見出し画像

街中に薬局が多い理由



本日の言葉。

いくつになってもおしゃれ心を失わないこと、好奇心を失わないこと、若い人と付き合うこと。これが、若さを保つ秘訣です。
(瀬戸内寂聴)


日本の薬局数の概要


厚生労働省の「衛生行政報告例」によると、
令和6年度(2024年度)末時点の薬局数は全国で約6万3200施設です。

前年度(令和5年度末)は約6万2800施設で、
この1年でおよそ370施設ほど増加しており、緩やかに増え続けています。

都道府県ごとの薬局数トップ3は、2020年度で

1.東京都   6,895

2.大阪府   4,341

3.神奈川県  4,009


薬局数が増えている理由


1.医薬分業の進展

外来患者の薬を病院内ではなく保険薬局で受け取る流れが、長い時間をかけて進められてきました。
外来で院外処方を受け取る割合は、昭和末の一割程度から、平成の終わりには七割台まで増えており、処方箋を受ける受け皿として薬局数が増えてきました。

医薬分業は、診察とお薬を「分けて」専門職が担う仕組みです。
厚生労働省の定義をまとめると次のようになります。

  • 医師が診察して処方箋を出す

  • 薬局の薬剤師がその処方箋に基づいて調剤し、説明する

  • 医師と薬剤師がそれぞれの専門分野で役割分担し、医療の質と安全性を高めることが目的

日本では1970年代以降に本格的に推進され、現在は処方の8割以上が院外薬局で調剤されています。

医薬分業が成立した実務的な背景として、

  • 入院・外来での薬物療法が複雑になり、医師だけでは安全管理が難しい

  • 高齢化で多剤併用が増え、服薬情報の一元管理が必要になった

  • 残薬や重複投与が医療費増大や安全性低下につながる

  • 在宅医療や地域包括ケアで、地域の薬局が「健康相談・服薬管理の拠点」となる必要

つまり、医薬分業は「職能の分離」という理念だけでなく、医療安全と慢性疾患・高齢化への現実的な対応策としても押し出されてきた、という整理になります。

厚労省や自治体資料では医薬分業の課題が次の通り指摘されています。

①患者負担感
病院と薬局の「二度手間」「時間がかかる」
・受診後に別の場所へ移動が必要

②成果の見えにくさ
・安全性向上などの効果が実感しにくい
・「薬は病院でもらえた方が便利」と感じる人も多い

③真の分業か?
実際は門前薬局中心で、医療機関連携に偏り
・患者本位というより医療提供側の都合ではないかという批判

④地域差
かかりつけ薬局機能の充実度に差
・人口密度や薬局配置の違い

制度と今後の方向性として

  • 医薬分業自体は、医師は診療、薬剤師は薬学管理という「役割分担の仕組み」として基本線は維持

  • 今後は、単に院外で薬を渡すだけでなく、

    • 多剤・重複投薬の是正

    • 在宅医療や地域包括ケアでの薬剤師の役割

    • 電子処方箋と連動した服薬情報の一元管理
      などに重点が置かれています。


2.薬剤師数と養成数の増加

薬学部の新設や定員増で薬剤師の供給が増え、人口あたりの薬剤師数は先進国の中でも高い水準とされています。

日本薬剤師会によると、全国約32万9千人(令和6年12月31日現在)の届出薬剤師がいると言われています。

1994年と比べ、約2倍増えています。

人口千人あたり薬剤師数の国際比較(2022年度)では、日本は2.0と一番多く、人口が同規模であるドイツの0.7と比べ圧倒的に多いです。

調剤薬局数は2010年と比べ、約19%増加しています。

その結果として、調剤薬局も「増加の一途」と財政審などで指摘されており、薬剤師の就業先として薬局が選ばれやすい構造があります。


3.チェーン薬局の出店戦略

大手チェーンが積極的に出店を続けていることも大きな要因です。
近年は病院門前だけでなく、医療モール併設や面分業対応の店舗を増やす戦略が取られ、医療モール数とともに併設薬局も増加しています。

