挙に参加すること。
現状の日本の制度仕組みの上では、難しいように思われます。
それで、ふと障害者と選挙権について、考えてみました。
保障されているはずの「固有の権利」
そもそも選挙権ってどういうものでしたっけ。
憲法で保障されている権利なので、かなり強いものになります。
引用してみます。
「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」。
「両議院の議員及びその選挙人の資格は,法律でこれを定める。但し,人種,信条,性別,社会的身分,門地,教育,財産又は収入によつて差別してはならない」。
建付けとしてはこうなっています。
けれど実際には、
社交不安障害(対人恐怖症)などを抱えていて人と話すのが難しい。
大勢の前に出るのに非常に苦痛を伴う。
私のように精神疾患を持っていて体調に波がある人。
投票所まで問題なく行って、帰って来れるかと言うと、…難しい人もいますよね。
つまり、有権者であっても、「投票所まで行けない人」は暗黙のうちに排除されているのが現代の選挙…と言うことができるかもしれません。
選挙の仕組み上、「国民」としてカウントされていないのかもしれませんね。
救済措置はあるけれど
実は、身体障害者の方は「郵便等投票」の道があるんです。
でも、精神障害者、知的障害者は、1級、2級といった恐らく生活が困難なレベルの障害を抱えていても、郵便投票は認められていません。
「それが不満なら、声を上げて変えればいいんだ!」
そうですよね。
そうは思うのですが、今まさに苦しんでいる人が…裁判のためにお金を…時間を…選挙にすらいけないのに?
それでも何とか人を頼って裁判を起こすと、
「裁判できる元気があるなら歩いて選挙に行けばいいのに」
と言われたりしますね。
「選挙」は私たちの民意を国に届ける第一の手段ではありますが、そもそも、行けないのですから、「一票で、政治を変えよう!」「私たちも生きやすい社会に!」と思ったって…それすらできないんですよね。
もちろん…健常な方からすると、
「精神疾患を持っている人が、正しい判断力で、選挙に参加できるの? まともに判断力が無い人が選挙に参加したら、結果がおかしくなってしまうかも」
というご不安があるかもしれません。
でも…判断力って、どう判別するのでしょうか?
健常であっても、誤情報に流されて誤った判断をしてしまったり、選挙に興味がないから、適当に投票する方もいらっしゃいます。
同じように、社交不安などの障害があっても、知能や判断力には問題がない方もいらっしゃいます。
ほとんどの方は政治の専門家ではなく、自分なりに調べたことや、印象を元に投票されるのではないでしょうか。
その判断は本当に「十分」でしょうか?
IQで足切りしますか?
そもそも、選挙は、「賢くて、一定の判断力がある人」だけに保障された権利ではありません。
日本国憲法が「教育」による差別を禁じているのは、まさに「賢い人だけで政治を決める」ことを否定するためです。
なぜなら、日本では、生きていれば、仕事や疾患の有無にかかわりなく、みんなが社会に参加しているとみなされるからです。貢献度に関わらず、社会を構成している方が誰でも参加できるから「民意」と呼ばれ、平等に意見を政治に反映することができます。
強い人も、弱い人も、同じように一票の権利があって、同じように意見を言えるのが、民主主義の美点です。
この選挙に伴う不平等は根深く、実際に、過去にも裁判が起こされました。
2013年(平成25年)の法改正まで、公職選挙法第11条1項1号に以下の規定がありました。
次に掲げる者は、選挙権及び被選挙権を有しない。 一 成年被後見人
(参考)日本障害者リハビリテーション協会https://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/norma/n384/n384004.html
成年後見人制度は、「当人の財産管理能力が十分ではない場合に、他者が財産管理をサポートする」ための制度です。
ですから、これは実質的に、「自分の財産管理が危ういほど、判断能力が低い人は、選挙に参加するな」という条文です。
でも、2013年(平成25年)に、ダウン症の女性が「後見人がついたことで投票できないのは不当だ」と訴えた裁判で、違憲であるとして訴えが認められました。
つまり、
たとえ判断能力が不十分でも、本人の意思を尊重して投票する権利は最大限保障されるべきである。
これが憲法に基づいた、裁判所の判断でした。現在は上記の「成年被後見人」に関する条文は削除されています。
少しずつ、良くはなっているのですが…。
日本が離れようとしてきた「優生思想」
ところで、旧優生保護法ってご存知でしょうか?
ちょっとショッキングなお話ですが…。
日本では、最近まで、障害者に対して、盲腸の手術などと嘘をついて、本人に知らせず不妊手術を施すことが普通に行われていました。
「障害者の遺伝子は劣っているので後世に残してはならない」というロジックです。
本人が大人になって、子どもを作ろうとしたら…勝手に不妊にされていて、気づく。
1948年(昭和23年)から1996年(平成8年)まで適法でした。
今は違います。
けれど、「優生思想」から離れよう、離れよう、としても、選挙権という基本的な部分で、障害者の権利は侵害され続けています。
繰り返しますが、生きていれば、誰しもが社会に参加しています。
その声を「投票所に来れないなら選挙権はない」と遠ざけるのは、かつての排除の論理を繰り返しているようです。
テクノロジーが、私たちを平等にする
2026年の現実を考えると、「投票所に行けなくても、投票を」というのは決して難しいことではないと思います。
ネット投票です。
「本人確認が…」と言いますが、現在の投票って、厳密に本人かどうか確認していませんよね。投票用のハガキなどと投票用紙を交換するだけ。本人ではなく家族や、近所の人だったとしても、多分、誰も気づきません。
一方、普段の確定申告も、ちょっとした銀行口座の開設も、今はマイナンバーカードとスマホがあれば、遠隔できちんと本人認証して、手続きできます。顔認証の仕組みだってあります。
あれがセキュリティとして不足だと言うなら、そんな仕組みを行政や銀行の手続きに使えているのが現状なのだろうか? と疑問になってしまいますね。
「目の前で投票しないと、本人の意志かどうかを確認できない。脅された結果の不正投票が…」ともよく言われるのですが、投票所なら100%安心ということはありません。
海外では、期限までなら「後から投票先を変えることができる」ようにして、脅されたとしても、後でこっそり投票し直せるような形で対応している国もあります。
「投票所に行けなくても、投票を」というのは夢物語ではなく、技術的に多少の課題があっても、手の届く範囲に来ています。
ないのは、技術ではなく。
平等にしようという、「意志」なのかもしれません。
ネット投票は単なる「効率化」ではなく、どんな状況にある方も、一人の人間として尊重され、意思を示すための「人権のインフラ」ではないでしょうか。
最後に
もちろん、今、選挙に関わる方が意識的に「排除」しようとしているわけではないのかもしれません。選挙の裏には様々な苦労があり、みなさん、一生懸命努力されていると思います。
でも、現在の日本の選挙は、実質的に「投票会場まで歩いて行ける人」を対象にしています。
・突発的に体調を崩した人
・持病をお持ちの方
・お年寄り
・身体傷害があるけれど、郵便投票の対象にはならない方
・社交不安障害
・小さなお子さんがいる方(可能だが、実質的には行きづらい)
この記事のコメント欄でも、色々な立場から「行けない」という方の声がありました。ボランティアの方の手を借りて、ようやく選挙に行けるという方もいらっしゃいました。
でも、ただでさえ生活に困難を抱えている方が、ボランティアの手を借りて、必死にならないと行けないのが、国民の権利である、「選挙」の姿でしょうか。
このように、様々な事情から外に出れない人は、選挙に参加することが、非常に困難なのが現実です。
「選挙に来れるぐらいには、健康な人が参加してね」と暗黙に投票者を差別する制度になってしまっているんです。
そういう現状を変えるために、選挙に行くことは最も手近な対処なのに、そもそも、行けないから、変えられない。
もちろん、ネット選挙で全てが解決するわけではありません。ネット選挙すら参加が難しい状況の方も、いるはずだからです。
でも、少なくともネット選挙の導入は、第一歩として最も合理的ではないでしょうか。
私もまた、外に出るのは困難です。
当日、選挙会場に行けるかは分かりません。
期日前投票所は選挙会場より遠いので、そっちは多分行けません。
そんな中で、「選挙、参加したいなぁ」と願いながら、この記事を書いてみました。
私も、あなたも、誰しも望めば投票ができる。
それが「色々な人の意見が反映された、誰もが生きやすい社会」を作ることにつながると信じています。
誰かを責めたいわけではなくて、ただ、それを望んでいます。
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