4.医療機関近くへの集中

診療所や中小病院の近くに小規模薬局が多数並ぶ「群集」状況が生じており、財政制度等審議会の資料でも問題提起されています。

医療機関からの処方箋を確保しやすい立地が重視され、同じエリアに複数店舗が出店されてきました。


5.診療報酬・調剤報酬のインセンティブ

医薬分業を推進するために、院外での調剤行為に一定の評価がついてきた経緯があり、院外薬局のビジネスモデルが成立しやすかったことも、出店を後押ししました。

調剤技術料は、2012年から2024年の12年間で、技術料+6,231億円(36.6%)と大きく増加しています。

さらに、2012年と比べ処方箋1枚あたりの技術料の伸び(20%)は、報酬改定における調剤報酬(技術料)の改定率(3%)を大きく上回って伸⾧しており、 予算によるコントロールが機能していません。

院外処方箋インセンティブの背景として

①院外処方せん料の設定・引き上げ
診療報酬上、医師が処方せんを出すときに算定できる「処方せん料」は、院外処方を進めるために比較的高めに設定・引き上げられてきたと分析されています。
財政制度等審議会の資料でも「薬価差益に代わる利益を医療機関に付与する観点から、処方せん料(院外処方)の設定・引上げにより実現してきた」と説明されています。

昭和49年の診療報酬改定で処方せん料が大きく増えたことが、医薬分業進展の転機になったとする整理もあります。

②調剤報酬で「院外調剤」を細かく評価

一方、薬局側には調剤報酬点数表でさまざまな評価項目が用意されました。例えば、
調剤基本料、調剤料、薬剤服用歴管理指導料、後発医薬品調剤体制加算、在宅関連の管理指導料などがあり、これらを組み合わせて院外での調剤行為を評価する構造になっています。

厚生労働省の説明でも、医薬分業を進めるために
処方せん料の引き上げ
調剤技術の評価

といった診療報酬上の措置がとられてきたとまとめられています。

③院外処方にすると診療報酬が厚くなりやすい
研究や行政資料では、同じような投薬内容でも、院外処方にすると医療機関側と薬局側の報酬を合計した点数が、院内処方より高くなりやすい構造が歴史的に続いてきたと指摘されています。

その結果として
医療機関側には「院外処方を出しても大きく損をしない(場合によっては有利)」
薬局側には「処方せんを受けるほど報酬を得られる」

という形で、両者にとって院外に流す動機付けが生まれ、
院外処方の割合と薬局数の増加を後押しした、と整理されています。

一方で最新の厚生労働省の資料では、
院外処方の方が患者負担・公費負担ともに高くなりやすい
薬局の乱立や「数の拡大」優位の報酬構造を見直すべき

といった問題意識が示され、かかりつけ機能や在宅対応などへの評価へと軸足を移そうとしています。


薬局の課題


近年は人口減少や医療費抑制の観点から、「薬局は数より質へ」「小規模薬局の乱立の是正」を求める議論が強まっています。

薬局間の連携やかかりつけ機能、在宅医療対応などを評価し、単純な数の増加より機能強化へ誘導しようとしている状況です。

1.薬局経営の効率化

①人件費と業務分担
薬局では、薬剤師が対物業務に追われてしまうことが非効率の大きな要因だと政府の規制改革資料でも指摘されています。

効率化の方向性は次の通りです。

  • ピッキング・一包化・監査などを機械化し、薬剤師は服薬指導や在宅など対人業務に集中させる

  • 事務職・登録販売者などを活用し、受付・会計・一般用医薬品販売・定型事務をシフト

  • 一部の調剤・監査工程を外部委託し、店舗側の人員を抑えつつ処方箋処理能力を維持する事例も出ています

こうした動きに合わせて、調剤業務の外部委託や薬剤師配置基準の見直しを検討する方向が示されています。

②在庫と物流の効率化

  • 発注・在庫管理をシステム化し、回転率の低い医薬品の在庫を減らす

  • 卸と共同で納品・検品プロセスを見直し、店舗での検品時間や在庫スペースを削減するモデル実験も行われています

  • 近隣店舗間での在庫シェアや緊急時融通を仕組み化し、単独店舗の安全在庫を抑える


③事務・バックオフィスの効率化
厚労省も医療DXで「医療機関・薬局の業務効率化」を重点に挙げており、現場でも次のような事例があります。

  • 紙マニュアルを廃止し、デジタルマニュアルで教育・問い合わせ対応時間を削減したチェーン薬局

  • 帳票、勤怠、経理などバックオフィスをクラウド化し、「アナログで非効率な薬局の常識」を見直した事例

  • 行政・監査向け書類や各種届出をデジタル化して、経営者や管理薬剤師の事務時間を大幅削減した事例


④複数店舗・地域での役割分担

単店完結ではなく、ネットワークで効率化する動きも増えています。

  • 複数店舗で事務機能や教育・情報発信を集約し、本部に寄せて店舗負担を軽減する事例

  • 一包化監査を専門に受託する拠点を設け、周辺薬局から調剤業務の一部を引き受けるモデル

  • 遠隔服薬指導やリモート接客で、複数店舗を少人数の薬剤師でカバーする取り組み

こうした「集約」「分業」で、個々の店舗の人員と固定費を抑えつつ機能を維持する方向です。


2.小規模薬局の乱立の是正

国の審議会資料では
「調剤薬局が一貫して増加する中で、小規模乱立や医療機関近隣への群集といった業界構造が変わっていない」
と問題視
されています。

財務省は2026年の財政審で、調剤薬局への「量的規制」を提言し、小規模薬局や病院すぐ横の門前薬局の乱立を抑えるべきだとしています。

乱立是正の効果として

  • 都市部の「1診療所の周りに多数の小規模薬局」という構造は、報酬と規制の両面から徐々に採算が合いにくくなり、統廃合・共同化が進みやすくなる

  • 一方で、地域連携薬局・専門医療機関連携薬局など「軸になる薬局」に機能と人材を集める方向が強まる


①数から機能へシフト

厚労省の「薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会」では、
「薬局の数そのもの」ではなく「地域で果たす機能」を重視する方向が繰り返し整理されています。

具体的には

かかりつけ機能
在宅医療・多職種連携
服薬情報の一元管理

などを評価し、「その機能を発揮している薬局」に報酬や認定で差をつける流れです。

②認定薬局制度による「選別」

機能を持つ薬局を「見える化」して選別する仕組みが、地域連携薬局・専門医療機関連携薬局などの認定制度です。

これにより

単に処方箋を受けるだけの小規模薬局
地域連携や専門的な薬学管理を担う薬局


が制度上区別され、後者を評価することで市場再編を促す狙いがあります。

③報酬面の見直し

財務省や厚労省の議論では、次のような方向が示唆されています。

  • 小規模で処方箋枚数が少ない薬局への評価の見直し

  • かかりつけ機能や在宅対応などの加算を重視し、「面分業」「地域連携」を評価

  • 後発医薬品調剤体制加算など大きな点数を、乱立是正や機能強化と結び付けて見直す議論

結果として、
「ただ門前で処方箋を待つだけの薬局」の経営は厳しくなり、
地域機能を持つ薬局が相対的に残りやすい構造を作ろうとしています。

④機能分化と連携の強化

検討会資料や研究事業では、地域連携薬局・専門医療機関連携薬局が

退院時の情報共有
在宅患者の支援
がんなど専門医療との連携


などを担う中核拠点として位置付けられています。

小規模薬局の一部は、こうした中核薬局との連携や役割分担を通じて機能を補完しつつ生き残り、連携できない・機能を示せない薬局は淘汰されていく、というイメージの再編が想定されています。


参考資料:
内閣府規制改革推進会議 規制改革ホットライン処理方針 (令和3年11月5日から令和3年12月2日までの回答)医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ関連

厚生労働省ホームページ 
医療DXについて
第16回薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会 資料
2024年10月3日 令和6年度第7回 厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会 議事録
令和7年6月30日 第15回 薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会

財務省 財政制度等審議会における議論の状況について(2026年5月15日)


最後まで読んでいただきありがとうございます。
 




いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー